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ミランを追って②

森の中を進んでいくティアナたちは、先の方から一人男性が歩いてくるのが見えて、顔を見合わせた。


「女の私が外をうろついているのはまずいかしら」


「…一応、外套のフードを被っておいてもらえますか?」


「ええ、わかったわ」


短くやり取りを交わした後、ティアナはフードを被ってから、その隙間から流れ出る長い金髪に気づく。

いくら中に入れようとしても、長すぎて出てきてしまうのだ。

ティアナは小さく口を尖らせて、


「本当に邪魔だわ」


と呟く。

そして素早くそこら辺に生えている草のツタを取ると、それで乱雑に髪を高い位置に結い上げた。

ちょうどフードを被り、上手く髪も隠れた頃に、前から歩いてきた男性はこちらに気づいた。


「あんた方、子供二人でこの森は危険だぞ? なんせ度々闘技場を襲っている野蛮な奴らの巣があると聞く。」


そして気づくが早いか声をかけてきた男性に、クレアが小さく表情を歪めたのが見えた。

それほど、早くミランのところへ行きたいのだろう。


「その危険な森で、あなたは何をしてたんですか?」


そうクレアが聞くと、男性は背負っていたかごに手を伸ばし、


「これを採りに来たんだ」


と言いながらこちらに向けてかごから一本の草を取り出した。

それを見た瞬間、ティアナは気づいたらティアナと男性の前に立っていたクレアの背中からひょっこりと顔を出していた。


「それ! どんな怪我にもよく効く薬草ではない?」


そう言ってしまってから、ティアナはハッとして口を両手で塞いだ。


「ん、あぁ、よく知ってるな。坊ちゃんはいくつだ?」


男だと思ってみれば、やけに背丈の低いティアナを見下ろしながら、男性は首を傾げる。

それにティアナがおずおずと答えようとすると、それよりも早くクレアが、


「12歳です。俺の弟なんですよ。それじゃあ、俺たち先を急ぎますので」


とティアナの背中を押しながら答えた。


「あ…あぁ、気をつけてな!」


薬売りの男性は、そう二人の背中に向かってそう言ってから、ふと首を傾げた。


「…あの坊ちゃん…髪が黄色くなかったか…?」


そんな疑問に答えをくれる人物など居らず、男性は頭をひねりながら山道を下っていった。



「ちょっとティナ!あんな風に話に入ってしまっては外套の意味も無くなっちゃうじゃないですか!」


「ご…ごめんなさい、でもバレては居なかったようだし良かったわ」


「もう少し気をつけてくださいよ、兄君も諦めたわけでは無いでしょうし。」


クレアの口から出た兄という単語に、ティアナはピクリと反応した。


「…カークは無事かしら」


「あいつなら大丈夫ですよ」


「え?」


すぐさま帰ってきたクレアの確信めいた言葉に、ティアナは少し驚いた。

そしてクレアの顔を見上げると、クレアは笑いながら、


「素手で俺の肋骨を折ったやつですよ。簡単に負けるわけないです」


ときっぱり言った。

その言葉に、ティアナはどれだけクレアがカークを信頼しているかがわかった。

ティアナがカークと知り合ったのは三年前だが、クレアとカークはそれより前から小隊の仲間だったのだ。

信頼関係がティアナよりも強いのは、当たり前のことであるが、ティアナは少しだけ羨ましかった。


「…うん、そうね。私も頑張れば素手で折れるようになるかしら」


「…は?」


「クレアの肋骨」


「冗談抜きでやめて下さい!」


「あはは、冗談よ?」


「冗談で無かったら困りますよ…」


「だってあなたには怪我などせず、ずっと側に居てもらわなくてはならないのだから」


ティアナはクレアの少し先を歩きながら、はっきりとそう言った。

クレアは、その言葉を受けて頷きながら言葉を返す。


「…必ず、お守りします」


「うん、私もあなたを守れるように頑張るわ」


「いや、それは…俺は将ぐ…」


「あ! 見てクレアこれ、さっきの薬草だわ! 積んでおきましょうか」


「…聞いてないよ…」


一通り薬草を積み終えたティアナが満足気に顔を上げると、クレアは木に寄りかかってこちらを見ていた。


「ごめんなさい、時間を取りすぎたかしら」


「いえ、大丈夫です。それより見てください、あの穴。」


そう言って、クレアは少し離れたところにある巨大な岩壁の真ん中の小さなひび割れてできた穴を指した。

ティアナとクレアはそちらに近づいていって、穴を見ながらうーんと腕を組んだ。


「あの穴に、ミランは入っていきました。けど…少し小さすぎますね…」


「うん、私が通るのでやっとぐらいかしら…。」


「闘技場にいたミランの仲間は、もう少し大柄でした。きっとほかにも出入口があるはずです。探しましょう」


クレアの言葉にティアナが頷こうとした時、ティアナはその小さな穴から吹いてくる風から、鉄のような匂いを嗅ぎとった。


「…これは…血の匂い…?」


「…? ティナ? どうかしました?」


そんなクレアの言葉が終わるよりも早く、ティアナは穴の目の前まで早足で歩いて行った。


「…クレア、ここで待っていて」


「は…?」


「無事に戻ると約束するから、待っていて」


ティアナは後ろ手にクレアに言うと、摘んでおいた薬草の入っていた袋を握って小さな穴に飛び込んだ。


「ティナ!?」


意外と長い穴を、ティアナは屈みながらぐんぐん進んでいく。

そうしてもう一度日の元に出て、ティアナの目が眩しさに慣れてきた頃、見た光景にティアナは目を見張った。

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