変わり者
話を聞き終えたティアナは、ふと、カークとの戦いでのクレアの怪我が突然治ったことを思い出した。
死ぬことで負っていた怪我をニンフェケーニヒが全て治してくれるということなら、クレアはそれが一番早く怪我を治せる手段だと思っているはずだ。
ティアナはあの時、クレアの寝台の側で見た血はクレアに向けられた刺客のものだけでは無い気がしてならなかった。
ティアナはそんな思考を一瞬めぐらせてから、すっと音もなく立ち上がって、座っているクレアのすぐ横に立ち、クレアの左肩に右手を乗せた。
「クレア、ミランを探しに行きましょう」
ティアナが言ったその言葉には、強い決意のような響きが込められていた。
そんなティアナの言葉に、クレアは慌てて反論をした。
「それはダメです。あの時ティナを攻撃したのは、紛れもなく俺の弟分であったミランですが、もう一度ティナを見れば、また必ず攻撃してきます。」
「けど、放っておけないわ。クレアの話を聞いている限りのミランと彼はずいぶんと違うようだったし、とても苦しそうだったもの。それに、クレアだって助けたいのでしょう?」
ティアナの問いかけに、クレアは一瞬口を閉じるが、すぐにまたティアナを止めようとした。
「ですが、ティナには勅命があるでしょう。ゼニアス様に先を越されるわけにはいきません。」
「わかってるわ。兄上には、王位も、妖精の力も渡さない。私が王となってこの国を変えたい。でも、目先の苦しんでいる人を救えず、国を収め、民を守る国王になどなれないって、私は思うわ」
ティアナがそう水色の瞳を真っ直ぐクレアに向けて言うと、クレアは一度ため息をつき、言った。
「ありがとうございます、ティナ。ティナは本当に、王族では考えられない振る舞いをしますね」
「王族であっても人なのだから、そうでない人と何も変わらないと思うけれど」
ティアナがキョトンとしながら言い放った言葉を聞いて、それが変わっているんだと思いながらクレアは笑った。
しかし、クレアにはひとつ心配なことがあった。
ティアナは優しすぎるのだ。
兄に王位を渡さぬとは言っても、ティアナは兄を殺そうとはしていない。
恐らくこの先、何度襲われても、殺されかけたとしてもその考えを変えることは無いだろう。
王家とは血なまぐさいもので、王位継承争いは壮絶だ。
時には兄弟や親子であっても、殺さねばならぬということを、ティアナは知らない。
ゼニアスとティアナを比べれば、ほとんど何をとってもティアナの方が上回る。
武芸、知識、戦略、馬術においても。
しかしその優しさで残酷な兄に足をすくわれやしないかと、クレアは心配なのだ。
「さぁ、そうと決まったら出立しましょう。」
ティアナはそう言うと、にっこり笑ってクレアに手を差し伸べた。
クレアはその手を取り、ティアナと並んで歩き出す。
向かうのは、とりあえずは西方国境の妖精の木付近にある闘技場と決めた。
ミランが何処にいるかはわからないが、三年前にもこの付近でティアナが出会っているということから、拠点はそう遠くない場所にあるはずだ。
そう、ふたりは踏んでいた。




