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ニンフェケーニヒ

クレアは、刃が降り注ぐ場所に迷わず飛び込んだ。大切な主人であり、友達でもあるティアナを助けるためにだ。

ティアナを抱きしめ、覆いかぶさるように地面に倒れると、全身に激痛が走って意識が遠のいた。

深く暗い闇に突き落とされる心地がして、クレアはまたかとうんざりした。


次にクレアが目を開いたのは、真っ白などこまでも続く空間。

六年前のあの日から何度も来たことがあるが、ここが何処なのかは知らない。

ただ一つ分かるのは、ここは…


「また来たのか、よく死ぬなぁお前は」


この巨大な体と白い羽を持つ、白ひげを蓄えた爺さん、ニンフェケーニヒの居場所だということぐらいだ。


「今度の死に方は結構かっこよかったなぁ、クレア。」


「冗談はいいから、早く向こう側に返してくれ。」


「何度も言っているだろう、クレア。わしはお前を何度でも生き返らせられるが、お前の身体を再生するには、少し時間が必要なんじゃよ。今度の怪我はだいぶ酷いようだしなぁ」


「じゃあ無駄口叩いてないで、そっちに専念して早く治してくれ。俺の主が危ないかもしれないんだ。」


「勝手じゃなぁ…。普通の人間だったらもうあの世界へは戻れないんじゃぞ。全てはわしのおかげ…」


「あぁ、感謝してる。ニンフェケーニヒ。それでまだなのか?」


「…このせっかちめ…。死んだ時しか会えないんだから少しはわしの話し相手になれってんだ。」


ニンフェケーニヒが拗ねたようにぼやくのに、クレアは、


「すまない。今回は本当に急いでるんだ。」


と返す。


「わかったわかった。お前はいつも急いでる。ついこの間なんて折れた骨を治せと自分で喉を掻き切ってここに来おって…忙しないなぁ。やはり人間は嫌いじゃ。」


「…じゃあ、なぜ六年前、俺を助けた?」


「お前が十三年間、悲惨な人生しか辿っていないにも関わらず、絶望しなかったからだ。さぁ、行ってこい。今度はゆっくり話せる時に来いよ。」


「…あまりここには来たく無いな…」


クレアがそう呟くように言い始めるのと同時に、クレアは急に眠くなって目を閉じた。


やっとの事で、クレアの意識は元の体へと戻った。もうどこも痛くない。

それを確認するとすぐにクレアは飛び起きようとした。

だが起き上がる前に、腹や背中に温かさを感じて、薄茶色の目を開いてそれを確認した。

するとそこには、黄色い髪や服に血がつくのも気にせず、クレアを強い力で抱きしめるティアナがいた。ティアナの顔はクレアの服に埋められていて、表情を見ることは出来なかった。


「…ティナ?」


小さな声でそう少女の名を呼べば、その少女はバッと顔を上げた。

その顔はいつに無くやつれていて、血の汚れもあってかとても一国の姫とは思えないほどみすぼらしく見える。

ティアナとクレアの目が合うと、ティアナは一瞬訳が分からないというように少し目を見開いてから、せきを切ったかのように泣き出した。


「すみません、ティナ。心配をかけました。」


そう言い、クレアはティアナの頭を撫でながら、ティアナが落ち着くのを待った。

だが、しばらくするとティアナは泣き疲れたのか、クレアに抱きついたまま眠ってしまった。

クレアは少し困ったように笑った。

この変わった少女は、俺が怖いとは思わないのだろうか。

俺が一度死んだことは、ティアナも分かっているはずだ。

一度死んで、生き返った。

そんな異質なものを前にして、よく眠れるな…。

そう思いながら、クレアは自分にしがみついたままのティアナを抱えあげて、元居た洞窟へと帰った。


その後、ティアナは1時間程で目を覚ました。

目を開けたティアナは、すごい勢いで飛び起きると、きょろきょろと辺りを見回して、クレアの姿を見つけた瞬間飛びついた。


「う……ちょっとティナ…! 何するんですか」


「夢じゃなかった…!…ん? 全部夢だったのかしら…。でも良かった…!! クレアが生きてる…!! 本当に良かった!!!」


クレアは涙目で満面の笑みを浮かべるティアナを引き剥がして、ティアナに向かって話し出す。


「いいですか、ティナ。今まであったことは、全て夢ではありません。それについても、俺は全部ティナに話すつもりです。でもその前に…」


「前に?」


「ティナは水浴びしてきた方がいいです。血だらけですから。」


「構わないわ。話して!」


「ダメです。早く行ってきなさい。」


ほぼ命令口調でいうと、ティアナは少しムスッとしながら、わかった、と返事をした。

ティアナが湖に駆けていってから、クレアは湖の付近に敵がいないか、少し見張りに行こうとした。

湖の方へゆっくりと歩いていると、前から小さな人影がこちらへ走ってくるのが見えた。

クレアが少し目を凝らすと、服は着ているが、ほとんどずぶ濡れなティアナが走ってくるのが見えて、クレアはため息をつく。


「クレア! 行ってきたわ! さぁ、話して!」


走ってきてクレアを見つけたティアナは、髪から水が滴り落ちるのも気にせずにそう言った。


「…とりあえず、髪を拭いてからですね。」


クレアは少し呆れながら、しかしティアナの明るさに安心しながら、また不満げな声を上げるティアナを無視しながら、二人で洞窟へと戻っていった。

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