第一王女ティアナ
とても広い部屋の中、長い金髪と水色の瞳を持つ幼い少女が、沢山の本に囲まれながら机に突っ伏している。
この少女の名は、ティアナという。
ティアナは、長い髪をかきあげながら、小さくため息をついた。
また、全部読み終わっちゃった…。
一階に書物庫があり、その上にティアナのだだっ広い自室があるこだけの建物から外に出ることを許されていないティアナにとっては、下の階の書物庫にある膨大な量の本を読み漁ることしか、暇を潰す術は無いのだ。
そして異常なことに、ティアナは全ての書物に書いてあることを一言一句漏らさずに記憶していた。
それは、伝記物の物語の登場人物の名前、台詞などから、軍法や政治的理論に至るまで、どんな物でも、書庫にあるものならばティアナに知らないことは無かった。
そしてその書物庫とはカトランガ城にある、国内最大級の書物庫であり、ここで得られない情報がそうそう国内にあるはずもないのだが。
つまりは、ティアナは12歳にして国内のほぼ全ての情報を知っているのだ。
これは、ティアナが育ったこの環境も影響の一つなのだろう。
ティアナは、友人はおろか、話す相手も一人も居らず、本だけが唯一の情報の発信源であった。
最後に誰かと話したのはいつだったかしら…。
そんな風に思いながらティアナは、大きな机の上に積み上がっている読み終わった分厚い本たちを片手でひょいと持ち上げる。
そして慣れたように自分の頭よりも高く積み上がっている本たちのバランスを取りながら、空いている方の手で扉を開けた。
そこから長い廊下を抜け、階段を下れば、沢山の本たちがティアナを迎えてくれる。
ティアナは持っている本を全てきちんとあった場所に戻しながら、本棚に目を配り、並びが変わってしまっているところを直す。
これも、ティアナにとっての日課である。
そしてその後、ティアナは今一番熱心に勉強をしている分野の本を取った。
それは、武芸について記された本。
とはいえ、ティアナは勿論武器などを持たせてもらえるはずもなく、鍛錬出来るのは体術だけなのだが。
誰も来ない広い部屋の中、全ての本の内容も覚えてしまったティアナは、武芸についてすら独学で身につけようとした。
その文書に書いてある体術を自力で身につけたとして、それがどれだけの威力があるのか、実際の戦闘で使い物になるのかは、ティアナにはわからなかった。
けれど、暇な時間を嫌うティアナは、それでも体術を学び続けた。
そんなある日のこと、ティアナは飛び膝蹴りをしようとして、誤って扉を蹴りつけ、扉を廊下の方へ蹴り倒してしまった。
まぁそれは、初めてのことではない。
前にも回し蹴りをした時に扉を吹き飛ばしてしまった。
けれど、この時は、前に扉を吹き飛ばした時と明らかに違う音…いや、声のようなものが聞こえたのだ。
「……?」
空耳かと思いながら、ティアナが倒れた扉を持ち上げると、そこには今まで見たことも無いような赤い髪を持った男の人が倒れていた。
「…いてて…」
「………。」
これが、ティアナの人生を変える、なんとも奇妙な形の運命の出会いであった。




