☆ 第68話 砂場①
二つ年下の弟が落とし穴を作りたいと言い出した。その前の晩に芸人が次々と落とし穴に落とされていく番組を観た影響だろうか。小四だった私も、二つ返事でスコップを持って公園に向かった。
公園の中でも掘りやすいところ、ということで私たちは砂場を選んだ。大きな穴を作るため、親が家庭菜園に使う大きめの鉄製のスコップを持ち出して穴を掘った。
無心で作業を続けた結果、陽が暮れる前に穴は私の膝くらいの深さになっていた。穴の底に水が溜まり始めたのでこれで完成にしようと弟と話し合い、段ボールで蓋をしてその上から砂を被せた。
落とし穴に落とすのは二軒隣の男の子にしようと弟と決めた。弟と同じか一個下だったその男の子は、反応が鈍くて少し変わった子だった。そんなのろまが落とし穴に落ちたらどんな反応をするだろう。
作戦決行は翌日。ワクワクしてなかなか寝付けなかった。
次の日、私と弟は男の子を公園に誘い出し、上手いこと落とし穴へ誘導した。彼は驚きで目を丸くして、そのまま穴に吸い込まれる。穴は私の膝の深さしかないのに男の子の体はすっぽり穴に落ちてしまったようだった。
おかしいと思い穴を覗き込むと、そこには水の溜まった浅い穴があるだけだった。
とんでもないことをしてしまったと慌てた私たちは家に飛んで帰って親に事情を説明した。子供の拙い説明だからか、親にはあまり伝わらなかった。強引に手を引いて公園に連れて行き、ここに落ちた子が消えたと何度も繰り返し訴えた。
その後二軒隣の家に謝りに行ったが、その家のおばさんは「そんな子いませんよ」と言っただけだった。
私たちは一体何をあの穴に落としてしまったのだろうか。