実技テスト
大広間、
神華学園の華人が全員集まっている教師も在校生も新入生が入ってくるのを今か今かと待ち構えている。
先生達の机は下段上段と別れていて、会話の内容から幼少部の先生と中高部の先生で別れているようだ。
ざわざわと騒がしい室内、そこに先生達の前にぞろぞろと琴や太鼓、横笛などの楽器を持った生徒が集まる
そして真ん中に白髪のきれいな50代ほどの凛とした女性が出てきてかんかんかんと指揮棒で譜面台を叩くそれにつられて食堂の生徒全員が通路側を見る
「はい、1,2、」
女性が指揮棒を振ると音楽が奏でられる、歓迎の音楽と共に
食堂の扉が開き黄色い帯の生徒たちが入ってくる、
食堂は広くいくつもの10人座りの大きなテーブルが並び4か所の塊に別れ
それぞれの寮カラーの制服を着た
それぞれの成績に見合った帯を付ける生徒たちがいる
2階のようなところで沢山の妖怪も見ていて空を飛べる妖怪が通路の真上を飛び回っている
そして生徒と先生たちの机の間にある一段上がったスペースの楽器団が演奏している前で新入生の列は止まった。
そして、音楽も止まり生徒たちは楽器を持って急いで脇に移動して各テーブルに戻って行き、入れ違いで小褄唎先生が前に出てきた。
「ではこれから新入生能力テストを開始します、一つお知らせです、今回のテストは校長ではなく学園長の白澤様が帯の選定をします、とても光栄なことなので、皆さんもらった帯に恥じぬ行動と向上心で頑張ってくださいね、それでは一組づつ呼びますので呼ばれた方たちは前に並んでください、まず、樹利亜澪さん氷操作 瀬路海良さん水操作 茶渡実 和良さん植物神華、です、前に来てくださいな」
呼ばれた3人の生徒は前に出る、そして脇に下がった小褄唎先生の顔を見て意を決したように海良が動くとバスケットボールほどの大きさの水の花が出て、天井に飛んで行く、そこを亜澪が光で貫くと氷になり、そこに、海良が水の柱で貫き粉々にすると和良が光をあててその破片はガーベラの花になって降ってきた。そして3人は頭を下げた。
わっと食堂は歓声に沸き先生たちの真ん中に一つあつらえられていた席に座っていた
雅な顔の真っ白な初老の男性が出てきた。
「私が神獣白澤です、桜姫様から学園長と言う光栄な仕事をもらい、あなた方の成長を影ながら見守っています、そして今回、あなた方の帯選定の決定権を僭越ながらさせていただいています、事前テストの結果とこのテストでの技術点芸術点を考慮して帯を決めさせていただきます、まずあなた方ですね、これを受け取ってください」
そして、
亜澪に青帯、海良に緑、和良に青帯を渡した。それをもらった三人は白澤に頭を下げ、
駆け足で玄武寮の机に向かった。
「さて、ではどんどん行きましょうか」
白澤がぱちんと指を鳴らすと、楽器たちが勝手に演奏を始めた。
そして、小褄唎先生が負けじと生徒の名前を呼ぶ
体術での大道芸と不思議な機械の演出、炎、氷、水、植物を生やす者
浮かせる者、飛び回る人、圧巻の力で木を粉々にする者、様々な能力を千李達は見た
いよいよ最後の方、もう残りは豹炎のクループと影姫、真望、岸雄のグループ
そして美羽、癒澄、千李達のグループだけだ
「次、清豹炎さん炎操作、錫乃万里さん治癒神華、結乱魏さん陰陽師、お願いしますね」
そう言うと、豹炎がトカゲのような顏の女子と三白眼の悪そうな顔の男子を連れて壇上に上がる
そして自慢げに車ほどの大きさの丸い火を出す、それはとても熱く迫力があり見事で、
おお、と言う歓声が上がった、先生の方からは11歳であの大きさを出すなんてとかも聞こえるが、千李はあんなの普通じゃないかと思った。
むしろ、火の玉がぶれているし、萎みそうになっていて見てられないくらいだ
そして、そこにトカゲ女子の万里が、その火を包むように光を作ると暑さにあぶられたところが癒され爽快感を得る、そしてその玉を乱魏の光りの光線が貫き、パンとはじけて、光のしずくが降ったが車程度の大きさじゃ千李には全然迫力を感じない
そして豹炎がもらったのは白帯だった。
「な、白澤様これは何かの間違いでは?」
豹炎は思わず白澤に意見した。
「そうかもしれませんねぇ間違いでしたら、後で正しい帯を持っていきますので、今は席に着いてください」
豹炎は、まだ何か言いたそうだったが、しぶしぶ玄武の寮に戻った。
「次、須館美羽さん超再生と採取混入神華、清千李さん炎操作、綾癒澄さん治癒神華と瞬間移動、お願いします」
呼ばれて千李はドキドキした、急に少し不安になったのだ、ちょっと不安を感じていると手を握られる、その先を見ると、美羽がいる
「千李、格の違いを見せましょう、ドカンと派手に作っちゃって!」
そう言って、美羽が先に飛び出すそしてポンと軽く肩を叩かれる、癒澄だ
「期待してるよせんりん!打ち合わせ通りにね!」
千李は二人に励まされて壇上に登る
見渡せばすべての人や妖怪が自分達を見ていた。
すると美羽が叫んだ
「天上の妖怪さーんちょっと危ないから端に寄ってくださーい」
天上を飛び交っていた妖怪達は慌てて端による、それを確認して千李は息を吸い、火の玉を出した、
それはどんどん大きくなって蓮の花のように開いた時には家でも建っているのかと思うほどに大きくなった。しかも、豹炎と違うのが、千李は火力調整をして、外側の火は熱を感じないようにしているのだ、これには先生も在校生も唖然とした。
そして美羽と癒澄が抱き合って次の瞬間、二人は火の前にいた。
そして癒澄は、美羽を炎の中に押しやった。癒澄だけはさっと下に降りていて、美羽は炎の中、全員が息を飲むが、美羽には傷一つない、
そして、美羽が何か唱えて、印を切ると管狐が出てきた。そして管キツネは大きくなって
美羽を乗せて炎から飛び出し左寄りに飛び、その後を追うように蓮の花の炎は鳥の形になり右側を飛んでいき、
真ん中あたりで2体はぶつかり炎の鳥はキラキラと光の粒になり食道内全体に雪の様に降り注ぎ頭上で消え、管キツネは元の大きさになり、美羽と一緒に落ちているところに癒澄が来て、瞬間二人は壇上に何事もなくならんでいて、まるで今起こったことが夢だったのではないかと思うほど静けさに包まれた。
一瞬の沈黙が気まずい、何か悪かっただろうかと言う不安が自分達を襲う
そして、わっと豹炎達の時以上の歓声が上がる
「すげぇ!!!あんな大きさの炎で、形まで作るとか!」
「馬鹿それだけじゃねぇよ!火力調整もしてたぞ!」
「美羽様あの火の中で無傷な上に召喚呪文と拡大呪文を」
「ぶつかった瞬間もしかして解除呪文もしてた?やばい」
「学校に通ってない11歳が使える呪文じゃねぇだろマジか」
「空中に瞬間移動するなんて私無理」
「なんで動いてる対象にドンピシャで飛べるのよ、わけわかんない」
沢山の声が美羽、千李、癒澄を称賛していた。
みんな立ち上がって興奮気味に手を叩いている
そしてひときわ大きく近くで拍手が聞こえた。
振り返ると白澤がいた。
「素晴らしい出しものでした。あの大きさで素晴らしい炎造形操作は千李君の父親、清敍樹以来です、素晴らしいものをありがとう、そして美羽さん、素晴らしい超再生に11歳とは思えない呪術の数々お見事です、癒澄さんはさすが綾家のお嬢さんです、座標の定めにくい空中に2回も瞬間移動を成功させている、あなた方にはこれを差し上げます」
そう言って白澤は千李に緑帯を癒澄に白帯を美羽に銀帯を渡した。
「千李君の能力は銀帯を上げたいところですが、あまりお勉強が得意ではないようでした。在学中に成績を上げて、上の帯を目指してくださいね」
3人は帯を受け取ってそれぞれの寮の机に行くと大声援で歓迎された。
「素晴らしいよ清千李君、僕は寮長で風紀委員長の綾凱臥、癒澄の兄だ!よろしく!」
目の前に座って居た上級生と握手して千李は席に着く
すると周りが騒がしくなる
「やっぱ神の子の子供はすげぇな!」
「流石シルバーキング!いや、君は緑だからグリーンキングか!」
「わかんねぇぞ、これからの成績しだいじゃ半純血のシルバーだって!」
「おい馬鹿、それは言うなよ!」
周りが盛り上がってる中その声にみんなが横目に誰かを確認する、
釣られて千李もその人を見ると、豹炎が、顏を真っ赤にして千李を睨んでいた。
気まずい空気を掻き消すようにパンパンと大きな手を叩く音が聞こえ、前を見ると小褄唎先生がにっこりと笑った。
「では、最後の組です、沢影姫さん影操り、劉岸雄さん透過可触能力、文月真望さん水操作、お願いします」
出てきた3人を見て、玄武の何人かがクスクス笑う、小さな声で、バカにするのも聞こえる
「お漏らし操作じゃん」
「沢家の姫様あんなのと組んで大丈夫かしら」
「沢家は見る目が無いのね、お漏らし操作なんかと組むなんて」
千李はとっても気分が悪かった。
確かに秘儀お漏らし操作じゃ恰好が付かないけど悪いやつじゃない、
もう船の中で十分仲良くなったから、友達を馬鹿にされるのは気分が悪くて
拳を握った。
そして飛べる妖怪達がまた近くで見ようと席を飛ぼうとしたら影姫の影が飛んできて、
いっきに全員座らせた。
「ごめんなさい、今から私たちもそこを使うから動かないでくださいね」
影姫がそう言うと猫背気味だった岸雄が背をしゃんと伸ばして空中にまるで階段があるように、一歩一歩登っていく、そして真望が手の中で水の玉を作って前に押し出すと巨大な水がでできた竜が部屋の奥に咆哮を発しながら飛んで行き、その水を追うように天井や壁、床に影のオオカミが走っていく、そして端で竜がUターンして空中に立つ岸雄に向かって飛んできた。
竜は岸雄を飲み込まんとするように口を開き、咆哮を上げ岸雄に飛んで行く、
だが、岸雄は手を前に出してそれを迎え撃つと、竜は見えない壁にぶつかったように
飛沫をあげながらその形をなくす、そして、飛沫は無数の蝶になって地面につく直前でパッと気化してしまう、岸雄はその蝶の中を倒れるように空中から支える物もない状態で勢いよく落ちる
床に落ちて行くのを見て全員が息を飲む中、岸雄は舞台の床に吸い込まれるように消えていった。
周囲がシーンとする中、岸雄が恐る恐る浮いてくる
「も、で、出ていいかな?」
岸雄を見て皆わっと千李達と同じくらいの歓声をあげた。
「透過可触ってなんだ!?」
「浮遊じゃねぇんだよな、空気を歩いたってことか!!」
「あの竜、声出してたよね!?」
「え、なんで吠えたりできるの!?」
「流石、沢家の有能な姫様は違うわぁ」
「いっきに何妖もの妖怪操るなんて、影使いってすごい」
「お漏らし操作なんて言えねぇよ」
壇上の影姫と真望は満足そうにそれを聞いていて、真望の後ろに同じ背丈くらいまでしか出てきていない岸雄はホッと一息ついた。
そして3人が振り返ると、白澤が近寄って来ながら拍手していた。
「素晴らしかったです、それぞれの強みを十分に発揮していました。
沢さんの影操りによる大人数の行動制限や影アートは素晴らしいとしか言いようがありません、文月君の水造形は風の通り道を作ることによって声を作ると言う高等技術、これはなかなかできる人はいません、岸雄君の透過可触をうまく利用して空気を歩き、落ちる時に瞬時に透過をする事での演出効果は本当に楽しませていただきました。
なので、3人に相応しい帯を差し上げます」
そして、影姫に金を真望に銀を岸雄に黒の帯を渡した。
「1年で金だと!?」
「マジかよ金とか2年からだろ」
「流石、影姫様だわ!」
生徒が騒然とする中大きな声がした、白澤だ
「えー、今年の1年生は」
その声に食堂中の人間が注目した。
影姫、岸雄、真望は、そそくさと席に戻ると小さな歓迎の声がする
千李は、隣に来た真望に声を掛ける
「すごいね、真望君」
「あのくらい、朝飯前さ」
真望は小声でウインクしながら千李に返事をして白澤の方に向き直る
白澤は全員が静かになったのを確認して話を続ける
「今年の1年生は神の世代と言われた方たちのお子さんも多く、今後の学園での生活を
とても期待して見守りたい人たちが多かったですが、前の世代を超えようと考えて
無理なことや無茶なことはせず、楽しく学園生活を送ってください、
私はあまり学園にはこれませんがいつも貴方たちを見ています、
何しろ目が9個もありますので、視界が塞がることはありませんよ、はっはっは」
白澤が笑うと愛想笑いのような笑い声と苦笑が聞こえる、
「あれ、白澤様の鉄板ネタなんだ」
苦笑を漏らしながら凱臥が言う
白澤はそんな笑いに満足したのかなんなのか判らないがにっこり笑う
「今年も問題なく楽しく過ごしてくださね、ではお話しはこの辺にして、パーティーを始めましょうか」
白澤がそう言うと、ぶわん、と言う音と共にテーブルの上に術式が浮かび、下からご馳走が浮かんできた。
「もちろん、席の移動は自由ですので、各自交流を深め広い交友関係を築いてくださね
ただし、時間になったら必ず寮長さんについて行ってください、では、いただきます」
いただきますと食堂中から聞こえてすぐにみんな席を動きだした。凱臥達もすぐに青龍寮の方に行ってしまった。
もちろん、ほとんどは仲のいいグループで集まるのだが、
明らかに千李達に向かってくる者たちもいる、だがそれを掻き割って床から、
美羽、影姫が、岸雄につかまって出てきた。
「うわ、びっくりした、がーがー複数の移動もできるの!?」
癒澄が出てきた3人に言う
「ぼ、僕は知らなかったんだけど、え、影姫ちゃんができるからやれって、そしたら本当に空中も歩けたし複数の移動もできたんだ!」
岸雄は自分の手を信じられない物でも見るように見ながら言う
「知ってるわよ、だってこの子のお父様ができたことだもの、有名なのよ、
貴方達の親って学校以外でも清家と劉家の血を裏切る純血の幼馴染って」
「でもすごいよ、岸雄君、やったこともないことができちゃうなんて!
初めて床の中なんて見ちゃった!」
美羽がパッと岸雄から離れて興奮気味に言う
「そ、それは影姫ちゃんが僕の能力を操ってくれたからで」
3人はそう言いながら千李達の前に座る
「あら、私、能力操るなんてできないわよ」
影姫は適当にとったパンを口に入れる
「え?」
岸雄はびっくりして影姫を見る
「でも、わ、私に任せてって、影で声も聞こえたし・・・・」
岸雄は困惑しながら影姫に言うが影姫は何でもないように続ける
「だってあなたのお父様にできて、しかもあなたは似たような能力だから
ただ自信がないだけだと思ったのよ、だからできるって思わせるために操ってるみたいにしただけで実際は声で指示しただけよ」
岸雄はそう言う影姫を見た後、自分の手に視線を戻す
「僕が・・・・」
そう呟いてびっくりした顔で手を眺める
影姫はそんな岸雄を横目で見て少し笑った後また、食事に手を付ける
他の4人も岸雄の嬉しそうな驚いた顔を見て、ニコニコ笑った。
そして6人は楽しそうに食事を始める




