彼女の玄孫
翌日の日曜日は、個人戦第3第4試合がある
岸雄は、もともと辞退していたとはいえ、有力候補だった人間が、大怪我をした事はすぐに噂で広まった。
岸雄の容態は呪いによって手が赤黒くなっていて、骨が粉砕されていた。
今は呪いを解いて粉砕された骨を薬で融合させているようだ。
そして、危ないことをしたと言うことで、闇術の図書の許可証を取り上げられてしまった。
第3試合は脈羅が主体の試合だった。部に入っていない者は軽く斬り伏せられ
部に入っている者も苦戦し負けた。唯一、凱臥が最後まで健闘していたがやはり4強には叶わなかったようだ
第4試合は、白雅の試合だった。白雅の試合も異質で始めに部活生以外の生徒が白雅に近づこうとする選手を囲むが、やはりそこは部活生、そんな生徒に負けることはなかった。
白雅は、その様子をニコニコ眺めて、向かってくる生徒を一太刀で切り伏せていっていた。特に危なげもなく、白雅は、第4試合を制覇したのだった。
第5第6は、来週の日曜日となる
そして平日は普通授業だ、影姫、美羽、癒澄は、千李と真望の帰りを待ちながら学内図書館や、壁画から情報を得ようとしている。
千李と真望の部活が終わったら5人で岸雄の御見舞に行く、何やら忙しそうな病院で、意外な人と出会った。
ロビーでキョロキョロしていた黒髪の美人できつそうな顔の女性、こちらに気がつくと、重そうなキャリーケースを持って近づいてくる。
機械的な眼鏡はしていないが彩良恵良だった。
「良かった、深瑠の彼氏の友達よね?」
「彩良恵良さんにん「しーーーー!」
彩良恵良は、千李の口を手で塞いで周囲を見渡し、誰にも聞かれていないとわかると息をつく
「秘密で来てるに決まってるでしょ、馬鹿じゃないの?わざわざ人用の私服まで買ったのに台無しにしないでくれる」
美人の本気で怒った顔に千李は、萎縮する
「す、すみません」
「そんなことより、深瑠の彼氏の病室まで案内して」
彩良恵良の発言に美羽が不安げに言う
「岸雄君を心配して来てくださったんですか?でも危ないことですよ今の時期は特に彩良恵良さん達は」
美羽の言葉に彩良恵良は、あからさまに嫌そうな顔をしている
「わかってるわよ、それに深瑠の彼氏を心配してるわけじゃないわ、どうなろうとどうでも良い、クォーターの妖怪なんて深瑠より寿命短いしどうせすぐに死ぬでしょ、まぁ今死なれたら困るけどね」
その言葉に影姫がムッとする
「確かにそうかもしれませんが、もっと言い方があると思いますよ、それに岸雄君はあなたの友達の深瑠さんの恋人なんですよ、そんな言い方ってあんまりです」
彩良恵良は、呆れた顔をする
「妖怪が人間をみんないいように見てると思ってる?深瑠は、そっち側だけど私は違うの、正直、深瑠とあいつが付き合うのも嫌なのに、でもね、私も深瑠も自分の主張を押し付けないわ、生活も人生も違う相手にわかってなんておこがましいわ、私は人間が大ッキライなのあんたらは先に死ぬのにそれと付き合うなんて本当に理解に苦しむわ、そんなことよりさっさと彼氏のとこに案内して、事は急を要するのよ」
影姫は、少し、納得していない顔をしたが黙っていただが代わりというように千李が食って掛かる
「岸雄が心配じゃ無いならなんで、岸雄の御見舞なんか!「まぁまぁ」
その千李の言葉を真望が遮る
「とりあえず病室に行こう、あの部屋は個室だしここに居るより安全だろう、な?千李くん、そうしよう、彩良恵良さんも岸雄君に用事があるみたいだし」
真望になだめられて、釈然としない顔をしながらも頷く、そして、真望は彩良恵良を岸雄の部屋に案内した。
神華牡丹学園の医療塔は桜州で一番大きな病院になるので、奇病、難病の人は桜州中から集まっているから珍しい忍者の格好をしている人もいる
その奥の方の小さな個室に、岸雄はいる
劉岸雄と書かれた病室の扉を開けると、ライラックからプレゼントされた水晶を一生懸命片手で操り覗いている岸雄が居た。
そこに彩良恵良は、ズカズカと入って行き、キャリーケースを置いて、バンと机を叩く
「ちまちま、ちまちま無駄なことしてんじゃないわよ!深瑠の声が聞こえて無いんじゃないでしょうね!」
岸雄はびっくりして、彩良恵良を見る
「え、あ、あの、深瑠さんの声はき、聞こえてま、ます、ぼ、僕の妄想じゃな、無いんですか?」
それを聞いて彩良恵良は、フンッと不機嫌そうにベッド脇の椅子に座る
「深瑠とはキスしてたみたいね、忌々しいけど、」
それを言われて岸雄は、彩良恵良の肩をつかむ
「き、キスに!な、なにか!あるん、ですか!?」
岸雄の手を汚らしそうに叩く彩良恵良、
治療中の手なので痛かったようで、岸雄は、くっ、と声を上げて
その手を庇う
「人魚の呪いの一環よ、誓いのキスは血の繋がりがない人間とする時に
精神の繋がりを作るのよ、だから家族以外と人魚は、キスはしない
八百比丘尼の呪いの一部だからね」
それを聞いて千李はびっくりする
「え?じゃぁ岸雄は八百比丘尼なの!?」
それを聞いて彩良恵良は、はぁとため息をつく
「そんなわけ無いでしょ、まぁ八百比丘尼候補みたいなものね
八百比丘尼になるには人魚の肉を飲み込まないとだめ、
誓いのキスをして精神的に繋がった恋人が肉を口に含んだ瞬間に
人魚の肉は、呪いの肉になる、これは人魚の里の人間と人魚しか知らないわ
あんたらも他言無用よ」
彩良恵良に順に睨まれて全員、無言で頷く
ただ岸雄だけは彩良恵良に言葉を返す
「ぼ、僕とみ、深瑠さんがつな、繋がってたら!何かで、できるんですか!?」
それを聞いて彩良恵良は、キャリーケースを開けて重厚感のある台に乗った
丸いガラスに真珠が敷き詰められた物を出した。
「このガラス玉に入ってる真珠は、思想貝から取れたものよ」
彩良恵良の聞きなれない生き物の名前に美羽が質問をする
「思想貝ってなんですか?」
彩良恵良は、それを聞いて、めんどくさそうな顔をした。
「思想貝は、あると信じてる者の前にしか姿を表さない貝よ、
人の思いに左右されるからこの発明にちょうどいいの」
それを聞いて影姫と真望は、納得する
「つまりはこの機械を岸雄くんの精神に繋げるのね」
「なるほど、それで岸雄から深瑠さんに繋げると言うわけですな!」
それを聞いて、彩良恵良は、満足そうにする
「あら、理解力が良いのね、このガラス玉に触れれば考えていること
見ているもの、全てが見える、聞こえていることも聞こえる、そして繋がった意識の中にも入れるはずよ」
「はずなんですか……」
美羽がそう言うと彩良恵良は!はぁとため息をつく
「被験体が残念ながら間に合ってないのよ、私の旦那は、
死んでるしどうにもならないのよね、あんたで試すしかないわ」
それを聞いて、みんな驚く
「え!彩良恵良さん結婚してたの!?」
千李がそう言うと、彩良恵良は
ジト目で見てくる
「私これでも千歳越えてんのよ、あんた達より長く生きてんだから色々あるわよ、まぁたいがい、1020歳越えないと結婚しないけどね、」
彩良恵良は、そう言うと少しうつむき加減になって言葉を続ける
「……………相手の寿命が短ければ早めに結婚するものよ」
「え、それって………「そんなことより!」
千李が何か言おうとすると彩良恵良は言葉を遮る
「さっさとこの機械に手をかざして!時間ないでしょ!」
彩良恵良に言われて慌てて岸雄はガラス玉に手をかざす
すると中の真珠がガラス玉の中でくるくると中に舞い、渦を作っていき、輝いたと思ったら
「あぁ!痛い!熱い!み、深瑠さん!!!」
岸雄が目を閉じ叫ぶガラス玉の中は真っ暗になった。
「あぁ!そんな!ひどい!酷すぎる!」
彩良恵良が悲鳴のように泣く
そして、ガラス玉から悲鳴が聞こえてきた
『あああああああああ!!』
『深瑠!深瑠!!くそ!おまえ!なんてことを!』
みんな、事態を察して緊迫するなか、千李は、わけがわからなくなる
「え?寸巍先輩の声が聞こえるのに真っ暗だよ!?なんで岸雄は、目が痛いの?どうしたの?何があったの!?」
美羽が絞り出して言う
「深瑠さんの目が………」
「目?まさか!目が潰されたってこと?」
そこでガラス玉から少年の声が聞こえる
『あは☆ごめんね?でもさぁ人魚ってすぐ回復するからいいじゃん、緊急事態なんだよ、先生がね?彩良恵良お婆ちゃんを見たっていうんだ、あの人ならここを覗く機械とか作りそうじゃない?目隠し探してる暇ないからさ、ちょっとくらい我慢してよ』
少しも悪びれた様子もなく少年は言う
次に深瑠の声が聞こえた。
『彩良恵良お婆ちゃん?まさか貴方、夜一のひ孫?』
するとバシン!という音と共に岸雄の頬が腫れる
『深瑠!』
『大お祖父様の名前軽々しく出さないでよ、見捨てたくせに!!』
『見捨てた?どういうこと?』
深瑠の問に少年は、鼻で笑う
『そうだよ、僕は彩良恵良の玄孫だよ、』
全員が彩良恵良を見ると彩良恵良は驚き青い顔をしている
『彩良恵良は夜一大お祖父様を旦那である匙様に預けて消え去った非道女、それでも夜一大お祖父様は優しくて綺麗な人だってよく語ってたよ、僕も大好きな大お祖父様が話す素敵な人魚に会いたいと思ってた!でも先日!大お祖父様は、八百比丘尼の呪いのことを僕に話したとして殺された!人魚の里の人間に!僕も殺されかけたけど、先生が逃してくれたんだ!』
『そんなはずないわ、そんなことしないもの!』
『ああ、俺も人魚守だが、そんなことは聞かないぞ、秘密を知った人間を人魚守にすることはあっても殺すなんて』
『うるさい!うるさい!嘘つくな!!!先生が全部教えてくれた!李薇様が見せてくれた!彩良恵良は、人間嫌いなんだろ!なのに研究のために匙様に誓いのキスをして!イタズラに半妖を作ったんだろ!!そして飽きたから大お祖父様を捨てて!人魚の里に帰って!守りにすることもなく!人の世界に置いていった!そして秘密を喋ったら簡単に殺した!自分の子を守ることもせず見捨てたんだ!!!』
『ちが!『これこれ、興奮し過ぎだよ』
深瑠が反論しようとしたら女の声がした5年前聞いたあの声だ
『おやおや、坊や、ごらんこの人魚、耳に力が溜まっているよ?今のは筒抜けだったかな?』
『彩良恵良お婆ちゃんか、ちょうどいいや!お婆ちゃん!聞いてたよね!
僕はあなたを許さない、この人、殺せないけど苦しめることはできるからね!
あなたの大事な友達はね?八百比丘尼の養分になるの、だからその日まで僕が拷問にかけてあげるんだ!あんたが苦しむようにね』
『坊や、そろそろ切るよ、目を潰したのはいい判断だよ坊、偉いね』
『ふふ♪任せてください!』
その声が聞こえた瞬間ガラス玉が弾けた!中の真珠は粉々になり、岸雄は吹き飛ばされた。
即座に影姫が、確認する岸雄の顔の赤みも目の痛みも無くなっていたようだ
シーンとする中、全員が彩良恵良を見る
「彩良恵良さん今のは、」
「夜一が殺された?嘘よ、聞いてない!まさか!」
彩良恵良は、携帯水晶を開く
「殻時さん!なぜ夜一を殺したんですか!」
彩良恵良が、そう言うとボロボロの男の人が出てきた。
『彩良恵良、すまん、守れんかった、わしらじゃないんだ』
彩良恵良は、瞠目する
「まさか?今学園医療塔に居るんですか?」
彩良恵良の問に頷き、映像が消える
「彩良恵良さん?どういうことですか?」
美羽がそう問うと彩良恵良が、意を決したように答える
「確かに私は人間と結婚した。最初は幸せだった。でも夜一が、成長するたび老いていく彼を見ていて、死にゆく彼を見続けたくないと思った。
それでも夜一が15になるまでは耐えたのよ、でも無理だった私と違う時間を生きる二人を見続けられなかった。それを二人も理解してくれていたわ、そして守り人になることを選ばなかった。できるだけ離れていてくれた。
代わりに守り人の一人が見張りとしてついてくれていた。半妖でも八百比丘尼の呪いはあるから、それで今代の守人が殻時さんだった。きっとどこからか、藤の会に夜一の事が漏れていたんだわ、それであの子が利用されたんだわ、騙されてるの!実験なんかなわけないじゃない!誓いのキスは心が通っていなければ何の変哲もないキスと一緒なのよ!私が嫌いって言ってるのも!一緒の時間を生きれないから!もう一生匙ほど愛せる人が居ないからよ!腹を痛めて産んだ我が子に飽きたなんて、あるわけ無いじゃない!!」
涙をボロボロ流しながら彩良恵良が言う
自分の玄孫が騙され、自分の過去を酷く捻じ曲げられた悲しみに泣く
翌日、一人の生徒が学園から姿を消したことが、学園中に広がった




