第17話 戦争の決着
ヴェラとの打ち合わせの後、カレルは牛人達にライラを使者として送り、交渉を行うので来るようにと声をかける。生き残った牛人や虎人、猿人は悩んでいたようだが、ライラが懸命に説得。族長ギオの弟であったマークが、交渉の場に代表としてやって来た。
「フィン、全員揃ったようだ。始めよう」
「お集まりの牛人及びダークエルフの関係者の皆様、初めまして。ヴァイツァー商会副会頭フィン=ヤンセンと申します。これより戦後交渉を行いたいと思いますが、異論のある方はいらっしゃいますか?」
フィンが、双方の代表者に確認を行う。ヴァイツァー商会で参加しているのは、フィンとカレルの2人だけ。他の面子はある書類の作成の為に、交渉の場にはいない。ダークエルフの代表は、族長代理のヴェラが務める。彼の問いかけにうなずくと、カークに向けて自己紹介を行う。
「7大魔将の1人にして、族長代理のヴェラだ。族長であるセナは、今回の件で魔王様に召還された。だから、代わりに話を聞くよ。ヤンセン殿、ダークエルフ側は異論は無い。牛人側は、どうかな? 僕と戦いたい者がいるなら、相手をするけど?」
マーク以外に虎人や猿人の者達が随伴していたが、全員が凄い勢いで首を横に振る。ヴェラの強さは、ファーブルやカレル、レーナに匹敵する実力だと、ビスティ王国の人々は知っているからだ。
年に1度のビスティ王国の闘技大会が先月行われた。決勝の後で行われるエキシビションマッチ。その参加者が、聖騎士3人とヴェラなのだ。4人総当たり戦で行われ、今年はヴェラが優勝している。どの試合も死合と呼べる激闘で、戦闘狂の獣人達を震え上がらせた程だ。
「いえ、とんでもありません! 私は、族長ギオの弟でマークと申します。兄である族長も亡くなってますし、境界線上の中洲の集落も爆風で吹き飛ばされた。もう、皆戦う気力が無いんです」
ダークエルフの陣地は、中洲から目と鼻の先にある河の対岸に作られていた。それが大爆発したのだ。爆風と炎で中洲の半分が吹き飛び、集落や作りかけた畑は壊滅。あげく、集落にいた牛人達にもかなりの犠牲者が出ている。彼らの継戦能力は無きに等しい。
「では、交渉を始めましょう。まず、今回の戦争の原因である中洲ですが、面倒なので無くしてしまいしょう。カレル様、既に牛人達も避難が完了しております。思う存分、どうぞ」
「俺は享楽的な破壊者じゃないっての。じゃあ、半分位の威力で。フレアバースト!(50%)」
カレルの最上位魔法が中洲に着弾し、爆発を引き起こす。土煙が晴れた先に見えたのは、巨大な穴だ。たちまちユール川の水がそこに流れ込み、あっという間に水没していく。
「そ、そんな私達の土地と家屋が‥‥」
「マーク様、貴方方の失策が招いた結果です。さて、牛人の皆様には更に支払うべき物があります。ユール川沿岸の土地を全て手放して頂きたい。その領地は、全てダークエルフ側に編入されます。賠償金に関しては、双方支払わなくて結構です」
フィンの説明にマークは青ざめる。この決定は、ユール川の水を牛人達が使用出来ないという事であり、農業や牧畜を主産業とする彼らにとって大きな痛手だ。
「ま、待ってください。今回の戦争は中洲が原因でした。その中洲は既にありません。ですので境界を元に戻し、今まで通りユール‥‥」
マークの必死の抗議は、カレルが杖を突き付ける事で黙らせる。杖の先には炎の魔力が具現化し、マークをいつでも焼き殺せる状態であった。
「馬鹿野郎!! 何も分かっちゃいないな。まず、最初に言っておく。俺はファーブル王より、今回の件の諸君らの処罰内容を聞いている。そして、全権を委任された執行者としてここにいる訳だ。それを踏まえた上で、マーク。今回の戦争、どちらが先に仕掛けた?」
「‥‥我々です」
「そうだな。じゃあ、次の質問だ。戦争の原因を作って、先に攻め込んだのは牛人だ。しかも、虎人や猿人まで加えてな。ファーブル王の再三の命令に従わず、戦争を始めた。さて、何の罰も無いと本気で思っていたのか?」
そう、戦争を始めたのは牛人達だ。王の命令に反し、あろう事か他種族まで巻き込んでだ。反逆罪を問われかねない行動をしている彼らに、カレルは更に突き付ける。
「マーク。牛人は自治を取り上げられ、ファーブル王の直轄領となる。そして、虎人と猿人の者達よ。ファーブル王は、貴方方の自治も取り上げるとおっしゃられている。族長に帰って伝えるが良い。従うか、それが嫌なら戦うかだ。ファーブル王だけじゃない、我々ヴァイツァー商会も敵に回す覚悟があるならば、兵を揃えて掛かってこい!!」
「やっぱり、カレルはかっこいいね。よし、その戦いに僕達も参加しよう。不慮の爆発事故のせいで、戦意が消化不良気味なんだよね」
「ヴェラ様、内政干渉に当たるのでお止め下さい。カレル様、我々は戦う必要はありません。彼らに対し、荷留めをすればいいんですよ。内陸部に住む彼らは、塩無しだと1ヶ月も持ちますまい」
カレル達に加え、ヴェラ率いるダークエルフ達まで参加。しかも荷留めを行うと示唆され、マークと虎人、猿人の代表らは慌ててひざまずく。聖騎士3人と7大魔将の率いる軍に、自分達が勝てる訳は無いからだ。
「ぎ、牛人族は国王陛下の命令に従います。このマーク、必ずや牛人族の者を説得致しますので」
「我が猿人族も国王陛下の御意に従うつもりです」
「虎人族族長に報告し、国王陛下の命に従うよう説得致します」
マークが真っ先に従い、ついで猿人や虎人の代表も族長に伝える事を約束。こうして、牛人とダークエルフの戦争はわずか1日で戦後交渉まで決着がついたのである。
次回、利権の分配を行います。
荷留めとは、商会や商家が販路の商品流通を止める事です。長期間、塩や穀物等の生活必需品が無くなったら、国民の不安や不満が出てくる。一揆や反乱の原因になるので、為政者はすぐに対応しないと大変な目にあいます。




