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波乱万丈の魔術師  作者: 流星明
第1章 世に再び現れる英雄
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第18話 利権分配は丁寧かつ公正に

その日の夕方、ヴァイツァー商会の面々はバランやヴェラを伴い、転移魔法でビルト城へと向かった。ファーブル王と共に利権の分配について、話し合う必要があったからだ。


しかし、ビルト城の正門に転移するや、カレル達を見て門番が慌てて逃げ出した。そして、城内に入れば、皆が全力で避けていく。あげくには獣人達が多く詰めているはずの謁見の間には、ファーブル王と王妃のマリン以外は近衛騎士の面々しかいない。その原因となった人物が、まず話を始める。


「ファーブル王、まずは謝ろう。獣人達がこうも俺を恐れているとは思わなかったのでな。バラン=ローディオだ。魔王であり、父であるガストベルクの3男にして、魔王軍でヴァイツァー商会の取り次ぎを行っている。お互い同じ商会を使用しているのだ。末長く付き合いたいものだな」


「ビスティ王国国王ファーブル=ビスティだ。バラン殿、こちらこそ、部下が非礼を働き申し訳ない。だが、貴方の悪名は名高く、皆が怯えているのです。動くと何を仕出かすか分からない、ヴァイツァー商会の面子並にね」


「ファーブル、なんつう言い草だよ。まあ、否定出来ないのが辛い所ではあるがな。それより、ミスリル鉱山の件だ。ビスティ王国の取り分は15%で、魔王軍が15%。残りのうち、50%は商会で20%を売却しようと考えている。それで構わないか?」


ファーブルと話し合ったのは、商会とビスティ王国の取り分のみであった。状況が変わり、魔王軍にもミスリルを渡す事になったので、こうして報告と相談にやって来た訳だ。カレルの確認に、ファーブルがうなずこうとしたが、マリンによって止められる。


ファーブルと同じ獅子人で、背中まで伸びた長い赤髪と鋭い黒眼が特徴的な女性で、彼と並び称される女戦士でもある。獣人の女性達の頂点として、君臨しているだけに発言権も強い。


「カレル、ビスティ王国の取り分をもう少し増やして欲しい。欲をかくんじゃないからね? 獣人全体から、今回の件で不満が出ているんだ。『牛人達が処分されたのは仕方無いとはいえ、ミスリル鉱山を奪われたのは国益を損なう!』と言う奴が多いんだ。特にカルマンの派閥の連中がね」


牛人達の敗北の報がビルト城に届いてすぐ、第1王子カルマンが派閥の獣人達と共に謁見を申し入れたようだ。その時、彼らがこう言ったらしい。


元をただせば、彼らの策動が今回の戦争の原因である。あまりの厚顔無恥ぶりに、バランやヴェラすら呆れてしまう。商会の面々も不満の表情を浮かべる中で、1人の女性が前に進み出る。


「‥‥あの、マリン様。子供可愛さに、大局を見失わないで下さいませ。彼らの失策が招いた今回の騒動。派閥の動揺を抑える為に、ミスリルを利用している事がお分かりになりませんか?」


マリンに意見したのは、意外にも獣人のイローナだった。皆が驚いているが、彼女にしてみれば当然の行いである。ここで簡単に要求を認めれば、ヴァイツァー商会自体がなめられてしまう。


各国の王族や貴族を相手にする上で、くみし易いと侮られるのは致命傷ともなりえる。たとえ、商会の主要産物の産出国の王妃の願いであっても、易々と首を縦に振る訳にはいかない。


イローナの安易な妥協を許さぬ姿勢を見て、マリンは穏やかな笑みを浮かべる。かつて、ファーブルやカレルと共に果樹園事業を起こしたある人物を思い出したからだ。


「イローナ、言うようになったじゃないか。さすが、あの強欲爺の孫娘だね。まあ、聞きな。私もその言い分に呆れたのは事実さ。でも、他の派閥の獣人達にも聞いてみれば、今回の件に大なり小なり不満があるようだ。大金が動くミスリル鉱山をまんまと商人に取られたからね。ファーブルとカレルの仲は良いし、揉め事は起こしたくない。だが、国が関わるなら私情は抜きだ。どうだい、カレル? 少し考えてくれないかい?」


そう言われたカレルは、少し考える。今回の案件はカレルが担当しているので、セリスを含むヴァイツァー商会の面々は彼の判断に従うだろう。だが、下手な妥協をすれば商会の利益を失いかねない。様々な方策を考えて出した結論を、カレルは、ファーブルとマリンに告げる。


「産出量の引き上げは無理だな。それだと、今度は魔王軍の方で不満が出る。となると、鉱山労働者として獣人達に働いてもらうのはどうだ? 近々、鉱山内と鉱山外の仕事をする労働者を集めようと考えていたんだ。やる気のある獣人達を優先的に登用する事を約束する」


「‥‥『俺は強い、だから偉いんだ』とか言って、軍規違反や命令違反の常習犯だったあんたが、よく考えたじゃないか。時間と人との出会いがあんたを成長させたようだ。全く、うちの馬鹿息子どもにも見習って欲しいもんさね」


「やめろ、マリン。俺は思い出したくない。強ければ何でも出来ると思っていた、くそ餓鬼だったあの頃の俺を。師匠を失い、人間社会に居場所が無くなった俺を拾ってくれた恩は忘れちゃいない」


セリスを救うべく、かなりの無茶をやったカレル。結果、教会や聖騎士に各国の王と敵対してしまい、人間の領国で住めなくなった。そんな彼を救ったのは、セリスの弟子だったファーブルとマリンだ。マリンも夫と一緒にセリスの下で修業。カレルとレーナにとって、妹弟子にあたる。だからこそ、ビスティ王国で2人は受け入れられ、ヴァイツァー商会の再興をなしえたのだ。


「良いって事よ。あんたは人間にしちゃ、まだましな部類だからね。話をすれば、しっかり獣人の事も考えてくれるしね。この条件なら、獣人達も説得出来そうだ。それと技術習得の学習機会も与えて欲しいんだ。鉱山で働くだけじゃなく、鉱山採掘の技術や道具作り。会計の勉強に道路整備とかの技能を獣人達に教えて欲しい」


マリンの願いに、ヴァイツァー商会の面々もようやく納得がいった。不満を持つ獣人達に、仕事と勉強の場を与える。そうすれば、ビスティ王国の安定と発展に繋がると考えて。


「‥‥後に続く者の為に、か。マリン殿、貴殿はなかなか見上げたご婦人だな。カレルよ、我が魔王軍からも人手を出すので、色々と教えてくれ。ダークエルフを優先的に登用してもらえば、ヴェラも統治の上で助かりそうだからな」


「ば、バラン様。あ、ありがとうございます。カレル、お願いね? 僕も頑張るからさ」


バランとヴェラに、こうも言われては拒否も出来ない。カレルは鉱山開発を始動させるべく、商会と関係者に指示を出す。


「分かりました。獣人とダークエルフ共に雇用する事にしましょう。ライラ、獣人とダークエルフとの契約書類を作ってくれ。俺と師匠で鉱山と港間の道路整備を行う。メディアは、ライラの補佐でヴェネルセの統治を任せる。レーナは、警備隊の強化と人員拡大を早急に行って欲しい。フィンは鉱山に詳しいドワーフ達の招聘を頼む。イローナは、獣人の労働者募集を担当。後はヴェラ。ダークエルフの労働者募集と領内の整備を頼む」


矢継ぎ早に出される指示に彼らは、即対応する。カレルやメディアによる転移魔法で、ヴェネルセやダークエルフ領へと向かう者達。残ったのは、カレルとセリス、バランの3名のみだった。


「ミスリル鉱山の件、頼んだぞカレルよ。父上も期待しているからな。では、ファーブル王にマリン殿。私も失礼させて頂く。次は、ゆっくり会いたいものだな」


「それじゃあ、俺達も行くぜ。約束は守るから安心してくれ。ファーブルとセリス、どうかしたか? 何か言いたそうだが」


カレルの問いかけに、ファーブルとセリスは無言だった。何やらいじけているらしく、しばらくして感情のこもった言葉を吐き出すように言う。


「‥‥1国の王なのに存在感が無かったぞ。俺の存在理由って、いったい」


「同じく、商会の主なのに存在感が無かった。良いんだ。ヴァイツァー商会は、カレルの物なんだから。私なんて、ただのお飾りさ」


「「だあああ、いじけてる暇が有ったら仕事しろ!!」」


この後、カレルとマリンによるいじけた2人への説教と機嫌回復の為に1日が費やされる羽目になった。世の中とかく人の感情に振り回される。古今東西それは変わらない。








次回より、人物紹介を兼ねて閑話を何話か投稿します。

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