第五十二話 目覚め
「まずい!みんな急げ、もう時間がないぞ!」
ハナビの警告にいち早くメンバーにも伝えるが、最初からトップギアで泳いでいた面々、これ以上スピードは上がらない。
「無理!これ以上無理!」
既に音を上げているリザも必死に足で水を蹴る。
影達はとうとう逃げ場を失うと、鯰の巨大な口の中に飲み込まれてしまう。
「…ダメだった」
背中の少女が呟く。
「大丈夫だ!後はなんとか間に合えば…」
島は既に目前に迫っている。
「早く!ボスが迫って来てる!」
既に陸に上がったサーラはボスがこちらに気づいた事を知らせる。
一番後ろのジェルマンでもあと3m程度だ。
間に合うかどうか微妙なところである。
「急いで!」
ぞくぞくと小島にたどり着くメンバー。
残りはジェルマンとハナビ組だ。
「待ってろハナビ…」
背中には階層主の誘導で力を使い果たしたハナビが掴まっている。
その後ろにはわずか数mまで迫ってきている巨大な口。
間に合わない…誰しもがその光景を目にして絶望する。
いくら水を蹴っても進まない身体。
大鯰が口を開けて迫ってきたせいで、ジェルマンの周囲の水が大きな口の中に吸い込まれていく。
誰しもが2人の死を感じた。
「諦めんな馬鹿野郎!…火炎のフレイム」
リザが自身の魔力をありったけ込めた火炎のフレイムを大鯰に打ち込む。
その大きな炎はレベル1のフレイムなど比べ物にならない。
直径3m程の火球の温度は、青白い炎の色が物語っている。
ジェルマン達が飲み込まれる直前、大鯰の口の中に着弾する火球。
たまらず大きな口を閉じると、口の中から白い煙が舞い上がる。
分厚い表皮に比べ、ダメージの大きい口内。
ジェルマンが大鯰の隙をつき、小島へと再度進みだす。
しかし、リザの攻撃により怒りを増した大鯰。
雷のベールを自身の表皮に纏うと、まだ水中に浸かっていたジェルマンとハナビの身体を襲う。
「あがぁ…」
一瞬なにが起きたのか理解できない。
あと少しなのに身体が動かない。
(足で水を蹴るんだ…)
必死に脳から足へ伝達を送ろうと必死にもがくジェルマン。
自分がなんとかしないとハナビが助からない。
「どうしたらいいの…」
小島にたどり着いていた面々も既に満身創痍であった。
とても巨大な存在に成す術の無い『知識の宝庫』
パーティーの要でもあるアヤトはまだ意識が戻らない。
「アヤト…助けてよ」
サーラは膝の上に頭をのせているアヤトに、一縷の望みを託して涙をこぼす。
涙がアヤトの頬を伝う。
「…ごめんな」
自分の膝元から小さな声が聞こえる。
その声の主は紛れも無い、サーラの信頼を一手に担うアヤトのものだ。
サーラはこの声の主を間違える事は無い。
「アヤト…助けて」
堪えられない大粒の涙がアヤトの頬を濡らす。
「少し待っててね」
そう言うとゆっくりと起き上がるアヤト。
(この状況…打開する策は…)
周囲を見回すと全員の視線は湖の中のジェルマンとハナビ…それに大鯰。
未だにアヤトの意識が回復した事を知るのはサーラだけだ。
大鯰にそれぞれのもつ魔法を放っている。
だが全く聞いている様子は無い。
湖の中にはジェルマンとハナビの姿が見えるが、動きを見せない2人。
おそらく電気を纏っている大鯰が原因と思われる。
水と雷はまず攻撃を通さないであろう。
「ごめん…足を引っ張っちゃって」
足に力を込めると水際まで一瞬で移動するアヤト。
その頼もしい姿に見惚れる一同。
『アヤト!』
「いつまで寝てたのよ!大変だったんだからね!」
リザが早速文句を言ってくる。
少なくとも、先程まで瀕死だった人にかける言葉ではないだろう。
「ははは…とりあえず2人は下がっていて」
リザとリリの前に立つアヤト。
「さあ、大鯰。ジェルマンとハナビを返してもらおうか」
愛刀の虎徹を抜刀する。
ーーーー




