第五十一話 大鯰
カラカラと細かな小石が降り注ぐ。
ほとんどの小石は湖の中に落ちていく。
小石が水面に落ちる波紋が広がる。
「何か水中から上がってくる!」
湖の一部が大きく盛り上がり、黒い影が現れる。
「アヤトとルナを避難させろ!」
ジェルマンが指示を飛ばすとサーラとリザが2人を運んでいく。
すると水面から巨大な口と触覚が現れる。
大きな口は大の大人でも軽々と飲み込んでしまう程の大きさで、口の中はやすり状に細かな歯が並んでいるのが見える。
飲み込まれてしまえば、やすり状の歯で簡単にすりつぶされるであろう。
触覚、口、髭…その全貌が露になっていく。
「…巨大鯰」
全貌を表した階層主は巨大な鯰であった。
頭部いっぱいに広がる巨大な口の上下には立派な髭をたくわえている。
見えているのか分からない濁った巨大な目。
湖から出ているところだけでも7、8m以上はあるだろう。
全長は15m以上の巨大なサイズ。
今まで出てきたオークなど簡単に飲み込まれてしまう。
そうだ…このフロアには水場が多かったのにも関わらず、水中をテリトリーとするモンスターが1体も居なかった。
出てくるモンスターはオークなど基本的に陸地を活動拠点とするものだけだ。
それもそのはず、この階層主が1匹たりとも逃さずに餌としてしまったのである。
この階層主は9階層と10階層を統べるボスである。
深い湖で繋がっている2フロア。
このフロアが繋がっている理由はこの階層主の異常な程の食欲だ。
既にこのフロアの餌は残っていない。
『知識の宝庫』以外には…
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防戦を強いられる『知識の宝庫』のメンバー達。
今はまともに動けるのは、リリーとハナビ、ジェルマンだけだ。
サーラはアヤトを背負い、リザはルナを背負って階層主からの攻撃を避けるので精一杯だ。
水や雷の魔法を操る巨大鯰の一撃は、周囲を巻き込むように広がる。
狭い陸地を逃げ惑うこと数分…ついに足場が殆ど無くなってきてしまった。
水の魔法で押し寄せる大量の水は陸地すらも消し去ってしまった。
「このままじゃまずい…一旦あの島に移るぞ!」
ジェルマンが指差す先には、2つの小さなこぶのある島だ。
当初、ハナビが調査したときには大きな赤い柱があるだけで敵影は見えないとのことだった。
「でもどうやってあそこまで行くの?」
今居る陸地から、小さな島までは距離がある。
とても湖を飛び越えてなどいける距離ではない。
少なくとも50mは離れている。
水の中を移動しないと島には到達しない。
だが水の中は奴のテリトリーだ。
「私の影でなんとか注意を引いてみせる!そのかわり私の身体をよろしく頼みます」
ハナビはジェルマンに身体をあずけ、自身の影を3体生み出す。
「3体が今の限界…魔力もこれで殆ど無くなっちゃうから」
「頼む…今はお前だけが頼りだ」
「まったくとより無いわね!アヤトみたいに命張ってみたらどうよ!」
ジェルマンの背中を叩くリザ。
「…わかってるよ!みんなハナビがボスを引きつけてくれているうちに島へ移動するぞ」
ジェルマンの指示で一斉に水の中に飛び込み、島を目指す。
一方ハナビの操る影は、湖の上に浮かぶ瓦礫や石柱の破片を足場にして飛び回っている。
3体それぞれ特徴が分かれている。
双剣を持って接近戦を挑む影、中距離から飛び道具で鯰の急所を狙う影、遠距離で炎の魔法を唱え援護する影。
最初の数手は優勢に事が進んでいた。
上手くボスの意識をそらし、影に集中させる事ができた。
しかし実際は双剣でいくら斬りつけても、分厚い表皮は剥ぎ取れない。
ギョロリと大きな目玉を燃やそうと炎のフレイムで襲いかかる影。
しかし火力が足りない。
炎のフレイムのレベルはまだ1の段階では、階層主にとっては微々たるダメージであろう。
果たしてダメージが入っているのか。
「後もう少し!みんな頑張って!」
アヤトを背負っているサーラがもうすぐ島にたどり着きそうだ。
男の子であるアヤトを背負っているサーラが一番負担のはずだが、そんな気配は一切見せる事は無い。
「…さすがは脳筋だな、頼りになるな」
ボスの注意を引き受けている影達にも動きがあった。
湖に浮かんでいた瓦礫が次第に少なくなってきた。
階層主の操る水に飲まれていったのだ。
足場が少なくなると動きが単調になってしまう。
階層主は頭を使って影達を追い込んでくる。
「もう…保たない」
ジェルマンの背中で小さく呟くハナビ。
階層主の影が『知識の宝庫』を襲う。
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