第二十七話 影の苦労
オリエンテーションが終了し、授業間の休み時間。
「昨日は大変申し訳ございませんでした」
ブラビアが突然、頭を下げて謝罪をしてきたのだった。
「ほら、ベアトリスも謝りなさい」
「くっ…昨日の無礼をお許しください」
納得のいかない顔で、渋々頭を下げる騎士。
彼女の名前は『ベアトリス・オブ・ヴィクトリア』代々ブラビア家に仕える騎士爵家の長女である。
銀色の長い髪をポニーテールにしている赤目の美少女だ。
しかし、何かとブラビアのことで周りと揉め事を起こすトラブルメーカーである。
「ど、どうしたんだ急に…」
お偉い貴族様が揃って頭を下げてきた。
「昨日寮に帰ってから、ウタ副会長からブラビアに注意があったみたいだよ」
ウタはアインスト王国出身のため、ブラビアやベアトリス達と一緒の寮だ。
「1時間ほど、生徒会長がいかに危険な人物かということを語っていただけみたいだけどね」
ジェルマンが昨日の寮での出来事と、ブラビア達の急な態度の変化を結びつけてくれた。
「ウタさんが……いつも助けてもらってばっかりだな」
そんなウタは小等部生徒会の副会長を担っていた。
副会長になるまでには経緯があった。
実力も申し分なく、女性からの根強い指示があるユリカ。
人気投票により、生徒会長に見事当選した…
生徒会長にユリカが当選すると、副会長に立候補をしていた生徒達がこぞって辞退をしていった。
5人も立候補していたはずなのに誰も残らない、前代未聞の事態だった。
副会長が不在では、業務に支障がきたる。
ましては脳筋ユリカでは、他のメンバーが優秀でないと生徒会が機能を失う。
そんな中、ウタは半ば強制的に祭り上げられた犠牲者だった。
「僕は別に気にしていないし、こっちこそこれからよろしく」
握手を求める手を差し出すアヤト。
「調子に乗るなよ」
握手を返して、耳元でささやくベアトリスに更なる不安を覚える。
「次の時間はさっそく闘技場での演習訓練だ、移動しとこうぜ」
そう言ってジェルマンに促されて移動するSクラスの面々であった。
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「それでは2時限目は武術となります」
「エマ先生とやればいいんですか?」
「いえ、私は見ての通り魔術系特化ですので、武術については別の方にお願いしています」
そういって眼鏡を直すローブ姿のエマは、誰が見ても魔法使いだ。
「では特別講師の方に登場してもらいましょう!」
「なんでそんなハードルあげてんの?」
そんな声が生徒達からあがるのも当たり前だ。
1年生の講師などは大抵は引退後の冒険者か、腕のあるで道場の師範くらいだ。
それくらいならばSクラスの面々であれば驚きはしない。
「なんと!この方々です!」
エマがさらにハードルをあげて闘技場に入ってきたのは4人の元冒険者だ。
この4人にもっとも驚いたのはアヤトとサーラであった。
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「腰が全然入ってないぞ!」
「くそ…」
「本気で来い!ここならある程度の怪我はリングから降りれば元通りだ!」
「ぐっ…この!っな!腕があああぁぁぁ」
アヤトの腕は切り落とされ、蹴り飛ばされる。
「そんくらいで喚くな!男だろ!」
「ぐぅ…」
腕を切り落とされたはずのアヤトであったが、リングの外に吹き飛ばされると元に戻っていた。
さらに小さな傷や痣も消えていた。
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