第十六話 入学試験
「2人とも頑張ってくるのよ!」
ハスとドロシーに見送られて、ユリカとウタ、それに付き添うリーナと綾人。
(…父さんとブルさん帰ってこなかったなぁ)
昨日、早々に呑みに出かけた2人は未だに帰ってこない。
「はーい、絶対受かってみせるわよ!」
「頑張ってきます!」
返事をするウタの背中を、ユリカはバンバン叩きながら手を振る。
「ユリカちゃん…そんなに叩いたらHPが削れちゃうよ…」
「バカね!HPが削れるってのはこのくらいよ!」
『バン!!』
(ウタさん可哀想に…完璧にターゲットにされてる)
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「わぁ…神殿も凄かったけど」
(学園は桁違いだな…)
学園を初めて見たユリカと綾人はその広大な敷地に驚いている。
「敷地内に川もある…」
「川なんかで驚いていたらダメよ。山だっていくつもあるんだから」
(まぢかよ…建物も神殿並みのがそこら中にあるぞ?)
「僕もここまで中に入るのは初めてだなぁ…」
入学試験は学園の敷地内で行われる。
今は受付に向かっている訳だが、ユリカやウタ位の子供達がたくさん歩いている。
「これ…みんな受験者かな」
「そうね、みんなライバルよ!」
闘志を燃やすユリカに、弱気なウタ。
「受付を済ませたら、そこからは私たちは入れないからね」
「2人とも頑張るのよ!」
(ユリカ姉さん!ウタさん頑張ってくれ!)
綾人はエールを送るように小さな手を握り拳にして掲げる。
「アヤトくん、頑張ってくるね」
(っな!!!)
ユリカは綾人の頬にキスをして元気いっぱいに微笑む。
(…不覚にもちょっとビックリしちゃったじゃんか)
5歳のキスに動揺してしまう綾人だった。
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「行ってきまーす!」
「行ってきます」
無事に受付を済ませた2人は建物の奥に消えていく。
第一次試験は筆記試験…基礎的な語学や算術・戦術・魔術・モンスターなどについての知識を試される試験。
第二次試験は武術試験…試験官の武闘派教員との1対1で模擬戦闘を行い攻撃力や防御力など総合値を試される試験。
第三次試験は魔術試験…魔力の測定や、魔術による攻撃力や防御力など総合値を試される試験。
さらには、アートラス神からの加護も評価の一部とされる。
これら試験を昼過ぎには全日程を終了させて、夕方には発表となる。
クラス分け等は1週間後の入学式に発表される。
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「終わったぁー!」
「…………………」
試験を終えてきた2人が学園の入り口付近まで戻ってきた。
晴れ晴れとした表情のユリカ。
試験内容があまり良くなかったのか、項垂れているウタ。
「おつかれさま」
「お腹減ったわ!何か食べたい!」
「…………………」
朝早くから試験は始まり、お昼休憩は無かった。
「試験の合間にこっそり食べてたじゃないか」
試験と試験の合間用にと、パンやお菓子を持っていった2人。
「そんなの武術試験と魔術試験でエネルギーに変わったのよ」
「僕の分も食べたくせに…」
「なによ!」
「…………………」
わがままなユリカに振り回されっぱなしのウタであった。
「ウタ君はあまり元気が無いみたいだけど…試験どうだったの?」
「私はばっちりよ!」
「……僕も精一杯の力を出し切りました。…はぁ」
ため息をつきながら、ユリカを横目に報告する。
この時の表情の意味は後から噂で知ることとなる。
「そう、結果が楽しみね。それじゃあご飯に行きましょうか」
そう言って一同は学園を後にして、美味しい飯屋を探し始める。
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学園では急ピッチで採点や実技等の評価を下している。
「今年も無事に入学試験を終えることができたのぉ」
白くて長い髭を蓄えた老人が今年の受験者リストを眺めている。
その老人の部屋には、無人で動く箒や雑巾、お茶を注ぐティーポットなど様々な物が魔法で動いている。
魔法で入れた紅茶を立ちながら呑む老人の背丈は2mを超しているのではないだろうか?
上背は高いが、どこかの宿屋の主人のように横には大きくない。
ゆったりとしたローブを身にまとう姿は、これぞ魔術師といった出で立ちだ。
そう、彼こそがこの学園の校長『エドワード・サン・ケリー』である。
歴代最強とも名高いエドワードは自身の実力はもちろん、彼が在任中に数多くの優秀な生徒を排出している。
その中には『ロドフ』や『リーナ』も含まれている。
「そうか…今年はロドフとリーナの子も受験しとるのか」
『ドンドンッ!校長!いらっしゃいますか?』
校長室のドアが勢い良く叩かれ、男性がドアの向こうから問いかける。
「ああ、入れ」
短く答えると男性教員と思われる者が慌てて入ってくる。
「どうした?」
「今年の受験者の中に、す…すごい能力者が現れました」
「ほう…それはこの『ユリカ・クラシキ・ツェット』さんかな?」
「なぜそれを?」
男性教員は報告しようとしていた人物の名前を言い当てられた。
「ちょうど今年の受験者の名簿を見ておってな」
エドワード校長は窓の外を見ながら続けた。
「その子は…ロドフとリーナの子じゃ」
答えの意味がわかっていない男性教員。
「ロドフとリーナは学園の卒業生…ギルドSランクの2人じゃ」
「な…」
「どれ、儂も入試選考に加わろうかの」
「…よろしくお願いいたします」
男性教員は啞然とした表情でエドワード校長と会議室へと向かう。
「それで…ユリカさんはどんな感じなんじゃ?」
「加護の内容も凄いのですが、武術試験で試験官を病院送りにしました」
「ほっほっほ。さすがわ2人の子じゃわい」
「その際に訓練場の外壁にも大穴が…」
「あやつら…子供にどんな特訓をさせたんじゃ」
さすがのエドワード校長も少し頭を悩ませるのであった。
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