第十三話 怪物
「…失礼します」
おそるおそる扉をくぐるユリカ。
そこはホージ司祭の私室だ。
司祭ともなるとある程度の部屋が用意され、そこに個人的な客を招いたりする。
そこは前世であれば、社長室の用な雰囲気だ。
しかし、高価な調度品などは一切無い代わりに、部屋の壁面を埋め尽くすほどの本があった。
「どうぞおかけください」
「失礼します」
大きめのソファーに腰を下ろす一同。
「お茶で大丈夫かな?」
机の上に置いてあった鈴を鳴らすと、修道女が入ってきてお茶をお願いする。
「すみません、おかまいなく」
「大丈夫ですよこれくらい、それよりもお楽しみのステータスを更新してみるかい?」
『はい!』
ユリカとウタは、白いギルドカードをホージ司祭にそれぞれ渡していく。
「ちょっと待っていてね」
受け取ったギルドカードを部屋の片隅に置いてある機械にかざす。
その機械はATMのような形をしており、ホージ司祭はカードをそれぞれかざしていく。
「よぉし、これで大丈夫なはずだよ」
司祭はユリカとウタにカードを手渡していく。
「ユリカ、ギルドカードを持ってステータスオープンと唱えてごらん」
「うん、わかった!」
この時まで知らなかったが、ギルドカード無しでステータスを確認出来るのは特殊だったようだ。
「ステータスオープン!」
ユリカが元気よく唱えた。
すると白いギルドカードに金色の文字が浮かび上がってきた。
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Name:ユリカ・クラシキ・ツェット
Level:5
Job:ー
HP:1510(1510)
MP:810(810)
ST:810(810)
IR:ミスリルの片手剣( A )
筋力:210
物理攻撃力:210
物理防御力:110
魔力:55
魔法攻撃力:55
魔法防御力:55
敏捷:150
運:200
スキル:剣術士Ⅳ、格闘士Ⅱ、双剣士Ⅰ
黒魔術師Ⅰ
(炎のフレイムⅠ、雷のフレイムⅠ、風のフレイムⅠ)
赤魔術師Ⅰ
(バーサク、ハイスト、ダウンスト)
心眼
加護:剣術士の加護Ⅴ、格闘士の加護Ⅲ、黒魔術師の加護Ⅰ、赤魔術師の加護Ⅰ、心眼の加護
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『おぉぉぉーー』
部屋にいた全員がギルドカードを覗き込んで、声をそろえる。
「ねー、ねーどう?どう?」
満面の笑みで両親を見つめる。
「剣術士の加護Ⅴ、格闘士の加護Ⅲ、黒魔術師の加護Ⅰ、赤魔術師の加護Ⅰ……それに心眼の加護」
ステータスに浮かび上がっている文字を声にして読み上げるホージ司祭。
(え…ユリカ姉さん結構すごくないか?)
「…ユリカ。お前凄すぎるぞ…」
「これほどの加護を持ち合わすとは、お見事ですな」
「おめでとうユリカ」
ユリカの頭を撫でるリーナの隣で、少し落ち込むロドフ。
「パパ!パパより凄いからって落ち込まないでよ」
ロドフの顔を覗き込みながら、ニヤニヤして父をいぢる。
「う、うるさい!そんなんじゃないんだからな!」
(娘にからかわれる父親って…)
そんなユリカのスキルを喜ぶ一同に的確な質問が投げかけられる。
「ユリカちゃんって…なんでレベルがあがってるの?それにそんなにスキルが…」
ウタからの当たり前の質問だ。
この世界では鍛錬を積んでもレベルは上がらない。
レベルをあげる為には地道にモンスターを倒さなければならない。
ただしモンスターを10体、20体倒してもレベル5には届かない。
スキルレベルは地道に鍛錬すれば可能ではある。
「お二人の英才境域のおかげでしょうね?」
ホージ司祭がロドフとリーナを見つめると、ロドフが照れてみせる。
「しかしですぞ、やり過ぎの域を超えておりますな」
一変してロドフに厳しい言葉をかける。
「まだ5歳にも満たない子供が、レベル5でこのステータス…」
「どこぞの騎士より強いではないか!」
なんと5歳にして騎士すら超えてしまった。
(この2人ずっと庭で鍛錬していたかと思ったら、こっそりモンスター倒しにも行ってたな!)
「この前はでっかいトロール倒したもんね」
笑顔でロドフを追いつめるユリカ。
「ば、ばか!今それを言うなって!」
「ロドフ殿は子供の育て方を知らずに来てしまったようだ」
ロドフの方に手をかけるホージ司祭。
ここまで口を閉ざしていたリーナが笑顔で言った。
「あとで話があるわ…ア・ナ・タ」
…笑顔のはずのリーナから殺気のようなものが滲みだす。
「ふふふー凄いでしょ」
その笑顔から[私、凄いでしょ!]が永遠と溢れ出てくる。
「しかし…心眼とは、また珍しい加護ですな」
「心眼か…俺は聞いたことすら無いな」
「私もよ、ホージさんにはお心当たりが?」
「そうですなぁ…だいぶ前の話になりますが、王国騎士団の総帥を勤めた方に心眼をお持ちだった方がいたと聞いています」
「じゃあユリカもそれくらい強くなれるかな?」
「そうですね、毎日の鍛錬を欠かさなければきっとなれますよ」
「やったぁー!」
(僕の姉さんはそんなにも強くなってしまうのか…)
ここに1人の怪物が誕生した。
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