第十一話 銀の匙亭
大通りに面したひときわ大きな建物。
その建物にはスプーンとベッドのようなものが彫られた木の看板。
看板には大きく『銀の匙』と異世界語で書かれていた。
「すみませーーーん」
タタタタッと駆け出し、宿屋のカウンターに飛びつき高い声で宿屋の主人を呼び出す。
「はい。はい。可愛いお客様ですね」
広めのカウンターには他にも宿泊の手続きを数人がしている。
「久しぶりだな。1泊なんだがよろしく頼む」
面識があるのだろうか?小太りの50代くらいの従業員に話しかけるロドフ。
「おー久しぶりだな。何年ぶりだ?ロドフ」
見知った顔に明らかに頬がゆるむ男。
「もう6年くらいか?俺がまだ現役だった頃だからな、ブル!」
ロドフとブルという男が固い握手を交わす。
「ブルさん、お世話になります」
丁寧なお辞儀で挨拶をするリーナ。
「リーナさんも来てくれたんか!2人とも久しぶりだな」
この宿銀の匙亭は、冒険者だった2人の馴染みの宿だ。
「今回は家族みんなでよろしくお願いします」
抱えられている綾人の顔をブルに見えるようにする。
(お…ここは赤ん坊らしくしとくか)
「だー」
可愛らしい小さな手をあげる。
「よろしくね!」
ユリカも勢いよくお辞儀する。
「そっかぁー2人も親になったんだなぁー。よろしくね」
ブルは少し涙目になりながらユリカの頭をなで、綾人の手を優しく握る。
「てなわけで家族共々よろしくな」
「よし、任せとけ!おーい、ウタ!お客さんだ、部屋まで案内してくれ」
カウンターの奥の部屋に聞こえるように呼びかけると男の子が出てきた。
「孫のウタだ。今年で5歳になる」
ユリカより少しだけ低い身長のたれ目の少年だ。
「初めまして、『ウタ・フレー・トラバース』です」
ご丁寧に挨拶をする少年の声は穏やかで、優しい感じがする。
「ユリカよ!よろしくね!」
ユリカが挨拶を返し、強引に手を取り握手を求める。
丁寧なウタと比べると、正反対の性格のようなユリカ。
一通り挨拶を終えると、ブルが尋ねてくる。
「今回はどうしてこっちに来たんだ?子供をつれてるってことはクエストじゃないんだろ?」
「ああ、上の子が今年5歳になるからな。神殿で祝福と学園の入学試験だ」
ロドフがユリカの髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でながら答える。
「なるほどな!お前んとこも5歳かぁ…なぁついでと言っちゃーなんだが、ウタも一緒にお願いできないか?」
突然の提案に驚くウタ。
「うちの家はなかなか休めなくて、これから4月に入ったら余計に忙しくなるだろ?そうするとどんどん遅くなっちまうんだ」
申し訳なさそうにお願いをしてきたブルにかぶせるように答える。
「そんなのいいってことよ!現役時代にさんざん世話になってるんだ。お易い御用ってもんさ」
バンバンとブルの背中をたたきながら提案を受けるロドフ。
(父さんたちはずいぶんここにお世話になってたのかな?)
「そうか!ありがとうな、リーナちゃんもかまわないかい?」
「ブルさんの頼みならもちろんです」
祝福を受ける本人をよそに話が進んでいく。
「そーかぁ!ありがとうな!お礼って訳じゃないが、今日の晩飯はうちの1階で食べていってくれ、とっておきを用意させる」
「もとから飯は銀の匙で食べる予定だったよ!」
「ブルさんのところのご飯はおいしくて有名ですからね」
「息子夫婦に頼んで、腕によりをかけたごちそうを用意しとくぞ!」
ブルが袖をめくり上げて太い腕を見せつけてきた。
「じゃあ部屋に荷物をおいて、早速行くか!」
『はい!』
5歳の2人組が元気よく挨拶をした。
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