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さようなら  作者: けふまろ
本編
10/20

10 あの日、出会わなければ。

「ねぇ、隣で話していい?」


 一年前、麗香に声をかけてなかったら、僕はこんなことになるはずもなかった。


 誘拐されるのは、麗香だったのかもしれないのに。

 麗香のことなんて心配しなくても、良かったはずなのに…。

 

 あの日から、全ては変わってしまった。


  ◆◇


 2014年、10月27日。その日の学童。

 運動会が終わった振り替え休日に、学童の皆はハロウィンをすることになった。

 学童が布などを用意して、ハロウィンの衣装は皆が作ったものだ。

 麗香はそのときに、紫と橙色を主とした衣装にした。下級生から付けられたリボンも、似合っていた。

 俺はカボチャの切り抜きを沢山貼り付けて、カボチャ満載の衣装になった。

 学童の先生は、皆に「南瓜(かぼちゃ)」という漢字を教えていた。


「では、皆には今から校庭を周ってもらって、オリエンテーリングをしてもらいます。その中でハロウィンのミッションを見付けてください。目的地には、先生が立っていますので、その先生に、次のミッションとお菓子を貰ってください」

 眼鏡をかけた優しそうな先生が、ハロウィンの衣装を着た先生に呼びかける。

 きっと、どこに待機するかを話しているのだろう。


「『ミッション一、この暗号を解いて、前田先生の所に行こう!』……だってさ。よし、行こうか」

 麗香の親友、峰口悠美香が僕達を振り返った。

「『1、2、3、4、5、6、7、8、9、0……この中から家族の名前が入っている数字はどれとどれ?』……なぁんだ、簡単じゃない! 答えは、2と3だ!」

 峰口悠美香さんは楽観的に答えた。

「麗香もそう思うでしょ!?」

 悠美香さんは麗香の方を見てニコニコ笑顔で尋ねてきた。

 だが麗香は頷くだけで、喋ろうとしない。


 麗香は学校ではお喋りな人気者なのに、学童にいると、存在感が薄いと言われている。僕は麗香とは違うクラスであんまり喋ったことないし、……というより、僕がいる前で麗香は一度も喋ったことなどなかった。

 遠くから口をパクパク動かして何喋っているか分からないけど、僕の前だと本当に喋らない。

 嫌われているのだろうか……。


「いつまでたっても学童で喋ろうとしないわね! 麗香、もうちょっと自信持ってよ!」

 峰口悠美香さんは麗香の肩をバン! と叩いた。麗香は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐ無表情に戻った。

「あ、いたよ前田先生! ……おーい、前田先生!」

 峰口悠美香さんが前田先生の所に走った。

 って、待ってよ。リーダーなのに置いていかないでよ!

 麗香と僕は同じタイミングで走り出した。

 向こうはこっちと同じくびっくりしたようで、頬を赤く染めた。


「はぁ~。お菓子沢山貰ったね!」

 峰口悠美香さんはお菓子の詰まった「2班 クールガーリーチーム」と書かれたかごを持ちながら意気揚々とレジャーシートを開いた。

 今日はこのお菓子を外でピクニック気分で食べようという児童の提案で外で食べることになった。

 峰口悠美香さんは早速隣の班の男子と喋り始めた。班長だというのに班を大事にしていない。困った人だ。

 でも、僕の心配は、峰口さんより、麗香。

 麗香は静かに配られたポッキーを食べていた。

 喋っていない麗香の心を開かせるチャンス!

 そう思って僕は意を決して立ち上がり、麗香に話しかけた。



「ねぇ、隣で話していい?」



 麗香は僕の方を見上げた。

 風が吹き、麗香のセミロングをなびかせた。心なしか、シャンプーの良い香がした。

 麗香はしぶしぶ頷いた。「うん」という言葉も無しに。

 おいおいそりゃねえだろ、と思いつつも、麗香の横に座った。たった20秒ぐらい立っただけだというのに、疲れがドッと溢れてきた。

 何か、麗香って面倒臭い奴なのかな。

 そう思った途端。


「あの……」


 誰かの声がした。

 か細くて、可愛らしい声で、一瞬、「え?」と思ってしまった。

 そして辺りを見回す。誰もこちらを向いていない。

 とすると、今の声はほぼ間違いなく、麗香の声である。


「しゃ、喋った!!」


 僕は今、あまりにも失礼なことを言ってしまったのだろう。

 麗香が首を捻った。


「私、木下麗香。……それは知ってるよね?」

 麗香の問いに、2、3回首を縦に振る僕。

「そして、君は、白崎翔君……だよね? 4組の」

 もう一回首を縦に振る僕。

 麗香は、学童の先生から、「もしかして一種の場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)なのではないか」と話されていたことがある。でも、それは違った。

 彼女は、場面緘黙症だったのではなかった。

 

「あのさ、話、していい?」


 彼女の問いに、僕はブンブンと首を縦に振った。


 そうして、僕は楽しいひとときを過ごせたのだ。


 ◇◆


 だが、もしもあの日がなければ……。


 あの日がなければ、僕らは出会わなかった。


 あのままずっと、僕と彼女は関係ないままで、そのままずっと小学校生活を送ればよかった。


 あの日の僕を、恨みたかった。


 あの日、出会わなければ、僕は、こんなことになどならなかったはずだ。


 あの日のせいで、麗香は死ぬことになって、下手すりゃ、僕も……。


 

 そう、元はといえば、あの日のせいだった。

 あの日、ハロウィンの日に、僕が麗香に話しかけてなかったら。


 話しかけて、なかったら。

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