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CREATURE  作者: 三月やよい
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3.偶然の道

暗い夜道と通り慣れない人通りの少ない道には

気を付けましょう〜

「京子のばかぁ・・・いいもーん。帰るもーん。」

カツカツカツ・・とミュールのヒール音を響かせながら美樹は

憤然とクラブハウス棟を歩く。

授業後、「慎也くんの練習に差し入れ持っていくの付き合って〜」

とクラスメイトの宮田京子に拝まれた。

「え?いいよぉ」

弓道部に所属している弥生の彼氏は明後日の大会に向けて猛特訓中らしい。

「疲れたときはシュークリームが食べたくなるんだってぇ」

と手には一日500個限定シュークリームの超有名店の箱を持っていた。

「もしかして3、4限と買いに行ってたのぉ?

 えー。私に代返頼んでおいてぇ」

「まぁまぁ。美樹の分もあるから、ねっ」

「・・・もぉ・・・」

もぉとは言っているが顔は笑った。

大事な大事な彼氏のためだもん。

授業をちょっとサボるくらいいいよね?

いいなぁ・・・私も彼氏欲しい・・かな、なんて考えた。

しかし、いざ差し入れに行ったらもう後は二人の世界で会話には入れないし

何で一緒に来たのかなぁと後悔し始めた頃に

「んじゃ、美樹。私、慎也君と帰るから先かえっててぇ〜」

と厄介払いされてしまった。

そんなわけで一人、憤然としながら帰路についているわけだ。

(もー、早くかえろっと。

 ちょっと人通り少なくて怖いけれどまだ明るいし講堂の近道通ろうかなぁ)

普段は決して通ることの無い道をほんの気まぐれで選んだ。

ほんの気まぐれで・・・。


吸血鬼はcreatureの中でも戦闘能力に秀でている方ではない。

純粋な戦闘といった意味では人狼族や今や希少種となった

ガーゴイル族のほうが優れている。

しかしその分、魔力は強大で呪術的な戦いではトップクラスだ。

呪術的な能力の一番手は悪魔族で、次が吸血鬼族や夢魔族などが続く。

あまり予備知識ははいが、おそらくセイレーン族も

呪術的な力で言えば吸血鬼族と同等だろう。

(腕力は・・・?)

強力な爪、長い足から生み出される蹴り・・・

スピードもかなりのものだし動きに隙がない。

力は京介と同等もしくは若干下かもしれないが、戦い慣れている感がある。

肉弾戦を好まない上に見目麗しい女性を直接傷付けるのは

どこか気が引けてしまう京介は女の回し蹴りをかわしつつ作戦を練っていた。

(言霊が効かなかったってことは魔力では俺が上かな)

間合いを確かめつつ値踏みする。

「じゃあ、せっかく美人さんだし

 醜い死体を晒さなくて済むように殺してあげるよ」

「ふふ、余裕ですわね。

 それよりも素直にオファーに従う方がよろしいんじゃない?」

涼やかな声色からは疲れ一つ感じさせない。

「岡見様の戦闘能力は私どもが思った以上だと解って嬉しいですわ。

 それならこちらもリクルートし甲斐ありますもの」

すう・・と息を吸い、女は今まで聞いたコトのない言語で

歌を紡ぎ出し始めた。

その歌声は戦いの場に不似合いな程、軽やかで清涼感に溢れている・・・

しかしその声が耳に馴染んで来るにつれ、京介は何とも言えない

不快感と嘔吐感に襲われてきた・・・

おそらく今までとは違い「本気」で言霊を使い始めたのだろう。

(今までは小手調べってワケね・・・この女・・・カタつける気か・・)

さっきとは桁違いな程、濃密な魔力を感じる。

旋律は人間がつむぐ音楽とは確実に違う「音階」を持っているのがわかった。

それならば・・・・京介も女の周りの「空気」に意識を集中させる。

すると視界の端に動くモノがあった。

茶色い・・・服?人がいる!!

ここの学生だろうか・・・

一瞬女の仲間かと想ったが全く魔力を感じない。

(やば・・結界張ってなかったから人が入ってきたか・・)

女にこの招かざる訪問者を盾にでも取られたらやっかいだ。

誰だかは知らないが関係ない「人間」を巻き込むのは心が痛む。

場所をそれとなく変えなくては・・・・

わずかな時間内で考え女に視線を移すと同時だろうか

きゃっ短い悲鳴が横から聞こえ、目を向けるとどこから現れたのか

白い虎の成獣が訪問者である見知らぬ少女の腕に噛みついている

惨状が繰り広げられていた。

「何故・・リンカーンっ」

さっきまでの余裕の笑みとか一変、女が驚愕の表情で虎と少女を見比べている。

腕をかまれ虎に振り回される華奢な身体が宙を舞い、

どさっと女の子が倒れる姿がまるでスローモーションのように

京介の目に映った。

少女は完全に腕を噛み取られ真っ青な顔で地面に倒れている。

「お前の虎か?」

「リンカーンっおやめなさい」

凛とした声で虎に命令するが、まだ少女への興味を失っていない

リンカーンは前足を少女に乗せどう猛な咆哮をあげる。

「あんたのペット、躾なってないんじゃない?」

俺は半殺しでもOKでも無関係な人間の少女を犠牲にするのは

彼女のポリシーに反するのか?なんて考えながら嘲笑気味に言うと

そんな京介の言葉など無視して

「・・・・・岡見様、貴方にモノを頼める義理はないですけれど・・・

 あの少女を助けるの手伝ってくれます?」

あの妖獣・リンカーンはセイレーン族のみに従う護身獣で

おそらく今は誰かの術で正気を失ってる・・・と女は簡潔に説明する。

「俺のリクルート諦めてくれるならね」

本当はそんな条件なくても人間一人を助けるのに全く依存はない。

しかしせっかくなので恩を売っておく。

「商談成立ですわね。

 リンカーンは私が引きつけますから岡見様はあの女の子を安全な場所に

 移動して蘇生術をかけてくださいませ」

蘇生術・・・果たしてあの少女はまだこと切れずにいるのだろうか・・・?

コンクリートに広がる赤黒い染みから相当な量の血を失ってることが伺える。

(生きて・・・)ないかもしれない。

「ねぇ、名前なんていうの?」

強襲者から協力者となった女にいささか緊張感にかける質問をする。

女は京介のことをかなり知っているみたいだが

京介には女が雇われのセイレーンであることしか知らない。

急な問いに一瞬、あっけにとられたらしいが

ふと今までの毒のある華やかな笑みとは異なった聖母のような慈しむ笑みを見せ

「インペリアよ」

今後、インペリアを思い出すときはきっとこの聖母の笑みを思い出すんだろうな・・・

京介はぼんやりと考えた。


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