2.リクルート
綺麗なお姉さんは好きですか?
気配、はおそらく一人だろう。
そしてきっと吸血鬼ではない。
気配は感じるが同族の感触はない。
「魔族の類か妖怪か・・・魔獣みたいなのはいやなんだよなぁ」
以前繁華街で襲って来たのは魔犬だった。
牙は鋭いし唾液は強酸だし獣くさいし、何より結構動物が好きな
京介にとって犬型の生物を殺さなくちゃいけないのは嫌だった。
しかし遠慮すればこっちが殺されるし人間の犠牲者も出るだろう。
仕方が無いが処分させてもらった。
日本のこんな街中に魔犬が自生するはずがない。
誰かが故意に連れてきたのだろう。
大惨事を起こすのが目的かただの好事家のペットか・・・
そこまでは解からないままだ。
さっきからの気配はずっと京介の後をつけてくる。
学校に人間を狩りに来たわけではなさそうだ。
わざわざ京介の後をご丁寧につけていることからわかる。
(ここらでいいかな)
辺りを見回しても誰もいない。
講堂の駐車場は行事があるときに学校のVIPが車で乗り入れる時にしか
使われないので滅多に人は通らないのだ。
講堂の裏をさらに降りていくとクラブハウスがあって授業終わりには
結構にぎわうがこの道をわざわざ通る人はいないだろう。
「何か用っすか?」
くるりと振り返り大きな声で呼びかける。
「あら、わざわざ人気のないところまで案内してくださらなくても、
何も取って喰いはしませんのに」
思いがけず若い・・女性が姿をあらわした。
若いといっても外見は京介より少し上だろう。
北欧系の顔立ち、長い銀髪で細身のスーツを着こなすその姿は
映画に出てくる美人社長秘書のようだ。
「あれ?わざと気配を漂わせて俺を呼んだんじゃないの?」
ふふふ・・・と涼やかな笑いをして
「解かっていただけてよかったですわ。」
と魅惑的な笑みを浮かべた。
魔女の類か・・・毒のある美しさだ。
もちろん人間ではない。
「で、俺に何のようなの?」
こんな綺麗な女の人が尋ねて来る心当たりはない。
「いきなり用件に入るご無礼をお許しくださいな。
わたくし、ある方からのお使いで来ましたの。
半年前・・・その方の魔犬が逃げ出してしまいまして・・
私どもはとても困ってましたの。
もちろん警察になんて言えませんしね。
でも事件になる前にその魔犬を始末して下さった方がいた・・・・
それがあなた様ですよね?
岡見 京介さん」
「ふーん・・・そのお礼をわざわざ言いに来てくれたの?」
名前は調べ済みかぁ・・。
こりゃただのお礼とは済まないだろう。
「それもありますけれど・・・」
美しい銀髪をかきあげて真っ直ぐ京介を見る。
身長175センチある京介と目線がほとんど変わらない。
ヒールを履いているとしても女性としてはかなり長身だろう。
「なかなか岡見様までたどりつけなくて苦労しましたわ。
わたくしの雇い主があなた様に大変興味を持ってまして・・・
率直に言わせていただきますとボディーガードとして
リクルートしに来ましたの」
魔女(?)を秘書(?)として魔犬をペットとし、そして吸血鬼を
ボディガードとしてリクルートするヤツがいるとは・・・
酔狂な政治家かはたまた大抵の娯楽には飽きた大富豪か。
どんなヤツか気にはなるがそんな好事家に関わる趣味はない。
「うーん、K−1選手とかに頼んだほうがよいんじゃないのかな?
俺はただの大学生だし」
「吸血鬼も・・・ただの大学生かしら?」
そこまで調べているのか・・・。
艶然とした笑みを浮かべ女は更に続ける。
「もちろん報酬は破格ですわよ。日本円・ドル・ユーロ・・・
それにお望みでしたらお食事だって・・
調べによるとあまりお食事は
なさらないみたいですけれど」
食事・・これはきっと血を供給してくれる人間を指すのだろう。
京介は極力、吸血行為はしない。
吸血鬼は血液がないと生きていけないわけではない。
通常の食事で体を構成する細胞を保つ事が出来る。
血が必要なのは特別なとき・・・過度な肉体の損傷や超人的な
筋力・能力を使った時くらいだ。
京介のように普通に大学生活を送っている分には
吸血が必要になることはそうそうない。
(そいえばホント最近血吸ってないなぁ)
と余計なことを考える。
「食事には困ってないよ。
それにお金にあんまり興味ないんだよねぇ。
悪いけれどその・・雇い主さんに伝えておいてくれる?」
「・・・そうですか。でも手ぶらで帰っては私が困りますの」
歌うように不思議な抑揚をつけて答える。
耳に不思議な感触を残すしゃべり方・・・声・・・
頭の奥に共鳴するような・・・これはただの外国訛りではない・・これは・・
「そっか、セイレーン・・・かな?」
歌声で船人を惑わす美しい魔物セイレーン。
その力は言霊といって、言葉に魔力を込めることが出来る。
声を聞き言葉に耳を貸すことにより術にかかっていくのだ。
実物を見るのは初めてだがこの女はおそらくセイレーン族だろう。
京介は吸血鬼という魔物の部類なのでセイレーンの魔術には
ある程度の耐性はある。しかも、もともと言霊は相手の魔力が上の場合のみ
かかる呪術なのだ。
しかしこの女に普通の人間が何か頼まれごとをしたら、
それがたとえ火の中に飛び込んで、といった生死に関わる事でも何の疑問も
持たずに実行してしまうだろう。
「ご名答。それ故にわたくし、交渉係ですの」
・・・もっとも強い魔族にはあまり効かないんですけれどね。
と例の魅惑的な笑みを見せる。
「セイレーン族の誇りにかけて岡見様を口説かなくては、ですね。
もっとも、無理ならば殺さない程度で運んで来い、との事なので」
すっと女が右手をあげ綺麗な爪ですっと京介の腕をなぞる。
「でも・・男の方に手をあげるのはさすがに気が引けますわ」
セイレーンの言霊が効かなかったら色仕掛けかな・・?
それならちょっとは歓迎・・いやいや、
俺はお姉さま系も嫌いじゃないし
・・・じゃなかった、雇われる気はない。
「悪いけれど・・・諦めてもらえるかな?」
肩をすくめてセイレーン族の女を見る。
「仕方ありませんわね」
にっと紅い唇の口角があがり次の瞬間腕をなぞっていた爪が京介の
首筋を掠めた。
寸ででかわしたので「掠めた」ですんだが動かなかったらざっくりと
首の肉をえぐられていただろう。
セイレーン族の戦闘能力がどれほどかはわからないが、
魔力を込めた爪なら用意に肉を裂きとることができる。
「ホント、死なない程度で持ってくつもりみたいだね」
女と2メートルほど間合いを取り相手の出方を待つ。
「手ぶらでは帰れませんもの」
ペロっと薄いオレンジ色の爪を舐めて答える。
「大人しく付いてきては下さらないのですか?」
「さっき言った通りだよ」
「・・・仕方ありませんね」
しゅっと風を切る音とともに高いヒールを感じさせない動きで足払いをかける。
ジャンプしてそれをかわした・・と思ったと同時に腹部に鈍い痛みが走った。
「ぐぅ・・」
咳き込みながら膝を崩す。足払いした体勢から即座に膝蹴りに映るスピード・・
「付いて来て・・・下さいます?」
(油断していた・・この女は本気で半殺しにするつもりだ・・・)
恐ろしい程の生命力を持っている吸血鬼が膝をつくほどのダメージは
人間なら確実に死んでいるダメージに相当するだろう。
息を整えて戦法を考える。
(女は殺したくないんだけれど)
殺されるのはもっとごめんだ。
本能の奥底から冷たい殺意を呼び起こし
獲物となるセイレーンの女を値踏みし始めた・・。
感想いただけると嬉しいですっ




