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気づくか、気づかないか

あ、やばいかも。

そう思った瞬間に、ついターに向かって言葉にしてしまっていた。

「……息苦しいんだよね」

言う気はなかったのに。


今日も朝は5時半起き。忙しいときほど、たんたんと。いつも通りに起きていつも通りにさっとシャワーを浴びた。いつもと変わらないモーニングルーティンをこなすほど、今日の自分の体がいつもと違うことをひしひしと感じる。

「昨日、豪雨のなか歩いたしなあ……」

歩きたくて歩いたわけではないが、仕事だからしょうがない。疲れた体でずぶ濡れになったら、そりゃ体の調子も狂うはず。体は弱いほうではないが、さすがにここのところは休みなしで働きすぎか……。


このご時世だから念には念を入れて熱を測るも、熱はない。体が重たいが、とくに風邪症状があるわけでもないから、仕事には行けそうだ。さすがにハードすぎるここのところのスケジュール。休めば、その分あとがつらくなる。こんなに仕事を詰め込む予定ではなかったのに、変更に次ぐ変更でこうなってしまったのは、しょうがない。自分で選んだ仕事だし、自分の好きな仕事でもある。


今日は午前と午後で別のプロジェクト。体がもちますように。重い体を気力でカバーしようと気合いを入れて、家を出た。


なんとか午前中の仕事は予定通りクリア。仕事合間の休憩時間に、ちょっと昼寝ができたからか、少し回復したような気さえする。このままいけば午後もこなせるはず! そう思った。


午後の仕事は見知ったメンバーが多い。ターもいる。ターとは長く仕事をしてきたから、いてくれると助かる存在。トラブルメーカーでもあるが、能力は高い。ぼくはターの隣の椅子を引いた。

「お? お疲れ。なあ、あいつの話聞いた?」

おしゃべりなター。仕事仲間の話を延々とするのを話半分に聞きながら、適当にあいづちを打った。いつものことだが、今日はちょっとしんどいかも。


ふと話が止んだので、ターの顔を見た。

「お前……」

探るような目。から、すぐいつものターの顔に戻った。

「お菓子食べる? あのお菓子珍しいらしいよ。さっきみんなで盛り上がってたんだ」

「どれ? ぼくが知らないやつ? 食べようかな」

そう言ったら、ターはご丁寧にも、席を立ってわざわざとってきてくれた。どさっと僕の前に置かれたお菓子たち。うれしいけど、すごい量じゃない?

「これ、食べたことない」

と手を伸ばして口に放り込んだ。うん。確かにおいしい。これ、ぼくが好きなタイプのお菓子だな。たぶんターのことだ、これぼくが好きだろうと、わかって勧めてきたんだろうな。もぐもぐと口を動かしながら、ちらっとターの顔を盗み見た。お互いに何も言わないけど、なんだかんだ、ぼくのことよくわかってるんだよな。大好きな甘いものを食べて、さらに回復した、気がした。


打ち合わせが終わり、実際の作業に入った。何も問題なく、スムーズに進んでいた、はずなのだが……。ちょっと激しく動いたら、自分の体調が急降下してきたことに気づいた。日頃からトレーニングしているぼくにとっては些細な動きなはずなのに、自分で自分の体がわからない。ふらつく体にびっくりして、少し立ち止まった。


と、そのとき、ターに顔を覗き込まれたのがわかった。ターの顔をみたら、張っていた気が少しゆるんだ。やばい。つい、息苦しいと、口に出してしまった。ああ。誰にも言うつもりはなかったのに。聞いたターの顔がさっと曇ったのがわかった。「本当か?」そう詰め寄られたが、仕事を止めるわけにもいかないし、あいまいな表情を返して、作業に戻った。


その後も繰り返し心配されるから、冗談めかして体調悪いと言ってみた。仕事に支障がでるのはいやだから、あくまで冗談っぽく。きっと周りはぼくがふざけて冗談を言っている、いつものことだと思っているだろう。ターはどうかな。大変そうだなと思っていたぼくの仕事をターが代わってくれるという。少し迷ったが、実は今の体調では厳しかったから、素直に代わってもらうことにした。


仕事は無事に終わったが、思ったよりたいへんだったようだ。ターはとてもとても不機嫌に、体調悪いなら早く帰れ、とぼくに言って、オフィスに帰っていった。あんなに怒るってことは、ぼくが体調が悪いって言っているのは冗談だと思っていたのかな。ターならば気づいてくれていると思ったけど。ちょっと寂しい気持ちになっていることに気づいて、ため息が出た。自分が誰にも話さないつもりだったんだ。うっかり口にしたことを冗談にしようとしたのも自分じゃないか。なんてめんどくさいやつ。


そこで思考をとめた。もう少し仕事をしなければ。重い体をひきづりながら、自分もオフィスに向かった。

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