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ホントか、ウソか

「……息苦しいんだよね」

外での仕事中に、急にぽつりとネオがつぶやいた。

「え? ほんとに?」

思わず、至近距離でネオの顔をのぞき込んだ。顔色は元気そうに見えたが、さりげなくネオの体をベンチの方へと誘導した。二人でベンチに腰掛けて、もう一度、ネオの顔を見た。

「冗談だろ?」

「いや。本当だって。息しずらくて」

「平気か?」

うん、とネオはうなずいた。仕事中ではあるが周りの様子を伺うと、いまは少し座っていても大丈夫そうだ。ここのところ仕事が忙しそうだったし、体調を崩したのか。いや、でも何時間も前から一緒に仕事していたが、まったくそんなそぶりは見せなかった。ネオの本心はどうも読めない。どうせ俺をからかう冗談だろ、と疑う気持ちと、家に帰した方がいいか、と心配する気持ち。両方の思考がシーソーのように揺れ動いて、結論が出せずにいる。


「ネオー! これよろしくーー」

スタッフからネオに声がかかった。ネオの方をみると、目が合った。

「それ、ぼくが変わります」

俺はスタッフに大声で返した。本当に体調が悪いならば今は休んでいた方がいい。俺はそう思って、ネオの仕事を変わった。でも! 手順を確認しながら、やりはじめてみると、これは……かなり面倒だ。しかも水を使うから一歩間違うと服まで濡れそうだ。なんだこれ、かなり体力削られる業務じゃないか。


「お前、もしかして仮病か? これ、俺に代わりにやらせたかっただけじゃないのか?」

横で静かに俺の準備を手伝うネオを問い詰めた。

「本当だよ」

「正直に話せよ」

信じられない。絶対に、嘘に違いない。

「本当だって。昨日の豪雨に降られて濡れちゃってさ。たぶん、そのせい。大丈夫、すぐ終わる仕事だよ」

そう言って笑っているネオが信じられない……。


俺はまったく納得できなかったが、しょうがなく仕事に取り掛かった。案の定、服まで濡れるし、無駄に体力は削られるし、散々だった。最悪だ。疲れて声も出ない俺の頭に、ばさっとタオルがかかる。手で払い除けると、ネオの顔が見えた。タオルはありがたいが、お前のせいだ、と言いたい。俺はネオを一瞥して、顔を背けた。

むすっとしたまま、「会社に着替え取りに行く」そう言うと、「俺も会社に帰るよ」と返ってきた。

「体調悪いなら、さっさと帰れよ」

つい強い口調になってしまった。

「今日やらなきゃいけないことがちょっと残ってて。やったらすぐに帰るよ」

そういうネオと、俺は会社のエレベータで別れた。



着替えた俺は、疲れ果てた体にエネルギーをチャージすべく、同僚のオーを誘って会社近くの中華屋へ向かった。仕事はたんまりと残っているが、まずは夕飯だ。

「なんかむかつくんだよ」

「ああ。」

愚痴を言いまくる俺。それに対して、オーは満面の笑顔であいづちをうつ。

「なんだよ。俺の味方はいないのかよ。あいつは絶対、仮病だよ。嘘つきめ」

「仕事を代わるって決めたのは自分だろうが。それをいつまでもぐちぐちいうなよ」

「そうかもしれないけど。あんなに疲れる仕事だって知ってたら、やらなかったよ。俺だって」

作業が終わったときの俺の体力ゲージは間違いなくゼロだった。もうやりたくない。


「でもさ」

急にトーンを変えたオーが俺を見つめる。

「よかったじゃん。ネオに無理させなくて済んだんだから」

その言葉に俺は何もいえず、目線をテーブルに落とした。

「代わらなかったら、お前、後悔しただろ」

オーはそういって楽しそうに目の前の皿に箸を伸ばした。それはわかっている。ただでさえ、ネオは忙しい。体調はわからないが、日々、無理を重ねているだろうことは知っている。俺も忙しいが、今はネオほどではない。そう。俺はたぶん、代わったことに文句を言いたいんじゃない。


「オー、あいつ体調悪いと思うか?」

聞いてもしょうがないとわかってはいたが、人脈が広く勘の鋭いオーのことだ。もしかしたら……

「知らんよ」

即答。だよな。

「ただ、……」

「ただ?」

「昨日、豪雨の中、仕事したのはたぶん本当。別のスタッフが話しているの、今日聞いた。」

「そう……か」

昨日は確かに昼間からどしゃぶりの雨が降っていた。じゃあ、濡れたのは本当なのか。

「これは俺の想像だけど。たぶん体調悪いのも本当なんじゃない? どの程度かはわからない。ネオはただでさえ忙しいからスタッフには言いにくいし、本人も仕事を休む気はないんだろ。でも、お前の顔を見たら、言いたくなったんじゃないか?」想像でしかないけどな、そういって口いっぱいに炒め物をほうばるオー。俺ともネオとも付き合いの長いオーがいうと、真実味がある、ような気がする。

「はあああああ」俺は盛大なため息をついた。

「そう落ち込むなよ。どちらにせよ、お前の行動は間違ってなかったよ」

そうか?  ネオの冗談とも本気ともとれる言い方に、仕事は代わったものの俺は半信半疑だった。もし本当に体がつらくて、でも周りには言えなくて、俺にだけ話してくれてたのだとしたら……俺はもっと言うことがあっただろう! しっかりしろ、俺!


「電話、してくるよ」

そう、オーに声をかけて、俺は店の外に出た。何度かコールするが、ネオは出ない。すぐに帰ると言っていたし、運転中かもしれない。邪魔をするのも気がひける。俺はあきらめて、「なんでもない。今日は早く寝ろよ」とメッセージを送って、店の中に戻った。



つづく(たぶん)

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