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P-267 色々とやることがあるなぁ


 ネコ族が大陸で暮らしていたころは、氏族の人口が1万人近くいたらしい。さらに氏族の数も10を超えていたそうだ。

 戦に大敗して、千の海に逃れてきたのは、5つの氏族だったらしいが各氏族とも千人ほどに減っていたらしい。

 ニライカナイには先住の漁民が住んでいたらしいが、大陸から逃れてきたネコ族に漁を教えて神亀と共に東に去ったという話は、親から子に何代にも渡って受け継がれてきた話だ。

 譲ってくれたのはありがたいことだけど、それまで暮らしていた漁民は何処に向かったのだろう。

 その話をバゼルさんから聞かされた時に、ふと思い出したのはお祖父さんから聞かされた伝説だった。


『ワシ等の先祖は、海の彼方からやって来たんじゃ。日本に昔から住んでいたわけではないぞ。海の漁なら誰にも負けんような漁民が100隻を超える船団でやって来たんじゃ。じゃが、苦労したに違いない。何せ銛で魚を突く漁と簡単な仕掛けの釣りだけじゃったからなぁ。網を使う漁は、此処にやって来てから近くの漁村の連中に教えて貰ったそうじゃ……』


 俺の先祖は、ニライカナイからやってきたってことなんじゃないか?

 亡くなったら、骨壺に銛先を入れて海に帰すのも、ニライカナイに風習に似ているんだよなぁ。


バゼルさん達は、やはり氏族の垣根を保ちたいのだろう。

 氏族は村社会よりも団結力が強いからなぁ。

 大陸の連中から見れば、ニライカナイという国で纏まっているよう思えるだろうけど、その実態は連邦に近いように思えてならない。

 法律とも思えるしきたりは氏族ごとに異なるし、重要な案件は各氏族の長老が集まる族長会議で決められるんだからなぁ。


「出来れば大陸で決着を付けて欲しいところだな。ニライカナイにまで影響を及ぼすとなればナギサの言う通り、リーデン・マイネを更に作ることになるかもしれん」

「作らずとも龍神様が動き出だすだろうが、龍神様が動くことで事態が収まるようなら、我等の矜持が立たんぞ。それを考えると、事前にもう1隻は作っておかねばなるまい。ほかにも砲船はあるんだが、あれは速度が遅いからなぁ。それに搭載している大砲は1門だけだ」


 リーデン・マイネだけではないってことだな。

 かつて大陸の奥国が軍船を繰り出して来たときに活躍したのがリーデン・マイネだったらしい。

 大型軍船を1激で沈めたそうだ。

 軍船に乗っていた兵士の多くは泳げなかったらしく、慌ててネコ族の連中が救助したとのことだ。

 全く呆れた話だよなぁ。軍船に乗るなら泳げるのが当たり前だと思うんだけどねぇ。


「どの航路を辿るか分からんが、砲船で足止めして、2隻のリーデン・マイネで大型軍船を沈めることになりそうだ。雲行きが怪しくなったらさらにもう1隻作れるだけの資材を準備しておくのも良さそうに思える。今夜の氏族会議は少し長引くかもしれんな」


 なんか、すぐに大陸から攻め入ってくるように考えているから、慌てて2人に話を続ける。


「それほど慌てなくともだいじょうぶですよ。一神教が大陸に直ぐに浸透することはないでしょう。それに民衆が一神教に帰依したとしても王国の貴族や王族が帰依しない限り大きな問題にはなりません。貴族に浸透して現在の神殿の神官を追い出すようなことが起こったなら10年以内にやってくるでしょう」


 起こったとしても、次の世代だろうな。上手く行けば起こらない可能性だってあるんだからね。


「少なくともニライカナイが一神教に染まることはないだろう。だが……」

「そうです。龍神信仰は一神教にかなり似ているんです。その違いは、龍神以外にも神はいるという認識を持つか否かの違いだけですからね」


「確か、火の神や風の神、それに地の神もいるんじゃなかったか? 光の神や闇の神もいるらしいぞ」

「たくさんの神がいる中で俺達が信仰しているのが龍神であると認識していれば十分です。難しい話はカヌイのお婆さん達が考えてくれるでしょう」


 俺の話を聞いて急に笑みを浮かべる。

 バゼルさん達は悪人にはなれないな。ネコ族の人達は皆そういうところがあるんだよなぁ。かつて大陸に覇を唱えた戦闘民族であるとはとても思えないんだけど、眠れる獅子を起こすようなことはなるべく避けておきたいところだ。


「ところで、マーリルの曳釣りは、来年以降にすることにします。エメルちゃんが身重ですからね。結構大きく育ってます」

「そうだな。まだまだ機会はいくらでもある。リードル漁では島に渡れんからトーレ! よろしく頼むぞ」


「任せるにゃ。サディが仕切ってくれるにゃ。タツミに準備品を確認してあるし、生まれたならザネリ達が魚を突いてくることになってるにゃ」

「ザネリだと! 俺も行った方が良いかもしれんな。生まれたならリードル漁の最中でも知らせてくれよ」


 思わずバゼルさんと顔を見合わせてしまった。

 本当に行くかもしれないな。カルダスさんの末娘だから一番可愛がっていたのかもしれないけど、それもちょっとねぇ……。


「あまり、皆の笑い者になるようなことはしない方が良いぞ。まだ氏族筆頭を名乗っているんだからな」

「いつでも返上してやりたいんだが、そうなるとガリム達が筆頭になってしまう。まだまだ譲るのは早そうに思えてなぁ」


 カルダスさんにとって俺達は、まだまだ半人前という事なのかもしれないな。


「10日もすればリードル漁だ。その前に漁をしてくるんだな。エメルが身重なら、トーレを連れていけば良いだろう」

「私が運転してあげるにゃ。タツミとエメルは小屋で休んでいれば良いにゃ」


 バゼルさんの申し出に、トーレさんが直ぐに飛びついてるんだよなぁ。このカタマランは女性達に人気があるんだよね。

 俺としてはありがたい話ではあるんだけど、せっかく漁を終えて帰ってきたトーレさんを再び漁に連れていくのはねぇ……。


「俺達は南に行ってきたんだが、3日で2籠になったからなぁ。明日は支度だとして明後日には出掛けられるだろう。一緒に何隻か率いて行けば良い。今夜にでも確認してくるぞ」


 俺達だけということにはならないようだな。バゼルさん達は出掛けないのかと聞いてみたら、近くの島から土と砂を運ぶらしい。

 土もだいぶ運んではいるんだが、新たな田圃を作るには少し足りないとのことだった。砂は俺も運んできたぐらいだからなぁ。


「畑の方も少し深い土にしたいらしい。芋を植えるには少し足りないそうだ」


 土底の岩の割れ目にまで芋が延びていたそうだ。とはいっても畑の土を10cmほど上げるだけでも1カ月は掛かるに違いない。それに10cmでは心持たない限りだ。その2倍以上欲しいだろうからなぁ。改めて畑の周囲の石垣を高くしなければなるまい。


「芋はバナナに似ているなぁ。蒸かして食べられるし、1日過ぎたらかまどの残火で少し焼くとさらに甘味が出るようだ。子供や嫁さん連中から評判だぞ」

「それで、もっと畑で作ろうということですね。カボチャの方はどうなんですか?」


「まあ、あれも人気ではあるが、芋ほどではないな。それからスイカも人気だぞ。保冷庫で冷やして食べると暑さも忘れるほどだ」


 色々と畑で試しているみたいだな。

 スイカは近くの島で栽培しても良さそうだ。ほったらかしにしても育つと聞いたことがあるからね。


「漁が出来なくなっても、島の仕事はたっぷりある。昔は、子供達の遊ぶ姿を眺めるだけで1日を過ごすだけだったらしいからなぁ」

「燻製小屋や炭焼き、それに竹細工だけではなぁ。年寄り連中が生き生きしてるよ。これもオラクルが格段に大きな島だからだろう」


 確かに大きいことは間違いない。トウハ氏族の島も大きいけれど、オラクルはトウハ氏族の暮らす島より3倍以上はあるだろう。今は島の南を開発しているけど、それ以外は手つかずに近いからね。島の東斜面の大きな岩を壊して新たな開発をしようとする動きもあるようだが、ポニーを農耕馬として飼育しているから餌用の草刈り場と放牧場所になるかもしれないな。


「問題は、何時までオラクルを秘密にしておけるかということだな。長老達は、そろそろお披露目すべきかもしれんと言っていたぞ」

「だが他の氏族の漁師が物見遊山でやってくるとも思えんな。場所を教えて、その航路を各氏族の筆頭達が何度か見に来るぐらいだろう」


 商会ギルドには知らせないということなんだろう。

 それで特に問題はないはずだ。ギョキョーを通して必要な食料や漁具、それに嗜好品は購入できる。

 年に2回行われるリードル漁で得た魔石はサイカ氏族の島で競りができるし、その時訪れた商船に向かえば、目新しいものだって購入できるんだからなぁ。


「やはり島が大きいと色々と出来るものだな。ニライカナイはかつて千の島とも呼ばれていたらしい。まだ見ぬ大きな島がどこかにあるかもしれんな」


 バゼルさんが俺を見る目は、そんな島を探して見ろと言っているように思える。

 アオイさん達が漁場を探したというのは、トウハ氏族の島よりも大きな島を見付けたかったのかもしれないな。

 アオイさん達の努力の結果はニライカナイの漁場として海図に記されているし、その海図はトウハ氏族だけでなく各氏族の長老達に渡されてもいる。

 リードル漁が終わったなら、その海図を模写させて貰おうかな。

 その海図に記された海域の外側を巡って、大きな島を探すのも面白そうだ。

 リードル漁で得られる上位魔石のおかげで、既に今乗っているカタマランと同じ船を作るだけの資金が貯まっているとタツミちゃんが教えてくれた。

 なら、新たな漁場を探りながら、さらに遠くまで足を延ばせるに違いない。

 アオイさんは新たな漁場をそれまでの漁場の外側に探したらしいけど、その先の海域にだって漁場はあるに違いない。


 翌日。バゼルさんが銛を研いでいる俺のところにやって来て、3隻を率いて漁に出るよう伝えてくれた。


「ガリム達よりも年下だ。まだ2人目の嫁をもたんし、子供もいない。3隻で連れだって漁をしているのだが、少し遠くの漁場を教えてやって欲しい」


「カタマランで2日の距離という事でしょうか? 南に向かえば幾つか漁場がありますが、サンゴの穴を狙います」


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