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P-262 宗教改革になるのかな(2)

 

「王国内の下層に位置する民衆の教化を皆さんが真剣に取り組まねば、いずれ一神教に現在の神々が取り込まれ場合によっては邪神として神殿毎この世界から放逐されかねません。それほど、進行の力は強いのです。だからといって一神教を邪神認定して迫害することも問題です。彼らは彼らなりに一神教の神を心から進行しているのですから。下手に迫害しようものなら、返って信仰心を増すことになるでしょう。王国の下層国民の中に深く浸透して、その力を蓄えることになりかねません」


「そこまでナギサ殿は一神教を恐れるのですか?」


 ミラデニアさんが意外な表情を浮かべると、おずおずした声で問いかけてきた。


「はい。先ほど俺は別の世界からこの世界に来たことを告白しました。その言葉に偽りはありません。俺の元住んでいた世界では多神教から一神教に替わった王国が沢山ありますし、一神教同士での血みどろの戦を何度も行った過去があります。俺が住んでいた国は宗教の自由を保障していましたから、俺はたくさんの神を敬っていましたよ。その都度、自分に都合の良い神に祈ってましたから、皆さんは呆れてしまうでしょうね」


「要するに、自分達の信じる神が絶対無二の存在であるという事になるのでしょうね。そんな人達からすれば我等の神は全てまやかしという事になるのでしょう。炎の神を祭る神殿のあるノルーアン王国の住民が全て炎の神だけを信じることはありません。水の神、風の神、土の神もまた信仰されていますから、炎の神殿にはそれらの神々の分神殿とも言える祠が作られています」


「それは水の神殿でも同じこと、他の神々を無下には出来ぬ。たまたま神の御座所である湖の一角に神殿を作ったという事になりますね」


「水の神殿、炎の神殿、他の神殿がどこにあるのかまでは分りませんが、必ずしも王都に近いという事ではなさそうです。となれば神殿に詣でる多くの者達は、本神殿ではなく分神殿という事になるのでしょう。その分神殿運営方法を場合によっては変えるべきかもしれません。誰もが平等に神に祈れる場を設けるべきでしょう」


「それによって王国の下層民衆を我等が神の元に導くという事ですね?」


 どうにか理解できたのかな。

 小さく頷くことでミラデニアさんに答えると、ホッとした表情を浮かべてくれた。

 それにしても新たな島での農業振興が俺の役目だと思っていたんだが、とんだことになったものだ。

 それならもっと信心深い人達がいたんじゃないかと思うんだよなぁ。


「神殿の蔵書庫をかつて整理したことがあります。大事な文献については定期的に写本をしなければなりませんから。そんな古書の中に、最初の神殿をどのようにして作ったかの記述がありました。興味がありましたので司書長の許可を得て読んだ次第。その古書の中でかつての神官の中に伝道師という存在があったようです。王国内だけでなく近隣王国にも足を運んで民衆に神の存在を説いたという話でしたが……」


 かつては現在の信仰が4つの神だけではなかったという事かもしれないな。

 いろんな神様がいたに違いない。

 それを4つの統合したんだから、ある意味大きな宗教改革を行ったという事なんだろう。その偉業を果たしたのが先ほどの伝道師達かもしれない。

 それに近いことを、一神教の神官達が行う前に対処しないといけないだろう。


「たぶん昔はもっとたくさんの神々がいたんでしょうね。それが現在の4柱とその眷属に統合されたのかもしれません。俺個人は、全てのものに神は宿ると考えています。島には島の神が居りますし、漁に使う銛の1つ1つにも神が宿ると思っています。そんな神と同列の存在ではありますが、その姿を見ることが出来る唯一の神が龍神という事になるんだと思っています」


「多神教ですね。それで我等の神の存在も含まれるという事ですから、少し考えるところはありますが、我等と話をする上での問題はさほど大きくはないでしょう」


 宗教は押し付けるものではないからね。相手がどんな宗教を持っていたとしても自分の信じる神を許容できるなら問題は無いという事かな。


「だが一神教の教えは、他の神を認めることが無い。それは地獄の使い、すなわち邪神であり、それを信仰するものは等しく地獄へ下るという事になると」


 僧兵を束ねるとはいえ、神官とは異なる存在なのだろう。神官達が俺に問い掛けてきたオルバさんに厳しい視線を向けている。


「その認識でよろしいかと。俺の暮らしていた世界でも、そのように推移したようです。かつての神々は邪神認定されて民衆の記憶から消え去りました。一部が神話の形で残っているようですが、かつては詣でる人でにぎわっていた神殿は今では廃墟になっています」


「復興しようとは思わないんでしょうか?」

「邪神を復活させるような者は極刑だったそうですよ。拷問の上、むごたらしく処刑されたようです」


 そこまでして、自分達の信じる神を民衆に広めたんだけど、宗教指導者達が必ずしも清廉潔白な人格者では無かったようだ。誰もが見たことが無いような神だからねぇ。奇跡の多くが幻だったのかもしれないな。

 だけど敬虔な信者であれば、神の軌跡を信じることができるということかな。


「現生では苦しみの日々ですが、神に祈ることで天国で良い暮らしができるという趣旨で民衆を勧誘するでしょう。ミラデニアさん、そしてマルーアンさんは、その言葉にどのように反論しますか? 苦しみに耐える人達に死後の幸せを約束する。そのような教えに正面から反論し、民衆の心の安寧を作るのが、貴方達神官の役目だと思うのですが?」


「そこまで知っていて、ナギサ殿は多神教なのですか?」


 笑みを浮かべてはいるけど、ちょっとした皮肉も入ってるみたいだな。祭司長ともなれば驚くことはあるんだろうけどそれを自制することができるみたいだ。


「あまり魅力を感じないんです。それに死んだら天国で暮らせると言っても、それを誰か見たことがあるとも思えません。それに神が地上に降りてくるときに復活できるということですけど、誰がそんな事を言い出したのか不思議に思えます。そもそもこの肉体が死んだ時に魂はどうなるのかという神学的な解釈は炎の神や水の神の信者にもあるはずです。

 俺の信じるところでは、魂は輪廻転生を繰り返す。

 一時龍神の元で漁の腕を皆と競い。再びこの世に転生する。転生先が必ずしもネコ族とは限らないでしょうが、多神教の何れかの神の元で再び暮らすことになるでしょう」


「一神教の教えとあまり違わないようにも思えますが?


 マルーアンさんの言葉に、ミラデニアさんも頷いている。

 確かに誰もそんな魂の世界を覗いたことはない。


「似ています。ですが決定的な違いがあるんですよ。龍神は実在しますからね。運の良し悪しはありますが、実際に見たニライカナイの住人は100を越えるでしょう。それに眷属である神亀なら、その数倍の数の住人が目撃していますし、その甲羅に乗ったことがある人達も大勢いるんです」


 実在する神、思惑の中の神。果たして民衆が帰依できるのはどちらだろう。

 不安の日々を送る者達が祈る対象となれば、そこにある神が優先されるに違いない。来世の幸せよりは現世の苦しみを和らげたいはずだ。


「単に王国の下層民に信仰を強いるようなことは絶対にしてはなりません。4つの王国で信仰されている神の御業を民衆に説く、かつての伝道師を再び登場させるべきでしょう。同時に下層階級に位置する民衆に仕事を与える事も大切に思えます。仕事をして収入を得ることで家族を養うことができるなら、今の暮らしを神に感謝することができると思いますよ」


「施しだけでは、神に帰依することも難しく思えていたのですが……。なるほど、彼らが収入を得る手段を考え、それを与えることが大事ということですね」


 笑みを浮かべて頷いたんだが、それだけではダメなんだよなぁ。

 案外人間は、現状に満足することが出来ないところがある。

 生活する上での階級制度は維持するとしても、神の元での平等をどのように説明していくか……。それが出来ないと、暗黒の社会になるようにも思えてならない。

 とはいえ現状よりも庶民の暮らしが少しずつ暮らしが楽になるようにするのは国政を司る王侯貴族の役目であることは間違いないだろう。

 不満を漏らす人々を弾圧するのではなく、その不満の原因を探り是正するぐらいの人物が果たして何人いるのだろう。

 不心得者ばかりの貴族達と神殿が結託したなら、愚民政治の始まりになりかねない。

 神官の資質も問われそうだな。


「神殿内で話し合うことになるでしょうが、場合によっては神殿側で職業紹介をすることも可能に思えます。今回は祭司長がその地位を去るにあたり、心残りは神を自分の目で見ることが叶わなかったという話を聞き、炎の神殿の祭司長に相談したことでこのような席を設けることができた事、我等神官一同感謝しております」


「これからも長い付き合いになるでしょうから、商会ギルドを通して下されば俺の都合が付くかぎり会談に応じられると思います。さすがに龍神に呼び掛けるのは恐れ多いことではありますが、神亀であれば俺の言葉に応じてくれるでしょう。それは最後に行うとして、同じ水の神を信じる者として、新たな祭司長就任の祝いをお受け取り下さい。

 それと、直ぐに伝道を試みるとおもいますが、それなりの人物を使うことになれば資金も必要でしょう。……ニライカナイからの贈り物としてお受け取りください」


 ハンカチに包んだ上級魔石をマルーアンさんに、中級魔石をマルーアンさんとミラデニアさんに手渡した。

 おずおずと手を伸ばしてハンカチを開いて驚いているけど、それぐらいなら今の俺には容易なことだ。

 これが前例になっても困るけど、わざわざ来てくれたんだし一神教が手を伸ばしつつあることも教えて貰ったからね。


「よろしいのですか? 過分な寄進に思えてなりません」

「来るたびにお土産とすることが無いなら問題はありません。それに今後何度か話し合いを持つことになるでしょう。一神教の広がりを抑えることができるなら、俺も協力したいですからね」


「土と風の神殿にも伝えねばなりません。かの神官達も、ナギサ殿の名を知り、龍神との関係を聞いておるでしょうから、次は大勢で来ることになると思いますよ」

「俺達の心の拠り所を保ってくれているのはカヌイのお婆さん達です。長老だけでなくカヌイのお婆さん達の考えもそれまでには確認しておきましょう」


 宗教会議になるとはなぁ。そこまで考えが及ばなかったけどね。

 長老達には巡礼船の話をすれば良さそうだな。一神教とどのように対峙するかはカヌイのお婆さん達と何度か話し合う必要もありそうだ。

 シドラ氏族だけでなく、他の氏族のカヌイのお婆さん達とも調整を図る必要があるかもしれない。

 結構面倒なことになってしまったなぁ。

 のんびり漁をして過ごすのはずっと先になりそうだ。


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