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P-261 宗教改革になるのかな(1)


 あまり宗教には詳しくはないけど、明日の獲物が上手く狩れるようにとか、野山の実りが沢山あるようにということで超自然的な存在に祈るようになったんだろう。

 祈りの中心人物となった祈祷師が神官の始まりに違いない。

 そんな時代の神は、それこそ沢山いたに違いない。狩をする山毎にいただろうし、野山の場所毎、水場毎にもいただろう。

 それが少しずつ淘汰されていったのは、部族社会が大きくなり国となる過程で起こったということかな。

 山の神達は土や風の神となり、川や湖、海の神は水の神、火の神は火山に住む火の神という形で集約されたのが今の形だろう。

 西の大きな湖に住む水の神とニライカナイの龍神はかつて多くの神がいた時代の名残なのかもしれない。

 案外その外にも土や風、それに火を祀る場所があるかもしれないな。

 大陸の東岸にある3つの王国と直ぐ西の新興国は、代々続いている4つの神の何れかを信じているようだ。その上で、他の王国の民が自分達と異なる神を信じることに疑問を持っていないのもおもしろいことだけどね。


だが、一神教はそれらを否定しかねない。

 唯一神以外の神は、悪魔と同一視するからなぁ。

 唯一神以外の神を信じる者達は異端者であり、救済する必要があると本気で信じるのも困った話だ。

 そんな宗教が国教となれば、直ぐにも宗教戦争が始まりかねない。

 それはかつて俺達の世界で実際に起ったことだ。

 国王の王国拡大の思いを、一神教の拡大を図った宗教指導者の思惑が一致したからだと歴史の先生が言っていた。

 そんなことで大きな戦が起こるのかと思っていたんだが、『宗教は怖いぞ。お前達も、特定の宗教を信じる前に、十分その宗教について学ぶことだ』なんて言っていたんだよなぁ。


「たぶん何度かの争いが起こるでしょう。その原因は一神教の拡大ということになるんでしょうが、どこまで拡大するかを考える事も必要でしょうね。そもそも一神教の宗教指導者が王侯貴族を相手に最初から動くとも思えません。彼らの布教は王国の下層国民を相手に始まるでしょう……」


 身分制度の弊害と見るべきだな。

 王国は貴族政治が基本となるようだ。

 立法、司法、行政を特定の貴族に代々継承させ、その調整を国王が臨席する貴族会議で行うらしい。ある意味閉鎖社会とも言えるだろう。

 裕福な商人の中には貴族を凌ぐ財力を持つ物もいるらしいが、国政に参加することは出来ないんだよなぁ。ましてや多くの領民達はそれこそ言われるままに暮らすしかない。

 だが、それによって、大きな混乱は起こらずに済むことも確かだ。

 唯一国民が成り上がれるのは王国軍ということになるらしいが、それでも下士官どまりとなるらしい。

 士官や将軍ともなれば、部門貴族と呼ばれる貴族が代々継承するとのことだ。


「下層国民が身分を気にせずに満足に一生を送れるなら、一神教をそれほど気にせずとも良いでしょう。そもそも現在の下層国民、特に貧民と呼ばれる人達は、その日の食事をどう工面するかで、神に祈るような事も出来ないと思いますよ。ですが、ふと自分の現在を考えた時、それを是正してくれるよう神に祈れるのでしょうか? 王国の神殿は、いずれも立派な神殿に違いないでしょう。そんな神殿に詣でる時は、信者も上等の衣服を纏って来るでしょう。そんな神殿に何時洗濯したのかも分からぬような汚れた衣服を纏った貧民が訪れたら、神殿の門番はどのように対処するでしょう……」


「追い返すに違いありません。少し神学を学んだものなら、夕暮れ時に再度来るようにと言うかもしれませんが……」


 それを言う門番が果たしているのかと考えてしまうな。

 やはり、神殿は上流社会の社交場になりつつあるということだろう。


「一神教の存在が確認されている状態で、神殿側が訪れる信者の身分や服装を見て追い返すようであるなら……、100年後には4つの神殿が無くなるかもしれません。現在信じられている神は、邪神と認定されその存在を消すために軍隊が動くことになるでしょう。神の前に人間は平等であるべきですが、それが王侯貴族の身分制度でゆがめられているなら、遅かれ早かれそれは起こることになります。失礼ですが、炎の神殿の神官がどれほどの数になるのか知りませんが、その神官の中に貴族の家柄ではない者が何人おりますか? 神官の衣食住の違いはどれほどの差があるのでしょう? 王侯貴族の葬礼と、貧民の葬礼にどれほどの違いが、何故に起こるのかここで説明できますか?」


「……耳痛いお話です。分神殿を合わせれば、我等神官の数は300を越えるでしょう。ですが、王侯貴族出身でない者は50に足りませんし、全て分神殿の下位神官で止まっております。神の前に全ての民は平等とは言われていますが、何時の間にか形骸化していたようです」


「水の神殿は、少し異なります。貴族がおりませんし、王と王に従う部族ということになるのです」


 ネコ族の社会に似ているな。部族を氏族と置き換えれば案外同じなのかもしれない。

 だけど、決定的な違いがあるんだよなぁ。

 ネコ族には代表者がいないんだよね。

 強いて言えば各氏族の長老達になるんだろうけど、長老の権限が及ぶのは自分達の氏族だけだし、そもそも長老は5人いるからなぁ。

 多数決で物事を決めて入るけど、反対意見をないがしろにするようなことはない。

 ニライカナイ全体に関わるような事態になると各氏族から2人の長老が集まる族長会議で諮られることになる。

 これも多数決だから、民主主義にも思える時がある。

 代表者を置けば良いと何時も思ってはいるんだが、今までもそれで済ませてきたらしいから不便は缶以内のかもしれない。

 とはいえ、何時かは族長会議で代表者を決める時が来るに違いない。


「皆さんご存じかもしれませんが、ニライカナイには下層民は存在しないんです。貧富の差があまりないのも特徴ですね。俺達を指導してくれる長老は複数いるのですが、そもそも長老は家系で選ぶことがありません。たまに何代か続くこともありますが、長老の資質が無ければ長老の推薦は得られませんからね」


「それで国家を運営できるのですか?」


 水の神殿の祭司長が驚いている。

 確かに驚くだろうな。だけど、ネコ族の数がそれほど多くないからこそ可能な国家運営になるんだろう。

 長老達の会議でニライカナイの方針が決まるんだからね。

 だけど長老は、長く船団の筆頭を続けてきた者達ばかりだ。俺達の指導も手慣れたものだし、魚との駆け引きを通して物事の判断もしっかりできている。


「ナギサ殿も、老いては長老になるのでしょうね」

「出来れば避けたいところです。結構多忙ですよ。氏族の暮らしを良くするために心労が続くでしょうから、そんなことになる前に辞退表明をしたいと思っています」


 ある意味貧乏くじだと、バゼルさんが言ってたからね。 

 その言葉を聞いていたカルダスさんも頷いていたけど、2人とも将来はシドラ氏族の長老になるんじゃないかな。


「国王になりたくはないと?」

「案外孤独な職業かもしれませんよ。貴族の突き上げはあるでしょうし、民の暮らしを少しでも悪くするようなことになれば愚王と呼ばれるでしょうからね」


 愚王であっても、貴族がそれを支えるだけの器量を持っているなら問題はないだろう。

 一番困るのが、自国を富ませるという名目で他国への侵略を図る国王だろうな。

 そんな国王の脳裏に浮かぶ国民は一体誰なんだろう?

 自分を中心とした貴族と一部の裕福な国民だけだとすれば、残された国民は不幸でしかない。


「宗教と政治を切り離すことは難しいと思います。ですが、政治は神を敬う行為と比べればあまりにも世俗的な物と言えるでしょう。神の元では誰もが平等、神官は神の代弁者では無く、民衆の代弁者であるべきだと個人的には思っています」


「高位神官等と言われ、それに甘んじていた自分を恥じるばかりです。ですが神殿の運営には、ある程度の格付けも必要になります。神殿内での地位を、神の御許の地位と錯覚してはしけないということですか……」


 ちょっと言い過ぎた感じもするけど、一神教を相手にするにはそれぐらいの覚悟は必要だろう。

 その覚悟が無ければ王国内の下層階級の人達を導くことなど無理に思える。


「さらに、もう1つ。民衆に自分の信じる神を押し付けるようでも困ります。誰がどのような神を信じるかは、その人の自由であるべきです。たとえ親であっても、子供に自分の信じる神を押し付けるのはどうかと思いますね。親の仕事を必ず子供が継ぐことは出来ません。複数の子供がいるなら親の職業を継げるのはその中の1人でしょう。他の子供達が親と同じような仕事に就ければ良いですが、必ずしもそうはならないでしょう。

 その時に、親と子の信じる神の相違が起こると思いますよ。

 農民の信じる神。商人の信じる神、さらには兵士の信じる神が必ずしも同じにはならないはずです。龍神に神亀がいるように、他の神々にも神の使いがいるので破無いでしょうか? そんな神の使いが色々と御利益を与えるということであるなら、親と子の信じる神が異なるということにはならないんですが……」


 神官達でなく壁際の僧兵達も頷いているところを見ると、やはり神の使いと言う存在はいるということなのだろう。

 

「なるほど、炎の神であるサラマンディーネ様の御使い様であらせられるブリード様は、金属加工や豊穣、さらには文学にも秀でていると伝えられています。ブリード様を崇拝することでサラマンディーネ様の信仰が深まるということですね」


 俺達庶民を相手にするなら、具体的に何々に御利益があると伝えるべきだろう。

『貴方が幸せに暮らせるよう、全てをサラマンディーネ様が見ておられる』と言うより『貴方が暮らす上で大切な〇〇について、サラマンディーネ様の御使いである〇〇様の御加護がありますよう……』と言われた方が、納得できるんじゃないかな。

 それに、幸せの定義は中々難しいだろう。

 人間は現状よりも上を望むからね。いつまでたっても現在が幸せだとは思えないんじゃないかな。

 案外、老境に入って今まで歩んできた人生を振り返った時に、幸せを感じることができるのかもしれない。


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