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P-257 サイカ氏族の島に向かう


 俺がバゼルさん達に保護されて訪れた島は、今ではサイカ氏族の暮らす島に替わっている。それなりに思い出のある島なんだけど、シドラ氏族の人達はオラクルこそシドラ氏族の暮らす島だと言うんだよなぁ。

 シドラ氏族のために龍神が賜れた島だという事になるらしい。

 シドラ氏族に託されたのだから、島を大切にせねばならんと長老が言ってるぐらいだからね。

 その言葉にカヌイのお婆さん達も頷いているようだから、思いは同じだという事になるのだろう。


「明日にはサイカ氏族の島に着くにゃ。砂浜が広いからマナミを遊ばせるにゃ」


 タツミさんの言葉にエミルちゃんも笑みを浮かべている。

 子供時代を過ごした島だからね。色々と思い出もあるんじゃないかな。


「明日だとしたら、その翌日が約束の日になるんだよなぁ。簡単に終われば良いんだけど、場合によっては昼食を向こうで取ることになるかもしれないよ」

「蒸したバナナ2を残しておくにゃ。残ったら夜食にゃ」


 保冷庫に入れておけば持つからねぇ。おやつ代わりにもなりそうだ。

 

 まだ日が高い時刻に島に到着する。

 どの島も来客に備えた桟橋を持っているんだけど、オラクルにはないんだよなぁ。

 作った方が良いかもしれない。帰ったならバゼルさんに相談してみるか。

 来客用桟橋は、一般の桟橋と同じでカタマランが数隻停泊することが出来る。来客用桟橋だと分かるように、赤と白の吹き流しが桟橋先端の竹竿に掲げてあるからタツミちゃん達はゆっくりとカタマランを操って桟橋に接岸を始めた。

 浜で俺達のカタマランを見た若者が桟橋へと駆けつけてくれた。

 舫綱を投げて結んでもらうと、俺は船首のアンカーを下ろす。


「シドラのナギサさんですよね?」


「そうだよ。あの商船に用があってやって来たんだ。途中で漁はしてないから、生憎と空荷なんだよなぁ」


「長老に知らせてきます。挨拶だけでもお願いします」

「特に用はないんだけど、顔は出すことにするよ」


 ガリムさん達なら漁果をサイカ氏族のギョキョーに届けるだけで済むだろうけどねぇ。俺の場合はそうもいかないようだ。

 とはいえ急にやって来たなら驚くだろうから、簡単に理由を話してきた方が良さそうだ。

 若者に礼を言って甲板に戻ると、タツミちゃん達に長老に挨拶に向かうことを告げる。


「ナギサなら、長老の方が待っているはずにゃ。夕食を準備するからついでにマナミを頼むにゃ」


 ホイッ! とマナミをカゴから出して俺に渡してくれたんだけど、オムツは取れたようだが、まだあまり言葉が出来ないんだよね。

 でも嬉しそうにしがみついているから、肩車をしてあげるとしっかりと俺の頭を掴んでいる。

 視線が高くなったことを喜んでいるようだな。

 マナミと一緒なら、長老も長居をさせることはないだろう。

 とはいえ子供のお守をしながら長老を訪ねるというのは、あまり例が無いようにも思えるんだけどねぇ。


 マナミを落とさないように、歩くたびにギシギシと板鳴りのする桟橋を歩くと、次は砂地だ。

 歩きづらいけど、広い砂浜では子供達が遊んでいるんだよなぁ。さすがにマナミ程小さい子供はいないけど、マナミも2年後にはあんな感じで仲間達と遊び回るに違いない。

 ギョキョー傍の階段下でマナミを下ろし、マナミを抱いて階段を上がる。

 津波対策という事で、どの島でも島で暮らす人達の住まいは高台に設けてある。長老の住まい近くの倉庫にはギョキョーの倉庫が作られ、3か月分の食料を備蓄しているとのことだ。

 長老達が話してくれたアオイさんの時代に起こった火山の噴火はかなり酷かったらしい。

 その復旧事業を見事成し遂げたんだから、アオイさんを皆が慕うわけだよなぁ。


「今日は。シドラのナギサです……」


 長老のいる大きなログハウスの前で名乗りを上げると、すぐに世話役が扉を開けて招き入れてくれた。

 マナミを下ろして、先ずは長老に頭を下げる。俺の真似をしてマナミが頭を下げたから長老達が笑みを浮かべているんだよなぁ。


「ナギサの子供じゃな。名前は……、確かマナミじゃったか。大きくなってサイカに嫁いでくれると良いのじゃがのう」

「ナギサの娘なら、どの氏族も招きたいところじゃろう。カイト殿やアオイ殿も子供の結婚に口を出すことはなかったそうじゃからなぁ。ナギサもそうして欲しいところじゃ」


 要するに、子供に自由意志を優先したという事なんだろう。

 長老が動くようなら、アオイさん達も反対しただろうからなぁ。


「まだまだ先の話ですよ。娘が好きになった相手なら、たとえ俺より銛の腕が下でも反対はしないつもりです」


 娘を連れてここに来たことをいぶかしがる連中もいたんだけど、俺の言葉に大笑いをしている。

 俺の銛の腕が今一なのは、他の氏族の人達も知っているのだろう。


「銛の腕もだいぶ上がったと聞いておるぞ。そんなに卑下せずとも良い。今でも漁の行きかえりには銛を研ぐらしいではないか。銛を大切にするなら銛はナギサに応えてくれるはずじゃ。お前達も銛の腕を誇るばかりではなぁ……。腕は上がっても銛が錆びては漁果に繋がることはないじゃろう。……ところで、我等が島にやって来たのは?」


 長老達に大陸の神殿からの賓客に合うことを告げた。

 特にニライカナイで問題はないはずだから、神殿側の高位神官交代を俺達に告げものだと説明する。


「大陸の大きな神殿さえもが我等を重んじるという事か……。やはり龍神様はそれだけ偉大だという事になるんじゃろうなぁ」

「やってくるのは水の神殿ですから、同じように竜神を信じる人達です。神の姿は違えども同じ神だという事でしょう。特に反対する理由もありませんから、会うつもりです」


「聖姿を背に負うからこそナギサに会いに来るのじゃろう。そう言う事なら確かに我等に関わらんだろうな。とはいえニライカナイを代表するにも等しいことじゃ。言葉使いには注意が必要じゃろうな」


「重々承知しております。言った、言わないは争いの元ですからね。その辺りに注意すれば特に問題は無いと考えております」


 うんうんと頷いてくれたから、これで長老達への挨拶は終わりで良いだろう。

 上手い具合に退屈したマナミが俺に絡み始めたから、会談終了後に再び訪れることを告げてログハウスを後にした。

 マナミの手を引いて階段まで歩くと、階段は抱っこして下ろしてあげる。砂浜なら転んでも問題ないから、来客用桟橋までマナミの後を歩くことにした。


 カタマランに戻ると、2人がのんびりとお茶を飲んでいた。

 直ぐに俺にも出してくれたけど、マナミにはココナッツジュースのようだな。


「夕食の準備が終わったにゃ。でもまだ夕暮れが始まってもいないから……」

「まだそれほどお腹が空いていないからね。さすがに俺達が一番早いのも考えてしまうよ。……それにしても、大きな商船だね。船尾が桟橋からだいぶはみ出しているなぁ」

「明日は、あの商船に向かうことになるにゃ。私達は浜で遊んでるにゃ」


 俺もその方が良いんだけどなぁ。忘れない内に、タツミちゃんに上位魔石を2つ出して貰う。品質も上級だから競りに出したら高値が付くことは間違いないだろう。

 たまに上級が取れるんだけど、これは格別だ。

 売らずに何かあった時の為に使おうとしていた品だから、ここで使っても問題はない。

 長老に遠回しではあるがことわってあるし、長老も俺の思惑で構わないとの返事も貰ってある。

 祭司長の代替わりであるなら、同じ水の神を崇める俺達からお祝いを贈るのは不自然ではないだろう。

 もう1つの火の神を祀る神殿にも、2つの水の神の仲立ちを助けてくれたに違いないから、それなりの礼は必要だ。

 俺の持っていた中位魔石をそれに当てれば良いだろう。中位とはいえ、その品質は最高品だからね。


「お祝いにするから、代金は貰わないよ。たぶん、ニライカナイからの祝いとしては最初で最後になるに違いないからね」


「ナギサが獲ってきた魔石にゃ。ナギサが使う分には誰も文句は言わないにゃ。文句を言うなら自分で獲って来ればいいにゃ」


 とはいえ、俺たち家族の財産でもある。さすがに俺一存で使うわけにはいかないから、事情だけは2人に知らせておかないと。


 夕日が隠れ始めると、エメルちゃんがスープ鍋を乗せたかまどに火を入れた。

 2つのランタンに光球を入れて、操船櫓の柱と甲板に張り出した横梁の先に下げる。

 桟橋に停泊したカタマランに同じようにランタンが下げられ、商船には片舷だけで20個近いランタンが下げられている。

 何時の間にかマナミは籠の中で眠ってしまったようだ。

 だいぶ歩かせたからかな? 夜中に起きたらどうしようか、と悩みながらパイプを楽しむ。

                ・

                ・

                ・

 翌日。早めに朝食を取って、少し上等な衣服に着替える。

 といっても、向こうから持ち込んだ短パンにTシャツだ。この頃はこちらの世界の似たようなシャツを羽織っているし、下は何時でも素潜りができるようにサーフパンツだからなぁ。

 あまり変な姿で尋ねるのもねぇ。王国内ではそれなりの地位にある人達だから、対応に困る時があるんだよなぁ。

 短パンのベルトに付けた小さなバッグにタバコと魔石を包んだ包みを入れて、財布代わりの革袋も入れておく。せっかく商戦に向かうのだから、店の棚を少し覗いてこよう。

 ベルトにパイプを差し込めば準備完了だ。


 2人に「出掛けてくる!」と、声を掛けて桟橋に下りた。

 やはり神殿の祭司長ともなると、これほどの船に乗ることになるんだ……。大陸との約定を修正した時にやってきた商船よりも一回り以上大きい。

 何と無く威圧感を感じるのは俺だけではないんじゃないかな。

 サイカ氏族の連中も、早く引き払って欲しいと思ってるに違いない。

 

 多分簡単な挨拶を交わすだけになるはずだ。

 俺達に対して新たな要求を神殿が突きつけるようなことにはならないだろう。

 とはいえ、神殿が良かれと思うことを俺達に依頼されても困ってしまう。

 今まで通りの付き合いを続けて行けたら、それで十分に思えるんだけどなぁ。


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