P-215 お祭りが出来そうだ
「ほう! ナギサの生まれた国も、神様が直ぐ近くにいたにゃ……」
「ナギサが食事を前に、いつも頭を下げるのは神様への感謝じゃったにゃ」
稲を育てる上で、日本での稲作をカヌイの御婆さん達に話をした。
笑みを浮かべて聞いていたお婆さん達が、話を終えるとうんうんと頷きながら感心している。
お爺さんやお婆さん達の話を思い出してみると、日本の神様はいたるところにいる感じだな。
「シドラ氏族の一員なのですから、竜神様に日々感謝をしています。でも、かつて暮らしていた国での宗教というのも忘れることは出来ませんでした」
「アオイ様は、竜神様もアオイ様の信じる神様の1柱と言っていたにゃ。たくさん神様はいるけど、ニライカナイの海を守っている神様だから、大切にしないといけないとナツミ様も言ってたにゃ。この囲炉裏の火にも神様がいるし、水の湧く場所にも神様はいるにゃ」
ナツミさんは、竜神だけを信じていたネコ族に多神教を広めようとしていたのだろうか?
大陸の火の神殿とつながりを持っていたことに驚いたけど、竜神以外にも神はいることを教えることで、宗教に関わる争いを未然に防ごうとしたのだろう。
「たくさん米が実るようにお願いするのは、私等も賛成するにゃ。竜神様に祈ればきっとたくさん取れるに違いないにゃ」
「ナギサの話では、田の神は山から来るにゃ。私等は海の神に祈るからナギサの暮らしていた世界よりご利益はないかもしれないにゃ」
確かに山から呼び寄せると言ってたんだよなぁ。山の神が田の神なんだろうか?
案外山の神の土地だった荒地を耕して田畑を切り開いたからかもしれないな。『貴方様の土地を利用させていただきます』という感謝の気持ちから始まったのかもしれない。
それなら、島が4つ繋がったオラクルでは海の神に祈ることで問題はないはずだ。
この目で見ることができる神様だからなぁ。
ご利益も期待できそうだ。
2時間ほどの話し合いで、種を撒く時と、収穫を行った時にカヌイの御婆さん達が田圃で祈ってくれることになった。
メリハリを考えれば、それで十分だろう。
よろしくお願いします、と頭を下げてカヌイの御婆さん達のログハウスを後にした。
帰る途中に長老のログハウスに顔を出したのは、間違いだったかもしれない。
良い暇つぶしがやってきたという感じで、その後の氏族会議の状況を教えてくれた。
「まぁ、ナギサが出張らずとも良いように、オウミ氏族の連中が大陸の連中の面倒を見ることになったようじゃ。
オウミ氏族は氏族の中で一番人数が多いからのう。2つの島で暮らしておるが、サイカ氏族のかつての島も自分達の漁場としたいようじゃな」
「おかげで、西の監視もぬかりなく行える。それは感謝しておるが、ネコ族の三分の一を超える大きな氏族になりそうじゃのう」
一大勢力ということになるんだろう。その長老の発言力も増すとなれば問題だが、氏族会議に出る長老の数は各氏族とも3人と決まっているらしい。
新たに出来たシドラ氏族も3人を送っているそうだけど、オウミ氏族は氏族を分けるという考えが無いのも面白いな。
「大陸時代から続く氏族だからじゃろうな。新たな氏族なら問題はあるまいが、自分達の氏族を2つに分けるとなれば、オウミ氏族の名を引き継ぐ争いがおこりかねん。ネコ族は内部の争いを禁じておる。それにそんな事態になったなら、竜神様からどのようなお叱りを受けるか……」
「氏族の住民が多ければいろいろな問題も起こるでしょう。俺にはシドラ氏族が一番だと思いますよ」
「確かに問題は起こらないのう……。カヌイの婆様連中は、ナギサのおかげで我等が楽をしていると言っておったぞ」
「他の氏族の連中も、そのようなことを言っておったな。オラクルの存在はそれだけ大きいということじゃ。カイト様が竜神様の案内で見つけた、トウハ氏族が住む島の2倍をはるかに超える島じゃからのう。それにナギサ達の目の前で、島を作ってくれたのじゃからなぁ」
「となれば、ネコ族の模範となるよう努力しないといけませんね」
「まったくじゃな。かつてはトウハ氏族がそのような役を担って負った。となれば、この島への来訪者も増えるということになるのう。カルダス達に話をせねばなるまい」
客人対応ってことかな? 筆頭だからなぁ。それなりの役目があるってことか。
漁が上手いだけでは筆頭に慣れないということになるんだろう。
カルダスさんにはバゼルさんのような優秀な幼馴染がいるからね。
そういう意味では、ザネリさんやガリムさん達も友人達と深いつながりを持っている。俺にはそのような友人がいないのが少し寂しいところがあるけど、ザネリさんやガリムさんがいつも誘ってくれる。
「とはいえ、ナギサが我等のところに来るとは珍しいのう」
「実は、カヌイの御婆さんのところから孵る途中だったんです……」
田圃作りが始まったから、米作りが上手く行くように種を撒く時に竜神に祈って貰えるよう頼んできたことを話すと、両手を打って笑みを浮かべている。
「それに気付くとは、ネコ族に生まれずとも立派なネコ族じゃな。カルダスでさえ、そんな考えを持つことは無かろうよ。
畑に最初の種を植える時にはカヌイの婆様連中が来ておったそうじゃ。畑の面倒は婆さん連中がやっておるからそれなりの気遣いが出来るのじゃが、田圃で米を作るとなれば婆さん連中というわけにもいくまい。やはりナギサはそれに気付いたか……」
長老達が互いに顔を見合わせて笑みを浮かべて頷いている。
長老達に内緒でカヌイの御婆さんのところに行ったから、怒られるかなと思ったけどそうではないようだ。
長老も神への祈りは必要と考えていたらしい。
長老達よりも先に行動に移したことが嬉しかったのかな。
「アオイ様はトウハ氏族の長老ではあったが、その実はニライカナイ全体の長老であった。ナギサも長じてはアオイ様のような存在になれるように思えるぞ」
「カルダスの後を継いでくれるじゃろう。我等も安心して竜神様の元に行くことができる……」
まだまだ元気な長老達だから、そう簡単に代替わりをすることはなさそうだ。苦笑いを押し殺しながら、パイプに火を点けた。
たまには顔を見せるのじゃぞ! と最後に言われてしまったが、俺の行動はバゼルさん達を通して把握しているはずなんだけどなぁ。
高台を下りて浜に出ると、ガリムさん達がだいぶ平らになってきた浜に穴を掘っている。
岩を割る音が聞こえてはいたんだが、ガリムさん達とは思わなかった。
「だいぶ深く掘ってますね!」
「ナギサか! まあ、深い方が根付きやすいってことだな。俺達が植える最初のココナッツだから、枯れたり倒れたりしたらみっともないだろう? すでに苗木と土はじゃ込んであるんだ。今日中には植えられるはずだ」
手伝わなく手申し訳ないと言ったら、皆が笑っていた。
手を休めて、ココナッツを割って休憩に入るようだ。俺にもココナッツを渡してくれたから、休憩時間を一緒に過ごすことになりそうだ。
「ナギサは、いろいろとやってるじゃないか。俺達ができることはこれぐらいだよ。ところで、明日は漁に出ようと思ってるんだが……」
「俺も出られると思ってます。田圃作りはカルダスさんが張り切ってましたからね。俺のやることがありません」
どうやら数隻の船で出掛けるらしい。
ガリムさんの友人ばかりということになる。ガリムさん達も子供が小さいから無理な漁はしないようだな。
午前中の素潜りと午後からの釣りになるらしい。
「曳釣りや延縄も良いんだが、あれは子供が大きくなってからになりそうだな」
「延縄はできるんじゃないですか? 釣りをすることで諦めているようですけど、ザバンを使ってカタマランから離れた場所に仕掛けられると思います。
引き上げる時には、ザバンで端の浮きにロープを結び付けてカタマランの甲板から引き上げられるんじゃないかと……」
俺の指摘に、皆が顔を見合わせる。
別にカタマランから延縄を流す必要はないはずだ。
「確かにできそうだな……。素潜りを終えたところで仕掛ければ、昼と夜の2回は延縄を流せるんじゃないか?」
「しばらく使わないと思って、仕掛けの手入れをしてないんだよなぁ。どこに向かうんだ? 明日は仕掛けを手入れしながら向かうことになりそうだ」
「最初はカタマランからでも仕掛けは流せそうだな。だが、ザバンを使うなら小回りも利くから思い通りに仕掛けを流せるぞ」
やってみるということなんだろう。
俺も準備をしておこう。皆と同じように俺もしばらく延縄を使っていなかったからね。
ガリムさん達と別れて、今度こそ桟橋に向かう。
寄り道をだいぶしたからなぁ。エメルちゃん達が心配してるんじゃないか。
「ご苦労様にゃ」と言ってお茶を出してくれた。
ありがたく受け取って、明日ガリムさん達と出掛けることを告げる。
年代的には、ザネリさん達より若い連中だから、エメルちゃんも嬉しいだろうし、なんといっても実の兄貴だからなぁ。
「トーレさんは付いてくるのかにゃ?」
「今夜バゼルさん達と食事をすれば分かると思うよ。さすがに何度も乗ってくるとは思えないんだけどね」
夕暮れ時になると、トーレさんとサンディさんがやってきた。
邪魔者扱いされる前に、バゼルさんのカタマランへと退散する。
そこには、カルダスさんとザネリさんがすでにココナッツ酒を酌み交わしていた。
「先ずは1杯だ。田圃の方はそれなりに仕上がっているぞ。明日は水を張ってみようかと思ってるぐらいだ」
これぐらいの深さで良いんだな? とカルダスさんが両手で水深を示してくれた。とりあえず半YMあれば十分だろう。
水を張って、土地の高さを確認するということかな。
「明日は俺も付き合うぞ。ナギサには悪いが、またトーレを連れて行ってくれないか?」
「ありがたい話ですけど、明日はガリムさん達と出掛ける予定なんです」
「ガリム達だと? あいつらも頑張っているのは認めたいがどこに向かうんだ?」
「ガリムさんにお任せです。今度は延縄を流してみようかと……」
ガリムさんに教えたやり方を3人に話すと、感心して聞いてくれた。
「なるほどな……。カタマランを使わずともそれならできそうだ。引き上げはカタマランになるが、甲板からの釣りの邪魔になることはねぇな」
「俺もやってみるか。ナギサ、皆に教えても構わんな?」
「別に秘密というわけではありませんよ。とはいえ、釣れなくても恨まないでくださいね」
俺の冗談に、皆が笑い声を上げる。
それほど変わった漁ではない。今まで延縄をカタマランから仕掛けていたのをザバンに変えるだけだ。
できればザバンで取り込みまで行いたいが、それにはザバンが小さすぎるんだよなぁ。俺達のカタマランに付属している魔道機関付のザバンなら何とかできそうに思えるんだけどね。




