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P-209 夕食は皆で一緒に


 真新しい桟橋に、ポツンと俺達のカタマランが停泊している。

 俺の帰りを待っていたかのように、エミルちゃん達が出迎えてくれた。


「直ぐに出発できるにゃ!」

「なら、出掛けよう。元は俺達の島かもしれないけど、今はサイカ氏族の島だからね」


 桟橋に繋いだロープを解いて、アンカーを引きあげる。

 操船櫓で待機していたエメルちゃんに手を振ると、窓から手を振ってくれた。

 船尾甲板に向おうと屋形の中に入ると、タツミちゃんが座布団の上に寝ているマナミを内輪で扇いでいた。


「出発するよ。船首の扉の小窓を開けておいたからね」

「それなら、良い風が入るにゃ」


 タツミちゃんもオラクルに早く帰りたいみたいだな。

 寝入っているマナミの頬を突こうとしたら、タツミちゃんにピシャリと手を叩かれた。


「寝たばかりにゃ。起こしちゃダメにゃ」

「御免、御免。船尾にいるからね。用事があれば声を掛けてくれ」


 船尾の甲板に出ると、桟橋からだいぶ離れている。

 入り江を出るまではそれほどスピードを出せないんだろう。

 そういえば……。

 石の桟橋に目を向けて神亀を探す。結構大きいし、こんもりとした甲羅が海から出ているはずだから直ぐに分かるはずなんだが、すでに去ったみたいだな。

 大きな商船が見えるだけだ。

 あの商船も明日には島を離れるだろう。次はどこの氏族の島に向かうのだろうか。


 入り江を出ると左に回頭し、カタマランが速度を上げる。

 すぐに水中翼が作用して、海上を疾走し始めた。


 タツミちゃんが屋形から顔を出して、カゴからココナッツを2個取り出した。

 ベンチの中から鉈を取り出してココナッツを割るのは俺の仕事だ。

 ココナッツジュースを真鍮の水筒に入れて、保冷庫に入れたから冷えたジュースが飲めそうだな。


「トーレさん達が結果を待ってるにゃ」

「とりあえず、話はうまくいったよ。やはり神亀が決定的だったんだろうな」


 パイプを取り出して火を点けると、タツミちゃんが冷めたお茶を出してくれた。

 結構日差しがきついからなぁ。タープで陰にはなっているんだが、水分補給は必要だろう。

 竹の水筒に入れたお茶をエメルちゃんに届けるのだろう、タツミちゃんが操船櫓へと向かった。

 久ぶりに少し操船をしてみたいのかな?

 屋形の扉が開いているから、マナミが泣きだしたら直ぐに分かるはずだ。


 日が傾いてくると、早めに近くの島の浅瀬にカタマランを泊める。

 早くオラクルへ向かいたいが、無理は禁物だ。

 エメルちゃんが夕食を作っている間、船尾でおかずを釣る。

 

「大きなカマルにゃ。焼くのに苦労したにゃ!」


 開きで焼くのが船の上での焼き方だ。浜で焚火を囲む時には串焼きになるんだけどね。

 確かに大きいカマルだ。

 2匹を三枚に下ろして餌として保管しているけど、そのまま焼いても良いんじゃないかな。

 オラクルに帰ったとしても、直ぐに漁に出掛けるわけではない。

               ・

               ・

               ・

 オラクルの深い入り江に到着したのは3日目の夕暮れ時だった。

 左手に見えるロウソク岩に、夕焼けが反射して赤く彩られている。

 まだ桟橋は見えないな。結構奥があるからなぁ。


 桟橋にカタマランを泊めた時には、すっかり日が落ちていた。

 すでにランタンを下げているし、桟橋に停泊している船の甲板にもランタンが灯されている。水面に反射して、幻想的な雰囲気を作っているから、結構気に入っているんだよね。

 カタマランと桟橋をロープで結んでいると、バゼルさんが手伝ってくれた。

 

「直ぐに夕食を作るにゃ。家の分は出来ているけど、少し料理を増やせば皆で食べられるにゃ」


 トーレさんが、うれしい言葉を掛けてくれる。

 タツミちゃんが船尾のベンチにマナミを抱いて腰を下ろしたから、俺とバゼルさんはバゼルさんのカタマランに移動する。

 俺達が帰ったのを見つけたんだろう。すぐにガリムさんとザネリさんがやってくる。


「料理が出来たら、ナギサのカタマランに来ると言ってたぞ」

「俺のところもだ。子供も一緒だからにぎやかになりそうだな」


 夕食の準備は嫁さん達に任せてしまうのも、何となく男尊女卑の風習に思えてしまう。

 そんな話をトーレさんに言ったら、唖然とした表情をしていた。

 

「そんなことを考えるのはナギサぐらいにゃ。男達に夕食の手伝いをさせたら、食べられるものも食べられなくなるにゃ。邪魔をしないで飲んでいてくれた方が助かるにゃ」


 それって、男は不器用だから手伝わない方が良いってことか?

 確かに、誰も料理をしているところを見たことがない。

 強いて言えば、炭焼きや燻製小屋を仕切っている爺さん達だけど、あれって燻製を炙っているだけだからなぁ。

 料理とはとても言えないな。

 俺達だって、焚火を囲むときに串焼きを並べる時がある。でもすでに焼けている代物だ。冷めてるよりも暖かい方が良いからね。


 そういうわけで、いつも通りに皆でココナッツ酒を飲みながら、パイプを楽しむことにした。

 カルダスさんまでやってきたから、結構にぎやかになってきたぞ。


「すると、炎の神殿の神官は、ナギサの頼みを聞いてくれたということだな?」

「3王国の手にする魔石と漁果が減ると知って、驚いていましたよ。とはいえ内陸の王国とも友好関係を築いているようですから、俺達との取引を沿岸の3王国に限定できるとも思えません。魔道具制作に必要な魔石と、領民に食べ支える魚を減らすことにでもなれば王宮としても大問題でしょう。各王国との調整は面倒なことになりそうですけど、魔石1個を神殿に寄付して、神官の願いを叶えることで了承してもらいました」


 うんうんと頷いていたけど、急にザネリさんが俺に顔を向けた。


「中位魔石ってことか? それと神官の願いとは?」

「寄付したのは上位魔石です。多分神殿に納めるでしょうから、やってきた3人には真珠を差し上げました。神官の願いは神の姿ということでしたが、神亀が姿を現してくれましたので満足してくれたようです。もし、現れない時には神官達を乗せたカタマランがニライカナイを彷徨いかねませんでしたから」


「まったく飛んでもねぇ奴だな。上位魔石は惜しいが、それを採ったのはナギサだから俺達がとやかく言うことはねぇが……。神亀が現れたとなるとサイカ氏族の連中がさぞかし騒いでいただろうな」


「しかし、よくも神亀が現れたものだ」

「背中が妙にうずいたんです。ひょっとしたらと神亀に貰った宝珠を取り出してみると明暗を繰り返していました。慌てて海を見ようと甲板に出た途端に、海面が盛り上がって神亀が現れたんです」


「宝珠は神亀を呼べると聞いたことがあるぞ。宝珠を通して俺達を見ているともカヌイの婆さんが言ってたな」

「ナギサを通して神亀が見てるってことか。それは竜神様にも伝えられるんだろうな」

「そういうことだ。お前たちの様子もナギサを通して竜神様が見ているんだからな」


 2人が苦笑いをしている。

 良い兄貴達だと思うんだけどなぁ。バゼルさん達も笑みを浮かべているところを見ると、今のままで問題はないと思っているに違いない。


「出来たにゃ! ナギサのカタマランは私達でいっぱいだから、こっちに運ぶにゃ!」


 トーレさんの言葉が終わると同時にたくさんの料理が運び込まれた。

 これ全部食べられるかな?

 どう考えても10人前はありそうだ。

 嫁さん達が帰っていくと、桟橋の向こうからにぎやかな声が聞こえてくる。

 嫁さん達は嫁さん達で楽しんでいるなら問題はないか。


「結果は明日にでも長老に伝えた方が良いな。もちろんカヌイの婆さん達にもだ」

「カヌイの御婆さん達には火の神殿との間を取り持ってもらいましたからね。大きな借りが出来てしまいました」


「婆さん達は貸しだとは思わないだろうな。ナギサの手助けができたと喜んでいるはずだ」

「長老にしてもそうだろう。ナギサが何を目指しているかは俺達には分からんが、さすがは年の功だけあって俺達よりは分かるらしいからな」


 ここにきて少し分かったことがある。

 最初はネコ族が大陸と諍いを起こした時の為だと思っていた新たなこの島だったが、いろいろと考えてみるとアオイさん達が結んだ約定を改定させるためだったようにも思える。

 新たなリードル漁場ができたし、魔石をほとんど得られなかったサイカ氏族がシドラ氏族のリードル漁場を得ることができた。

 漁果も1割は増えるに違いない。1つ問題があるとすれば小魚漁をする氏族がいなくなってしまったが、大陸で沿岸漁をしている漁師たちが頑張ってくれるに違いない。

 それでも不足するようであれば、各氏族が数隻ずつサイカ氏族の島に集まれば良いだろう。

 それならしぶしぶでも、約定を交わした王国は改定に動いてくれるだろう。


 あまり紛糾するようなら、リードル漁で得られる魔石の数を減らすことになるのかな?

 商船の出入りを禁止することになれば、オラクルの島の畑が役立つに違いない。

 やはり稲作は細々とでも良いからやっておくべきだろう。

 先ずは育ててみることだ。少しでも収穫できたなら未来に繋がるに違いない。


「それで、明日からどうするんだ?」

「もちろん漁を始めますよ。ですが明日は休みます。長老にも話をせねばいけませんから」


「明後日なら、俺達と一緒でも良いだろう。小さい子が皆いるからなぁ。お雨の船に嫁さんと子供を預けられそうだ」

「それなら、俺も一緒に行くか。トーレとサディがいるなら嫁達も心強いだろう」


 カルダスさんは、しょうがない奴だ言う感じで苦笑いを浮かべている。

 嫁さんだけでなく俺達にとってもありがたい話だ。

 また皆と一緒に銛の腕を競えるということだからな。

 

「そういえば、ナギサは段々畑の下の池で稲を育てると言ってなかったか? 畑のように耕さなくても良いものかと、言っていた連中もいるのだが……」

「そうですね。確かに耕す必要はあるんです。まずが池の出口を作って水深を調節できるようにしないといけないでしょう。乾季ですから直ぐに池は干上がってしまうでしょうから、軽く耕しておけば十分だと思います。浅い泥池が理想です」


「なんとも、奇妙な池で育てるんだな? まあ、どうなるか分からんが、漁の合間に海までの水路を作れば問題はないだろう。お前達も手伝うんだぞ!」


 どんな形の水田になるのかな?

 きれいに区画された日本の水田のようにはならないだろうが、先ずは色々と試してみよう。


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