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P-201 まだ妊娠もしていないけど次も女の子らしい


 シドラ氏族の島から最後のシドラ氏族の民を乗せたカタマランが保冷船と共にオラクルに到着した。

 シドラ氏族が住んでいた島を、サイカ氏族に無事に渡すことができたようだ。

 シドラ氏族の島に新たに設けた2つの桟橋は、シドラ氏族の専用桟橋になるとのことだから、商船に買い物に出かけても困ることはない。

 

「これでサイカ氏族も貧乏氏族と言われることはないだろう。漁場も南東方向は2日までにすると言っていたそうだ」

「俺達も北西方向での漁は控えようと思っていたんだがなぁ。まあ、互いの漁場を荒らすことにはならんだろう」


 バゼルさんとカルダスさんの外に、ザネリさんやガリムさんまで俺達の船にやってきた。

 すでに氏族全員が揃ったことを浜で祝ったんだが、それだけでは満足できないんだろうな。


「少し不便ではあるが、欲しいものは保冷船に託せば10日後には手に入るからなぁ。ある程度はギョキョーでも品を揃えるそうだから、問題はあるまい。さすがに特注品はサイカ氏族の島に行く必要が出てくるが、そう何度も行き来することは無いんじゃないか?」

「銛もある程度揃えると言っていたぞ。まぁ、それほど種類が無くとも問題はあるまい。品揃えに満足しなければサイカ氏族の島に行けば済むことだ」


 手ごろな酒やタバコ、米や調味料さえ置いてあるようだ。

 ギョキョーの小屋も以前のような掘立小屋ではなく、ログハウスになっている。とは言っても、だいぶ開放的な作りではあるんだけどね。

 隣の倉庫の方が、一般的なログハウスに見えるんだよなぁ。


「石の桟橋にも木道ができたからなぁ。嫁さん連中が喜んでいるよ」

「燻製小屋と保冷庫が高台だからな。リフトとかいうものが無ければいろいろと文句が出ていたに違いない」


 石の桟橋には、簡易なクレーンまで作ったからなぁ。背負いかご2つ分ぐらいの荷物の移動ができるだけだが、保冷船からトロッコ、その逆の積み下ろしが格段に楽になった。

 最初のころは全員で手伝っていたんだが、今では浜にいる連中だけで済むらしい。

 これからどんどん便利になるんじゃないかな。

 なんといっても、シドラ氏族はこの島で暮らすことを望んだんだから……。


「ところで、ナギサはどこに向かうんだ?」

「まだまだタツミちゃんとマナミは屋形から出られませんので、近くの漁場に行ってみようかと」


 ザネリさん達が誘ってくれるんだけど、もう少しタツミちゃんに余裕が出来てからの方が良いだろう。

 俺に気を配って、船団全体の漁果が振るわないなんてことになったら、気の毒だからなぁ。

 

「半日ってところか。バゼルはどうするんだ?」

「今夜、長老達と相談だな。カルダスも、先走るんじゃないぞ」


 昔から漁の腕を競ってきた2人だからなぁ。2人で睨み合っていたが、しばらくして2人とも笑みを浮かべて互いにココナッツ酒を注いでいる。

 そんな2人を見た、ザネリさんが急に東に向かうと言い始めた。


「東に1日なら、サンゴの穴があるからな。まだ雨季は終わっていないが、雨が降らなければ素潜りも出来そうだ」

「ザネリが東なら、俺達は南ってことになりそうだな。少し先に行ってみよう。曳釣りができそうな海域がある」


「お前等の漁場には近づかんから、そんな心配そうな顔をするな。長老には俺から言っておいてやる」

「だが、漁果の報告はするんだぞ。ナギサのように1艘で出掛けるならそうでもないが、船団を組むとなれば話は別だ」


 とは言っても、俺の漁果に付いては後日バゼルさんが長老に話をするに違いない。

 1艘で出掛ける時には、だれかに漁の報告をして貰えば済むらしいからね。


 その日の夕食の時に、薄い座布団のような品をトーレさんがタツミちゃんへ渡していた。

 どうやら中に赤ちゃんを入れて包み込むようにして抱くための代物らしい。


「まだまだ首が据わらないにゃ。でもこんな風にして包めば首が動かないから、ナギサにも抱けるにゃ」

「いろいろとお気遣い下さってありがとうございます」


 礼を言ったら、謙遜を始めた。

 どうやら嫁に出した側の両親が送る習わしらしい。タツミちゃんの両親はトウハ氏族だからなぁ。親戚のトーレさんが肩代わりしたということのようだ。

 となれば、エメルちゃんが産んだら、カルダスさんが持ってきてくれるのかと思ったら、最初の子供の時だけだそうだ。

 1つあれば十分らしいけど、双子の時にはちゃんと2つ送る習わしだと教えてくれた。


「そういえば、カヌイのお婆さんが気になる話をしてたんです。次の女の子の名をどうするかと皆で相談するようでした」

「次も女のこにゃ! やはりアオイ様達と同じにゃ」


「おいおい、アオイ様のところには、アキロン様が生まれたんだぞ」

「アキロン様は例外にゃ。竜神様にも都合があったにゃ」


 都合で生まれる子供の性別が決まってしまうのは気の毒に思えるけど、カイト様も女の子ばかりだと昔教えて貰ったんだよなぁ。


「聖姿を持った親の子供にゃ。年頃になったら大変な騒ぎになるにゃ」

「いくら騒ぎが大きくなっても、マナミが好きな相手出ないと困ります。こればっかりは俺も譲る気はありませんよ」


 俺の言葉に、サディさんまでが笑い出した。

 親馬鹿ってことかな? でも、嫁ぎ先はマナミ自身に決めて貰おう。


「騒ぎはあるだろうが、マナミが決めることでもある。それに反対するようなら相手が折れるまで長老達が説得するのがネコ族の習わしだ。ナギサの心配はまるでないぞ」


 だとすると、一番苦労するのは長老達ってことになりそうだ。

 とはいえ親としても、嫁いで苦労するのが不憫だから反対するんじゃないかな。

 その苦労が無いように船団を組んで漁果がほぼ同じになるようにしているのかもしれないな。

 それにしても、十数年は先の話で盛り上がるんだから、ニライカナイは平和なんだろうな。


 あくる日。珍しく一人で早起きした俺は、海水で顔を洗う。

 タオルを差し出してくれたのは、タツミちゃんだった。まだマナミは寝ているみたいだな。


「マナミは、エメルちゃんが見ていてくれるにゃ。今日は私が朝食を作るにゃ」


 産後2週間も経っていないんだけど大丈夫なんだろうか?

 そんな心配をしていると、トーレさんがやってきてタツミちゃんを手伝い始めた。まだまだ活発に動くのは早いということなんだろうな。


「少しずつ体を慣らしていけば良いにゃ。でも、漁はしばらく我慢するにゃ」


 遠回しに今回の漁に付いて注意してくれているようだ。こんなところがありがたいんだよなぁ。

 桟橋の向こうから俺を呼ぶ声がした。

 顔を向けると、サディさんが手を振っている。

 バゼルさんもいるみたいだから、ちょっと挨拶してこよう。


「今朝は珍しく早起きだな。俺達も早めに出掛けるとしよう」


 バゼルさんが俺に顔を見て、笑みを浮かべながらつぶやいた。


「おはようございます。いつも起こされるまで寝てるわけではありませんよ。それに久しぶりの漁ですからね。漁果を気にせずに、まずは勘を取り戻さなくては……」

「ナギサなら、背負いカゴ2つ分は獲れるはずにゃ。ザネリもそれぐらいの腕が欲しいにゃ」


「ザネリさんを超えるのが俺の当座の目標です。それに船団を組んだ時もいつも全体に目を向けていますからね」

「本人の前では、控えろよ。調子に乗りやすいからな」


 ザネリさんの評価を聞いて、バゼルさんは嬉しそうだ。

 やはり、いつまでも子供だと思っているんだろうな。


「確かに銛は、しばらく休むと手元が狂うと聞いたことがある。だがお前ほどの腕なら、それほど衰えることも無いだろう。だが、そこで手を抜くと悪い癖が付くと聞いたこともあるぞ。まずは1匹突いてみて、それで自分の腕を確認することだ」


 忠告に礼を言い。サディさんの淹れてくれたお茶を楽しむ。

 ようやく朝日が上がった頃なんだろうけど、入江の桟橋からはまだ太陽が顔を出していないから涼しい風が心地良い。


 トーレさんの朝食ができたと呼ぶ声に、俺達は桟橋の反対側のカタマランに向かった。

 ブラドの炊き込みご飯に、少しから目のスープ。

 トーレさんの自信作だな。笑みを浮かべてさっそく戴くことにした。

 タツミちゃんが見えないのは、マナミの様子を見に行ったんだろう。

 

「夕食は温めれば食べられるにゃ。軽く炒めれば大丈夫にゃ」


 トーレさんがエメルちゃんに夕食の作り方を教えている。

 ちょっと魚醤を入れた炒飯も美味しいんだよなぁ。


 トーレさんが素早く朝食を終えると、お茶も飲まずに屋形の中に入っていった。

 すぐにタツミちゃんが出てきたから、子守を替わってくれたに違いない。


「まったく自分の娘ではないんだがなぁ……」

「女の子だからしょうがないにゃ。バゼルの子供は全員男の子だったにゃ」


 そういうことか。

 一番下がザネリさんだからなぁ。その上の4人ともたまに顔を合わせることもあるけど、皆が一様に「母さんの我儘に付き合ってくれて感謝する!」だったからなぁ。


 タツミちゃんが、さっさと朝食を終えると直ぐに屋形に戻っていった。

 残念そうな顔をしたトーレさんが直ぐに出てきたから、バゼルさんがポンポンと背中を叩いている。


「あまり無理をするなよ。漁はエメルと2人だけになるが頑張るんだぞ」

「もちろんです!」


 バゼルさん達に頭を下げると、桟橋に結んだロープを解く。それが終わったところで、選手に向かいアンカーを引き上げた。

 操船櫓に体を向けて手を振り、準備が終わったことを告げるとエメルちゃんが操船櫓から半身を出して手を振ってくれた。

 ゆっくりとカタマランが動き出した。

 屋形の中を通ってタツミちゃんに出発したことを告げながら、マナミのほっぺを突くと、マナミが目を開ける。

 俺をじっと見ているから、思わず笑みが浮かんでしまう。


「どこに向かうのかにゃ?」

「漁場まで半日とエメルちゃんに伝えただけなんだよなぁ……」


 俺の言葉に少し呆れた表情をしているんだよなぁ。


「たぶん、東だと思うにゃ。半日も行けば潮通しの良いサンゴの崖があるにゃ」


 そういえば、オラクルの周囲を散々調べたんだよなぁ。

 その海図をタツミちゃん達は使っているんだから、オラクル周辺の漁場の状況は誰よりも詳しいはずだ。


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