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P-179 たまには俺達3人で


 雨季明けのリードル漁を終えると、途端にオラクルの住人が少なくなる。

 20家族ほどの漁師と老人達になってしまう。

 乾季にやってくる船団の到着までには十数日は掛かるだろうから、交代で漁に出て燻製を保冷庫に蓄える。

 漁を休んでいる漁師達が近くの島からサンゴの欠片や砂を運んでくれるから、長く突き出た石の桟橋の回廊がだいぶ嵩上げしたように思える。


「この桟橋に木道は敷かねぇのか?」

「ギョキョーの小屋までは敷きたいですね。将来はぐるりと南に敷いて行って高台の広場までを考えているんですが、それは俺の子供の時代になるのかもしれません」


「ハハハ……。俺達は利用できねぇかもしれんか! だが、工事が始まるのは見ときたいなぁ」


 夕暮れの浜辺で焚火を囲むのはいつもの通りだ。

 人数が少なくなったけど、相変わらず食事は共同で作るからね。

 おかげでタツミちゃん達もいろいろと料理を覚えたし、味付けのコツも教わったみたいだ。

 相変わらず賑やかに調理をしてるんだけど、少し静かに思えるのはやはり暮らす住人の数が減ったからに違いない。


「乾季になれば素潜り漁だが、次はどこに向かうんだ?」

「案外近場がねらい目だぞ。半日ほど行ったところで、バルタックの群れを突いてきたと聞いたからなぁ」


「ナギサはどこに向かうんだ?」

「タツミちゃん達と相談です。俺としては東に向かいたいところですね」


 あの船だからなぁ……、といった顔で俺達のカタマランを眺めている。

 単独航海なら、半日で1日の距離を進めるからなぁ。


 全くアオイさん達は、よくもあんな船を作ったと感心してしまう。

 長老の話では、アオイさんとナツミさんとで5つの氏族の島を巡っていろいろな調整を行っていたらしい。

 各氏族が暮らす島は、中央のオウミ氏族の島を中心として東西南北にそれぞれ5日程度の距離があったらしいから、島を巡るために速い船を作ったのだろう。

 さらに速度を上げる時もあったというけど、それは神亀がカタマランを背中に乗せてくれたらしい。

 アオイさん達の子供達と神亀は中が良いらしく一緒に漁をすることも多々あったということだ。

 神亀に乗って、50匹を超えるグルリンを1日で突いたというんだから凄い話もあったものだと感心してしまう。

 伝説だろうと思っていたけど、俺達も神亀の背にカタマランを乗せてもらったことがある。

 カヌイのお婆さん達の話では月に1、2度はお立ち台から神亀の姿を見ることができるそうだ。

 お立ち台は東向きに作ってあるからねぇ……。タツミちゃん達が東に行きたいと言っているのは、案外神亀と会いたいからかもしれないな。


 翌日。今回は船団に加わらずに単独で漁に向かう。

 朝食もそこそこに桟橋を出発して、先ずは西に向かう。

 他のカタマランと速度を合わせる必要もないから、タツミちゃん達は速度を上げているようだ。さすがに西に延びた湾内では水中翼船モードに移行する速度は出さないようだけど、結構ギリギリなんじゃないかな。


 昼過ぎには漁を始めるから、2人の銛も準備しておく。

 柄を回してひずみが出てないことを確認すると、次はガムの状況を見る。最後は銛先を指で触って鋭く研いであることを確認した。

 日ごろから暇な時は銛を研ぐ習慣が出来てるからなぁ。錆びがどこにもない。

 これならバゼルさん達から、急に銛を見せろ! と言われても満足してもらえるだろう。

 素潜り用のマスクとフィン、それにマリンシューズなどは買い物籠に入れてあるから、船尾のベンチ兼物入れから出しておく。

 タツミちゃん達も買い物籠が便利の思えたんだろう。竹籠に自分達の装備を入れてあるから、それも出しておいた。

 先ずは手銛で挑戦してみるか。こっちの世界にやってきた当初は、オカズが増えるとトーレさんが呆れた表情をしてたけどね。

 だいぶマシにはなったと思っているし、オラクル近海なら魚もスレてはいないようだ。


「回頭して東に向かうにゃ!」


 露天操船櫓からエメルちゃんが大声で知らせてくれた。片手を振って了解を告げると、笑みを浮かべている。久ぶりに水中翼船モードで走れるのが嬉しいんだろう。


 速度が上がると、不意に浮き上がる感じがした。

 後ろに延びる航跡が2倍以上に広がって見える。

 結構速度があるんだけど、上の2人はだいじょうぶなんだろうか?

 麦藁帽子にサングラス姿で操船しているはずなんだが、ちゃんと防止の紐を結んでいるのかと余計な心配をしてしまう。


 まあ、操船は2人に任せておけばいい。

 周りの景色を楽しみながら、のんびりとタバコを楽しんでいよう。


 3時間ほどカタマランを走らせると、ゆっくりと速度を落とし始めた。

 漁場にやっては来たんだろうが、どこで漁をするか考えながら進んでいるのだろう。

 ベンチから腰を上げると、舷側から海底の様子を眺める。

 偏光レンズのサングラスなら、水面反射がないからなぁ。水底の様子が良くわかる。


 サンゴの崖というより、かつては幾重もの不快溝があった場所にサンゴが取り付き繁茂した場所のようだ。

 うねるような段丘が南北に続いている。

 潮通しも良さそうだから、回遊魚も期待できそうだな。夜はシメノンだってやってきそうだ。

 取らぬ何とかだとは分かっているけど、期待がどんどん膨らんでしまう。


「ザバンを引き出すにゃ。船尾でロープを繋ぎ変えてほしいにゃ!」

 

 操船櫓からタツミちゃんの声が聞こえてきた。


「分かった! 中々良い場所だ」

 

 水中ジェットのような魔道機関を搭載したザバンはカタマランのお腹に抱えられている。ガタンと音がすると、カタマランがゆっくり動き出す。

 取り残されたザバンが船尾から姿を現してきた。

 船尾の取り込み口の板を外側に倒して、ザバンの船首に丸めておいたロープをジャグで引っ掛ける。ロープを船尾に結び付けたところで、緩んだザバンの引き出し用ロープの先端のフックを外して同じように船尾に結んでおく。

 

「ザバンは用意できたよ!」

「船首のアンカーをお願いするにゃ!」


 停船時は結構忙しい。屋形の中を通って船首に向かうとカタマランはほとんど動きを停めていた。

 露天操船櫓からエメルちゃんが下ろせと合図を送っているのを見て、すぐにアンカーの石を投げ込む。ロープの目印を注意深く数えて水深を確認したが、どうやら6mほどの深さのようだ。

 海底が大きくうねっていたから、最深部は8m近くあるかもしれないな。

 船首付近から眺めただけでも、大きさが2m近いテーブルサンゴがあちこちにある。

 ブラドなら間違いなくいるだろう。バヌトスやバッシェも期待できそうだ。

 高価な魚を期待せずに、量を稼いでみよう。


 船尾の甲板に向かうと、タツミちゃん達も操船櫓から降りていた。

 2人の用意が終わる前に、ザバンに保冷庫代わりの木箱を乗せると木箱の両側をザバンの横木にガムで固定しておく。

 両端にフックの付いたガムの帯だから簡単に取り付けられるし、厚手の横木がしっかりと木箱を支えてくれる。

 

 タツミちゃん達がさっさと準備を終えると、自分の銛を持ってザバンに乗り込んでいった。


「どの辺りで漁をするんだい?」

「南に向かうにゃ!」


 それなら俺は少し帆菓子で漁をするか。

 銛を手にして、シュノーケルを咥える。甲板からダイブしてシュノーケリングをしながら東に向かう。


 いるいる……。どれから突くか迷うところだ。

 そんな中、大きなテーブルサンゴから顔を出した大きなブラドの頭を見つけた。

 先ずは、あれからだな……。


 銛の柄に通した竹筒を銛先に向かって引く。

 50cmほど引くと、かちりとロックが掛かった。後はトリガーとなる柄を握れば銛が滑るように突きだされる。

 シドラ氏族の漁師たちはトウハ氏族の流れを組むらしいから、素潜り漁での銛の腕は俺よりもはるかに上手だ。

 少しでも近づくように銛を改造した成果なんだが、バゼルさん達はこの仕掛けを使うことはない。

 それだけ自分達の腕に自信があるのだろう。たまに俺に銛を借りて漁の振るわない漁師に教えているようだ。

 そういう意味では、いまだに俺の腕はシドラ氏族の中では低いということになるんだろうな。


 銛を伸ばして獲物にできるだけ近づき、トリガーの取っ手ごと竹筒を握る。

 シュン! と勢いよく飛び出した銛が、狙いたがわずブラドのエラの上を射抜いた。

 力づくでサンゴから獲物を引き出すと、そのまま海面に浮上する。片手を振ると、すぐにエメルちゃんがザバンでやってきた。


「大きいにゃ!」

「こんなのばかりだよ。最初はタツミちゃんが突いてるのか」


「2匹ごとに交代するにゃ。次はもっと大きいのが良いにゃ!」


 直ぐに西に向かったのは、タツミちゃんが手を振っているからだろう。

 このペースで漁ができると、背負いカゴ4つぐらいになるんじゃないか?


 3時間ほどの素潜り漁を終えると、タツミちゃん達は夕食を準備する。

 その間に、夜釣りの準備をするのは俺の仕事だ。

 夕暮れが迫ってきたところで、ランタンに魔法で光球を入れる。露天操船櫓と甲板の上に突き出した帆桁に吊るしておいた。

 もう1つランタンがあるが、これは状況に応じれば良いだろう。

 すっかり準備が終わると、船尾のベンチでパイプに火を点ける。

 今夜は上弦の月だ。三日月だから夜釣りを終えるころには沈んでしまうに違いない。


「今夜は団子スープに蒸したバナナにゃ!」

「夜釣りが終わったら夜食も食べられそうだね!」


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