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P-177 雑用が多いなぁ


 オラクルでの漁の頻度は、およそ1週間に1度ほどの頻度だ。

 乾季よりも頻度が増えたけど、雨季の漁果が乾季ほどじゃないからね。

 それに、10日程の頻度でオラクルを訪れる保冷船が来るから燻製を蓄える上でもそれが丁度良さそうだ。

 船団は4つではなく6つ作られ、7隻ほどが一緒に行動している。俺の場合はザネリさんと一緒だ。ザネリさんの若手指導の対象ってことだな。


 2度ほど漁を終えて帰ってくると、いつものようにタツミちゃん達の漁果運びを手伝いに高台の階段へと足を運ぶ。


「漁はどうだった?」


 声の主に顔を向けると、カゼルニさんがベンチ代わりの丸太に腰を下ろしていた。


「雨季ですからね……。それでもシメノンの群れに遭遇したんで、どうにか2カゴというところです」

「シドラの本島なら、大漁だと胸を張れるぞ。…だが、オラクルならカゴ3つ以上でないとそんなことは言えんだろうなぁ。

 それより、見てくれ! どうにか掘り下げたぞ。次の保冷船が肥料を運んでくれる。畑から運ぼうとしたら、ダメだと言われてなぁ……」


 奥行2.5m、横5m。深さは1.2mほどもある。

 たっぷりと俺達が作っている石の桟橋に砂利を運んでくれたからなぁ。かなりの大きさだ。

 この前雨が降ったけど、底に溜まっていないのは岩の割れ目に浸み込んでいったに違いない。水捌けは問題なさそうだな。


「それで、どれぐらい肥料を頼んだんですか?」

「植えるのが6本だから、6袋だ。問題は土なんだが、小さい方の台船を借りて運んでいる。2度運んで肥料袋に入れてあるんだが、まだまだ足りねぇだろうなぁ」


 掘るのも大変だったけど、土運びはもっと大変だろうな。少し大きな島に出掛けて土を掘り起こしても直ぐに下地が出てしまう。

 オラクルの畑だってそうだからなぁ。おかげで初期に土を大量に買い込んだぐらいだ。

 今では商船に頼まずに近くの島から運んでいるようだ。


「畑作りをやってる嫁さん連中には頭が下がるよ。よくもあれだけ畑を広げたものだと感心してしまう」

「その苦労が、実って野菜が食べられますからねぇ。でも、さらにオラクルに人が増えることを思えば、カゼルニさんのココナッツ林を皆から称賛されると思いますよ」


 なんと言っても、浜での貴重な日陰になる。

 今の穴を広げるか、近くに同じような穴を掘ってココナッツを移植すれば良い憩いの場ができるだろう。

 縁台でも置けば、昼寝もできそうだ。

 高台の広場には日陰にいくつか置いてあるけど、たまに長老が昼寝をしているらしい。


「先は長いってことか……。まあ、子供達に残せると思って頑張るしかないな」

「俺達も、そう思って石を積んでるんですが……、もう2年を超えてますからねぇ」


 本当に長く感じる。俺の青春は石積だったと言ったら、向こうの友人達はどんな罪を犯したんだと思われそうだな。

 だがこの桟橋は、俺達が氏族のために作っている。

 保冷船の着岸も石の桟橋なら容易だろうし、何と言っても荷を運ぶのが格段に良くなる。

 慌ててカタマランを桟橋から退けて、保冷船の接岸部を開けるようなわずらわしさもなくなるはずだ。


「ナギサ! 手伝ってくれ」


 高台から、ザネリさんの声がする。

 返事を反すと、カゼルニさんに頭を下げて階段を昇って行った。


 どうやら、クレーンの巻き取りに人手がいるみたいだな。

 3人ほどでロクロを回して、次々とカゴを高台へ上げていく。

 同年代の嫁さん達と話をしながらタツミちゃん達が階段を上ってくると、クレーンの脇に並べたカゴから自分のカゴを見つけて、燻製小屋の方に向かっていった。


 まだ、カルダスさん達の真鍮の線路はここまで延びていないようだ。

 あれができたなら、格段に楽になるんだけどなぁ。

 

 乾季と異なり、ほぼ3日おきに次の船団が漁に出掛け、出掛けていた船団が戻ってくる。

 燻製小屋が3つあるし、保冷庫も3つ作ったからいくら漁果を運んできても、雨季なら問題はないようだ。

 あるとするなら……。


「ザネリ、砂を運ぶついでに薪も運んでくれねぇか? 島の木々は残しときたいからなぁ」

「台船1つ分で良いんでしょうか?」


「とりあえずはそんなもんだ。年寄連中が炭焼きをしたいと言ってたから、台船1つ分もあれば足りるだろう」


 いつの間にか炭焼き小屋を増設したみたいだな。

 カタマラン暮らしではカマドの燃料は炭になる。保冷船でも運んでくるんだが、確かにそれぐらいは自前でなんとかしたいところだ。

 

「量が必要なら台船2隻で出掛けても良いんじゃないか? 俺達だって使うんだし、小枝は浜での焚火に使えるからなぁ」


 俺達の輪から直ぐにカルダスさんは引き上げたんだが、残った俺達はその依頼をどのようにして行うかの話し合いが始まる。

 毎日のように砂利や砂を運び、石を積む生活だからなぁ。

 たまに漁には出掛けるけど、確かに飽きてきてるんだよね……。

 なんだかんだと皆がココナッツ酒を飲みながら話をしてるんだが、結局のところ皆が炭焼きに使う薪を採りに行きたいってことなんじゃないかな。


 ザネリさんも、その辺りは分ってるんだろう。

 結局は皆で出掛けることになったぐらいだ。

 となると次は、どの島に向かうかになる。

 炭焼き用の木は、広葉樹で腕の太さぐらいの木が一番らしい。木を切り倒してその場で3YM(90cm)ほどの長さに揃えて運ぶとなれば、海岸で作業ができて、かつ台船を岸近くまで移動できる島ということになる。もちろん大きな島ということが大前提だ。そうでもしないと、島の木々が半減してしまう。木々が育つのは早いということだが、1度広い範囲で伐採するともとに戻るまでかなり時間が掛るらしい。

 

「南に1日も行かずに大きな島があるぞ。平たい島だから丁度良いんじゃねぇか?」

「あれか! 確かに良さそうだが、遠浅だぞ」


「台船までザバンで曳くぐらいは嫁さんに任せられるだろう。ロープを巻いて嫁さんに渡せば曳いてもらえそうだ」

「俺のザバンは魔道機関が付いてます。それで曳いていけば問題ないでしょうけど、台船への引き上げが面倒ですね」


「それは……」と別の案が出てくる。

 台船に嫁さん達数人を乗せておけば何とでもなるとのことだが、さてどうなんだろうな。


 いつもより遅くまで焚火の周りで話が弾む。

 カタマランに戻った時には、タツミちゃん達はすでにハンモックで寝息を立てていた。


 翌日。朝食を食べながら、タツミちゃん達に炭焼きに使う薪を運ぶことを告げた。

 やはり仕事に変化があるのが嬉しいのだろう。笑みを浮かべて準備すると言ってくれたけど、準備と言っても食料だけだよなぁ。

 3日分もあれば、十分だと思うんだけどね。


「3日、留守にするってか? どこまで出かけるんだ?」

 

 夕食後、いつものように焚火を囲んでいる時にザネリさんがカルダスさんに計画を話したらしい。ちょっと呆れた声がこっちまで聞こえてきた。

 どうなるんだろうと仲間達と見守っていると、最後にザネルさんの肩をバシバシと叩いて笑っていたから計画は了承されたに違いない。


 俺達のところに戻ってくると、「明日の朝、出掛ける」と指示が出た。

 若手は俺を含めて16人だ。家族を入れると50人を超えるんだが、全員で出掛けることをカルダスさんは了承してくれたみたいだな。


「最初は渋ってたんだ。漁から帰ってくる船団もあるし、そろそろ次の保冷船もやってくるだろうからね。だけど3日目には帰ると言って無理を聞いて貰ったよ」


 交渉能力も将来の筆頭、長老には欠かせない要素に違いない。

 案外、カルダスさんが渋っていたのは、そうすることでどんな話をしてくるかを見たかったのかもしれないな。


 翌日。10隻近くのカタマランに15家族が分乗してオラクルを出発する。

 一際大きな俺達のカタマランが台船を引くことになったが、他のカタマランでは2隻で曳くことになるだろう。

 荷を満載しても俺達のカタマランなら問題ない。


 俺より1つ年下のトラムが嫁さんのイーネを連れてやってきたけど、イーネさんの方はタツミちゃん達と一緒に露天操船櫓に登ってしまった。

 俺とトラムの2人が船尾の甲板でパイプを使いながら周囲を眺めている。


「とんでもなく大きいですね。俺も早く大きなカタマランが欲しいですよ」

「2人目を貰うのも直ぐなんだろう? あまり無理をしない方が良いよ。オラクルのリードル漁は中位魔石が多く獲れるんだ。シドラ氏族の本島で暮らす友人達よりは早く手に入ると思うな」


「それを聞いて応募したんです。でも、毎日が石積ですからねぇ……」

「そこは諦めるんだね。でも、漁から戻って3日間だけだろう? 次の漁があるんだから、普段の暮らしで貯えを使うことは無いように思えるけど」


「確かに溜まる一方です。次の乾季には友人達もやってくるでしょう。さすがにまだ2人目は貰わないと思ってるんですが」


 2人目となると、オラクルで巡り合う機会は少ないということになるんだろうか?

 独身の娘さんも少しはいるようだけど、多くは子供達だからなぁ。

 長老と会う機会があったなら、その辺りも提言したほうが良いのかもしれない。

 オラクルの開発を行うことで、若い連中の婚期が遅れるようなことになったら、別の問題が出てきそうだ。


 半日ほど南に船団が進むと、平たい島が見えてきた。

 結構大きな島だが、山がないからなぁ。水場があれば、暮らすこともできそうだ。

 さて、この島の一番大きな問題は遠浅ということになる。

 島から200mほど離れた場所にカタマランを泊めて、台船を島に近付ける。

 台船にも小さな船外機が付いているけど、俺のカタマランには水流をジェットのように噴出させて進ませる装置が搭載されている。

 よくもこんな仕掛けをアオイさんは作ったものだ。

 カタマランと台船をロープで結び、島へと曳いていく。


「停めてくれ!」

「了解!」


 台船からの指示でザバンを停める。

 後ろの台船からアンカーの石を投げ込む音が聞こえてきた。

 渚から30mというところだな。水深は俺の膝付近だから、これ以上台船を近付けると船外機のスクリューが砂を噛んでしまうだろう。

 渚から台船までは人力で運ぶことになりそうだ。


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