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P-176 熱して冷やせば岩は割れる


 ココナッツの林を作るのは、カゼルニさんとトレンドさんという幼馴染が仲間3人とともに行うらしい。

 嫁さん達も一緒のようだから総勢15人なんだが、子供達もいるからなぁ……。賑やかに穴掘りを始めたようだ。

 たまに1輪車で子供達が出てきた砂利を俺達の桟橋に運んできてくれる。


「なんともありがたい話だな。あそこに大きな穴を掘るなら、かなり砂利を運んで貰えそうだ」

「台船1台分と思っていたんですが、それよりも多くなりそうですね。とはいっても俺達の方はまだまだ足りませんからね。カルダスさんの方からも、集めてこいと言われてますし……」


 モノレールの足場を固めるのに使うそうだ。おかげで俺達の半分が砂と砂利運びに台船で向かっている。

 海中での石積みは結構疲れるからなぁ。休憩を頻繁に取っているので、嫁さん達の目がちょっときついように思えてしまう。


「さて、そろそろ再開するか。だいぶ高くなってきたからなぁ。このまま進めば次の乾季には完成できるんじゃないか」


 リーダーのザネリさんの言葉に、俺達は腰を上げる。

 もう少し小さいのを作るべきだったかと思う時もあったけど、完成まじかになると、もう少し大きく作ればと思ってしまうんだよなぁ。

 もっとも、これだけ大きく作っておけば、商船がやってきても停泊できるし、ニライカナイの氏族が共同で運営している大型船団の母船も停泊させることができるだろう。

 母船の停泊は、生鮮野菜の供給や飲料水の確保を考えると是非とも必要なことだ。

 水深が結構あるから問題なく停泊できるだろう。

 もっとも、年代が重なると、あちこちに植えたサンゴが繁茂して水深が浅くなるかもしれないが、その時にはサンゴを移植して水路を作れば問題はあるまい。


 握りこぶし3つ分ほどの石を重ねながら、水面を眺める。

 水面まで1mにも満たない。

 水面から上なら仕事も捗るんだが、今季は我慢することになりそうだな。


 日が傾くと作業を終えて焚火を作る。腰を下ろす前に、穴掘りの状況を眺めに行くと、腕を組んでカゼルニさんが立っていた。


「どうだ。結構掘れたと思ってるんだが?」

「下の岩は硬いんじゃないかと思ってたんですが……」


「結構ツルハシで砕けたからなぁ。だが、あれが問題だ。ツルハシを打ち込んでも跳ね返されちまう。ここまでかと思っているんだが、なんか方法があるなら教えて欲しい」


 岩を砕く方法と言ったら、削岩機やダイナマイトってことになりそうだな。火薬があるんだからそれも方法の1つではあるんだが……。


「いくつか方法がありますが、簡単な奴から試してみましょう……」


 地面に棒で絵を描いてやり方を説明する。

 方法は日で炙って急冷するやり方だ。岩が単一成分でないことから熱膨張と冷やした時の収縮率が異なることを利用することになるんだが、理解してくれたかな?


「岩が赤くなるぐらいまで薪を燃やして、その後で水をぶっ掛けるんだな。1度でダメなら何度か繰り返してみよう。面白そうだから魚でもついでに炙ってみるか……」


 岩を熱しながら宴会でもするのかな?

 とりあえず、それでやってみてダメなら長老と相談だ。火薬の使用はかなり慎重に行われているに違いない。


 翌日。俺達が台船で砂を運んでくると、浜の奥で盛大に焚火が作られているのが見えた。


「いくら何でも、少し早いんじゃないか? カルダスさんに怒られるぞ!」


 ザネリさんが浜を眺めて呟いている。


「あの焚火は、目的があって焚いてるんです。ココナッツの林を作る計画は知ってるでしょう? 苗を植えるのにあの辺りを掘り返したら、かなり大きな岩が出てきたそうなんです」


「ココナッツの林の話は聞いたぞ。早くできると浜にも日陰ができるんだがなぁ。だが、大きな岩と焚火の関係が分からないんだが?」


 ザネルさんに、岩を熱して水を掛けると岩が割れることを教えることになってしまった。理由を説明するのは面倒だから、昔から伝わる技だということにする。


「なるほどなぁ。そんな話は聞いたことがないが、そうなると夕暮れ前にはあの焚火に水を掛けるんだな。楽しみにその時を待っているか」


 ちょっとしたイベントは、俺達の楽しみでもある。

 昼から浜で大きな焚火を作っていることは、すぐにオラクル中に知れ渡ったようだ。

 日が傾くにつれて、焚火を遠巻きにする暇人が集まってくるんだけど、皆今日の仕事は終えてるんだろうか?

 高台の上に作った見晴らし台には長老の姿も見えるんだよなぁ。


「ナギサ!」


 ふいに太い声で呼ばれて振り返ると、カルダスさんが腕を組んで笑みを浮かべている。

 やはり、昼から盛大に焚火を作ったからなぁ。犯人が俺だとすぐに知れてしまったようだ。


「済みません。相談もせずに……」


 とりあえず謝っておこう。


「なにを言う。それより面白いことを始めたな。話が長老にまで伝わってあの通りだ。カゼルニから聞いた話では、岩が赤くなるぐらいに焚火を作るとのことだが、その後で水をぶっ掛けるんだろう? そのタイミングはナギサが判断することになるんじゃねぇか? 皆が桶を持って待ってるんだ。そろそろ頃合いだと思うんだがなぁ」


 思わず拍子抜けした感じだ。

 カルダスさんも、面白いから参加したいってことなんだろうな。

 あの焚火を一気に消してその上で石を急冷するんだから、」確かに大勢で水を掛けたほうが良いだろう。

 よく見ると、桶がかなり浜に置いてある。10個以上はありそうだな。


「そうですね。あまり日が傾くと、今度は小母さん達から見られなかったと文句を言われそうです。でも、俺の住んでたところで昔やっていた方法ですよ。今では廃れた技ですから岩が割れないかもしれません」


「やる前から失敗することを考えるのは良くねぇぞ。失敗したら次の方法を考えれば良い。俺達種族は失敗を恐れることはない」


 常に前を向く種族ということになるんだろうな。それは戦闘民族として大陸で覇を競った時代からのものに違いない。

 とはいえ、こんな状況の時にそんな考えができるのが羨ましくもある。

 俺には失敗するかもしれないと、尻込みするところがあるようだ。

 普段の暮らしでは、2人の嫁さんが背中を押してくれるんだけどね。


「そうですね。それでは始めますか!」


「おうよ! お前らも、一旦仕事を終えて、浜に集まれ。桶があるなら持ってくるんだぞ。海水ではなく、真水をたっぷり運んであるからそれを汲むんだ」


 ザネリさん達が砂を運んでいた桶を持って浜に向かう。俺は一足先にカルダスさんに連れられて焚火の下に向かった。

 焚火の中を見て驚いた。本当に岩の一部が赤くなっているように見える。

 部分的に色が変わっているのは、微妙に岩の成分が異なるせいなのだろう。これなら何とかなるんじゃないか。


「皆さん、聞いてください。これからカルダスさんの合図で一斉に水を焚火の中に岩に掛けてもらいます。

 焚火に掛けるんではなく、岩ですからね!

 掛けたら、急いで離れてください。場合によっては岩が砕けて周囲に飛び散ります。

 それじゃあ、カルダスさん。後をお願いします!」


「俺に合図を任せるってか! まあ、良いだろう。その前に、カゼルニ、焚火を岩からどかしてくれ。丸太が邪魔で上手く掛けられんからな。

 嫁さん連中は、少し離れてくれ。ナギサが念を押すぐらいだ、岩が飛び散って怪我背もしたら大変だからなぁ」


 やはり筆頭の言葉は重いのだろう。それに大声の持ち主だからなぁ。

 焚火が岩から横に移動して、焚火を囲む人達がかなり後ろに下がってくれた。


「さあ、いよいよだ。桶にたっぷりと水を入れたな。俺の合図で一斉に岩に水を掛ける。掛けたらすぐに後ろに下がるんだ。そうだなザバンの長さよりも後ろにだ。

 行くぞ、3……、2……、1……、いまだ!」


 十数個の桶から一斉に水が掛けられた。

 シュゥゥ……という音とともに,ビシッ、ビシッと何かが割れる音がする。

 バチッという音がして岩の砕けた破片が飛び散り始めたが、それほど多くはない。


「次を掛けるぞ! 準備は良いか」


 カルダスさんはまだ掛ける気だ。

 これで十分だと思うんだが……。


 再びカルダスさんの合図で水が掛けられた。

 バチッバチッという音が最初より大きく聞こえ、一際大きな音を立てて岩にいくつかの亀裂が入った。


「まだまだ水はあるんだろうな? あの割れ目に向かって水を掛けるぞ!」

 

 さすがに3度目は岩も冷えてしまったんだろう。あまり岩が割れる音が聞こえてこない。

 これで終わりだな。

 湯気を上げている岩はまだかなり熱そうだ。

 明日には冷えるだろうから、のんびり撤去できそうだ。


 今夜の焚火は、岩を熱した焚火の燃え残りを使ったようだ。いつもより煙が多い気がするんだよなぁ。

 その煙を避けるようにして、皆が焚火に集まりココナッツ酒を酌み交わしている。

 いつもより賑やかなのは、ツルハシでも歯が立たなかったような岩を砕く方法を知ることができたからなんだろう。


「皆で一斉に水を掛けた時は、見ものだったなぁ……」


 そんな会話が、あちこちから聞こえてくる。

 ポン! と俺の肩を叩いてカルダスさんが隣に座った。

 半分ほどに減った俺のカップに並々とココナッツ酒が注がれる。

 ネコ族の人達は酒好きだからちょっとした感謝の印になるんだろうけど、俺にとっては拷問に近い。

 それでも、「ありがとうございます!」と苦笑いを浮かべて頭を下げる。


「それにしても、あんな方法があるとはなぁ……。代々伝えておくべきだろう。たまに畑を作ろうとして岩にぶつかることがあるようだ。焚火と水を用意すれば良いというのは、実際やってみて初めて分かったからな」


「それでもダメな場合はあるでしょうね。でも、ネコ族の人達はその解決策を持ってるんですよ……」


 火薬を使って爆破すると言ったら、カルダスさんが飲んでいたココナッツ酒を噴出してしまった。


「……全く、脅かすんじゃねぇぞ。大砲の球は、大砲の中の火薬が爆発することで飛ぶとは教えて貰ったが、岩を砕くこともできるってことか!」


「俺が住んでいたところでは、大きな穴を掘ったり、岩山を砕いたりしてました。戦にも使われてましたが、平和と争いごとのどちらの方がよりたくさん使われているかは、俺も良くわかりません」


 案外、戦争以外での火薬の消費量は多いんじゃないかな。

 もっとも、地球上のどこかで常に争っていたから、平和目的での使用が多いとも言えないんだよね。


「身近に使われていたってことか……。だからカイト様はこの世界で簡単に作ってくれたのだな」


「初期の火薬ですけど、材料さえ手に入れれば簡単ですからね。あの火薬の威力に満足できなくて、どんどん威力を上げていったのが俺が住んでいた世界です」


 大規模な鉱山開発がすすめられたのはTNT火薬の発明によるものだろう。化学の時間に軽く先生が触れてくれたけど、安定化させるのが大変だったらしいからなぁ。

 だが、ニトロ化は比較的容易に行えるらしい。

 硝酸があれば良いようだ。だけどこの世界で硝酸を作るのはなぁ……。それに、使い道にも困るだろう。

 やはり黒色火薬で十分対応できるぐらいが理想なんだろう。

 より高性能の火薬が戦に使われるのは避けるべきだ。


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