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P-174 雨季組が到着していた


 2日間の漁を終えてオラクルへとカタマランを進める。

 1日半の航程だから、今日の昼過ぎには到着するはずだ。

 西の方の雲行きは少し怪しいところがあるけど、夕暮れまでは持ってくれるだろうとタツミちゃんが言っていた。


 そろそろカルダスさん達がやってくる頃じゃないかな?

 いろいろと資材を頼んだから、その一部を先行して運んでくれるに違いない。かさばるものは保冷船が運んでくるのだろう。


 漁果を分別小屋へと運ぶ方法は、いろいろと考えた末にモノレールを使用することにした。

 山間部の荷役に多用されているし、一度じっくりと見学させてもらったからね。

 人が乗って運転することもできるけど、初期の自動化ともいえる代物だ。

 モノレールを挟みこんでいる車輪のクラッチレバーを、モノレール沿いに置いた棒に接触させることで動力の伝達を切る方法が使えそうだ。

 ドワーフ族ならギヤボックスの構造ぐらいは理解できるだろうし、クラッチ構造はカタマランの魔道機関にも使われている。

 運べる量は、背負いカゴが2つ入る箱を3つ連結したものを採用することにしているが、動力に余裕があるならもう1つぐらい繋げることもできるだろう。

 

 高台に登る階段近くにあるギョキョーの小屋近くから、分別小屋に先ずは1本引いてみるつもりだ。

 帆走能力が足りない場合は、さらに1本追加すれば良いだろう。

 食糧倉庫にも1時停止させることで、木道を走るトロッコ並みに使えるんじゃないかな。


「北西に船が見えるにゃ!」


 エメルちゃんの声を聴いて、屋形の屋根に上って確かめてみた。

 1隻だけだし、大きいから保冷船ということになるんじゃないか?


「保冷船にゃ! こっちの方が船足が早いから先にオラクルに着くにゃ」

「そうなると、カルダスさん達は先に付いてるかもしれないね。何隻率いてきたのか楽しみだ」


 漁果を判断してくれる人物が現れたから、長老のログハウスが賑わうんじゃないかな。

 現行の5日間の出漁や船団の再編成だって考える必要があるだろう。

 それに、島の開拓事業だっていろいろとあるからなぁ。優先順位を見直すことだって必要だろう。


 ある程度、課題をまとめておこうか……。

 オラクルに到着するまでには、まだ2時間以上あるだろう。

 パイプを楽しみながら目に纏めていく。

 箇条書きしただけでも10項目を超えていた。

 特に重要と考えるものに、「〇」を付けておけば、長老に呼び出されても直ぐに本題に入ることができるだろう。


 ふと顔を上げると、ロウソク岩が横に見えた。

 桟橋まで20分というところだろう。

 メモを腰のバッグに詰めると、船尾のベンチから腰を上げる。

 2人の背負いカゴを船首の甲板から運んでおこう。船を繋ぐロープも準備しなければいけないし、干渉用のカゴもそろそろ舷側に下げておいても良さそうだ。


 バウスラスターを使って桟橋に横付けすると、船首のアンカーを下ろして桟橋の柱にカタマランの前後をロープで結ぶ。

 作業を終えたところで桟橋からタツミちゃん達の作業を眺める。

 保冷庫から一夜干しを取り出しているけど、2カゴで終わりになりそうだな。

 シドラ氏族の島では豊漁と呼ばれるだろうが、オラクルの乾季の漁果を知っているからなぁ。

 ちょっと少ないな……、と考えてしまう。


「やはり雨季だから仕方がないにゃ。とりあえず分別小屋まで運ぶにゃ」

「高台への荷役があるから俺も行くよ。カタマランが沢山浮かんでるから、カルダスさんも来てるに違いないからね」


 高台までの階段を荷を背負って昇るのは重労働だ。簡単なエレベーターとクレーンを作ってはあるんだが、操作するのは俺達男性だからなぁ。

 すでに何人かの女性が、カゴを背負って階段方向に歩いているようだ。

 タツミちゃん達も、カゴを背負うと桟橋を歩き始めたから、急いで後を追いかけた。


「やってきたな。漁果の方はザネリに任せてナギサは少し付き合ってくれ」


 高台の階段口に立っていたのはカルダスさんと同じ年代の2人だった。

 2人を何度か見たことはあるんだけど、生憎と名前を思い出せない。


「長老への報告ですか?」

「それは船団の筆頭がやってくれる。どちらかというと、島の状況とナギサが次に何を考えているかを知りたい。

 長老の前では、否定することが難しいからなぁ。事前の口裏合わせだな」


 なるほど……。

 確かに俺の提案を、長老はその場で裁可してしまう。長老の裁可は氏族内では絶対だから、あまり反論ができないということなんだろう。

 長老は意見を求めることはあっても、「反論はあるか?」とは言わないからなぁ。


「漁果も気になるところでしょう。近くで状況を見ながらで良いでしょうか?」

「そうだな。あの辺りなら小屋も多い。一服しながらで十分だ」


 4人で階段を上り、先に分別小屋へと歩き出す。

 分別小屋にはすでに何人かの小母さん達がザルを広げて漁果が届くのを待ち構えている。

 そんな小母さん達にカルダスさんが軽く手を振ると、木陰のベンチに向かった。

 南国だからなぁ……。すぐに暑くなる。直射日光が当たらないとそれなりに過ごしやすいのがこの辺りの気候だ。


「雨季だから、それほど漁果は無かったろう?」

「生憎と雨に祟られまして、カゴ2つがやっとです」


「カゴ2つなら乾季でも豊漁だぞ!」

「ここじゃぁ、そうでもねぇ。カゴ4つってこともあるからなぁ。確かに伸びなかったな。素潜りが出来ないとなれば延縄か……」


 延縄とカタマランからの釣りの話をすると、パイプを煙らせながら何度も頷いている。

 次の漁に出る連中への忠告を考えているんだろう。

 島の筆頭ともなると、漁師全体の事を考えなくちゃならないからなぁ。

 10隻程度の船団の筆頭とはわけが違う。


「次の保冷船がナギサの望んだ積み荷を運んでくるんだが、商船のドワーフが悩んでいたぞ。変わった車に、パイプだからなぁ。真鍮の分厚いパイプは結構な値段だったが、ナギサの魔石を使ったぞ。これが残りだ」


 腰に下げた帆布製のバッグから、革製の子袋を出して渡してくれた。

 魔石の売り上げの残りということになるのだろう。タツミちゃんに渡しておこう。


「トロッコに変わるものということで考えたものです。雨季に何とか作りたいですね。パイプを利用して動くトロッコという感じになると思います」

「それで魔道機関が付いてるのか! だがトロッコよりも小さいように思えるんだが?」


「人を乗せませんから、あれでも1つの箱にカゴ2つを乗せられるはずですよ」

「人を乗せなくとも動くのか?」


 ちょっと驚いているようだ。

 ある意味実験的なところがあるから、私費を使って作るつもりだ。便利に使えるようなら氏族の協力を得れば良いだろう。


「まだまだ石の桟橋は完成しませんが、高台から姿を見ることができるようになりました。俺達若い連中で、何とか作り上げるつもりです」

「パイプを繋いでいく仕事と、排水路に灌漑用のパイプの敷設は俺達ってことだな。

 バゼルがかなり進めたようだが、まだまだ畑の下には届いていねぇだろう。任せておけ……。おお、やってきたぞ! カゴ2つなら1つの燻製小屋の棚だけで十分だな。夕暮れ前に火を入れられそうだ」


 数人の嫁さんがカゴを担いでくるのが見えた。

 分別小屋の小母さん達が走り出したのは手伝うつもりなんだろう。

 俺達が手伝うと「じゃまにゃ!」と言われてしまうんだよねぇ。

 見てるしかないんだけど、いつもこれで良いのかと考えてしまう。


 次々と大きなザルに背負いカゴから魚が下ろされていく。

 小母さん達が、種類毎大きさ毎にポンポンと鳴れた手つきで分けている表情は、皆笑みが浮かんでいるんだよなぁ。

 雨季の漁果は乾季と比べて少ないんだが、それでも十分な漁果ということになるんだろう。

 タツミちゃん達の姿も見えてきた。

 結構疲れる仕事なんだが、やはり2人の顔にも笑みが浮かんでいる。

 ザルに重ねられた魚を見て、カルダスさん達が目を丸くしたのは良い型のシーブルが沢山あったからだろう。


「良い型だな。あれが獲れるんなら十分だ。率いてきた中には移住者が10家族ほどいるんだが、オラクルなら十分に暮らしていけそうだ」


 あまり漁果に恵まれない人達なんだろうか?

 ここなら魚が濃いから、シドラ氏族の島周辺よりも漁果を得ることができるだろう。

 でも、下手な人はとことん下手なんだよなぁ。

 良い指導者がいれば良いんだろうけどね。


「ところで話を戻すが、石の桟橋は今季で慣性とはいかねぇな」

「次の乾季でどうにかですね。およそ3年越しですよ。そうそう、カヌイのお婆さん達の近くに見晴らし台を作ったことは知っていますか?」


「バゼルから話を聞いた。まぁ、俺もそれぐらいはやっておくべきだと思う。ましてや神亀が見えたとなれば猶更だ。祭壇を運んできたぞ。酒を備えるぐらいはできるだろう」


 宗教施設ってことかな?

 その辺りは、俺が考えなくとも長老達が動いてくれるに違いない。


 次々とカゴが届けられる。8隻だから16個になるんだろうな。

 カゴの行列が無くなると、男達燻製小屋にカゴを運び始めた。

 確かに、乾季ほどの漁ではない。だが、カルダスさん達がやってきたとなれば、船団の編成が今夜にでも行われるんだろう。

 次の漁では、10隻を超えることは間違いないだろうな。


 カルダスさんと別れて自分の船に戻ろうと歩いていると、階段から桟橋に着いた保冷船が見えた。

 いろいろと荷物を下ろしているようだ。

 俺も手伝わないと……。

 急いで階段を下りると保冷船に向かった。


「ナギサか? このパイプを頼んだのは」

「そうなんです。結構あるはずですよ」


「結構どころじゃないぞ。ほとんどがこのパイプだからな。それに変な箱が3つある。あれもそうか?」

「このパイプを使ってあの箱を動かすんです。何とか雨季にはできると思いますよ。先ほどカルダスさんに頼んできました」


 真鍮のパイプは1本3mほどだが、結構な重さだ。肉厚を指定したのが不味かったかな。ここまで重いとは思わなかったんだよなぁ。

 20本ほど搭載してきたようだから、とりあえず浜の小屋へと運んでおく。

 パイプ運びが終わると、生活物資の木箱の番になる。一輪車を使って次々と小屋に運び、ひと段落が付いた。

 明日は、保冷庫から燻製を運んでこないといけない。保冷船がやってくると結構忙しいな。

 

 一段落がつくと、浜で焚火を囲む。すぐにココナッツ酒が回ってくるのは、いつものことだ。

 カルダスさんが率いてきた若者達の多くは顔見知りだから、すぐに漁の話が始まる。

 素潜りよりは釣りが得意な連中もいるから、結構賑やかな交歓会だ。

 その内にカルダスさんがやってくれば、酒盛りに変るんだろうな。


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