表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
559/654

P-173 雨季は漁果が少なくなる


 住人が半数ほどに減ってしまったけど、新たに2つの船団を作って漁に出掛ける。

 漁の期間は5日間。2日後に次の船団が出掛ける。

 オラクルから1日半の航海になるから実質の漁は2日間になる。

 豪雨の頻度が上がってきたのは、やはり雨季に入ったからなんだろう。

 エメルちゃんの話では、畑の屋根がすべての畑の上に乗せられたそうだ。

 屋根と言っても、竹を4つ割りにして紐で編んだようなスノコ上のものだけど、豪雨で土が掘り返されなければ問題はないだろう。

 排水路の掘削も進んでるようだから、少しは畑の排水が良くなるんじゃないかな。


「兄さん達が、パイナップルの苗をたくさん運んできたにゃ。他の島を巡らなくてもオラクルで事足りるにゃ」

「最初に作った畑はすっかり花畑になったね。種がこぼれて周りにも花が咲いてたよ」


「高台にも花を植えてるにゃ。カヌイのお婆さん達の小屋の周りもその内に花が咲き乱れるにゃ」


 あの辺りは岩の斜面になっているんだけど、小母さん達が背負いカゴで排水路作りで出た土を運んだらしい。

 石を低く積んでその中に土を入れたというから、ちょっとした花壇になるのだろう。

 木々の緑と海の蒼……。

 微妙濃淡がそれなりの美を作っているけど、その中に原色の花があったならさぞかしきれいだろうな。


 一からシドラ氏族の島を作るということは、ある意味自分達の好きな形に島を変えることができるということだ。

 俺も自分の考えで進めることが無いように注意しよう。

 この島は、シドラ氏族の島であり、ネコ族の暮らす島なんだから……。


「ところで明日はどうするにゃ?」

「向かう先は、前にハリオを突いた漁場にゃ。雨で半日遅れてるけど、夕暮れ前には到着するにゃ」


「雨が降らなければ曳き釣りをしようと思ってるんだ。雨なら、延縄を仕掛けるよ。潮に乗せて流せば船を留めておいてもできるからね」


 雨次第の漁になるのが、雨季の漁だ。

 前があまり見えないぐらいに降るから、曳き釣りができないんだよなぁ。

 晴れれば素潜りもできるんだが、降り出すとザバンが風呂桶になるような豪雨だ。

 雨季の素潜りは、ザバンを使って広範囲に獲物を突くことができない。

 

 そんなことから、延縄や底物釣りが主流になってしまう。

 とりあえず空を見ながら曳き釣りをして、降りそうだったらカタマランを留めて延縄と底物釣りをすれば良いだろう。

 

 タツミちゃんの言う通り、漁場に着いたのは夕暮れ時だった。

 夕食の準備をしている間に、夜釣りの準備をしておく。

 夕日が綺麗だし、西の空には怪しい雲さえ見当たらない。今夜は晴れてくれそうだ。


 回遊魚が多い場所だから、2本バリ仕掛けの枝張りの間隔は1.5mほど離してある。竿は2.4mほどだから、大物が釣れればタモ網で獲りこむことになる。

 オラクルの周囲は、結構良い型ばかりだからなぁ。タモ網の使用頻度がシドラ氏族の本島周辺に比べて多い気がする。


 米粉で作った団子が入ったスープを頂き、さっそく釣りを始めた。

 直ぐに当たりが来たけど、先ずはそこ物のバヌトスだった。エメルちゃんの最初の獲物はバッシェだ。バヌトスの2倍以上で売れる高級魚なんだよねぇ。

 獲物の型は40cm前後……。タツミちゃん達は取り込みにタモ網を使っているけど、これぐらいならそのまま甲板にごぼう抜きもできる。

 底物は空気を吸わせれば、途端におとなしくなるんだよなぁ。


 数匹釣れたところでタツミちゃんが魚を捌き始めた。

 夜釣りは連携を上手くしないと、釣りを終えてからが大変だ。


「西の空の星が見えなくなってきたにゃ」


 一段落したタツミちゃんが西の空を眺めて呟いた。


「降るってことかな?」

「屋根じゃなくて、甲板に干しておいた方が良さそうにゃ」


 いきなり降り出すからなぁ。確かにその方が良さそうだ。

 十数匹を釣リ上げたところで竿を畳む。

 屋形の方に半分ほど広げていた帆布を引き出して、甲板の上に屋根を作った。

 ベンチを2つ並べた上にザルをタツミちゃん達が乗せた。ザルに開いた魚が綺麗に並べてある。

 こういうところに個性が出るんだよなぁ。俺だと適当に並べてしまうんだけどね。


 終わったところで、体の汚れを【クリル】の魔法で取る。

 俺としては冷たいシャワーが欲しいところだが、海の上だからねぇ。贅沢は言えないし、雨季ならあの豪雨で体を洗えるから乾季よりはマシに思える。

 とは言っても、暮らすのが少し楽ということであって漁にはつらい季節だ。

 漁の腕がそれほどでもない人達にとっては、リードル漁で得た収入をこの季節を過ごすことに使うことになるらしい。

 魔石2個までなら上出来だと昔バゼルさんが言ってたぐらいだ。

 それもあって、カタマランの更新は10年単位を考えることになるのだろう。

 俺の場合は少し早いようだ。

 あまり目立つことが無いようにしたいんだが、このカタマランは特徴があり過ぎるんだよなぁ。


 ワインを飲みながら、パイプを楽しむ。

 タツミちゃん達と明日の漁をどうするか、話をしながら飲むワインはいつもより美味しく感じるな。


「曳き釣りは無理かもしれないにゃ。星がだいぶ消えてるにゃ」

「ここで延縄をするにゃ。サンゴ礁の方もそれなりの水深があるにゃ」


「上物を狙うことになるか……。その間は、底物を釣ればそこそこの数は出そうだね」


 乾季の漁果の半分ほどになりそうだ。

 それが雨季の漁であることは、個々の暮らしで分かっているつもりだ。

 次の出漁時には、晴れだと良いな。

 素潜りで積極的な漁ができるし、曳き釣りなら大物も期待できる。


 そろそろハンモックに入ろうとした時だった。

 西の方から、ザァーという雨音が近づいてくる。

 とりあえず、帆布の弛みの場所に桶を置いておく。釣り具の塩抜き用に使えるだろう。

 

 屋根に降る雨音がこもり歌に聞こえるという話を聞いたことがあるけど、さすがにこの音では眠れそうもないな。

 甲板に出て一服を楽しみながら周囲を眺めてみると、200mほど南西にいたカタマランの明りがぼんやりと見える。

 前も見えないような雨というたとえ通りの土砂降りだ。

 どの島の畑作も、それほど規模が大きくないのはこの雨のせいなんだろうな。

 オラクルでは畑に屋根を設けるという奇策に出たけど、案外うまくいっているようだ。

 

 段々畑の下で、水田を作るのは俺の代でできるんだろうか?

 いまだに、石の桟橋が完成しないぐらいだからなぁ。まだまだやることが沢山あるみたいだ。


 翌日も朝から降り続いている。

 延縄を潮の流れに乗せて繰り出したところで、甲板から釣りを行うことにした。

 さすがに夜釣りより釣果が伸びない。

 それでも、昼近くまでには10匹を超えたから、まぁまぁの成績じゃないかな。


 延縄の仕掛けを手繰っていると、かなり強い引きが伝わってきた。

 12本の枝張りに掛かっていたのは4匹のシーブルと1匹のグルリンだった。いずれも80cmを越えている。

 午後にも同じぐらい掛かってくれれば良いんだけどね。


 昼食は蒸したバナナとお茶になる。

 エメルちゃんが恨めし気に空を眺めながら食べているのを見ると、なんとなく笑みが浮かんでしまう。

 雨が降ったことだけでも喜怒哀楽を感じるのは、それだけニライカナイが平和なのだろう。

 

 食事が終わると、再び延縄を流して、釣りが始まる。


 日が傾く頃になってようやく晴れてきた。

 夕日が穏やかな海を赤く染める。

 夜釣りに備えて延縄や釣竿を一度片付けると、タツミちゃん達が釣果を捌きながら夕食作りを始めた。

 全て女性の仕事になるから、ココナッツ酒を渡されて甲板の端でパイプを楽しんでいる。

 他の船から見えないんだから手伝いをしても良いと思うんだが、タツミちゃん達の矜持にもかかわるようで厳しく断られるんだよなあ。

 男尊女卑ということにはならないんだろうけど、互いの領分というのが厳しく守られているらしい。

 もっとも氏族間で若干の違いはあるらしく、トウハ氏族では素潜り漁は男性だけだとバゼルさんが教えてくれた。


「とはいえ、ナツミ様はアオイ様並みの腕を持っていたようだ。いつでもアオイ様の付いた魚の数を上回ることが無いようにと漁を途中で止めていたと聞いたことがあるぞ」


「トウハ氏族の漁は、男性だけだということではないんですね?」

「かなり曖昧なところがあるが、多くは漁果を求める時だろう。若い夫婦や、対六都の交渉で漁果が増えた時は嫁さん達も潜って魚を追ったらしい。今ではそんなことはないようだな」


 トーレさんは、「男達に仕事をさせるとろくなことにならないにゃ」と言っていた。

 陸の仕事でも、部分部分をしっかりと見ておかないといけないと言ってたからなぁ。

 せいぜい漁ぐらいはしっかり励めと言うことなんだろう。

 そんな感じだから、俺達の仕事の範囲が少なく思えるのかもしれない。


 もっとも、トーレさんは俺をかなり評価してくれるんだよなぁ。背中の聖姿と言われる痣をたまにジッと見ている時もあるようだ。

 この島の開拓は試行錯誤の連続だけど、畑の野菜が取れた時には一番喜んでくれた女性の一人だからね。


 日が沈むころに夕食が始まる。

 ランタンを2個船に下げるのは俺の仕事だ。

 甲板の真ん中に2個のベンチを運んで料理を並べる。

 今夜はリゾットにバヌトスの焼いた切り身だ。少し酸味が強いスープには魚肉団子が入っている。

 涼しい風が海上を伝わってくるから、食欲も増す感じだ。


「今回はあまり漁果が伸びないにゃ」


 心配そうな表情エメルちゃんが呟いた。


「たまには伸びないときもあるよ。いつもそうだと困るけど、今回だってシドラ氏族の雨季の漁と比べればかなりの成績だ。オラクルの乾季が特別なんだろうね」


「カルダスさんが来たらガッカリしそうにゃ」

「俺達の漁果を見て納得してくれるんじゃないかな。長年漁をしてきたんだから雨季の漁果はそれほど多くないことを知ってると思うんだ」


 2つの島の漁果を比べても良さそうだ。

 漁にはいろんな種類があるからなぁ。得意不得意がそれぞれにあるはずだ。

 あまり漁果が振るわない漁師を優先的にオラクルに送るということも長老達は考えているに違いない。


 食事が終わると、夜釣りを始める。

 数時間でどれだけ釣れるか……。昼よりは魚の活性が上がる感じだからなぁ。

 10匹近く釣れれば良いんだけど……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ