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P-167 これなら大漁だろう


 エルマスさんの先導で漁場に着いたのは、夕暮れには未だ間がある時刻だった。船団を解散して、8隻のカタマランがサンゴの穴を探して散っていく。

 露天操船櫓でタツミちゃん達が、慎重にサンゴの穴の品調べをしているようだ。

 パイプを使ってのんびりしていると、急にカタマランが回頭を始めた。

 見付けたのかな?


「ザバンを引き出すにゃ! ロープを頼んだにゃ」

「了解だ! いつ始めても良いよ」


 ガタンと、屋形の下の方から音がした。直ぐに船尾の後ろからザバンが姿を現していくる。

 通常のザバンよりも浅い作りなのはしょうがないんだが、カタマラン構造で何と言っても魔道機関を持っている。

 船外機ではなくて、海水をジェットのように後方に噴き出して推進するんだから、よくもこんな構造の魔道機関を作ったものだと感心してしまう。


 ザバンを繋いだ太いロープを外す前に、船尾に結わえたロープを繋いでおく。

 ザバンに飛び乗って、太いロープのフックをがずして船尾の鉄の輪に引っ掛けた。船尾のロープを外して右の舷側に移動すると、今度はエメルちゃんが投げてくれたロープをザバンに結んでおく。

 パドルを使って舷側に寄せたところで甲板に飛び乗る。少し高いからちゅういしないと足を引っ掛けてしまいそうだ。


「アンカーは?」

「タツミちゃんが投げ込んだにゃ。目印が16と言ってたにゃ」


 4.2mというところか……。

 ここが縁だということだから、穴の底は9mを越えていそうだな。


 屋形の屋根に上って、穴を見ると、かなり大きい。優に100mはあるだろうし、2段になった穴のようだ。俺達のカタマランは段のところにいる感じだな。

 

 船尾の甲板に戻ると、操船櫓の下に作られた戸棚を開き釣竿を取り出す。

 底釣り用と、シメノン用が3本ずつ。持ち手に色の付いた糸を巻き付けてあるから、自分の竿が直ぐに分かるだろう。やはり慣れた竿が一番だからなぁ。

 扉を戻して、ギャフとタモ網を直ぐに取り出せるように結んでいた紐を解いた。

 屋根裏から、桶とザルを取り出して邪魔にならない場所に置いておく。

 

 タツミちゃん達が食事を作り始めたのを見て、屋形の屋根に上がって他のカタマランの状況を眺めることにした。

 動いているカタマランは見えないな。近くに2隻が停泊しているがまだ釣りを始めているようには見えない。

 皆、夕食を終えてからと考えているのだろう。

 船尾に戻り、ベンチの端に座ってパイプを楽しむことにした。


「出来たにゃ! 簡単だけど、たっぷり食べるにゃ」


 エメルちゃん達が作ったのは団子スープだった。米粉の団子が香辛料の効いた魚肉スープの中に入っている。

 俺の大好物の1つだ。

 ココナッツの椀に入った団子スープを受け取ると、早速味見をしてみる。

 かなり腕を上げた感じだな。これなら食堂を開けるんじゃないか?


 まだ夕暮れの残照が残っているけど、すでにランプが2つ下がっているから、日が落ちても慌てることはない。


「変わったサンゴの穴だね。2段になってるなんて初めて見たよ」

「私も初めてにゃ。なら面白そうにゃ」


 根っからの漁師だな。エメルちゃんの言葉に思わず笑みが零れる。

 その考え方は嫌いじゃないからね。

 何事もやってみる価値はあるだろう。ダメな時には、次の時にそれを踏襲しなければ良い。


 食事の後片付けを待って、3人で釣りを始める。

 誘いを掛けると過ぎに当りが竿先に伝わってきた。食い込んだところで軽く空合わせて取り込むことになったが、かなり引きが強い。

 ベンチから立ち上がってしばらく格闘していると、タツミちゃんがタモ網を海面に入れてくれた。

 タモ網に魚を誘導すると、「エイ!」と明け声を上げて甲板に魚を引き上げた。


「バルトスにゃ。幸先が良いにゃ」


 イシダイのような魚だ。ハリスに傷がないことを確認して、カマルの切り身を短悪のように釣り針に差すと再び仕掛けを投げ入れる。


「今度はこっちにゃ!」

 

 エメルちゃんの声に、タツミちゃんがタモ網を担いで移動して行く。

 釣る暇がないんじゃないかな?

 そんな心配が出てくるほどに、入れ食い状態だ。


 桶をもう1つ出して、取り込んだ魚を入れている。

 夜釣りでこれだけ釣果があるんだから、明日が楽しみになってくる。

 桶に2つ魚が釣れたところで、今夜は終わりにすることにした。

 

 カタマランの船首に向かい、一夜干し用のザルを3つ運んでくる。

 一夜干し用のザルは5つあるんだけど、明日は足りなくなりそうだ。

 贅沢な悩みになるか、それとも皮算用になるのか……。


 タツミちゃん達が捌い手開きにした魚をザルに並べていく。

 どうにか3つで納まったけど、小さなバヌトスは明日の夜釣り用の餌になるようだ。料理で使うのか、捌いたブラド2匹をエメルちゃんが保冷庫に入れていた。

 本来は家形の屋根で干すのだが、甲板が広いからね。ベンチを利用してザルを乗せる。

 空いた場所でワインを頂き、寝ることにしよう。


 素潜り初日はの朝。

 俺が起きた時には甲板が片付いていた。一夜干し用のザルが邪魔にならないように、屋形のスノコのような壁に立て掛けられている。


「もう直ぐ朝食にゃ。待っててほしいにゃ」

「準備をしておくよ」


 素潜りだからなぁ。水中銃が2つに銛が1つ。こちらで作った水中銃と、銛を手にザバンに乗り込む。

 銛を邪魔にならないようにザバンの舷側に結わえておく。使う機会があれば良いんだが……。水中銃は船首部分に置いて、再びカタマランに戻ると保冷庫を持ってザバンに向かう。

 木製の保冷庫だが、氷を入れておけば結構長く保冷できる。

【アイレス】を使って氷を作る。俺の太腿ぐらいの太さだから夕暮れまで持つんじゃないかな。


 買い物かごに入れある素潜りの装備を取り出して、ベンチに並べておく。

 ネコ族の人達と違ってシュノーケルとフィンを使えるんだが、漁に技量が足りない俺だからね。これで同等ぐらいに思っておけば良いだろう。

 サンゴで足や手を切らないようにマリンシューズと手袋は必携だ。

 タツミちゃん達もガムで葦底を補強した靴下のような物を履くようだし、手にはグンテを着用する。

 

 リゾットにスープを掛けて何時もの朝食を食べ終えると、お茶を飲んで一休み。

 既にザバンが動いているのが見えた。

 もう始めてるのかな? 俺達も頑張らないとね。


「左に行ってみるよ。タツミちゃん達は?」

「最初の窪みを巡るにゃ。最初はエメルちゃんが潜るにゃ」


 俺の隣でタツミちゃんが、いそいそとのようなマリンシューズを履いている。

 俺は装備が多いんだよなぁ。早めに装着して飛びこもう。


 シュノーケルを咥えて水中銃のゴムを引くとセーフティを掛けておく。

 後ろから、ドボン! と水音が聞こえたのはエメルちゃんが飛び込んだ音に違いない。


「それじゃあ!」

「頑張って!」


 タツミちゃんに軽く手を引いて、海に飛び込む。

 そのまま少し深く潜って周囲を眺めると、なるほどと頷いてしまった。

 かなり大きなブラドが数匹群れを作って目の前を泳ぎ過ぎていく。その向こうでサンゴの枝に隠れたエビを狙っているのは多いなバルトスだ。

 先ずは、あのバルトスから突いてみるか……。

 浮上してシュノーケルの水を噴き出し、息を整える。

 最後に半分ほど息を吸ったところで、再び海中にダイブした。


 ゆっくりとバルタックに近付きながら水中銃のトリガー前についているリールからラインを引き出す。 

 3mもあれあ十分だろう。リールのドラグをラインを引きながら調節し、暴れる時には少しラインが出るようにしておく。

 目標を見定めて、左腕を伸ばす前にセーフティを解除した。

 最初はフィンを使って近寄り、最後は右腕で態勢を整えながらゆっくりと近付く。

 水中銃の先端のスピアと獲物の距離が1mほどになっても、まだ悠然と泳いでいる。

 もう少し近付けそうだな。エラの上頭寄りに狙いを定めて、トリガーを引く。


 周囲を血で染めながらバルタックが暴れたが、直ぐにおとなしくなった。

 そのまま海上に出て水中銃を高く上げると、タツミちゃんの乗ったザバンが近付いてくる。


「バルタックにゃ! エメルちゃんがブラドを2匹突いたにゃ」

「それは、負けられないね。それじゃあ、行ってくるよ」


 バルタックを渡したところで、次の獲物を求めてシュノーケリングを始める。

 次はあの群れかな?

 群れの中で一番大きなバルタックを突くと、群れが散ってしまった。

 タツミちゃんを待ちながら、海中の様子を見て次の獲物を探す。

 

 4匹突いたところで、一休み。

 ザバンの操船はエメルちゃんに替わっていた。

 保冷庫で冷やしたココナッツジュースをカップ半分ほど頂き、喉を潤す。


「5匹突けたにゃ! でも皆ブラドだったにゃ」

「やはりカルダスさんの娘だけのことはあるね。俺は4匹だよ」


「でも、ナギサの付いた魚は皆大きいにゃ。大きいのを突くと後が大変にゃ」

「だけど狙うなら大きい奴! ってことになるんだよなぁ」


 エメルちゃんの言うように、中型をたくさん突くというのも理解できる。たぶんそれが猟師としてやるべきことなんだろうけど、どうしても大物狙いになるのはガリムさん達に誇りたい気持ちがあるんだろうな。

 次はえり好みしないで突くことにしよう。そうなると、銛の方が良いかもしれないな。


 ココナッツジュースを飲み終えたところで、水中銃をザバンに置き、銛を手にする。

 柄の後ろのゴムの力と、ガイドパイプのおかげで、昔のように銛が獲物の胴体に刺さることは少なくなっている。

 穂先が1本だからね。胴を突いてもオカズにはなるだろう。

 ついでに獲物を通す紐を腰に巻いておく。干物先端は竹で作ったお箸ほどの長さの棒が付いている。

 獲物の鰓に通して、口から抜けば数匹ぐらいは貯めておけるだろう。


 さて、師腰fカバに行ってみるか。大きなバヌトスがいないとも限らない。

 段を下って深場に向かう。

 少し周囲が暗くなったが、気になるほどではない。

 張り出したテーブルサンゴの裏を覗いてみると、大きなバヌトスがいた。

 ガイドパイプを銛先に向かって引くと、カチリと感触が伝わる。

 ロック状態だ。後は獲物に向かってロック解除すれば良い。

 ゆっくりとバヌトスに近付き、銛を突きだしてロックボタンを押すと、筒の中を勢いよく銛が滑り出して獲物を銛が貫いた。


 仰け反るようにして魚体をさんがから引き出す。

 銛先の返しが小さいから、力加減が微妙なところだ。

 とはいえサンゴの奥に逃げ出されても困ってしまう。

 どうにか引き出したところで、海面に出て息を整えることにした。


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