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P-166 俺達は南東の漁場を目指す


 保冷庫の燻製と出来上がったばかりの燻製を保冷船に積み込んで、カルダスさん達が帰って行った。

 お土産にもらった蒸留酒は半分ほど皆で飲んでしまったが、まだ2本以上残っているからね。

 次は俺達が漁から戻ってくる頃にやってくるんじゃないかな。


「今度はいよいよ俺達の番だ。たっぷりココナッツも集めてきたから、ナギサのところにも渡せたと思うんだが?」

「カゴからはみ出してますよ。野菜もタツミちゃん達が頂いてきたようですから、準備はできてます」


 夕食が終わった後は、今度の漁で話が弾む。

 オラクル近海で初めて漁をする人が半分ほどいるんだが、今までの漁果に驚いていたようだ。


「あれほど大きな奴が揃うんだから、凄いとしか言いようがねぇな。乾季だから昼は素潜りで夜は釣りになるんだが……」

「夜釣りでも大物が来ますよ。釣り針を大きくした方が、バラさずに済みますし、手返しも楽です」


「着くまでに、仕掛けを直しておくか。お前達は終わってるのか?」

「ガリムに聞いたからな。まだやってなかったのか?」


 年下の連中に聞くのは、恥と思っていたのかな? ネコ族の人達は皆正直だし親切なんだけどねぇ。


「すでに北と南で漁が行われている。今出かけている連中は東に違ぇねぇ。俺達はどこに向かうんだ?」

「それなんだが、南東にしようと思っている。ナギサの話では潮通しの良い海域にサンゴの穴があるらしい。

 海底までおよそ15YM(4.5m)、そこに深さ20YM(6m)ほどの穴が無数に開いているらしい」


 集まっていた連中がにやりと笑みを浮かべる。

 勝手に想像しているんだろうけど、シーブルが回遊していた場所でもある。

 中央付近の海底に大型のサンゴが繁茂していないから、案外曳き釣りの漁場にもなりそうな場所だ。


「実績としては、フルンネにシーブル。ブラドにバルタック辺りです。穴の底には大きなバヌトスがいました。夜釣りではギャフを結構使いましたよ」

「ギャフか! 俺んとこの嫁は使えるかな?」


「これを機会に覚えるんだな。俺達の漁果は全員で均等割りだ。先ずはオラクル周辺での漁に慣れるようにとの長老の計らいだからな」

「ナギサには済まないが、頑張ってくれよ」


「俺達だって頑張るんだぞ!」

「お前ぇらも頑張りは認めてやってもいいな。だが、ここまで漁場を探して俺達に教えてくれたナギサには感謝しとかないといけない」


 そういうことかと、ちょっと怒り出したガリムさんが納得して、ココナッツ酒をカップに注いでもらっている。

 俺はガリムさん達の方が頑張っていると思えるんだけどなぁ。


「期待はしないで下さいよ。まだまだ漁は教わる立場ですから」

「十分一人前だ。まあ、伝え聞くカイト様やアオイ様には届かないだろうが、アオイ様達は別格だ。ナギサの場合はバゼルに漁を教えて貰ったんだからな。だがすでにバゼルを越えているように思えるんだがなぁ……」


 漁果を得ないと、暮らしていけないからだろう。

 確かにリードル漁では、纏まったお金を手に入れることはできる。

 だけど、魔石で得たお金は次のカタマランを手に入れるための資金として、どの家も大切に保管しているはずだ。

 義日の暮らしを漁で得た収入でやりくりできることで、一人前かどうかが判断されるように思える。

 たまに魔石を売って漁具を手に入れるようではねぇ。もう少し頑張らないといけないんだろうな。


 翌日の昼下がりに、船団が帰ってきた。

 たちまち浜が賑やかになる。

 漁に出た場所は、やはり東だったようだ。

 順当なら俺達は西に向かうんだろうが、俺が取り出した海図と長老のところに集まった連中の話を聞いて南東に向かう決断を下したようだ。


「明日は早いにゃ。ちゃんと起こしたら直ぐに起きないと、置いて行かれるにゃ!」

 

 タツミちゃんの話に、反論できないところが辛いところだ。


「場所は、南東のここになる。たぶん殿になると思うけどね」

「しばらくは我慢にゃ。速く最速で漁場に向かいたいにゃ」


 それは今年は無理じゃないかな?

 単独で漁を行うには、もう少し物流システムを考えないといけないだろう。

 保冷船を3隻にしても、それでうまくシドラ氏族の島に届けられるかが問題だ。

 雨季と乾期では、乾季の方が漁果が多いと聞いたことがあるから、乾季の間に何度か単独で漁を試してみたいところだ。


 早めに寝れば、早く起きれれるというわけでは無さそうだ。

 翌日。いつものようにエメルちゃんに起こされた。

 まだ朝日が昇らないけど、かなり明るくなっている。ここは島の西側だから、カヌイのお婆さん達の住むログハウスからなら、水平線から顔を出したばかりの朝日が見えるんじゃないかな。

 とりあえず甲板から海水を汲んで顔を洗う。手ぬぐいのような布切れで顔を拭きながら周囲を眺めると、あちこちのカタマランで人の動きがあるようだ。

 俺達と一緒に出掛けるカタマランなんだろう。さすがに操船櫓には、未だ上がっていないようだ。


「朝食は簡単に作ったにゃ。お腹が空いたら蒸かしたバナナがあるにゃ」


 今日は1日中、カタマランを進めることになるからね。それほどお腹が減るとは思えない。昼食もタツミちゃん達は交代で取ることになるんだろう。

 孵化したバナナは、航海時の昼食に最適だし、夜食にもなるんだよなぁ。

 

 スープを掛けたリゾットのような朝食は、燻製の魚肉が解して乗せられていた。

 いくつか頂いたものだろうけど、焼く、煮る、蒸かす以外の調理方だからね。シドラ氏族の島で暮らす時には燻製は全て売ることにしていたようだが、

この島にやって来て少しずつ燻製を食べるようになったみたいだ。

 とはいえ、わざわざ新鮮な魚を燻製にするのもねぇ……。たぶんそれほど需要は無いに違いない。

 俺としては刺身が食べたいんだが、ネコ族の人達は生食をしないんだよなぁ。

 魚醤はあるんだし、ショウガも香辛料として使われている。

 カツオのタタキなら火を使うから、やってみても良いかもしれない。


 食事が終わると、タツミちゃん達がさっさと食器を片付ける。【クリル】の魔法で直ぐに終わるんだから、向こうの世界で使えたなら母さん達が大喜びだろう。


「そろそろ準備するにゃ。沖に赤い旗が見えるにゃ」

「白い旗だったよね。そっちはお願いするよ。ロープを解いて、アンカーを引き上げたら合図をするからね」


 腰を上げると桟橋に向かいロープを解き始めた。


「今度はナギサ達だったな。大漁を待ってるぞ」

「大物狙いで行ってきます。楽しみにしていてください」


 俺の冗談が通じたのか、笑みを浮かべている。軽く頭を下げて船首に向かいアンカーを引き上げると、操船櫓のタツミちゃん達に手を振る。

 露天操船櫓から、エメルちゃんが身を乗り出して手を振ってくれた。

 これで夕暮れ時までは、やることがなくなってしまうんだよなぁ。

 船尾の甲板で釣竿の手入れをして時間を潰そうか……。


 屋形の中を通って船尾に向かうと、屋根代わりにもなるタープを半分ほど引き出しておく。

 日除けにもなるし、急に雨が降り出してもカマド付近は濡れることはない。

 麦わら帽子を被ってサングラスを首から紐で下げておく。


 今夜は夜釣り確定だからね。

 胴付き仕掛け用の釣竿3本は、胴調子に作ってあるから大物でも対応できる。とはいえ1mを越えるような魚ではタツミちゃんが釣られてしまうから、ハリスを少し細いものにしている。俺のハリスは太いから少し釣果が違うんだよなぁ。

 ハリスの太さが、どうも誘いに影響しているように思えて仕方がない。

 あの辺りなら回遊魚も狙えるから、胴付き仕掛けに付けた2本の梁の間隔を長いものに換えておこう。


 先ずは竿の手入れからだ。

 都合6本の竿から仕掛けとリールを外していると、カタマランが動き出した。

 操船はタツミちゃん達に任せておけば問題ないから、このまま作業を続けるkとにした。


「なんだ、まだ釣竿は早いだろう?」


 隣にガリムさんのカタマランがいつの間にか並んでいた。

 作業を中断して、ベンチの原則に腰を下ろすとパイプに火を点ける。


「しばらく釣竿の手入れをしてませんでしたから、これを機会に油を引き直そうとしてたんです。ガリムさん達は手釣りでも行けるんでしょうけど、俺は釣竿が一番楽ですからね」


「アオイ様も、そうだったらしいぞ。嫁さん連中も釣竿なら手伝ってくれるからなぁ。確かに暇つぶしにはなりそうだな。俺もそうするか」

「手入れさえすれば長く使えますからね。中々良い色になってきましたよ」


 竹を細く切った者を束ねた釣竿は、あめ色になっている。

 最初はそうでもなかったんだが、色に深みが増した感じだ。これを向こうの世界でオークションに出したら結構な値が付くんじゃないかな。


「そろそろ出発だ。目標は背負いカゴ4つ分だぞ」

「3日間ですからね。それぐらいになって貰わないと……」


 笑みを浮かべて互いに手を振る。船団を組むためにガリムさんのカタマランは後方に下がったようだ。

 ゆっくりとカタマランが進みだし、徐々に速度を上げていく。

 いよいよ出発だ。

 オラクルの浜を見ると、桟橋で手を振っている人達が見えた。タツミちゃん達も手を振っているに違いない。

 さて、俺は作業に戻ろう。

 

 昼食は、ココナッツジュースと蒸したバナナだ。

 タツミちゃん達は操船しているから、手籠に入れて操船櫓で食べるみたいだけど、盛っていく方法が操船櫓から下ろした紐に手影を付けて引き上げるというものだった。

 ココナッツジュースは真鍮の水筒に入れてあるから零れることも無いだろうし、木製のカップに入れて飲めるように、操船櫓にはカップを入れる場所があるらしい。

 たぶんナツミさんの工夫なんだろうけど、きちんと同じものを作ってくれたようだ。


 たまに下りてくる2人に様子を聞いてみると、かなりの速度を出しているらしい。


「ガリムさん達は2ノッチ以上に魔道機関の出力を上げているにゃ。でもこのカタマランなら1ノッチとちょっとにゃ。浮かばないにゃ」


 ちょっと不満もあるようだけど、船団を組んでいる以上仕方のないことだ。

 

「このままなら、夕暮れ前にはカタマランのアンカーを下ろせるにゃ。大きな穴を探さないといけないにゃ」

「明日は素潜り漁だからね。銛は研いであるし、釣竿を手入れをして仕掛けを付け直してあるよ」


 船尾で居眠りしていただけではないことを伝えておこう。

 直ぐに操船櫓に上がって行ったけど、あそこは眺めが良いからなぁ。船団全体の状況が分かるんじゃないか。


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