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P-161 定住に向けて


 この漁場でリードル漁をするのは3回目になるが、2日目が豪雨というのは幸先が悪かった。

 それでも十数個の魔石を皆は手に入れたし、中位魔石が半分以上だと喜んでくれた。


「なぁに、ナギサが気にすることはねぇ。雨に2日祟られたことだってあるぐらいだ。それより中位魔石がこれほど取れたなら、シドラ氏族のリードル漁場での漁よりも得られる金額は多いってことだ」


 気に病んでいた俺の肩をポンポンと叩いて、カルダスさんが慰めてくれた。


「これが3日となると、確かに皆が来たがるだろうな。直ぐにカタマランが更新できそうだ」

「そうだな……、1年に1回はここで漁をさせてやりたいところだ」


ザネリさんの呟きに、カルダスさんが何度も頷きながら答えている。


「これで、今期の俺達の役目は終わりだ。明日の早朝にシドラ氏族の島に向かうぞ! 次は漁暮らしだからな。腕は鈍ってはいねぇだろうな?」

「出来れば次も開拓を進めたいですね。もう少しで石の桟橋を海面に出せそうです」


「長老と相談だ。ナギサも来るんだぞ。長老達も何人かをオラクルに送ると言っていたからなぁ」

「いよいよ島暮らしが始まりそうですね。まだ桟橋からオカズ釣りはできませんが、少し西にザバンを漕ぎだせば釣れるんです」


 サンゴがどうにか定着した感じだからなぁ。入り江に一面のサンゴが広がるには、まだまだ年月が必要になるんだろう。

 石積みをしていても、この頃は小魚の群れをたまに目にすることができる。

 思わず笑みを浮かべてしまうのは、俺だけではないんじゃないか。


「それで、魔石の上納は……」

「オレクルでのリードル漁の場合は、中位魔石を1個上納で、嫁さん達には低位魔石1個ということになる。ナギサもそれで良いぞ。色々と氏族に便宜を図ってくれてるんだ。取り決めは取り決めとして守ってくれ。そうでないと他の連中に示しがつかんからな」


 和を乱すなということなんだろう。

 とりあえず頷いておく。なら、その他の必要な品を買いそろえることで還元すれば位良いだろう。一番良いのは、は焚き火を囲んで飲む酒を提供することで良いかもしれない。


 俺達のカタマランに戻って魔石の分配の話をしたら、タツミちゃん達が既に手渡しているそうだ。

 タツミちゃん達に分配が回ってくるのは、シドラ氏族で競売が行われてからになるのだろう。


「上位魔石が5個もあるにゃ。上位魔石2個と中位魔石を3個残して競売に掛けるにゃ」

「金貨4枚というところかな。任せるよ。そうだ。中位魔石を1個欲しいんだ。カルダスさんに中位は1個で良いと念を押されたから、酒を買っておこうと思うんだ」


 笑みを浮かべて魔石を1個渡してくれた。

 タツミちゃん達も気にしてたんだろうな。残りはそのまま持っていてもいいと言ってくれたから、漁具の足りないものを考えておこう。

 一度こっちに来ると、入手が難しそうだからなぁ。ギョキョーの連中も2人程来てくれると助かるんだけどねぇ。


 翌朝早く、漁場からシドラ氏族の島に向かって進む。

 今日は俺達が先導することになったけど、明日はカルダスさんが先行する。

 通常の航路に戻れば、本来の筆頭の役を負うことになるんだろう。

 

 俺は船尾でのんびりと仕掛けや銛の手入れをして過ごす。

 漁以外は男性達の役目があまりないんだよなぁ。トーレさんに言わせると、やらせても良いが、ろくなことにはならないと言っていたから、どの氏族も似たりよったりに違いない。


 夕暮れが近付く頃になって西に雲が出てきた。

 今晩は雨になりそうだな。

               ・

               ・

               ・

 シドラ氏族の島に戻ったのは、競売が始まって2日目だった。

 早速タツミちゃん達はギョキョーに出掛けて行ったけど、今夜は長老のところに顔を出すようにカルダスさんに言いつけられてしまった。


 夕食後に出掛ければ良いだろう。

 久しぶりに船尾からオカズ用の竿を出して、カマルを釣ることにした。


「帰ったな。リードル漁の2日目が雨だと聞いたが?」

「それでも十数個は確保できましたよ。カルダスさんが良くあることだと言ってくれました」


「そうだな。それでも十数個なら十分だろう。半数以上が中位なんだからな」


 俺の隣に腰を下ろしたバゼルさんがパイプを煙らせながら、俺の釣り上げるカマルを見ている。

 やはりこっちは小さいよなぁ。向こうで大きく育ったカマルを見ているから、ちょっと考えてしまう。


「さすがにオラクルではまだ船尾で竿を出せんが、やはりシドラ氏族の浜では小さなカマルばかりになるな」

「それだけ釣れたということなんでしょうね。今夜長老のところに行けとカルダスさんに言われてるんですが?」


「オラクルの状況は、ナギサに聞くのが一番だと思っているのだろう。俺達だけでは偏ると思っているんだろうな」

「やってることは、同じだと思うんですけどねぇ」


 乾季や雨季を通して開拓に従事しているからだろう。それを通して計画に支障があるかどうかを聞きたいということかな?

 やはり1番の問題は物流システムということになりそうだな。


 夕食はトーレさん達がやって来て、俺達のカタマランで作り始める。船尾甲板が大きいからなぁ。ザネリさんの家族もやって来て賑やかに食事が始まる。


「ガリム達が残念がっていたよ。中日が雨だったからなぁ。中位魔石3個は多く獲れたはずだ」

「それでもシドラ氏族の漁場に出掛けた連中よりは、中位魔石の数が多い。次に期待することになるんだろうが、次の開拓に出掛ける連中を選別するのが大変だな」


 まだ開拓に従事したことがない氏族の連中がたくさんいるだろう。リードル漁に向けて、後期の開拓に従事させることになると思うんだけどなぁ。


 食事を終えるとココナッツ酒ではなくお茶を飲んで、長老に住むログハウスにバゼルさんと一緒に向かった。

 あちこちの桟橋に、明るく照らされたカタマランが見える。

 魔石を競売に掛けたこの時期は、どこも家族が集まって宴会が行われるようだ。


 坂を上り少し高台にある長老のログハウスに着くと、外にまで明かりが零れ賑やかな話声が聞こえてきた。

 どうやらココナッツ酒を酌み交わして、リードル漁が無事に終わったことを祝っているらしい。


 俺達が部屋に入ってくると、少し騒ぎが治まった。

 長老が俺を見て笑みを浮かべると、腕を伸ばして左手の席を示す。

 立った一人の席だから恐れ多いんだけど、長老の指示は絶対だからね。誰も文句を言わないんだよなぁ。


「オレクルの開墾も順調のようじゃな。リードル漁は雨にあったらしいが、それでも中位魔石を10個近く取れたなら、皆が喜んだに違いない。

 シドラ氏族の主だった連中が揃っておるぞ。オラクルの状況を話してやってくれぬか?」

「雨季でしたから、開墾は余り進んでおりません。

 今季で完了したのは、貯水池と飲料水の濾過器の設置が一番でしょう。雨に頼らずとも20日程なら困ることはありません。

 長老の住み家にカヌイのお婆さん達の住み家、それに燻製前の魚を取り分ける小屋を大きくしました。

 既に作ってある炭焼き小屋と小屋を合わせると、乾季から定住も可能かと思います」


 定住と聞いて、男達のどよめきが起こる。

 静まるのを待って、話を続けることにした。


「雨季に何度か燻製を作って保冷船でシドラ氏族に運んでいます。いよいよ、漁を主体にして開拓を従とした暮らしができそうです」


 いつの間にか運ばれていたココナッツ酒のカップを持って、一口頂く。

 少し薄めてあるようだ。俺が酒に弱いのを知っているのかな?


「……という事じゃ。長老心得の3人と炭焼きの老人を送ることになるじゃろうな。ギョキョーも2人を送ると言っておる。カヌイの婆さん連中は明日にでも知らせることにしよう。やはり2人は送るじゃろうな」


「長老、そうなると我等の中からある程度の数を送らねばならない。その数と人選はどうするんだ?」

「カルダスに任せよう。カルダスとバゼルで1年ごとにオラクルに住むが良い。2人とも送るわけにはいかぬだろうし、シドラ氏族にも1人はおかねばなるまい。

 人数は若者、中堅を20家族ずつ選べばよい。3年で交代すれば不平も出ぬだろう。

 リードル漁の参加者はこの島に残った連中の三分の一をオラクルに向かわせるぞ」


 永住といっても、3年ということか。

 リードル漁場で中位魔石が取れる率がかなり高いからだろうな。


「ただ、例外が1つある。ナギサが龍神に教えて貰った島である以上、ナギサ達がオラクルで過ごすのは当たり前じゃからのう。

 それで、この人数で定住することに問題はありそうかな?」


「1つあるんです。それはシドラ氏族とオラクルの保冷船の定期便です。現状2隻で運航することになるとおもいますが、オラクルの周辺は全て良い漁場になっています。燻製を運びきれないのではないかと……」


 俺の言葉に、長老達が顔を見合わせて笑っている。

 既に考えているということなのか?


「バゼルから聞いておるぞ。3隻目を作っておる最中じゃ。積載量を増やすことを優先したから船足は遅い。カタマランで5日ならば7日は掛かるじゃろうな。だが最初の保冷船の2倍は搭載できる。これで様子を見ることにしたい」


 まさか商船を1隻買い取ったなんてことは無いだろうけど、後でバゼルさんに聞いてみよう。

 それにしても2倍も積めるとはなぁ……。頻度的には2か月で3回ほど往復することになるんだろう。


「一輪車も数を揃えておいたぞ。運ぶ距離が長ければ嫁達が不満を募らせるだろうからな。木道の計画は、オラクルの長老達と相談して決めれば良い」


 現場で判断ということか。その前にも色々とやることがあるんだが、半業半漁の生活がいよいよ始まるということだ。

 少なくとも月に3回は保冷船がやってくるんだから、買い物はカタログ購買みたいな感じになるんだろうな。

 商船に出掛けて、商っている品のリストがあるか聞いてみよう。


「不足する前に品を手に入れることになる。何度か出掛けた連中で、生活必需品の種類と量を確認しておいた方が良いじゃろう。ザネリとガリムで嫁達と纏めることじゃ。最初に島で生活する連中に伝えねばなるまい」

「20日も漁が続くと思えば、必要な品も思い浮かぶだろう。俺が伝えておく」


 カルダスさんが引き受けていたけど、俺も伝えておこう。


 食料と調味料さえあれば、どうにか暮らせると思うんだけどねぇ。

 絶対に必要な品と、少しは待てる品を区別してリストを作った方が良いのかもしれない。

 あの2人のことだから、案外真面目に考えすぎてしまうような気がするんだよなぁ。


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