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P-158 燻製小屋が足りないかも


 漁を終えて、カタマランを走らせる。

 速さだけなら、ニライカナイで1番じゃないかな。水上を滑走しているような感じだ。

 たまに回頭すると、船が斜めに傾くんだよなぁ。

 露天操船楼で操船しているタツミちゃん達は海の上にいる感じなんだけど怖くないんだろうか?


 そんな速度で航海しているんだが、もともと水中翼船モードで半日以上走っているから、オラクルに到着したのは夕暮れ前になってしまった。

 さすがに今から燻製小屋へ運ぶことはできないだろう。

 それに、桟橋のカタマランの数も10隻ぐらいしかないようだ。

 これから続々と帰ってくるに違いない。


 船尾で西を見ながらパイプに火を点ける。

 タツミちゃん達は食事の準備を始めたけど、今日の宴会はできないと諦めたに違いない。

 夕日の中に数隻の船影が見えた。

 さて、誰が帰ってきたんだろう。宴会はできなくとも焚火は作っておいた方が良さそうだ。

 浜を見ると、数人が薪を運んでいる。タツミちゃんに出掛けてくると言い残して、手伝いに向かうことにした。


「ナギサじゃねぇか! 漁はどうだった?」

「大物が突けましたよ。それに2晩シメノンの群れに出会いました」


 声を掛けてきたのはガリムさんの友人達だった。

 ガリムさん達は3つのグループに分かれて漁に向かったらしい。


「そいつは凄ぇなあ。だが俺達もシーブルをだいぶ釣ってきたぞ。延縄をするには良い場所だ」


 延縄をやってみたのか! この季節の定番だからなぁ。

 次は俺もやってみよう。上物が揃うから結構良い稼ぎになる。


「ガリムさん達の漁果が気になりますね?」

「銛を使うと言ってたが、ナギサ並みに付ければ良いんだがなぁ」


 俺並みだったら、将来が心配になってしまう。

 トウハ氏族の流れを組む家系らしいから、銛の腕はカルダスさん譲りのはずだ。


 焚火に火を点けると、すぐにココナッツ酒が出てくるんだよなぁ。

 オラクルに変な風習が出来てしまった。


「また帰ってきたぞ! 今度はどの船だ?」


 西を眺めていた男が腕を伸ばして教えてくれた。

 遠くにいくつかランプの明りが見える。ネコ族だから問題なく帰って来れるんだろう。浜の焚火も灯台代わりになるのかな。


「なんだ! もう飲んでいるのか?」


 俺が見つけた船はガリムさん達だったらしい。

 焚火の輪に入ると、さっそくココナッツ酒が渡される。


「良い型のバッシェを突いてきたぞ。やはりこの辺りはどこに行っても魚がいる」

「ナギサよりは突いてきたんだろうな?」


 そんな声にガリムさんが俺に顔を向けた。

 どうなんだ? という感じだな。


「フルンネを2匹突きましたよ。4YMを越えてます」

「全く、困った奴だな。俺のバッシェがかすんでしまう」


 笑いながら俺の型をポンポン叩く。

 仲間達がそんなガリムさんを見て、大声で笑い声をあげていた。


「まだ親父達は帰って来ないんだな?」

「そろそろだろう。自分で言い出して置いて、明日帰ってくるんでは筆頭としての矜持に関わるんじゃないか?」


「噂をすればだ……。あのたくさんのランプがそうじゃないか!」


 沖にランプがずらりと並んで見える。壮観だな。同じ氏族だから安心してみていられるけど、他の氏族が来るようなら少し問題も出てきそうだ。


「だいぶ船足が遅く感じるんだが?」

「母さんに限って、魔道機関の出力を下げるようなことはしないはずだ……」


 そんな言葉を放ちながら、俺達は顔を見合わせる。

 まさかと思うけど、あまりの漁果で船足が遅くなってるってことか?

 ガリムさん達も、俺と同じ思いに達したのだろう。

 途端に口数が少なくなって、少しずつ近づいてくるカタマランを眺めることになった。

               ・

               ・

               ・

「潜ればブラドの大群で、日が傾けばシーブルがやってくるんだからなぁ。あれならカタマランを手にしたヒヨッコでも銀貨を手にすることができそうだ!」

「グルリンはさすがに数匹だったが、カルダスのところも似たような漁場だったということか」


 いつの間にか宴会になってしまった。

 タツミちゃんやトーレさん達が出来たばかりの料理をどんどん運んでくれるんだけど、皆上機嫌だからなぁ。 直ぐに無くなってしまう。

 飲んでばかりいないで食べておかないと、明日は体力を使いそうだからね。


「確かに魚がスレていねぇ。ここで漁を始めれば少しずつ漁果は減るだろうが、それでもシドラ氏族周辺の漁場よりは漁果が望めそうだ」

「ガリム達も大漁だったとすれば、燻製小屋を2つ使ってどうにかだな。場合によっては2回に分けて燻製を作ることになるぞ」


「保冷庫も出来てるんだから、心配しることはねぇだろうよ。だが、燻製小屋をもう1つ作っておく必要がありそうだな。保冷庫は2つあるが……、これも増やしておくか。それは次の連中で作ろう。バゼルは当初の予定通りで進めてくれ。シドラの島に戻ったら長老達と相談する」


 燻製小屋が3つとはなぁ。まぁ、シドラの島と往復する保冷船が2隻だから、余裕があることは良いことに違いない。

 

「あの大きさの保冷船が必要になるとは信じられんかったが、帰りは俺の船の保冷庫も使うことになりそうだ」

「あまり無理はしない方が良いんじゃないか? オラクルの保冷庫は2つあるんだからな。次の便で持って行けばいい」


「積めるだけは持って行くさ。商船が高値で買い取ってくれるからな。シドラの島の燻製小屋も1つ増やそうかと言われてるぐらいだ。1日掛けた燻製より高値なら2日掛ける価値がある。老人達の励みになると長老が話してたぞ」


 燻製作業は案外退屈なんだが、煙を切らすことが無いようにしないといけないし、温度を上げてもいけないんだよなぁ。

 冷たい煙が一番らしいんだが、俺達にできることは炉から出る煙を煙道で燻製小屋に導くことにより煙の温度を下げているのが現状だ。

 どうせ作るなら、煙道を水で冷やせるようにできないかな?

 ドワーフ族の物作りの能力は極めて高いからね。熱交換器のような物が作れるかもしれない。


「明日は寝ても居られませんから……」と言い訳をして、宴会の場からカタマランに帰ることにした。

 明日は、どのカタマランも荷を運ぶのに苦労するだろうな。やはり、高台への荷揚げ方法は早めに解決しないといけないだろう。

 とりあえずはクレーンを使うことにしてるんだが、人力だからなぁ。

 魔道機関を使って省力化を図らないと老人達に文句を言われそうだ。


 タツミちゃん達は、小母さんや同年代の嫁さん達とおしゃべりを楽しんでいるみたいだ。

 酔い覚ましに、ココナッツを割ってジュースを飲む。

 さて、荷揚げに使える方法を考えてみるか。


 クレーン、エレベーター、リフトにベルトコンベア、ケーブルカーでも荷揚げはできそうだ。

 その中で、信頼性があって操作が容易なものとなると限られてくるよなぁ。

 熱帯地方だから劣化も進むだろうし、定期的なメンテナンスも自分達で出来るものでなければならない。

 それらを考えると、エレベーターということになるのかな?

 台車に背負いカゴを乗せて、高台に取り出し口に床を合わせればだ台車を引き出せるだろう。

 高台の広場から、燻製小屋までは少し歩かないといけないけど、起伏は無いから問題は無さそうだ。

 将来は木道を作ってトロッコを走らせれば良いんだからね。


 タツミちゃん達がお土産にもらってきたチマキのように蒸した混ぜご飯を頂き、今夜は寝ることにした。

 浜では、まだ宴会が続いているようだ。あのまま朝までってことは無さそうだけど、早めに寝た方が良いと思うんだけどねぇ。


 翌日。タツミちゃん達が、背負いカゴで一夜干しを運んでいく。

 開拓途上だから、リードル漁を除いて、猟の収入は均等分配になる。

 それなら、少しぐらい楽をしても良いように思えるんだけど、ネコ族の人達は真面目だからなぁ。

 次々と浜に集まる背負いカゴを、男性が高台に運び上げる。

 数が多いから、クレーンだけでは足りずに俺達も駆り出される始末だ。

 高台に引き上げられた背負いカゴを、再び女性達が燻製小屋まで運んでいる。


 燻製小屋の近くに作った屋根だけの小屋に、竹で編んだ敷物を敷いて、そこで分別してザルに広げ燻製小屋に運んでいるのはカルダスさんやバゼルさん一家だ。

 自分達の漁果もあるから、途中で誰かと交代するんだろうな。

 

「もう直ぐ、燻製小屋が一杯になるぞ!」

「まだまだありそうだ。やはり1度に全ては無理だろうな。残りは保冷庫で保存せねばなるまい」


 昼前に作業を1度中断して、皆でお茶を飲む。

 昼食は蒸かしたバナナだと、エメルちゃんが教えてくれた。どうにか3回目を運んで俺達のカタマランの保冷庫は空になったようだ。


「3カゴ目も沢山あったにゃ。もう少しあったら4カゴ目を考えたにゃ」

「そんなにあったの? 確かに、大きなものばかりだったけど……」

「一夜干しにしなければ、4カゴになってたにゃ」


 少しは軽くなったということなんだろうな。

 その辺りは、考えないといけないだろう。ザネリさんの話では、トウハ氏族では桟橋まで木道が作られ、カタマランから直ぐにトロッコへの積み込みが行われるとのことだ。

 アオイさん達が色々と便利なように作って行ったんだろう。

 俺達も無理をせずに、そんな設備を増やして行けたら良いんだけどね。


「少ないと言っても2カゴだからなぁ。それも2人でだ。シドラ氏族の島なら、大騒だろうよ」

「何時も、今回のようにはいくまいが、それでも半分にはなるまい。ナギサの船の改造はどうなってるんだ?」


「俺達で保冷庫を作っているからなぁ。だが、そろそろ出来上がるぞ。魔石8個の魔道機関が3基搭載だ。空荷なら前のトリマランよりも速そうだが、桟橋への接岸に苦労するかもしれん。それは台船で手伝ってやることもできるだろうよ。ザバンを2艘繋いだ台船はシドラの島にも2隻常備するらしいぞ」


 次にやってくるのは、俺達の前のトリマランということになるんだろうな。

 カルダスさんが帰って直ぐに来ることは無いだろうから、カルダスさんが交代する開拓団を率いて来る時に一緒にやってくるんだろう。


「さて、作業を再開するぞ! いつまでも休んでいると、今日中に片付かなくなるからな」


 カルダスさんの大声で、俺達が腰を上げる。

 まだ運んでくるんだろうか?

 小屋の敷物の上には一夜干しが山になっているんだよなぁ。

 確かに燻製小屋2つでは足りなくなってしまいそうだ。


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