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P-155 保冷船がやって来た


 雨季だからか、作業が度々中断する。

 朝夕の皆で一緒の食事も、3日に1度はできない場合が出てくるんだよなぁ。

 とはいえ、ネコ族の人達はあまり気にもしないようだ。

 雨季はそんなものだと思っているのだろう。

 まだ俺が個々の世界になじんでいないのかもしれないな。

 朝からの豪雨を眺めながら、のんびりとコーヒーを飲むことにした。


「もう1か月になるにゃ。野菜が伸びてきてもこの雨にゃ」

「畑が掘り起こされてしまうにゃ」


 タツミちゃん達は浜に作った野菜が心配のようだ。今回は花の種も撒いたらしい。花で覆われた島というのも夢があるなぁ、と感心してしまう。

 2人の心配もわからなくもない。この豪雨だからねぇ……。


 各氏族の島の畑は林の中にあるそうだ。

 林の枝葉が、雨の勢いを和らげてくれるということなんだろう。

 森の木々を間引いて、森の中に畑を作るべきだったのかもしれない。今更だけどね。

 となれば、林の枝葉を代替すれば良いんじゃないかな?

 ついでに土の栄養分が流れないような排水路を作るのも効果がありそうだ。


「畑に屋根を作るだと?」

 

 夕食後の焚火の席で俺の案を説明したら、バゼルさんの第一声がそれだった。


「この豪雨ですからね。少しでも和らげないと作物を育てるのも難しいかと。それに畑の栄養素が流れてしまうのも問題です」

「栄養素というのは分らんが、肥料が流れてしまうってことだろうな。それは嫁さん連中も悩んでいたぞ。せっかく育てたのにと俺に文句を言う始末だ」


 年かさの男性が俺の話に頷きながら、バゼルさんに話をしている。

 その言葉が、トリガーになったのか、焚火を囲んだあちこちから隣同士で話す声が起こってきた。


「だが、あまり聞いたことも、見たこともない代物だ。これで効果があるのか?」

「竹を割って並べた日除けですから、雨をはじいてくれます。スダレ状に作っていますから竹の間から畑に落ちる雨は土を掘り返すほどの力はありません。

 斜めにスダレを張って、そこに竹を半分に切った樋を置けば、スダレを流れてきた雨を畑に落とさずに道へ流せます」


「道に排水路を作ろうと言っていたが、その計画の先取りだと思えば十分だろう。ガリムの仲間で竹をたくさん切ってこい。

 スダレ作りは嫁さん達に任せられるし、スダレを並べる棚ぐらいは俺達で作れそうだ」


 材料の調達が俺達で、製作はバゼルさん達ということになりそうだ。

 どんなものになるのかは、浜の畑を使って試してみるらしい。

 先ずは作ってみて、具合を確かめようと考えたんだろう。俺もそれに賛成だ。


「畑に屋根を作ったなんて聞いたら、長老がびっくりするんじゃねぇか?」

「そのままぽっくりなんてことになったら、どうするんだ」

「誰も困らねぇよ。次の長老候補がいるんだからな」


 ひとしきりそんな話で盛り上がる。今夜も酒が美味いってことかな。

 竹の伐採は、ガリムさんが明日にでも作業を割り当ててくれるだろう。

 最初はいろいろと悩みながら俺達の作業を指示してたんだが、この頃は自信を持って作業指示を出してくれる。

 オラクルの開拓を通して、ガリムさんやザネリさん達のリーダーシップを育てようと長老達は考えているのかもしれないな。


 翌日は石の桟橋作りを一時中断して、砂利の運搬と竹の切り出しを分担することになった。西へ向かって島を5つほど廻ったところで、竹の自生地を見つけ、どんどん切り出していく。

 海岸で8FM(12m)ほどに揃えると数本を束ねて海に浮かべた。

 後はタツミちゃん達が、ザバンでカタマランの船尾にロープでむすんでくれる。

 1隻当たり3束ずつらしいけど、俺達のカタマランは太い竹ばかりが5束も結んであった。

 筏を曳いていく感じになりそうだが、前のトリマランでさえ台船を引けたんだからこれぐらいは容易に違いない。


 ガリムさん達は次いでとばかり、島に自生していたバナナやココナッツを取って背負いカゴに入れている。

 ココナッツが少なくなるのは、毎晩飲むからなんだろうけど、これでしばらくは安心して飲めるということになるんだろうな。


「こんなものかな? 足りなければ、この2倍は切り出せるだろう」

「1つの島で調達すると、後で困りませんか?」


 俺の問いに、ガリムさんと友人達が笑い声をあげる。


「竹は成長が早いんだ。あの森を全て刈り取っても来年には森を作るぞ。だが、切らなければ森の成長に限りがある。そして1度に枯れてしまうんだ」

「適当に刈り込んでいた方が長く竹を手に入れられる。t家に花が咲いたらその島の竹は次の年には全て枯れてしまうんだ」


 竹の花って見たことがないぞ。実はなるんだろうか? それに、そんなことがあるならニライカナイの竹は全て無くなってしまっていたはずだ。

 鳥か風で実が運ばれるのかな?


「そうならないためにも、少し竹を掘り出してきた。近くの島に植えればすぐに竹の林ができるぞ」


 人工的に増やせるってことか。

 シドラ氏族の島に竹林があるのは、そうやって増やしたからなんだろう。

 炭焼き小屋の近くに竹林ができればお爺さん達も竹細工の材料に不自由はなくなるんじゃないかな。


「さて、そろそろ帰るぞ。嫁さん達が何を釣ったのか楽しみだ」


 俺達が島でココナッツ酒を酌み交わしている頃、タツミちゃん達は船尾で釣竿を出していた。たまに取り込んでいる姿が見えるんだけど、水深が3mほどだからカマル辺りだと思うんだけどね。

 上手くいけば、今夜はカマルの唐揚げが食べられそうだ。


 長い船団は竹を曳いているからだ。

 船足は遅いけど、夕暮れ前にはオラクルに帰島できるだろう。

 曳いてきた竹を陸に上げれば今日の仕事は終わりになる。


 久しぶりに食べるカマルの唐揚げは、皆が喜んで食べるからすぐになくなってしまった。

 この島でカマルが釣れるのもそれほど遠くはないのだろうが、桟橋から気軽に釣れるシドラの島はやはり良い島に違いない。


「だいぶ運んできたようだが、やってみないと分からない。次も運べるのか?」

「5つ先の島に群生してました。この2倍は運べそうです」


 バゼルさんがガリムさんに確認している。

 ココナッツ酒を飲みながら頷いているところを見ると、明日から始めるんだろうか?


「東の壁が形になった。泉から貯水池への導水路も様になったぞ。水量が数倍に上がっても問題ない。最初から比べると水の出が増えているように見える」

「他にもあるんでしょうが、探すとなると大変です」


「後から見つかる分には問題あるまい。シドラ氏族の島より10倍は大きいのだ。泉があれだけとは思えんからな」


 できれば西側に泉が出来てくれれば良いんだけどね。

 カタマランへの給水が楽になるはずだ。

 なくても貯水池からの水道を作ることで、なんとかできるとは思ってるんだけど……。


 夜半に降り出した豪雨が朝になっても続いている。

 それでも、島の森がぼんやりと見えるまでになってきたからそろそろ晴れそうだな。


「今日は午後からになりそうにゃ。砂を運ぶ予定だったにゃ」

「1往復で終わりそうだね。麻袋10個も用意しないと」


 カヌイのお婆さん達のログハウスを作ろうと整地をしているらしいのだが、水はけを良くしたいと砂を要求されてしまった。

 砂利と合わせて用意してあげよう。


 オラクルにやってきて2か月が経とうとしている。いろいろと進めているけど、桟橋から見える開拓の成果は石の桟橋だけだからなぁ。

 カルダスさんが「ちっとも進んでねぇじゃねぇか!」と言い出しそうだ。海底の石積もかなり高くなってきたんだけどねぇ。カタマランが衝突しないようにと竹竿に赤いリボンを付けて立てているぐらいだ。

 バゼルさんは、「近づけば見える」と言って竹竿の先端でひらひらしているリボンを見て笑っていたんだよなぁ。


 そんなある日のことだった。2隻のカタマランがオラクルに近づいて来る。

 作業の手を休めて見入っていたんだが、片方のカタマランの姿がかなり変わっているのに気が付いた。


「ガリムさん。出来たようですよ。燻製を運ぶ高速船です!」

「後ろのカタマランだな? かなり大きいぞ。輸送船でも俺達並みの速度が出るなら問題ないな」


 問題ないどころか驚くんじゃないか? 魔道機関は魔石8個を3機搭載しているはずだ。

 屋形に見えるのが保冷庫なのだが、屋根が小さく見えるのは壁が俺達の屋形よりも高いためだ。

 誰が操船してるんだろうな。2家族で運用できるように船尾の屋形を作ったはずなんだが……。


「先頭は親父じゃないか! 予定はまだ先のはずだ」

「オラクルに案内してきたんじゃないですか。となると輸送船を操船してるのは、この島に来るのは初めてということになりますよ」

 

 とりあえずココナッツ酒を用意しておこう。ガリムさんの仲間がバゼルさん達に知らせに走ったようだ。

 詳しい話は雨季の前期と後期の開拓責任者同士で行ってもらえば良いだろう。


「運んできたぞ! あんなに大きいとは思わなかったが、これで漁ができる」

「早速始めるか。石積みに飽きたところだからなぁ。2日漁をして戻ってくれば十分な漁果が得られるはずだ」


 少し早いが、浜で焚き火を囲んでの酒盛りが始まってしまった。

 参加していないと、夕食を食べられそうもないから、仕方なくココナッツ酒を少しずつ飲んでいる。


「多すぎても問題ねぇだろう。保冷庫はできてるからな。あれが階段か? まだ坂になってるだけじゃねぇか」


 桟橋作りの片手間作業だからなぁ。高台の広場を崩して坂にしたんだが、階段までは手が出ていないのが現状だ。

 豪雨で土砂が流れないように枝を組んで土止めをしていいる状態だ。


「丸太を並べておくか、少しはマシになるだろう。荷下ろしは柱を立てて、桁を伸ばせば、滑車で高台に引き上げられるだろう」

「先ずはそれだな。ガリム、そういうことだから、明日はあの坂を何とかするぞ。大漁でも荷が運べないのは問題だからな」


 漁は2日後と言うことで、明日は皆で坂の補強と荷の上げ下ろしをするクレーンを作ることになってしまった。

 オラクル周辺の漁場は魚が濃いからなぁ。どのカタマランもたくさんの漁果を運んでくるに違いない。


「ほう! 真珠貝を見付けたのか」

「東に行ったサンゴの穴の底に群生していたらしい。30個ほど取って来て6個だから、まあまあと言うところだな。底の深い穴は海底をよく見ておくことだ」


「そんな話を長老にしたら、また喜ぶに違ぇねぇ。開拓に金が掛かるかと思ったら、中位魔石の話だからなぁ。やはり龍神の助けだと言ってるぐらいだ」


 カルダスさん達は、状況を聞きながら飲み明かすつもりなんだろうか?

 このまま付き合ったら、明日は高台から足を踏み外しかねない。

 次々と出てくる料理を摘まんでいたから、お腹は一杯だ。

早々に退散して寝てしまおう。明日は結構大変な作業になりそうだからなぁ。



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