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P-154 日を定めて漁をしよう


 石積と砂利運びを3日ずつ続けると皆で漁に出る。バゼルさん達は10日を一区切りにしているようだ。

 オラクルの周辺には良い漁場が沢山ある。

 半日の漁で、しばらくは魚に不自由がないんだからね。


「皆は南に行ったにゃ。私達はどこに行くにゃ?」

「東に行ってみるかい? 地図作りに島2つほど離れただけなんだよね」


 そんな話で俺達は単独で東に向かうことになった。

 オラクルの西に長い入り江を抜けると、左に舵を取りしばらくはガリムさん達の後方を進む。

 オラクルがだいぶ遠くになったと思っていると、「東に向かうにゃ!」の声が上の方から聞こえてくる。

 露天操船櫓で操船していたようだ。

 

 カタマランが左に傾く感じがするほどの回頭を行うから、船尾のベンチに座っていた俺は急いで背もたれの板を掴んでしまった。

 カタマランがぐんぐん速度を上げる。

 白い航跡が大きくなったのがはっきりと見えた時、ふわりと浮かんだような感触が体に伝わった。

 かつてエレベーターに乗った時に感じた感触なんだが……。

 後ろの航跡も先ほどとは変わっている。ひょっとしてこれが水中翼船の状態ということなんだろうか?

 さらに速度が上がり、近くの島が直ぐに後ろに遠ざかっていく。


 確かに速い! アオイさん達はよくもこんな船を作ったものだ。

 漁船として作ったとは思えないな。他の目的があったに違いない。


 とはいえ、この反則じみた速度ならシドラ氏族との行き来を一気に短縮できそうだ。

 ふと、この船の目的が分かった気がする。

 たぶん、他の氏族との島を行き来したんじゃないかな。


 ニライカナイ全体を考えて行動していたに違いない。

 俺にはそこまでの技量が無いけど、ナツミさんと一緒になってネコ族のために頑張ったに違いない。

 

 そうだとすれば、カイトさんアオイさんに続いてこの世界にやってきた俺の役目もあるんじゃないかな?

 少し釣りが好きなだけの少年を招き寄せたのは、それなりの理由もあるに違いない。

 開拓が一段落したら、ネコ族全体の暮らしについて考えてみよう。


 オラクルを出て2時間。

 すでに島5つほど東に進んでいる。

 現在は速度を落として、漁場を探している状況だ。

 露天操船櫓から偏光レンズのサングラスを使うと、広く海底の様子まで見ることができる。

 2つあったから1つをタツミちゃんに渡してあるんだけど、漁場を確認する時ぐらいしか着けないようだ。


 さらに速度が遅くなり、カタマランが横滑りを始めた。

 良い場所を見つけたのかな? そろそろ船首甲板に移動するか。アンカーを落とさないといけないからね。


 船首の狭い甲板に出ると、露天操船櫓の上の2人が見えた。

 小刻みにカタマランの位置を直しているのは、サンゴの穴になるべく近く停船しようとしているのだろう。


「アンカーを下ろして欲しいにゃ!」

 

 船首に設けたスラスターの動きが停まった途端、エメルちゃんの大声が聞こえてきた。

 片手を上げて了承を伝えると、アンカーの石を投げ込む。

 するすると伸びたロープはおよそ4ⅿほどだ。それなりに深いってことだな。

 アンカーのロープをしっかりと結んだところで、露天操船櫓の2人に手を振る。2人で一緒に手を振っているから作業終了は分ったようだ。


 さていよいよ漁ができるぞ。

 サンゴの穴だから素潜り漁になる。

 半日程度ならザバンを使わずにカヌーで良いだろう。 船首甲板に横にしたカヌーを海に放り出してパドルを手に持ち、屋形の壁伝いに船尾に向かった。 

 ロープを手繰ってカヌーを引き寄せ木製の保冷庫をカヌーにゴムバンドで固定する。


「大きな穴にゃ。大物が潜んでいるかもしれないにゃ!」

「期待できそうだね。何を使う?」


 タツミちゃんが選んだのは、こっちの世界で作った水中銃だった。

 俺も水中銃にするか……。

 水中銃の長所は、狙いが正確で 1ⅿクラスでも十分に捉えることができるところだ。さすがにタツミちゃん達はそこまで大きいのは狙わないが50㎝クラスなら獲ってくるんだよね。

 当然、短所もある。

 操作が面倒なのだ。中型をたくさん突こうとするなら、銛の方が断然有利になる。

 だけど、休暇を兼ねた漁だからなぁ。

 多くは求めず、漁場を確認するぐらいで十分のはずだ。そこに大きいのがいたら、確実にし止めようということに違いない。

 

 準備をした2人が、さっさと水中銃を持ってカヌーと一緒にカタマランを離れていく。

 先を越されてしまったが、まだまだ時間はたっぷりある。

 

 フィンを履いてマスクを着け、シュノーケルを咥えると、水中銃を手に海に飛び込んだ。

 やはり喫水が高くなってるな。

 ちょっとしたことなんだろうが、飛び込むと違いが分かる。


 先ずは縁を巡ってみるか……。

 シュノーケリングをしながら、海底を探る。

 穴の底が見えないくらいだから、かなり底は深そうだ。

 息を整えて海底にダイブすると、砂地の海底が広がっている。

 底は魚がいないようだ。

 海面に目を向けると、崖に張り出したサンゴの周りに魚が泳いでいる。

 海底まで潜る必要は無さそうだな……。


 浮上しようとした時、少し離れた場所に岩が砂地から突き出しているのが見えた。

 案外、あんな場所に隠れているんじゃないか?

 近づいて様子を見ようとした時だ。そこにいたのはロデニルと呼ばれるイセエビだけだったが、岩の周りに付着した貝は……、真珠貝じゃないのか!

 前に一度取ったことがある。餌にしようかと思って持ち帰ったんだが、中に真珠が入っていた。

 大きさにもよるが銀貨3枚になったんだから、これは見逃すことはなさそうだ。

 手に持てるだけ取って、海面に浮上する。

 

 俺が上がってきたのを見て、タツミちゃんがカヌーを漕いできた。

 魚ではなく貝を持ってきたのに驚いていたけど、貝を見て直ぐに保冷庫からカゴを取り出して渡してくれた。

 

 タツミちゃんに水中銃を渡すと、再び海底に潜る。

 足に固定したナイフを取り出し、次々と真珠貝をカゴに入れてタツミちゃんのところに持っていく。

 カゴに2つ分ほど取ったところで、一度カタマランに戻る。

 エメルちゃんは大きなブラドを突いてきたようだ。

 

「だいぶとれたにゃ!」

「これって!」

「真珠が入ってることがあるにゃ」


 エメルちゃんは初めて見たのかな? 貝を持ち上げてしみじみと見ている。

 入ってなければ、釣りの餌にもできるし、串に刺して魚醤をを付けて炙るとワインとの相性が良いんだよね。


 お茶を飲んで一休み。

 貝を取りたいとエメルちゃんが言っていたから、場所を教えてあげたけど、結構深いんだよね。無理はしないように、と釘を刺しておく。


 昼過ぎまで漁をして、バルタックを3匹、バヌトスを2匹突いた。

 いずれも50cmを超える良い型だから、トーレさん達も喜んでくれるだろう。


 タツミちゃん達が、獲物を捌き終えたところでオラクルに帰島する。

 入り江近くで水中翼船モードから通常モードにカタマランが変化した。喫水が浅くなり速度も緩やかになる。

 とはいえ、これでもカタマランとしては速いのだろうけどねぇ……。


 ガリムさん達かな? 南西方向からこちらを目指して進んでくる数隻の船影が見えた。

 入り江に向かってカタマランが舵を切ると、すぐに船影が島影に消えてしまった。再度姿が見えた時は桟橋に停泊しようとタツミちゃん達が微妙に操船を行っている時だった。


 タツミちゃんの指示でアンカーを下ろして、船首と船尾をロープで桟橋と繋ぐ。

 桟橋に下りて、帰島してくるカタマランを眺めていたが、この桟橋を目指してこないところを見るとガリムさん達ではなさそうだ。


「兄さんと違ったにゃ」

「まだ帰ってきてないみたいだ。食べきれないほど獲ってきても困ると思うんだけど」


「食べきれない分は一夜干しにするにゃ。しばらくは持つにゃ」


 とは言っても雨季だからなぁ。

 燻製品と違って、あまり日持ちは期待できないんじゃないかな。


「雨がやってくるにゃ!」


 操船櫓から降りてきたタツミちゃんが俺達に教えてくれた。

 確かに西の空が怪しい感じだ。

 帰島する時にはなかったから、急速に近づいている感じだな。

 急いで屋形の方に巻き込んでいた帆布のタープを開いて船尾に立てた棒に末端の金具を引っ掛ける。ロープを張って、殻になった水の運搬容器を用意しておく。

 直径30cmほどの真鍮製のロートが結構役に立つ。


「終わったよ。夕暮れ前に晴れてくれれば良いんだけどね」

「晴れないときには全部一夜干しになるにゃ。ザルも運んでおいて欲しいにゃ」


 ザルやカゴは、船首甲板から出ないと取り出せないからな。

 確かに今の内に運ばないと濡れてしまいそうだ。

 3枚ほど一夜干し用のザルを運んでいると、西から滝が近づいてきた。

 全く、豪雨という範疇を越えてる気がするな。

 数分も経たない内に、雨がタープを叩きつける。タープの緩んだか所から雨が落ちてきたから運搬容器の位置を変えて雨水を受ける。

 これなら水道より早く溜まりそうだ。


 隣の桟橋では、カタマランの停泊作業を豪雨の中で行っていた。

 急いでいるけど、やるべきことはきちんと行っているのがよくわかる。つないだロープを最後に引いて、解けないことを確認していた。あんな姿は、見習わないといけないだろう。

 さて、今の内に雨に打たれて着替えをしておこう。


 船首甲板で裸になって雨に打たれる。

 冷たい雨ではないからシャワー気分になれるんだが、いかんせん雨量が尋常じゃないからなぁ。ともすれば滝行に思えてしまう。

 屋形の中で着替えをすると、今度はタツミちゃん達が体を洗うようだ。

 魔法で汚れは落とせるけど、やはり真水で体に付いた塩を流す方が気持ちがい良い。

 この雨で視界は最悪だからね。人の目を気にする必要もなさそうだ。


 さっぱりしたところで、コーヒーをエメルちゃんが作ってくれた。

 まだ真珠貝は開かないようだ。

 トーレさん達に見せた後で、皆でわいわい騒ぎながら開くのかな?

 そんな姿が直ぐに想像できるんだから、多分そうなるんだろうな。


「雨が降る前に帰ってたのは半数位にゃ、ガリムさん達は雨が上がってからになりそうにゃ」

「桟橋への横付けを雨の中ではなぁ……。入り江近くでアンカーを下ろしていると思うんだけど」


 とりあえずランプを1個作って帆桁に下げておく。

 桟橋の位置を少しでも早く知ることができるだろう。視界が悪いがゆっくりとなら船を走らせられないこともない。

 周囲の状況が分かっているところならなおさらだからな。


 コーヒーを飲みながら、パイプを使う。

 案外取り合わせが良い感じだ。ココナッツ酒よりも俺には合ってる気がする。

 3人で西を眺めているけど、雨の中から船影は見えてこなかった。

 やはりどこかでアンカーを下ろして雨をやり過ごそうとしているのだろう。


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