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P-153 再び雨季の開墾が始まる


 予定の休暇をだいぶ残して、俺達はオラクルへとカタマランを進めている。

 タツミちゃん達葉「遅い!」と文句を言っているけど、上の操船櫓に乗って満足そうな顔をして操船しているようだ。

 俺の居場所である船尾の甲板には10個ほどのタルと畑の土と肥料が朝の袋に詰められて乗せられていた。

 おかげで、食事は家形の中で取る始末だ。


 まだ水中翼が働くところを実感していないんだけど、漁をするときには味わえるかもしれないな。

 大きいのは気に入っているんだけどね。


「皆荷物をたくさん積んでるから、船足が遅いにゃ」

「今日で6日目だったね。途中で雨があったからじゃないかな」


 雨季だからなぁ。途中、豪雨で半日足止めされてしまった。本来なら今日の夕暮れ前にはオラクルに到着しているはずらしい。

 月明かりを頼りに遅くまで船を進めていたのは早く到着したいということだったのだろう。

 だけど運搬用の容器1本が、雨水で一杯になったのはありがたいことだ。


 翌日の昼下がりにオラクルの桟橋にカタマランを横付けする。

 皆で荷物を浜に作った小屋近くに運び、濡れて困るものは小屋の中に運んで帆布を被せた。

 

 タツミちゃん達が浜に作った小さな畑の野菜の種を撒いていたから、1か月も過ぎれば葉物野菜が食べられるだろう。

 明日は南斜面のだんだん畑にも種を撒くんだろうな。


 日暮れ前に浜に焚き木を作り、バゼルさんより明日からの作用の分担を聞くことになった。

 タツミちゃん達は、カマドに集まった女性達とわいわい騒ぎながら夕食を作っている。

 航海中は家族だけだから、話相手がいなかったのかな?

 女性と違ってネコ族の男達は案外無口なところがあるからね。


「さて、明日からだが、俺達は貯水池を作ることになる。だいぶ石を運んであると聞いているが、明日それも確認してみるつもりだ。

 ガリム達若者は桟橋の方を頼む。砂利と砂が必要な時にはガリムに伝えるから、砂利を運搬する者を選んでくれよ。今回はナギサもガリムのところで働いていくれ」


 乾季と同じってことだな。

 また3班に分けて仕事を進めることになりそうだ。

 砂利運びは結構骨の折れる仕事なんだが、貯水池まで運ぶとなるとさらにきつくなりそうだ。

 そうなると段々畑の方は、小母さん達が種を撒くことになるのだろう。


「それでもだいぶ伸びてきたよなぁ……」


 ガリムさんの友人の一人が桟橋を眺めながら呟いた。

 30m程伸ばすことになるんだが、岸から10m以上伸びているように思える。

 とは言っても、桟橋となればもう少し高く積みたいところだ。海底の方もかなり積み上げているが、最後は6m四方の広場を作ることになるんだよなぁ。

 6mは小さいと思っていたが、作って見ると嫌になるほど大きく思えてくる。


「のんびり積み上げようぜ。急いで作ると碌なことにならないからなぁ」

「高台の階段作りもお願いしますよ」


 俺達は桟橋を眺めながら、明日からの作業に頷いた。


「貯水池の次もあるんじゃねぇか?」

「排水路を作って貰います。広場から南に下る道に沿って溝を掘り、底と壁面を石で補強することになります」


「確か用水路も作ると言ってたな?」

「排水路の石組を使って作ろうと思ってます。途中に何カ所か池を作りますから結構時間が掛かりますよ」


 やれやれという感じでバゼルさん達が俺を見てるけど、反対する言葉は出ないようだ。

 子孫に良い暮らしをして貰おうという思いがあるに違いない。


 タツミちゃん達が作ってくれた夕食を、焚き火を囲みながら頂く。

 既に日が落ちているが、半月を過ぎた月が入り江を照らしている。

 穏やかなうねりの中に浮んだ月は、幻想的な雰囲気を漂わせていた。


 食事が終わると、早速ココナッツ酒を入れたポットが回されてきた。

 飲み過ぎると明日の仕事に影響しそうだから、カップに半分ほど頂いて飲むことにした。

 明日からの作業をどう行うか、話し合いながら飲む酒は美味いものだ。


 今年の雨季の開墾第1日目は、石と砂利を運ぶことから始まった。

 台船と俺の船を使って、オラクルから南に2つ目の島まで出かけてナギサの石と小石交りの砂を麻袋に詰め込む。

 2度ほど往復して桟橋の孤児現場に山積みしたんだが、それほど多いとも思えない。

 いつも通りに数家族を石運びに回すことになってしまうだろう。


「接着剤の樽も数個運んでおけば、明日から積み上げられそうだな」

「石もそうだが、砂利も運んだ方が良さそうだ。海底の石組みも結構高くなっているぞ」


 工事の進捗は遅々たるものだが、確実に進んでいることは確かだ。

 俺達が作ったと子供達に誇れるものが完成するのは何時になるんだろう。

 少なくとも、今雨季でないことだけは確実なんだけどね。


「場合によってはバゼルさん達から砂を運ぶように依頼されそうだな。砂を10袋はいつでも用意しておいた方が良いんじゃないか?」

「なら、石組と石の運び手を半々にして進めていくか」


 少し早めに焚火を作り、明日からの工事をどう進めていくかを話し合う。

 タツミちゃん達は小母さん達が戻ってくる前に、食事の準備に取り掛かっているようだ。

 日が傾き始めるころにバゼルさん達が戻ってくる。

 早速、ココナッツ酒が回されて、ガリムさんが状況報告を始めたようだ。


「確かに砂は足りんだろうな。いつでも10袋が用意されているなら都合が良い。それで始めてくれ。俺達の方は雨季の終わりには何とか完成しそうだ。

 カルダス達が雨季の中頃にはナギサの頼んだ品を運んでくるだろう。

 据え付け場所は聞いているが、その周りは図面通りで良いのだな?」


「図面通りであれば問題ありません。ところで乾季に見つけた流れはどうですか?」

「小さな泉になっている。カヌイの婆様達の小屋は、その泉近くに作ろうと思って少し整地を始めた。

 だいぶ東に移動してしまうが、婆様達は喜んでくれるだろう。泉の周囲も石で囲むし

流れの岸に石を積み上げるつもりだ」


 貯水池を見下ろすような場所になりそうだな。

 小母さん達は、3つめの畑作りの準備を始めたそうだ。すでに作った畑にも種をまいたと言っていたから、2か月もしたら食べきれないほどの野菜が取れるに違いない。


 2日目の朝。ガリムさんが俺達若手を2つの班に分けた。

 俺はガリムさんの班に入ったから、今日は石を積む作業になる。競泳用の水中眼鏡とグンテよりも少し太い糸で編まれた靴下を履いて作業を始める。

 足底は2重になっているし、分厚くガムが塗られている。

 これならサンゴで足を切ることはないだろう。


 海底まで石を運ぶと、浮上して息を整える。次に潜った時に石組みに張った糸に合わせて積み上げる。

 これを繰り返すのだが、1個積んでは一息入れて3個積むと陸に上がって一休み。

 素潜りよりも疲れる作業だ。

 

 それでも1日で1人当たり20個は積めるし、嫁さん達も手伝ってくれるから200個近い石が積み上げられることになる。

 確実に進捗しているんだが、少し離れてみると今朝とそれほど変わって見えないのが辛いところだな。


 台船が運んできた砂やサンゴの欠片が、石組みの中に投入されていく。

 桟橋が沖に向かえばどんどん石組みの深さが増すことになるから、いくら運んでもきりがないように思えてくる。

 カルダスさん達古参がやりたがらないわけだな。

 島の開拓で一番工事期間が長くなるのは仕方がないことなんだろう。


 3日石を積んだところで、今度は石運びに代る。台船が2隻あるから石と砂に分けて運搬することになる。

 砂は、どの島にもあるから問題はないのだが、石となるとそうもいかない。

 適当な石が沢山ありそうな島を探しに、カタマランが出船したぐらいだ。


「石を探すのに苦労するとは思いませんでした」

「死んだサンゴなら使ってもかまわないと親父が言ってたけど、それは最後の手段だろうな。それに外側は石を使わないとサンゴでは脆すぎるんだ」


 石は陸上にあるとは限らない。海底にゴロゴロしている場合もある。

 なるべくサンゴが付着していない石を集めようとすると、結構面倒なことになってしまう。やはり石は島で採取したいところだ。


 10日程過ぎると、やはりバゼルさんの方でも砂が足りなくなってきたらしい。用意してある砂を運んで行ったようだ。


「砂はそれほど面倒じゃないから明日中にまた10袋を用意しておこう」


 結構辛い仕事なんだけど、嬉しいこともあった。

 かなり魚が増えている。

 石を積んだ隙間にエビまで住んていたからね。

 とはいえまだまだ小魚ばかりだけど、小魚は群れる習性があるようで、俺達の近くを色鮮やかな魚達がたまに横切ることがある。

 次の雨季には桟橋からオカズが釣れるんじゃないかな。

 

 作業をしていると急に空が曇ってくるときがある。

 豪雨の襲来だ。

 桟橋近くに作った大きなテントに避難して、豪雨が終わるのを待つことも度々だ。

 男女に分けたテントの中で、パイプを楽しみながら恨めし気に空を見る。

 雨季は作業が捗らない季節だが、水の心配がないことは確かなようだ。


「この雨で畑の土は流されないのか?」

「段々畑にして、斜面を無くしてますが、確かにすごい雨ですよねぇ」


 畑の畝を作って排水を考えて入るんだが土壌の栄養分はかなり流れてしまうに違いない。

 収穫率は悪くとも、畑を広げれば自給はできるだろう。

 段々畑に一面の野菜は、ニライカナイでもできそうに思えるんだが、この豪雨を見るたびに自信が無くなってしまうんだよなぁ……。


 豪雨になると、皆で一緒の食事を作れないということで、作業を終わりにしてカタマランに戻る。

 タツミちゃん達が濡れた衣服を換えた後で、俺も着替えることにした。

 海に潜って石積みをしていたから、豪雨で濡れたわけではないが乾いた衣服に着替えるとやはり心地よいものだ。


「明日も雨かにゃ?」

「これだけ降るんだから、晴れると思うよ」


 既に水汲み用の容器2個目に雨を受けている状況だ。さすがに限度あると思うんだよね。

 まだ日暮れには早い時間だが、だいぶ薄暗くなってきた。

 それだけ雲が厚いということになるのだろう。

 早々にランプを作り、帆桁に下げることにした。船尾の甲板が広いから、ベンチに座って一服を始める。

 久しぶりに、エメルちゃんがコーヒーを作ってくれた。

 豆を沢山購入してきたらしいから、たまに作って貰えるのがありがたいな。甘い味が喉に心地良く思える。


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