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P-151 ギョキョーの小母さん達


 囲炉裏の火でパイプに火を点けて、しばらく皆の声に耳を傾ける。

 長老達も笑みを浮かべてしばらくは男達の意見を聞いていたのだが、やがて大きな声を出した。


「さて、そろそろ次の話をすべきじゃろうな。

 現状は、昨夜のバゼルの話と先ほどのナギサの話で分かったはずじゃ。5日後にバゼルが先行して出掛けるがよい。若者はガリムに任せておくのじゃな。人選はオラクルでリードル漁を行った者とする。ナギサには申し訳ないが、雨季もまたオラクル暮らしをしてもらうことになる。

 この措置に、皆の不満もあるだろうが購入して3年足らずのトリマランをシドラ氏族のために供出してくれたのじゃ。さらに、我等に多大な恩恵があるリードル漁場を見つけてくれたことに感謝しなければなるまい。

 専用の高速船がもうすぐやってくるであろう。開拓と漁業を両立させながら頑張ってくれよ。

 次の乾季には我等とカヌイの婆様達の何人かをオラクルへ送ることになるだろう。最初の入居は余り多くはできないじゃろう。様子を見ながら増やしていきたい」


「それを考えますと、炭焼きや燻製作りの老人達も連れて行きたいところですが?」

「次の乾季で良いじゃろう。まだまだ不便な場所のようじゃ。少なくとも貯水池は早く作りたいのう」


 俺達と違って、老人となれば島に定住することになるだろう。

 畑に炭焼き、燻製作りと仕事はあるんだが、店すらないからねぇ。生活物資の補給もうまく考えなばなるまい。

 それを考えるとギョキョーの支店も一緒に作ることになるのかな?

 魚を獲る暇が無くなりそうだ。35家族をいくつかの班に分けて今まで以上に仕事を進める必要が出てきそうだな。


「今回も台船を曳いて来なかった。持っていける物は俺達の甲板に積めるだけになりそうだ。何を運ぶかは明日にでも決めることになるが……。やはり接着剤がかなり必要だ」

「すでに20樽を購入しておる。ギョキョーの脇にある果樹の苗も持って行った方が良いぞ。まだだいぶ残っておるようじゃ。グンテは5双ずつ渡せるじゃろう。酒も30本は用意してある。……カルダスもそんな顔をするでない。お前が出掛ける時にも同じ数を持って行かせるからのう」


 氏族からの贈り物ということかな?

 各自も購入していくから、間違いなく毎晩飲み会になりそうだ。

 5日後ならば、タツミちゃん達も少しは新しい船に慣れるだろう。

 長老に頭を下げ、席を立つと集まった男達に軽く頭を下げて長老のログハウスを後にした。

 さて、まだタツミちゃん達は帰って来ないだろう。商船でも覗いてくるか。


 商船に入って陳列棚を眺める。

 生活の便利道具から銛を研ぐ砥石まで揃ってるんだよなぁ。

 商品の品数なら、向こうの世界のコンビニを越えてるんじゃないかと感心してしまう。売り場面積も似た感じだから比べてしまうのかな?


「なにかお探しでしょうか?」

「時間つぶしに眺めてるんだけど、最後はタバコと酒を買うつもりだ。出来れば先行して用意しといてくれないかな。

 タバコが20包にワインが12本、それ果実酒の蒸留した奴だ。支払いは中位魔石を使いたいんだけど……」


 中位魔石と聞いて店員に笑みがこぼれる。

 競売で手に入れるとどうしても高くつくからだろう。直接買い取るときには標準価格ということになる。標準価格も変動はするのだが、その範囲はせいぜい銀貨2枚の範囲内だ。


「それではカウンターに用意をさせておきます。そのほか気に入った品があれば、カウンターまで持ってきてください」


 商売上手だなぁ。そんな思いを浮かべて店員を見送ると、再び陳列棚を眺めていく。

 何回か店を回って手加護に入れた品物は、釣り針と道糸、それに直径数㎜の鉛の重りだった。釣りの仕掛けもそろそろ交換したほうが良いだろう。

 傷んだ仕掛けで大物を釣り上げようとしてバラしたらガッカリするに違いない。


 カウンターにカゴを乗せて、魔石を取りだす。

 受け取った店員が窓の明かりに透かして品位を確認しているようだ。


「間違いなく中位です。しかも上級ですからありがたく換金させていただきます」

 

 先に換金額を渡してくれた。銀貨27枚は中々じゃないか。


「競売に出品したら、30枚になったでしょうに。でも私共としてはありがたいことです」

「手に入れた魔石を全部競売にかけることはしないようだね。カタマランの修理や急な出費のためにいくつか手元に置いているよ。ある程度溜まったら、まとめて競売にかけるようだけど、現金よりも魔石の方が安心できるからだろうなぁ」


「そういうことですか。今回中位魔石が多いのがちょっと気になりまして……。とはいっても、他の氏族はどうなのかわかりませんけどね」

「全体で見れば、微々たる変化だと思うよ。だけど、シドラ氏族の漁場は中位が多いのかもしれないけどね」


 うんうんと店員が頷いている。

 ニライカナイ全体の魔石の取れ高は、かなりの数になるはずだ。その魔石は3つの品位区別されて取引されていたが、アオイさんの時代に、同じ品位を更に3段階に分けたようだ。

 商会ギルドの反対があったらしいが、ニライカナイ以外での水の魔石の算出がほとんどないことから渋々ながら受け入れてくれたらしい。

 だが、結果的には商会ギルドも納得できることになったようだ。競売を導入したことで自然に3つの区分が出来てしまったらしい。

 ということは、大陸側の搾取がずっと続いていたということになるのかもしれないな。

 それをアオイさん達が見直したということになるのだろう。


「これが用意した品です。多いので背負いカゴに入れてあります。背負いカゴはサービスしますからそのままお持ちください」

「済まないな。それでいくらになる?」


 言い値を銀貨で支払い。お釣りを受けとる。銀貨8枚が無くなってしまったけど、長い島暮らしをするんだから、これぐらいの嗜好品の消費は大目に見てもらおう。


 店員に手を振って、商船を出る。

 すでに午後になっているんだが、ここから見る限りでは、まだタツミちゃん達は帰って来ないようだ。

 カゴを背負って浜を歩いていると、ギョキョーの前にココナッツが山になっていた。


「済みません。1個割ってくれませんか? 喉が渇いてるんですが、生憎と嫁さん達が船を走らせに出掛けてるんです」

「それは気のどくにゃ。ん! ナギサにゃ。ちょっと待つにゃ」


 小母さんが小屋の奥から、ココナッツを取り出して鉈でココナッツに穴をあけてくれた。

 手渡されたココナッツを受け取り一口飲む。実を持った時に分かったけど、丁度いい具合に冷えている。

 小箱で作った保冷庫に入れてあったのかな?


「中で一服すれば良いにゃ。外は暑いにゃ」

「済みません」と言いながら、ギョキョーの中に入った。


 ギョキョーの中に初めて入ったけど、浜に面した大きなカウンターと土間にベンチが3つ置かれているだけだった。

 小母さん達が3人で、カゴを編みながらおしゃべりに興じていたようだ。


「だいぶ島の開拓が進んでると聞いたにゃ。それに中位の魔石を沢山運んできたにゃ。あっちの小屋で今日も競売が進んでいるにゃ」

「良い島ですよ。問題は水場ですね。カルダスさん達が大きな貯水池を作っているところです」


「次の乾季には、私達の仲間も出掛けるかもしれないにゃ。ちゃんとギョキョーを作っておくにゃ」


 作れと言われても……。ギョキョーの小屋の中をもう1度見渡した。

 縁台のようなカウンターと棚が1つ。それに今座っているベンチと真ん中のテーブルは箱の上に板を張っただけのようだ。

 そのほかには、奥に木箱があった。たぶん今飲んでるココナッツを冷やしていた保冷庫なんだろう。

 案外簡単な造りだけど、これで良いんだろうか?


「この中にあるものを用意すれば良いんでしょうか?」

「こまごましてるものもあるにゃ。準備してくれるなら、今から書き出すにゃ」


 小母さん達が悩みながら、リストを作り始めた。

 これは時間が掛りそうだ。出来るまで一服しながら待つことにしよう。


 しばらく待っていると、「できたにゃ!」と言いながら小母さん達がはしゃいでいる。

 1枚では足りずに2枚になっているようだ。

 結構いろいろ必要になるってことだな。


「そしたら、最初から必要な物と、少し待てる物に分けてくれませんか? これは絶対必要だという品の頭に『〇』を付けてください」

「ちょっと待つにゃ!」


 さっきよりも賑やかに小母さん達が話を始めた。

 通り掛かった小母さんまで加わってどうにかまとまった……んだろうな。


「これで完璧にゃ! 〇を付けた品があれば、ギョキョーが開けるにゃ。〇が付いてない品は追々揃えればだいじょうぶにゃ」


 小母さんが渡してくれたリストを大事にバッグに仕舞い込む。

 大きなことを成し遂げたような顔をして小母さん達がお茶を飲んでいるけど、確かに重要なことだからなぁ。

 バゼルさん達に聞いても、ギョキョーが必要とするものは分らなかったに違いない。小屋を作れば良いぐらいに考えているかもしれないな。俺だってそうだったからね。


「ところで、ココナッツは売り物ですよね。おいくらでしょうか?」

「それぐらいはタダで良いにゃ。ナギサが頑張っていることは、氏族の誰もが知ってるにゃ」


 ご褒美ってことかな?

 ありがたく頭を下げると、ギョキョーの小屋を出た。

 だいぶ長く話し込んでしまったようだ。日が傾き始めている。

 船は? と桟橋を見ると俺達のトリマランが姿を消して、カタマランがバゼルさんのカタマランに横付けされていた。

 帰ってきたようだな。どれ、俺も帰るとするか……。

 カゴを背負って、浜を歩き始める。

 カゴを背負うのは女性ばかりだから、ちょっと目立ってしまうんだよなぁ。

 それでも、見知った顔に出会ったときは軽く頭を下げる。

 そんな相手が笑みを浮かべているのは、やはり変わった奴だと思われているのかもしれないな。


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