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P-150 長老達への報告


 新しいカタマランを手に入れたのは良いんだが、生憎と試運転に立ち会うことが出来なくなってしまった。

 朝食を終えると、バゼルさんと一緒に長老達に会いに向かう。

 開拓の計画の進行状況と課題の確認、今後の計画の見直しということになるんだろうな。かなり長くなりそうだ。

 

 途中でカルダスさんの嫁さん達にすれ違って挨拶したけど、今日の試乗会に参加するんだろうな。嬉しそうに挨拶を返してくれた。


「トーレ達も朝からそわそわしてばかりいたからなぁ。昼過ぎには戻ってくるだろう。ナギサは明日と言うことで我慢するんだな」

「速さは、商船の連中も自慢していましたね。自分達の船なんですから、今後はずっと楽しめるということで我慢しましょう」

 

 かなり残念な気分だけど……。まあ、しょうがないと諦めるしかなさそうだ。

 それよりも長老への説明の段取りを歩きながら確認しておこう。

 地図は持って来たし、水道の概念図も持ってきた。畑の灌漑用水路は概念図にもなっていないが、おおよそこんな感じというぐらいの絵にはなっている。

 タツミちゃん達が作った開墾をしている島までの海図には、近くの漁場とリードル漁場までを書き込んである。

 

 20分ほど歩いて、長老達の住むログハウス到着した。

 既に20人を越える男達が長老達と炉を挟んで向かい合っていた。


「ほう、やって来たか。ひさしぶりじゃな。ナギサはこちらに座るが良い」


 何時もの通り炉の左手に一人でポツンと座ることになってしまった。俺の向かい側は、村の雑事を一手に引き受ける世話役と呼ばれる3人の男性だ。

 漁ができないということなんだが、どうやら深場で漁をしていた後遺症らしい。


「バゼルも来たことだ。それではナギサから開墾の状況を話して貰おう」


 長老の言葉に従ってバッグから地図を取りだすと、対面の世話役に軽く頭を下げる。

 世話役が席を立って、俺のところから地図を受け取り、長老と集まった男達のところに運んでくれた。


「手書きなので数がありません。シドラ氏族が開拓を進めている島は、このような形をしています。この地図を持って測量作業を終了し、他の作業に移りたいと思っています。

 地図に示した通り、かなりの大きさですし、西の入り江はかなり深いものになっています。

 現在までに作った桟橋は4つですが、シドラ氏族の島にある桟橋よりも長さありません。縦に3隻と言うところでしょう。

 桟橋の1つは竹で作っていますから、将来的には木の桟橋に変更する必要があります。

 一番北の石造りの桟橋は、現在も建設中です。騎士より3FM(9m)程度は海面より上に積み上げましたが、その先は海底からまだ腰の高さと言うところです」


「陸地の方は、入り江を望む高台の森を切り開いて、長老達のログハウスと2軒の長屋が出来ています。その広場から東と南に道を切り開き、東には大きな貯水池を現在建設中です。

 貯水池の北側に、東と南の海が臨めるようカヌイのお婆さん達のログハウスを作ろうと計画しているところです」


「南の道の先に広場を作り、ここに炭焼き小屋と燻製小屋を2つ建てました。燻製小屋での燻製作りは、乾季の中頃にカルダスさん達が運んできた燻製で評価して頂けたと思っています。

 燻製小屋の近くに保冷庫を2つ作りました。これらの運営に携わる老人達の休憩場所としての小屋は炭焼き小屋近くに作ってあります」


「さらに道を南に進むと、森を抜けた先に畑が2つ完成しています。およそ10FM(30m)四方の畑が2枚と言うところですが、緩い斜面ですから、南に沿って段々畑を今後作っていくことになるでしょう。少なくとも東西に4面、南北に10面以上の畑を作ることが可能です。畑の東西に果樹園を作ろうとして、現在植林中ですが、これは上手く根付くか否か俺にも分からないところです。

 簡単ですが、以上で状況報告を終わります。

 それで、1つだけ長老にお願いがあります。あの島に名前を付けて頂きたい。今のところあの島と過去の島なんて言い方をしてるんですが、やはり名前が欲しいところです」


 じっと俺の話を聞いていた人達が、急にがやがやと騒ぎ出した。

 長老達も笑みを浮かべて頷き合っている。やはり不便だと考えていたんだろうか?


「これこれ、静まらないか! 確かにナギサの言う通りじゃな。名前があることで島に意味が出てくる。この島は『シドラ氏族の島』と言われておるし、我等もそう名乗っているのじゃが、ニライカナイの島のほとんどに名前が無いことも確かじゃ。

 我等も名前は必要と考えておったが、良い名が浮かばぬ。

 ナギサならば腹案を持っておるだろうと考えておったが、どうじゃな?」


 参ったな。一応持ってはいるんだが、果たして気にいるかどうか……。


「あの島が大きくなる姿、その場所。探索に向かった時に遭遇した神亀、そして上陸を決意するきっかけとなった龍神の姿……。

 全ては龍神の御意志と考えております。とはいえ、さすがに『竜神島』と名乗るのも恐れ多いことです。

 俺の考えた名前は、『オラクル』……。俺のかつて住んでいた世界の神話で『神託』を示すものです。

 カイトさん、アオイさんにナツミさんであるなら、この言葉の意味を理解できるはずですから、彼等に敬意を表する意味でもこの名を使いたいと考えておりました」


「神託を意味する島と言うことじゃな? 龍神様のおかげで見つけたような場所じゃからのう……。アオイ様なら理解できるか……」

「我等には全く聞き覚えの無い言葉でありますが?」


 バゼルさんの言葉が、集まった男達の総意見でもあるようだ。うんうんと頷いているのが見えた。


「ワシは良い名だと思うぞ。『神託』を現す言葉となればカヌイの婆様達でも反対できまい。それに大陸の連中には、何のことやらわからぬじゃろうからのう」

「ナギサの住んでいたかつての世界……。その話はカイト様やアオイ様からの伝聞が色々と伝わっておる。

 ナツミ様は長くトウハ氏族のカヌイであったから、案外『オラクル』の言葉は婆様達が知っておるやもしれんぞ」


 アオイさんが長老で、その嫁さんだったナツミさんがカヌイの重鎮だったなら、トウハ氏族はかなり開放的な氏族になっていたはずだ。

 シドラ氏族の半数以上がトウハ氏族出身だと聞いたことがあるから、案外そんな言葉がたくさん残されているかもしれないな。


「それでは我等の裁可を下す。現在開拓中の島の名は、『オラクル』に決まりじゃ。ナギサもそれで良いな?」

「はい、これで島に親近感が出ます」


「さて、次の話じゃ。ナギサがかつてのアオイ様の乗船していた船と同じものを手に入れたという事じゃ。今日が試験航海であったのじゃろうが、呼び出して済まなかったのう。

 それによって、ナギサが使っていたトリマランをシドラ氏族に提供して貰った。さすがに無償とはいかぬだろう。これはその代価じゃ。取ってくれぬか?」


 そうは言ってもなぁ……。世話役が紙包を渡してくれたんだが、それをそのまま長老の前に持って行った。


「代価は必要ありません。その代わりに、手に入れたい品がいくつかあります。ここにその概要図を示しましたので、トリマランの甲板に設置した魔道機関を取り外してこのカラクリを作って貰えないでしょうか? それと、今後の畑作りにかなりの肥料と土が必要になりますし接着剤のタルもまだまだ必要です。その足しにしてください」


「全く欲のない男じゃな。かつてのアオイ様もそうであったと聞く。やはり龍神を背負うだけのことはあるようじゃ。ありがたく使わせてもらうぞ。

 そうなれば、カルダスにナギサのトリマランの改造を任せるぞ。まだ保冷庫を乗せた輸送船が届かんが、届き次第オラクルに送ることにしよう。

 次の開拓は35隻を率いてバゼルが先に向かうが良い。

 あれだけの中位魔石を手に入れたなら、しばらく漁を休んでも問題はあるまい。

 雨季明けのリードル漁はカルダスが率いていくことになるじゃろうが、それは3か月後で良いであろう。上手く運べば、2隻の保冷庫に燻製を満載させてバゼル達が帰って来れるはずじゃ」


「長老。雨季明けのオラクル近くのリードル漁、人選に少し問題が出るのでは?」


 バゼルさんの言葉に、男達が長老に顔を向けた。

 低位と中位では、売値に10倍近くの差が出るからだろう。中位数個で金貨が優に手に入ると教えて貰ったから、誰もが参加したくなるだろうな。


「やはり多くとも三分の一とすべきじゃろうな。次の撰に漏れた者が優先的に乾季明けに参加することで良いであろう。その都度クジ引きはせぬつもりじゃ。それなら問題あるまい」


 それなら……と、男達が囁き合っている。

 秘密は長く保たれそうだな。


「次の乾季には、向こうで20家族程度を住まわせるつもりじゃ。先ずは暮らすことで何が不足するのか分かるであろう。高速船が手に入れば10日もあれば往復できるからのう。不足する物資を送ることも可能であろう」


 とはいえ、シドラ氏族の島と比べると、かなり不便なところがあるんだよなぁ。その辺りの是正策を考えないといけないだろう。

 とりあえずは高台への階段ということになりそうだ。

 階段の傍にギョキョーの出張所も作らないといけないだろうし、高台への荷下ろし用のクレーンも欲しいところだ。

 その辺りが、次の俺の課題になるんじゃないかな。


「さて、これでとりあえず終わりになるじゃろう。酒を飲み、雑談に興じようかのう」


 長老の言葉に、ココナッツ酒のカップが出てくる。

 あまり飲めないから、半分程度注いで貰ってパイプを楽しみながら、雑談にかこつけた質疑応答が始まった。


「やはり階段ってことか! そうなるよなぁ。嫁達が愚痴をこぼしていたからなぁ」


「石の桟橋は、商船が来ないならあまり役立たないんじゃねぇか? それなら階段が優先だろうよ」


「その先だってあるぞ。ここにはトロッコがあるが、オラクルにはねぇからなぁ。早めに木道を敷設する場所ぐらい決めても良さそうだ」


 色々と意見が出てくる。

 この意見を聞いて、再び長老が方向性を決めるのだろう。

 雑談とは言っているけど、ブレーンストーミングみたいな感じもしてきた。


「やはり魚が戻って来たか! 桟橋でナギサがオカズを釣る姿が向こうで見られるのもそれほど遅くはないんじゃねぇか?」

「次の乾季なら確実だろう。ナギサがサンゴを移植すると言い出した時には驚いたが、上手く根付いたようだ。サンゴが茂るなら魚もやってくるからなぁ」


 まだ小さな甲殻類や、貝の姿を見ることはできないんだが、それも時間の問題だろう。

 入り江の東から西に流れる海流がどこから生まれるのかがまだ分からないんだが、おかげで入り江が汚れることもない。

 岩の割れ目から噴き出しているんだろうか?

 それも調査する必要がありそうだが、現状では無視していても問題は無さそうだ。


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