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P-149 やはり乗ってみたいらしい


 屋形も大きくなっている。

 長さも5mはありそうだな。長手方向に横梁が2本あるのはハンモックを吊るすためなんだろうが、これなら5つは吊れそうだ。2段に吊るなら10個近く吊れそうだから子沢山でも何とかなるかな。

 両舷に収納庫が作られているし、船も大きいから、水ダルや床下収納庫も大きなものだ。

 水汲みは苦労しそうだが、これだけ大きいと煮ずに悩むことも無いだろう。

 船首甲板は2mにも満たないが、他のカタマランと比べると大きく見える。ここにザバンを横沖にするんだろうが、喫水が高いのが気になるところだ。

 アンカーは下ろされているが、予備のアンカーが横に置かれている。ダンベル型の石は今のアンカーよりも、見栄えが良いな。ロープの長さは20m近くありそうだが、アオイさん達は群島の外れにまで足を延ばしたこともあるらしいからに違いない。

 

 屋形の前は、雨が入り込まないように、帆布のカーテンが屋根裏部分を覆っている。

 この辺りは生活の知恵に違いない。

 操船櫓に目を向けると、3人とも普通の操船櫓の上に作られたもう1つの操船櫓に上がっていた。

 4方向は開放型だから、豪雨では下を使うことになるのかな?

 屋根は帆布で覆っただけだから、風を受けて走るのは気持ちが良いだろうな。

 

 船尾の甲板に戻って、3人が下りてくるのを待つ。

 やがて、おしゃべりしながら3人が下りてきた。


「凄いにゃ! 引っ越したら直ぐに動かしてみるにゃ」

「それで、普通ならザバンを船首甲板に置くのですが、この船の場合は少し変わっていまして……、この真下にあるんです。取り出すためのスイッチは操船櫓にあります。スイッチを押して、この船を前進させるとザバンが出てきますよ。

 ザバンの収容は、ウインチを伸ばしてフックをザバンの前に取り付けてある金属製の輪に引っ掛ければ収容できます。スイッチに前後、上下がありますから、それで行えます。ザバンもカタマラン構造です。小さな台船のようになっていますし、変わった推進方法を使って進みます。

 ザバンに魔道機関の小さな操作卓がありますから、それで操船できるはずです」


 何とも凄いの一言だ。

 ザバンにまで魔道機関を乗せたということは、台船のようにしたのかな?

 

 一通り説明が終わったのだろう。店員がバッグから契約書を取り出したので受け取りのサインをすると、条件の通りに、上位魔石を2個手渡した。


「競売では金貨1枚では買えませんし、落札できかねる時もありますから、この商談は私共にもありがたい話でした。次の船を作る時も、可能な限り便宜を図りたいと思いますのでよろしくお願いいたします」

「その件なんだが、俺の今乗っているトリマランを改造する話があるんだ。この島には何時まで停泊してるんだい?」


「3日後には出航しようと思っていますが、もし私共にその話が舞い込んできたなら、良い職人が乗り込んでいますから、この場での改造もできると思います。さすがに魔道機関の大型化は無理ですが、6個使用の魔道機関であるなら、この島で搭載することも可能です」


 できるということだな。互いに握手をしてこの場を終わらせる。

 さて、ちゃんと桟橋まで持っていけるかな?

 2人が操船櫓に登ったのを見て、俺に手を振る店員に改めて頭を下げると船首に向かった。

 

 少し大きなアンカーのようだ。前よりも重く感じるけどそれ程苦労せずに引き上げられた。 腕の力が強くなってるのかもしれないな。

 操船櫓に向かって手を振り、アンカーを引き上げたことを伝える。

 屋形の中を通って船尾の甲板に出ると、ゆっくりとカタマランが動きだし始めた。

 商船から沖に向かって後退すると、その場でゆっくりと回頭が始まる。


 結構うまく操船してるんじゃないかな? 心配していたんだけど、さすがはネコ族の女性だけのことはある。

 歩くぐらいの速度で、俺達のトリマランが停泊している桟橋へと向かう。

 皆が、折れたりを見ているんだよなぁ。かつてのアオイさん達が使っていたカタマランの再現だから、誇らしく思えてきた。

 これで実力もアオイさんに迫れれば良いんだけど、その道は険しく俺の前に立ちはだかっているようだ。


 どうにかトリマランに寄せてカタマランが停まると、トリマランにロープを投げて舷側同士を結び付けた。

 船尾が終わると船首も同じようにロープで結ぶ。

 アンカーを下ろしたから、これでどこかに動くことは無いだろう。


「さあ、引っ越しにゃ!」

 

 エメルちゃんが元気に声を出してトリマランの屋形に入っていく。

 さて、俺も始めるか。


 銛を一本ずつ取り出して、カタマランの屋根裏に仕舞いこむ。

 柄が後ろに少し出ているから、どんな銛かすぐわかるな。こんな細かなところにもアオイさんは気を使っていたんだと感心してしまう。

 銛を移動したところで、今度は漁具の移動を始めた。タツミちゃん達も、背負いカゴに入れた家財道具の移動を始める。

 戸棚がたくさんあるから、収容に悩むことは無いだろうけど、どこに仕舞ったかを忘れてしまわないかな?


 そんな思いに笑みを浮かべたところで、今度はベンチの中の品物を運び出す。

 1時間程作業をしたところで、一休み。

 昼食代わりに、蒸かしたバナナをココナッツジュースで頂く。


「大きいにゃ。しまう場所がたくさんあるにゃ」

「たくさんレバーがあるにゃ。それに舵輪が2つもあるにゃ」

 

 舵輪が2つ? と思わず首を傾げてしまった。

 タツミちゃんの説明によると、船首についているスラスターが左右に動くらしい。漁場での細かな位置を調整する時には、そのスラスターを使うと良いと教えて貰ったようだ。

 船外機が船首についている感じなのかな?

 船尾のスラスターはスクリューではなく、水を噴射する仕組みだというから驚きだ。

 ジェット推進みたいな仕組みなんだろうな。


「5日あるから、明日にでも操船をしてみるにゃ。かなり速度が出ると言ってたにゃ」


 エメルちゃんの言葉にタツミちゃんも頷いている。

 食事が終わってお茶を飲んでいると、バゼルさんが戻ってきた。

 直ぐにこっちの甲板にやってくると、甲板が大きいことに驚いている。


「かなり大きいな。それに操船櫓が2つあるように見えるんだが?」

「上でも操船できるにゃ。窓がないから気持ち良く操船できるにゃ」


 バゼルさんは感心するというより呆れた表情をしている。

 アオイさんも作った時には、皆から呆れられたに違いないな。


「明日は動かすんだろう? トーレ達を連れて行ってくれんか。たぶん行きたがるにちがいないからな」

「誘ってみます。ある程度操船に慣れておかないと、あの島に向かうにも苦労しそうですからね」


「それと、明日は俺と一緒に来てくれ。やはりナギサがいないと長老と今後の計画の話が出来ないからな」

「あまり長居しないでも構いませんね。やはり若輩が出るのは、先輩達に済まない思いが出てきます」


「長老はナギサを傍に置きたいらしいが、若手の目もあるからなぁ。それで十分だろう。あくまで長老からの呼び出しだと、勝手に思わせておけばいい。」

「申し訳ありませんが、そうさせてもらいます」


 俺の肩をポンと叩いて、(分かっているよ)と言いたげな顔を向けてくれた。

 本当は、あまり人前に出るのが苦手なだけなんだけどね。


 俺達の前にタバコ盆とココナッツ酒の入ったポットを置いて、タツミちゃん達は再び引っ越しを始めたようだ。

 大物は後で俺が運んでおこう。そうはいっても、水汲み用の容器ぐらいかもしれないな。そうそう、カヌーとクーラーボックスも忘れずに運んでおこう。


「それで、この船を改造するんだな?」

「そうなります。新しい船を引き取りに出掛けた時に、改造の話を匂わせておきました。魔道機関の増設ぐらいなら、この島で行えると言ってましたよ」


 さすがにそこまでするのかなぁ? 速さが欲しいと言っても限度があると思うけどね。

 トリマラン構造だから船尾のスラスターを撤去して、代わりに軸線に魔道機関を設けたなら、更に速度が増すとは思うけど……。

 それに、ロクロ用の魔道機関を撤去して貰わないとね。それでアルキメデスポンプを動かすつもりだ。忘れずに長老に頼んでおこう。


 日が傾くころにトーレさん達が戻ってきたから、新しいカタマランのカマドの使い初めをタツミちゃん達と行っている。今夜はご馳走が食べられそうだ。

 

 夕暮れが近付くと、カルダスさん夫婦とガリナムさんとガリムさん一家もやってくる。子供達は広い屋形ではしゃぎ回っている。

 嫁さん達が料理を持ち寄ってくれたし、カルダスさんが酒を2ビンも持って来てくれた。

 新しいカタマランにもランプが付いていたから、前のランプと合わせて4つのランプで甲板を照らす。

 広い甲板に輪になると、その中に次々と料理の皿が並び始めた。

 今夜は新造船を祝って宴会になりそうだな。


「それにしてもでかいなぁ。まあ、シドラ氏族の将来を背負っているんだ。これぐらいの船でないと他の氏族に示しが付かん」

「これって、アオイ様が作ったという船に似てる気がしますが……」


「アオイさんの作った船の図面が残ってたらしいんだ。同じものを頼んだんだけど、どんな船なのかは明日走らせてみないと分からない」

「値段は聞かん方が良いぞ。たぶんカタマランが2隻帰るぐらいになるはずだからなぁ」


 そんな話で笑いが起こるんだが、トーレさん達は真剣な表情でタツミちゃん達に試験航海に連れて行ってくれるように頼んでいる。

 できれば操船したいんだろうな? でもタツミちゃん達が操船を譲ってくれるかどうかはその時次第じゃないかな。


「アオイ様のカタマランは海の上に浮んで走ると、お婆さんが言ってたにゃ! 絶対に乗り込むにゃ」

 

 アオイさん達の血を受け継いでいると言っていたから、その思いは強いのだろう。

 食事が終わる頃には、タツミちゃん達もついに折れて頷いていた。

 カルダスさんとバゼルさんは苦笑いを浮かべながらココナッツ酒を飲んでいる。

 下弦の月がようやく上り始めた。

 明日は良い天気になると良いんだけどねぇ……。


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