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P-144 地図作りがようやく終わった


 乾季の雨は、直ぐに止む。

 朝食具のお茶を飲んでいると、ピタリと豪雨が止んでからりと晴れ渡った。

 カタマランから続々と島に向かう人達を見て、俺達も仕事を始めることにした。

 道具を入れたカゴをタツミちゃん達が背負い、俺は三脚を背負う。

 入り江を作る南北の尾根を測量すれば、島の地図が出来上がる。出来れば島の周囲の海図もかき込んでおきたいところだけどね。


「どっちから始めるにゃ?」

「北から出良いんじゃないかな。早めに終わらせて、ザネリさん達を手伝わないとね」


「父さん達は貯水池にゃ。あっちもかなり掛かりそうにゃ。母さん達は果樹を植えると言ってたにゃ」

 

 果樹の苗は半分ほど持って来たけど、残りの苗はバゼルさん達が運んでくれるだろう。

 だけど実を結ぶのは早くとも数年は先になる。

 そのころには、氏族の半数は移住しているんじゃないかな。


 前回中断した場所まで足を運んだところで、新たな測量点となる杭を打ち込む。

 杭が打てない岩場では岩に直接ノミで刻むことになるから、杭を打てれば作業はかなり早められる。


 前回作った測量点の上に三脚を乗せて、三脚から下ろした重りが、測量点の真上になるように調節する。

 水平を取って、エメルちゃんが新たな測量点の上に半YM(15cm)ずつ色分けした2mほどの棒を立てた。

 測量器具の照準器で棒の位置を確認し、方角を記録する。

 測量器具の場所を別の測量点に移して、再びエメルちゃんの持つ棒のメモリと方角を記録した。

 海沿いに、測量点の杭を打ちながら西に向かって進む。

 午前中だけで数本の杭を打つことができた。午後も同じぐらい打てるだろう。

 夕暮れ前に、浜に戻って焚き火に参加する。

 タツミちゃん達は小母さん達と夕食の準備に入ったようだ。


「ナギサ、嬉しい知らせがあるぞ! この入り江に魚が戻ってきたらしい」

「桟橋の石を組んでいると、小魚の群れが横切ったんだ。 t真玉かと思っていたんだが、そうでもない。 あちこちに群れてるぞ」


 ザネリさんが嬉しそうに教えてくれた。

 思わず笑みが零れてしまう。渡されたココナッツ酒をごくりと喉得尾鳴らして飲み込んだほどだ。

 小魚が増えれば、それを追って大型も入ってくるだろう。

 エビやその他の水棲動物はまだなんだろうけど、それも時間の問題に思えてくるな。


「桟橋でのオカズ釣りが、次の乾季には出来そうですね」

「そういうことだ。当面は石運びのついでに俺達が突いて来るけどな。今日も良い型のブラドを突いてきたぞ」


 ザネリさんの仲間の声に盛り上がっていると、貯水池工事の現場からカルダスさん達が帰ってきた。

 俺達の間に入り込むことになるから、自然に輪が大きくなる。

 ココナッツ酒が入り、カルダスさんが状況確認を始めた。


「なんだと! 小魚がいたのか。これで心配の1つが無くなったな。俺達の方もおもしろいものを見付けたぞ。岩場の一角から水が湧きだしている。今はまだちょろちょろした流れだが、その内に大きくなるんじゃねぇか」


 やはりしみ出し始めたか。そんな流れがいくつか出来ると良いんだが、あまり期待するのも善し悪しだな。

 そうなるとこの島の山から、立木をこれ以上伐採したくはないな。

 山から木を切り出すことが無いように、カルダスさんに提言すると、直ぐに俺の意を汲んでくれた。


「わかってるさ。貯水池より上の木は切っちゃならんと言ってある。そうなると、長老達のログハウスのある辺りは、対象外になる。

 カヌイの婆様達の住み家は、広場を広げるつもりで伐採するつもりだ。焚き木は他の島から運べばいい」


 焚き木小屋に山になってるからなぁ。とりあえずは運んでくる必要は無さそうだ。

 夕食時には、ブラドの焼いた切り身がご飯に乗っていた。大きくはないけど、やはり魚の無い食事はちょっと考えられないんだよね。

 船に戻れば、燻製が1枚ぐらいはどこもあるんじゃないかな。


「石が近場に無くなってきたから、明日は少し遠出をすることになるんだ」

「まだまだ桟橋には石が必要だが……。どの辺りまで出掛けるんだ?」

「西に島3つ先になる。角ばった石がゴロゴロしていた。島全体がそんな感じで緑は余り無かったな」


 詳しく聞いてみると、南西方向に島3つと言うことらしい。氏族の航路では無かったから俺達が知らない島と言うことになるんだろう。

 

「ナギサの方はまだこの島なんだろうが、ある程度目途が付いたら近くの島の位置関係も把握してくれよ」

「そうですね。そっちも行いますが、今期の最後になると思います」


「岬を一巡りして、その後で頂きを突先までと言うんだから面倒な話だ。だが、それで俺達の島の形がはっきりするんだからなぁ。俺達には手伝えねぇが最後まで頼んだぞ」


 面倒なことは嫌いなんだよなぁ。それでも手伝ってほしいと言えば、ちゃんと手伝ってくれるんだからありがたいことには違いない。

 

「それにしてもでけぇ貯水池を作ることになったもんだなぁ。あんな貯水池は他の氏族でさえ持ってねぇぞ」

「シドラ氏族の住民が増えればあれでも足りなくなってしまうぞ。ナギサの縄張りより少し広げてはいるんだが、それで増える量はせいぜい運搬容器1個ぐらいだろうよ」


 いやいや、10個分を越えるんじゃないか?

 そんなことをしていたんだ。やはり水が無いと苦労すると考えていたんだろうな。

 さて、そろそろ船に戻ることにしよう。

 いつまでもいると、明日は動けなくなるからね。

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               ・

 1か月を費やして北の尾根の測量を終えて、今は南の尾根を測量中だ。

 こっちの尾根の方が短いから、1か月は掛からないんじゃないかな。

 尾根の先端の大きな岩を目印にすれば、近くの島の位置関係も明確になるはずだ。

 他の島は周辺を測量して形が分かるぐらいで十分だろう。


 貯水池の方は順調に石組が出来ているらしい。カルダスさんが頑張っているからなんだろうな。

 問題は石の桟橋だけど、まだまだ先が長そうだ。

 とは言っても、浜から数mは伸びているんだよね。海の中はどこまで進んでいるのだろう。


「腰の高さぐらいまで進んでいると教えて貰ったにゃ。そこに石や砂を入れてるから中々進まないらしいにゃ」

「石を取りに遠くまで行ってるらしいよ。台船が2隻あるから両方とも使ってるんだろうね」


 寝る前に3人でワインを頂く。

 俺が焚き火で聞く話よりも、タツミちゃん達が小母さん達から仕入れてくる情報の方が遥かに多いんだよなぁ。


 今のところは順調そのものだ。

 時間は掛かるが、開拓なんてこんな物かもしれないな。

 

 あまり量は多くはないが、野菜も収穫できるようになってきた。

 乾季だから水をたまに上げないといけないらしいから、多くは作れないようだ。やはり貯水池が早くできないと困ってしまうと、タツミちゃん達が訴えて来るんだけど、こればっかりはねぇ。俺にはどうすることもできない。

 それでも、たまに降る雨を集めてどうにか野菜を育てているらしい。


「結構貯水池に雨が溜まってるんだ。畑の水やりに使っても構わねぇだろうな?」

「それぐらいならだいじょうぶですよ。溜まるということは東西の石壁も出来てるんですか?」


「まだ膝ぐらいだが、溜まってるそ。俺の背丈を越えるぐらいになるならかなりの水量ってことになるだろうよ」


 そうなると、汲み上げ場所と濾過水槽の場所を、そろそろ決めないといけないだろう。

 このまま測量を進めれば、乾季の間に西へ2つ分の島が地図に描けそうだ。雨季には貯水槽の水もだいぶ溜められそうだから、それを使って汲み上げがちゃんと出来るかを試してみても良さそうだ。


 アルキメデスのポンプの概念図を描いてカルダスさんに商船へ頼んでもらおう。それとドラム間程のタルも必要になる。

 バゼルさん達がやってくる前には、描いておかないといけないな。


 南側の尾根の測量が終わった翌日は朝から豪雨だった。

 これ柄で2か月が過ぎた感じだ。

 ようやく島が終わったから他の島に移ろうとした矢先の雨だから、ちょっとやる気が削がれてしまう。

 とりあえず雨水を集めることにして、後はのんびりと止むのを待つだけになる。


 タツミちゃん達は簡単な朝食作りを始めたようだ。

 バナナをもいでいたから、蒸したバナナを作るに違いない。手軽だしお腹にも堪るから俺の好物の1つだ。

 朝食を頂いていると、急に空が晴れてきた。

 この島を起点に、東西南北共に2つ先までの島の位置と形を調べるのが今後の仕事だ。

 出発前にお茶を飲んで、ゆっくりと始めよう。島が逃げることはないんだから。


 ガリムさん達が次々と台船に乗り込んでいく。2隻を使っての石運びだからなぁ。グンテが直ぐにダメになると言って今回は3双用意してきたらしい。

 やはり石で擦れてしまうんだろう。カルダスさん達も同じに違いない。俺も2双持って来てるけど、今のところは使わずに済んでいる。


「そろそろ出掛けるにゃ。どこに行くにゃ?」

「西に行ってみようよ。それほど離れていないからね」


 尾根の先1kmにも満たないで最初の島がある。先ずはその島からだな。大きくはないから数カ所測量点を作れば終わるんじゃないかな。


 夕暮れ前に島に戻る。

 さすがに数カ所では形にならないな。都合7カ所を測量した。これで南に延びた楕円形の島であることが分かったから、早速地図に落としておく。

 明日はその先の島を測量して西側を終わりにしよう。

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 どうにか4方向の島の位置と形が明らかになり、地図作りがほとんど終わりになる。

 同じ地図を2枚作り、2枚を長老に渡せば俺の仕事も一段落だ。

 これからはザネリさん達の手伝いに参加することにしたから、毎日が素潜りの連続だ。

 

 丁寧に石を積み上げていくと、その後から石の隙間を接着剤と砂を混ぜた粘土状のもので隙間を埋めていく。

 タツミちゃん達はザネリさんの嫁さん達と一緒に台船で砂を運んでいるようだ。

 いくら運んでも砂が足りないんだよなぁ。

 

 何時ものように焚き火で談笑していた時だった。

 カルダスさんが「砂が足りねぇ」と言い出した。前にダイブ運んだはずだったんだが、もう足りなくなったようだ。


「麻袋でまた運んでくれねぇか。 そうだなぁ……30袋は欲しいところだ」

「少し粗目の砂でしたよね」

「そうだ。だが無ければ海岸から離れた場所の砂なら問題はねぇだろう。頼んだぞ」


 台船の1隻を貯水槽用の砂運びに転用することになったから、石の桟橋はますます遅れそうだな。

 今後の事もあるし、もう1つ気の桟橋を作った方が良いのかもしれない。

 そんな話をすると、直ぐにカルダスさんが相槌を打ってくれた。


「そろそろバゼル達もやってくるに違えねぇ。確かに桟橋はあった方が良いな。竹の桟橋は滑るからなぁ。簡単な桟橋を作るとするか。お前ぇら、明日は貯水槽じゃなく桟橋を作るぞ! バゼル達がそろそろやってくるはずだ。留める桟橋がねぇんじゃかわいそうだ」


 急遽桟橋作りが始まるようだ。

 全く計画性が無いと言えばそれまでだけど、こんな話でをすると直ぐに皆が動くんだから団結力はあるってことだろう。

 それともカルダスさんの統率力のせいなのかな。


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