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P-142 貯水池には上級魔石2個が必要


 シドラ氏族のカヌイのお婆さん達が住むログハウスは、島の北西にある。

 砂浜を通り越した先になるから、氏族の住民と離れて暮らしているのが何とも不思議に思えた時もあった。

 俺達氏族が平穏に暮らせるように龍神へ祈りをささげる日々だと聞いたことがあるけど、誰もがカヌイのお婆さんになれるわけではないらしい。

 難しいしきたりがあるんだろうけど、蒼さんの妻である夏海さんはニライカナイを代表するカヌイになったそうだ。

 いつでも神亀を呼び出せるとなれば、そうなるんだろうけどねぇ。だけど本当なんだろうか?

 タツミちゃんのお婆さんは、神亀に乗って漁までしたと教えてくれたけど、ちょっと信じられないんだよなぁ。

 とはいえ、カヌイと言う存在はネコ族にとって大事なシャーマンとも言える存在だ。その言葉には長老でさえ耳を傾けるとも言われているからね。


 しなびたログハウスが3軒並んでいる。その中の一番大きなログハウスの前に立ったけれど、さてどうやって挨拶したものかと悩んでいると目の前の扉が開いた。


「何を躊躇にゃ。カヌイの婆様達がお前を待ってるにゃ」

「えぇ! 分かってたんですか?」

「ほれほれ、早く入るにゃ」


 お婆さんに手を引かれて中に入ることになってしまった。ちょっと、情けない感じがするけど、俺が来ることを知っていたということかな。


 ログハウスの中に、10人程のお婆さんが車座に座っていた。

 入り口近くに1つ席が空いている。俺を案内してくれたお婆さんがその責に俺を座らせると、奥へ向かって行った。カヌイのお婆さんでは無かったのかな?


「さて、珍しい客が来たにゃ。龍神様のお告げの通りにゃ。それで、何か困ったことがあるのかにゃ?」

「実は……」


 確認したかったのは、魔石の効果についてだった。

 普段でさえ10日ぐらいの漁を平気で行えるのは、船に搭載している水瓶の水が腐ることがないからだ。

 タツミちゃん達の話では、水の魔石を1個入れておけば腐ることが無いという話だったけど、それを貯水池で使うとなればどれ程の魔石が必要になるか全く分からない。

 魔石を貯水池の投入することで、貯水池の水をくさらせることなく維持することができるか。その為に必要な魔石の数はいくつかを知りたかった。


「水を腐らぬよう、水の魔石が使えることはナギサも知っているはずにゃ。今使われているカタマランの水瓶の3倍ぐらいは、低位魔石1個で十分にゃ」

「魔石の力は20倍ほどの開きがあるにゃ。低位と中位で20倍、中位と上位で20倍と聞いたことがあるにゃ」


 カタマランの標準的な水瓶は60ℓぐらいだ。その3倍までは低位魔石で可能ということだから150ℓぐらいに考えておけば良いってことだな。

 低位と上位で400倍の効果に差があるなら。上位魔石を使えば良いだろう。

 上位魔石1個の効果は……、150ℓ×400倍だから、60㎥となる。計画している貯水池の水量は80㎥だから上位魔石2個で十分ということか。


「何とかなりそうです。ありがとうございました」

「頑張るにゃ。ところで我等も何人か島に向かわせようと思っているにゃ。まだ準備はそこまでできていないのかにゃ?」


 ちょっと驚いて、カヌイのお婆さん達を眺めてしまった。

 そんなことになると、長老も動き出しそうだな。これは早めにバゼルさん達に伝えねばなるまい。


「炭焼き小屋に燻製小屋、それと保冷庫を作りました。石の桟橋はまだまだ先ですが、木製桟橋と竹の桟橋をいくつか作って船を留めています。

 何とか次の乾季までに貯水池を作り、その傍にログハウスを作ろうと考えているところです」


「次の乾季にゃ? 楽しみが出来たにゃ。先ずは小さな庵が1つ欲しいにゃ」


 ログハウスが1つと言うことになるんだろうけど、将来を考えておかないと困ることになりそうだ。3つ建てられる場所を作って、出来れば2つ建てれば良いのかな。


「教えて頂き、ありがとうございます。これで貯水池を作りやすくなりました」

「上手く出来るに違いないにゃ。ナギサには龍神様が付いてるにゃ!」


 付いてるにゃ! と言われてもねぇ……。

 本人に全く自覚がない。とりあえず、相談に乗ってくれたお礼を言って、トリマランに帰ることにした。


 途中で、商船に寄ってタバコを買い込む。5包買ったけど、しばらくは帰ってこれないから明日は別の商船で買い込んでおこう。

 大人買いをしなければ、注目されることもないはずだ。


「遅かったな。もう直ぐ夕食だぞ」

「カヌイのお婆さんのところに行ってきました。どうやら解決策が見つかりましたので、貯水池をそのまま作れそうです」


 2人でココナッツ酒を飲んでいると、場所を開けるようにトーレさんに言いつかってしまった。

 どうやら夕食が出来たらしい。


「私達は後の組にゃ。タバコとワインは差し入れしてあげるにゃ」

「ちゃんとお金を受け取って下さいよ。親しき仲にも礼儀ありと言われるぐらいですからね」


 そんな俺の言葉を聞いて、バゼルさんが苦笑いを浮かべている。

 確かに、氏族は1つの家族みたいなところがあるからなぁ。困っていると直ぐに誰かが手を貸してくれる。


「タツミから中位魔石2個を受け取った。低位を1個は、食糧費として貰っているからそれで十分だ。さすがに俺達は中位と低位を1個ずつだからなぁ。少し肩身が狭くなるよ」

「上位魔石が獲れるんですから、それぐらいはさせてください。タツミちゃん、中位魔石が残ってるかい?」


「3個残してあるにゃ。上位も2個残しておいたにゃ」

「中位を1個欲しいんだ。まだまだ土と肥料が必要だし、石運びとなるとグンテだって必要だ」

「待て待て、そこまでナギサに持たせるわけにはいかんぞ。今夜その辺りも協議してくる。向こうで使う品を買うのはもう少し待つんだ」


 慌てて、バゼルさんが俺を止める。

 とは言ってもなぁ……。


「それで、今度はどんな船を作るにゃ? やはり速い船が良いにゃ!」

「そうですね。長老からも言われてますから、次のリードル漁には何とかしたいところです。タツミちゃん達が操船しやすい船なら問題ないんですが、2人とも色々とあるようですから」


「俺達の船じゃないんだから、トーレもあまり困らせるなよ。たまに乗せて貰えば良いだろうに」

「作るんなら早い船にゃ。何度か往復したけど、途中の航路に危険な場所がないにゃ。なら早く走れる船が一番にゃ」


 そういうことか。確かにトーレさんの言うことも考えないといけないだろう。

 現在でもトリマランならバゼルさん達のカタマランより航程が1日短い。それを更に短くするとなると、速い船と言うことになる。

 だが速すぎると舵を取りずらいとも聞いたことがある。

 妥協点を探すことになるのかもしれないな。


 出発までの5日間は、新しい船を3人で話し合うことになった。

 商船に何度か出掛けて、漁具や食料それに嗜好品のタバコと酒を買い込んできたけど、それ程荷物になる物でもない。

 一番の荷物は土を入れた麻袋に、「そろそろ持って行ったらどうだ?」と言われた果樹の苗だった。

 小指ぐらいの幹だったけど、あれから1年経っているから親指ほどになってしまった。

 少し早まったかなと反省してるんだけど、トーレさん達は直ぐに根が付くだろうと言ってくれた。

 まあ、物事全て前向きにとらえる人だからねぇ。それでも、そんな励ましを受けるとうれしくなるんだよな。


「それじゃあ、これを頼んでくるよ。さすがにできるかどうか分からないから、その場合は魔道機関を一段下げることにするよ」

「きっとできるにゃ。でもこれはできないかもしれないにゃ」


 魔道機関の魔石の数を増やすのではなく、魔石を低位から中位に帰るという大胆な発想だ。たぶん実用化はしているだろうが、どれほど大きくなるのかが分からない。

 トリマランに搭載できないようであれば、低位魔石10個を使用した魔道機関に変えるつもりだ。

 さらに水中翼は無理だと思うんだが、蒼さん達が何隻か作っている。その図面が残っていればその船をそのまま作ってみようと思う。

 これはかなり難しく思えるんだけど、可能であるならタツミちゃん達が望むトリマランができるはずだ。


 金貨16枚に上位魔石を1個持って、商船に出掛けてみた。アオイさん達の船を作った商船をバゼルさんに教えて貰ったから後は交渉次第ということになるはずだ。


 商船の2階で2時間程の交渉を行い、どうにか作れっることが分かった時には正直ほっとした気分だった。

 タツミちゃん位の年代の娘さんがお茶を運んでくると、俺の姿を見てちょっと目を見開いている。

 ネコ族の中で暮らす人族、ということに驚いているんだろうな。


「この方は、立派なネコ族の方だよ。しかも、他の氏族からも一目置かれる存在だ。今回は良い商売をさせて貰ったところだ」


 商会の男性の説明を聞いて、改めて俺に頭を下げて部屋を出て行った。

 

「中位魔石を使った魔道機関を漁船に取り付けるのは初めてです。アオイ様でさえそこまではしませんでしたが、何か理由でも?」

「お気付きかと思いますが、獲物が少し小さくなってきました。母船で漁をしている連中からはそのような話を聞きませんから、少し遠くの漁場を探すことを考えているところです。漁場が多くなればなるほど、一カ所の漁場に漁船が集まることはありません。資源を保護できると考えています」


「そういうことでしたか……。別の船でも大型のトリマランを受注したと聞きましたので何を始めるのかと思っていました。

 我等にもアオイ様の偉業は伝えられています。大陸からの難題に知恵を出してそれに応えたと……。ネコ族には、そのような偉人が現れると研修時代に教えられましたよ。

 その偉人を目の前にできたのですから、陸に戻ったら家族に誇れます」


「俺は偉人ではありませんよ。どちらかと言うと漁師の変わり者ですね」

「アオイ様もそう言っていたらしいですよ……」


 商人が笑い声を上げる。どうにか纏まった値段だが金貨18枚とはねぇ。だけど金貨は16枚で良いと言ってくれた。残りの金貨2枚は上位魔石で欲しいとのことだった。

 どちらのリードル漁場で魔石を獲ったとしても3個以上は手に入るだろうから、手を打ったんだよなぁ。

 競売を通すとなれば金貨1枚以上になるはずだから、実質は金貨18枚を超える値段になるのだろう。

 とはいえ、それで水中翼船が手に入るのであれば、タツミちゃん達も満足してくれるはずだ。


「確か、あの船は特殊なザバンが搭載されていたはず……。新たな船を買う時には、皆さんザバンを更新しますから、ナギサさんもザバンを手放しても問題はないですよ。

 ……さて、これが契約書です。雨季の前には持ってこれるでしょう」

「そのことなんですが、可能であればリードル漁の競売時に持ってこれませんか?

 現在も氏族の島を離れて、漁場を探す日々が続いています。それにリードル漁の後であるなら、確実に上位魔石2個をお渡しできます」


「そういうことですか。それなら私共も安心して運んでこられます。では次の競売の時期にまた会いましょう」


 握手をして部屋を後にする。

 明日には出発だからなぁ。もう少し、タバコと酒を買い込んでおくか……。

 


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