P-141 いよいよ輸送船が必要だ
「低位の魔石よりも中位の魔石が多く獲れるとはのう……。神亀いや龍神様のお導きと言うことじゃろう。これで水場以外は問題が無いということになるわけじゃな。
その水場も、カルダスの話では作業を開始したとのことじゃから、次の乾季には出来上がるに違いない。
そうなると、いよいよ保冷庫を持った運搬船になるのじゃが……」
長老達が俺の顔を向ける。それにつられるようにカルダスさん達まで俺に視線を向けてきた。
「一応、案ということで、このような形を考えてみました」
そう言って、5枚の概要図を取り出すと、長老とカルダスさんの前に置く。1枚を手元に置いて説明を始める。
「基本はトリマランです。保冷庫の重量がありますから、カタマランの真ん中にもう1隻の船を入れることで強度を増すと共に、喫水を稼ぎます。
全長は6FM半(19.5m)、横幅2FM(6m)になります。魔石10個の魔道機関を2基、魔石8個の船外機型魔道機関が1基の3基を搭載して、新たな島との連絡を4日で行うことを基本にしたいと考えております」
「俺達のカタマランより速そうだぞ! だが運搬船なんだよな?」
「運搬船です。図を見ての通り、通常あるべき家形の位置に保冷庫を設け、船尾甲板に操船櫓を兼ねた屋形を作ります。屋形の大きさは2.5FM(4.5m)に2FM(3m)の大きさですから、ギリギリ2家族で使えると思います。
保冷庫との間1FM(3m)の甲板がありますが、これは舷側にカマドを作るためです。屋根は帆布を張ることで、雨でも甲板はそれほど濡れることが無いと思っています。
保冷庫の大きさは2.5FM(7.5)横幅2FM(6m)、船首の甲板は1FMです」
とにかく大きい。だが、長距離を運ぶとなればこれぐらいになってしまうんだよなぁ。
しばらくは概念図を睨んで声も出ない。
「それで、この保冷庫自体は俺達で作るということで良いんだな?」
「そうすることで安く手に入れようかと思ってますが、3つの船を連結する梁は、あらかじめ太いものにしておく必要があります。
外側の2つの船には、俺達の船に付いている保冷庫や水瓶を設けるつもりです。真ん中の船にも収納庫はありますが、これは船を使う人たち専用とすべきでしょう」
「カルダスよ。商船が3隻来ておる。腕の良い職人を乗せている船に頼んでくれぬか。既に資金は出来ておる」
「了解しました。ですが、1隻で足りるとは思えぬのですが?」
「それは、直ぐに手に入りそうじゃ。なぁナギサよ」
「そういう事でしたら、早めに手を打ちます。ですが、その船よりは速度が落ちると思いますけど構いませんか?」
「改造費で何とかなるなら問題あるまい。搭載量は半分にはならんだろう。問題があるとすれば1家族と言うことぐらいじゃな。遅いということじゃが、我等にとってはそれでも速いと思うぞ」
笑みを浮かべながらだから、他の連中には何のことかさっぱりだろう。
お互いが理解しているなら問題ないってことなんだろうな。さすがにスラスターはいらないだろうけどね。
「ナギサは今日帰ったところじゃ。次に向かうのは5日後ということでしばらくは休養するが良い。その間にカルダスとバゼルで次の開拓の人選を任せる。カルダスが最初の3か月、バゼルが後半の3か月で良かろう。
バゼルは乾季明けのリードル漁に、開拓に出掛ける連中を率いていくが良い。ナギサが競売の途中で帰島している。十分に間に合うはずだ」
しばらく開拓の様子を話すことになったが、既にカルダスさん達から聞いているのだろう。あまり遅くならないところで、俺は席を辞することにした。
長老との話し合いの席には、若者があまりいないんだよなぁ。
何となく居づらく感じてしまう。
トリマランに戻ってくると、トーレさん達が遊びに来ていた。
あれからの様子を色々と聞いていたに違いない。
次は、向こうの漁場でリードル漁をすることになったと話したら、飛び跳ねて喜んでいる。
やはり中位がたくさんと言うことを、タツミちゃん達から聞いていたんだろう。
「神亀が教えてくれたなら、たくさん獲れるはずにゃ。バゼルに頑張るように話しておくにゃ」
「何時もの島より大きな島です。とは言っても、途中で焚き木を取っておいた方が良さそうですけどね」
うんうんと頷いている。小母さんになっても、少女のままの心の持ち主だと思ってしまう人なんだよね。
翌日は、再びタツミちゃん達が朝から出掛けて行った。まだまだ魔石の競売が続いているようだ。
その後で、商船に買い物に行くのだろう。お昼はこれを食べるようにと、孵化したバナナの入った鍋を指差して出掛けたからね。
のんびりとお茶を飲んでいると、バゼルさんやザネリさん、それにカルダスさん達までやってきた。
とりあえずココナッツを割ってココナッツ酒を作り、甲板で車座になって飲み始める。
あまり飲まないように、タバコ盆を取り出して、パイプを咥える。
「保冷庫を乗せる連絡船を頼んできたぞ。金貨15枚になるが、まあ仕方あるまい。だがもう1隻というのが分からん。ナギサは長老から別の船を頼まれているのか?」
「そうではありません。2隻目は中古なんです。このトリマランですよ。そろそろ買い替えようかと思ってたんですけど、長老に目を付けられてしまいました」
「これか! 確かに速いし、大きい。なるほど使えそうだが、少し小さくなるな……。それで1家族か! そういうことか」
カルダスさんが1人で納得しているから、バゼルさんが苦笑いを浮かべていた。
「出来れば俺も新しいリードル漁場で漁をしたかったが、最初はバゼルに譲ることになってしまったな」
「次はカルダスの番だろう。氏族の全てを連れて行くことは出来んだろうが、それ程中位が獲れるなら、若い連中は騒ぎだすだろう。ザネリやガリムはその辺りを上手く宥めておくんだぞ」
「順番で向うと言えば文句も出ないよ。最初は誰がと言うことでもめるだろうけど、それはクジ引きで良いんじゃないかな。人数が問題だけど……」
再び、バゼルさんとカルダスさんが顔を見合わせている。
開拓の人数が少しずつ増えてはいるけど、氏族の半数を率いていくことは難しいんだろうな。
「また1つ保冷庫を作らねばならん。今度はお前達で作ってみろ。土台になる木組みはできているんだから、それ程難しくは無いだろう」
「バゼルが見ていなければ、使い物にならん保冷庫ができそうだ。監修はしてやってくれよ」
「それぐらいはするさ。向こうではココナッツの殻を集めるのに苦労したが、氏族の島なら直ぐに集まりそうだ。それと……、水汲み用の容器を1個追加するように伝えておいてくれ。今度は乾季だからな。長く雨が降らないとも限らない」
「既に買い込んでるだろうけど、もう一度言っておくよ。それで、出発は何時頃になるんだろう? その前にたっぷりとココナッツを集めて来るよ」
ココナッツも重要な水資源になってきた感じがする。
俺も手伝うと言ったんだけど、ガリムさんに丁寧に断られてしまった。
「少なくとも30隻になるだろう。島の三分の一にはならんが、優先すべきは貯水池だ」
「人の配置はそうなるだろう。それよりもだ。1つ気になっていたんだが、貯水池の水はそのまま使ってもだいじょうぶなのか?」
「さすがにそのまま飲むことはできないと思っていましたし、浄水器を考えてはいたんです。でも、ひょっとしたらという全く別の考えも出てきたんで、カヌイのお婆さんを訪ねてみるつもりです」
「ナギサがカヌイの婆さんを訪ねるというのも気になるところだが、判断に困るということなら行ってみた方が良いだろう。それで浄水器とはどんな代物だ?」
図板から1枚の図面を取り出した。
直径1m、長さ2mほどの筒に、砂と木炭を交互に詰める。一番上には麻布を追いt石で固定しておく簡単なものだ。
「上から水を入れると、濾された水が下から出てきます。濁りと匂いはこれで消すことができるはずです」
「そのまま飲むことはねぇからな。料理は煮たり蒸かしたりだし、お茶は沸かして飲むんだからそれで十分じゃねか?」
「これを貯水池の傍に置いて、貯水池から魔道機関の仕掛けで汲み上げれば、竹筒であちこちに分配できると考えてましたが、一応カヌイのお婆さん達の意見も聞いておこうと……」
俺の言葉にバゼルさん達が頷いている。
確認しておけば皆を説得しやすいぐらいに考えているのだろうけど、俺の心配は全く別のものだ。
「そんなところはナギサに任せておくに限るな。ココナッツはたっぷりと運んでくれよ。出来ればバナナとパイナップルもだ」
「分かりました。それで5日後に出掛ける人数は?」
ガリムさんの言葉に、カルダスさんがバゼルさんと顔を見合わせる。
しばらく考えていたが、15隻と声に出した。
若者達が15隻ならバゼルさん達の世代も15隻となるんだろう。男手だけでも15人なら案外早く貯水池の形ができそうだ。
貯水池の傍にカヌイのお婆さん達のログハウスも作らないといけないらしい。ログハウスを立てる場所の整地ぐらいは今回の開拓の範疇になるような気もするな。
「台船を置いてきたから、資材を運ばねばならん。かなりの量があるから、出発の前日は手分けして各自のカタマランに積むことになる。
甲板が狭くなっても、漁をすることはないから向こうに付くまでは我慢するしかない」
バゼルさんの言葉に頷いたところで、俺達の集まりはお開きになった。
さて、俺も出掛けて来るか。
気にはなっていたんだが、対処する方法が思いつかなかったんだよなぁ。リードル漁から帰る途中で気が付いたんだが、それで可能かどうかは判断できない。
カヌイのお婆さん達にも判断できない場合は、それを判断できる者を教えてもらうことぐらいはできるに違いない。




