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P-140 中位魔石がたくさん獲れる


 翌朝。朝食を終えると2人をザバンで島に送る。

 海面にリードルは浮かんでいないが、転覆しないようにゆっくりとザバンを漕いだ。

 アウトリガーが付いているから、こういう時には安心だ。


 2人を島に送ったところで、急いでトリマランに戻りリードル専用の銛を屋根裏から引き出す。

 先ずは細身の方で良いはずだ。

 島を見ると、焚き火が作られている。このまま最初の1匹を突いてみるか。


 メガネの樹脂が少し硬くなってきたが、まだまだ使えそうだ。

 フィンを履いて、シュノーケルを咥えて海底にダイブする。


 おびただしい数のリードルが海底でうごめいている。水深は8m程だな。今までリードル漁をしていた場所とあまり変わりはない。

 あるとすれば……、リードルの大きさが少し大きい気がするぐらいかな? こころなし模様も濃い気がする。

 狙いを定めて最初の獲物に銛を突き刺す。

 殻の付け根に深々と刺さった銛を、更に押し付けるようにして確実に銛を突き通した。


 銛の柄を持って海面に浮上すると、ザバンに向かって泳ぐ。

 ザバンの舳先にある銛を固定する切り欠きに銛先を置いて、銛の柄はザバンの横木に紐で固定する。

 ザバンを漕いで島に向かい獲物を焚き火に乗せると、タツミちゃんが火の勢いが強い場所にリードルが来るように調整してくれた。


「これなら中位間違いなしにゃ!」

「後は任せるよ。トーレさん達がいないから気を付けて焼いた方が良いよ」

「薪がたくさんあるからだいじょうぶにゃ」


 タツミちゃん達に手を振って、次の獲物を突きに出掛ける。

 リードル漁は単調な漁だけど、これで新たな船を手に入れられると皆が頑張っているはずだ。

 2匹目の獲物を運んだところで、ベンチに座って一休み。

 最初の獲物は未だ焚き火の上だからね。


 4匹目のリードルを突いてきたところで昼食になる。

 ココナッツジュースと蒸かしたバナナは、昼食と言うよりもオヤツに思えるが、バナナは結構お腹が一杯になる。

 

「低位の魔石が1個もないにゃ!」

「中位ばかりってことか? たまたまかもしれないな。午後もあるし明日もあるからね。まだ大きいリードルはいないようだ」


「ここなら、今までより早くカタマランが手に入るにゃ。氏族の島に戻るのが楽しみにゃ」


 エメルちゃんも、嬉しそうな顔をしてココナッツジュースを飲んでいる。

 まだ始めたばかりだからねぇ。たまたまってこともあるんだろう。


 2日目は午後から空模様が怪しくなったので、早めにトリマランに戻ることにした。

 トリマランに戻ってしばらくすると豪雨が襲ってきた。

 急いで雨水を運搬容器に受けられるようにしていると、薄暗くなった海面にリードルが姿を現してくる。

 これでは漁にもならないな。明日のリードル漁に期待して今日は早じまいにしよう。


「獲れた魔石は14個にゃ。12個が中位にゃ」

「やはり中位が多いってことか……。リードルも少し大きい気がするし、模様も濃いんだよなぁ」


「父さんが模様の濃いリードルを狙えと、兄さん達に教えてたにゃ。模様が濃いリードルが多いってことなら中位が多いのも納得にゃ」


 タツミちゃんの話にエメルちゃんも頷いている。

 そんなものなんだろうか? まあ、ここでリードル漁ができること、そして中位魔石が多く獲れることは分かったんだけどね。


「明日は3日目だから、大型リードルと言うことになるんだが……」

「向こうより大きなリードルがいるはずにゃ! 絶対に突いて来るにゃ!」

 

 エメルちゃんが力説してるけど、そんなに大きいと銛で突けないように思えるんだけどねぇ。俺としてはあの大きなリードルが本当に来ているかのか心配だ。

 とはいえ、いなければ俺達だけで向こうのリードル漁場に出掛ければ済む話だ。

 ここなら中位がたくさん採れる。それは氏族にとって喜ばしい話に違いない。


 リードル漁3日目の朝は、抜けるような碧空だった。

 これで雨季も開けると思うと、何となく嬉しくなってくる。

 トリマランから飛び込んで海底を見ると、大きなリードルが混じっているのが見えた。

 思わず笑みが浮かんでしまう。

 これで、一番の心配がなくなった感じだ。今日は大型を突けるぞ。


 物干し竿のような専用の銛を屋根裏から引き出して、昨日まで使っていた銛を1本屋根裏に仕舞いこむ。今日は3本で漁をするつもりだ。

 タツミちゃん達を島に送って、早速漁を始めることにした。


 大物は何時も緊張する。海底にダイブする勢いも利用して銛を打ち込むんだが、大きいリードルの体は弾力が強い。付いた後にさらに突き通すのはリードル漁の基本だが、それを2度繰り返す。

 海面に浮上するのも一苦労だ。大きな石を持ち上げる感じだからね。

 ザバンに乗せるのも、簡単ではない。

 先ずは柄を先に乗せて、梃のようにして獲物をザバンの先に持って行く。

 しっかりと柄の根元を横木に固定して島に向かった。


「やはりいつもより大きいにゃ!」


 焚き火に乗せたリードルを炎の勢いが強い場所に移動していたエメルちゃんが呟いている。

 気のせいかと思っていたけど、やはり大きいってことなんだろうな。どうにかここまで運んできたぐらいだからね。


 2匹目を運んできたが、まだまだリードルは焼けていないようだ。大きなリードルは中々焼けないから、小さいリードルを突いてこよう。

 小さいリードルを突いてきたが、タツミちゃん達はまだ大きなリードルを焼いている。


「トーレさんがしっかり焼けと言ってたにゃ。大きいのは危険だとも言ってたにゃ」

「そうだね。俺も体を休めるよ」


 ベンチでパイプに火を点けると、エメルちゃんがお茶を持って来てくれた。

 暑いからなぁ。ちょっと温い感じのお茶だけど喉の渇きをいやすことができる。

 大物用の銛が空いたのは、それからしばらく経ってからだった。

 

 さて、漁を再開するか。

 大物が来たということは、明日にはリードルが去ってしまうのだろう。もう2、3匹は大物を突かないとな。


 エメルちゃんが最後のリードルを焼き終えて魔石を取り出した。

 タツミちゃんが忘れ物が無いか確認しながら、荷物をザバンに積み込んだ。

 あれだけいたリードルが明日にはいなくなるというのが信じられないんだが……。


「本当に明日はいなくなるのかな?」

「父さんがリードルは4日目にはいなくなるって言ってたにゃ」


 伝承ってことかな?

 バゼルさん達と一緒に散々リードル漁をしたが、確かに3日で漁を終えている。

 明日、ちょっと潜ってみるか。それで情状が分かるはずだ。


 翌日。朝早くからタツミちゃん達は食事の準備だ。朝食を終えたら直ぐに氏族の島へと向かうことになるからね。

 その前に、ちょっと一潜り……。


 1回潜っただけで、状況は理解できた。

 確かに1匹もリードルが海底にいない。あれほどうごめいていたんだが、海流に乗って行ったとしても少しは残っていると思っていたんだけど……。


「やはりいなかったにゃ?」

「ああ、でもあれほどいたんだよなぁ」

「龍神様が私達を哀れんで年に2回、漁をさせてくれるにゃ。全ては龍神様のおかげにゃ」

 

 エメルちゃんの話に思わず頷いてしまった。

 ネコ族はかつて大陸に住んでいたと、バゼルさんが昔話をしてくれた。

 かなり好戦的な種族であることは、漁への取り組み方を見ても何となく理解できるところだ。

 だがいつも勝っていたわけではないようだ。大敗してこの群島区域に逃れてきた時、ここには先住者がいたらしい。

 群島を巡っての戦が再び起きると誰もが思っていたらしいけど、先住者達はネコ族の人達に漁を教えると東に向かって去ったということだった。

 

「リードル漁もその時に教えて貰ったらしいにゃ。龍神様のお恵みにゃ」

「全ては龍神様のお恵みか……。海を汚すことは避けたいね」

「今の暮らしならだいじょうぶにゃ。カヌイのお婆さん達がちゃんと見守ってくれてるにゃ」


 そういう関係ってことか。新たな島を開拓したりサンゴを植える時も、カヌイのお婆さん達の助言や確認を長老はしていたらしい。

 開発と環境保全は両立することは無い。だけど環境保全を考えた最小限の開発なら許して貰えるということになるんだろうな。

 

「さて、氏族の島に戻ろう! リードル漁の漁場が近くにあることや、開拓の状況も報告しないといけない」

「皆、驚くにゃ! 上位魔石が4個に中位が13個。低位は3個だけだったにゃ」

「雨が来なければ中位はもっと獲れたにゃ」


 朝食は何時もより賑やかだ。

 漁が上手く行ったし、これから氏族の島へと帰れるからだろう。

 朝食を終えると、タツミちゃん達が操船櫓へと上がっていく。船首に向かってアンカーを引き上げると操船櫓に手を振った。

 ゆっくりとトリマランが動き出す。


 さて、銛の手入れをするか……。次は半年後だからなぁ。しっかりと手入れをしておかないと錆びついてしまうからね。

 

 トリマランは西に向かって速度を上げる。

 かなり速度を上げているけど、5日は掛かりそうだ。

 のんびりと、船旅を楽しもう。

               ・

               ・

               ・

 途中で豪雨に遇ってしまったから、氏族の島に到着したのは6日目の夕暮れ時だった。

 たくさんのカタマランが停泊しているし、石の桟橋には3隻の商船が停泊している。

 リードル漁を終えて帰ってきたばかりのようだ。

 魔石の競売は終わったんだろうか?


「帰ってきたようだな。やはりリードル漁は無理だったか」

「漁はしてきましたよ。競売は終わったんでしょうか?」


 首を振りながらバゼルさんが、停泊したばかりのトリマランの甲板に上がってきた。

 甲板にあぐらをかいて2人でパイプを使っていると、タツミちゃんがココナッツ酒を持って来てくれた。


「リードルがいたってことか? それならギョキョーに行って手続きをしてこい。まだ2日目だ。預かった魔石の代金はこれになる」

「上位魔石を持って行ってもだいじょうぶかにゃ?」


 バゼルさんから小さな革袋を受け取りながらタツミちゃんが確認している。


「問題ないだろう。たまたま数が出たぐらいに思ってくれるに違いない。だが、2個ぐらいにしておいた方が良さそうだな」

「分かったにゃ!」


 タツミちゃん達が背負いカゴを持って桟橋を歩いて行った。

 ついでに商船で買い物をしてくるのかな?


「何時もならトーレさん達がいますが、俺達だけだったので数を出すことができませんでした。それでも上位魔石が4個に中位が13個。低位は3個です。新たな漁場は中位魔石がたくさん採れますよ」

「それを聞いたら、皆が出掛けそうだな。今夜の集まりに一緒に出掛けるぞ。向こうの島の全体状況を長老が知りたがっていたからな」


 今夜か……。

 早めに行った方が良いだろう。次の開拓をどうするか、それに高速の保冷船を早めに作った方が色々と役立ちそうだ。


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