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P-138 燻製作りと土台作り


 カルダスさんやバゼルさん達が遅くなったのは、途中でバナナやココナッツ、それに食べられる野草を途中の島で集めてきたかららしい。

 そこまで気が回らなかったガリムさんは、残念な顔をして頭を搔いていた。

 まだまだ筆頭としての技量との差はあるようだ。これから頑張って貰えば良いことだから、そんなに恥じ入ることはないんじゃないかな。


「それにしてもどこの漁場も魚影が濃いということだ。これならもう少し人数を増やせるんじゃねぇか?」

「雨季明けのリードル漁には帰らねばならん。皆で長老と相談だな」


 とは言ってもなぁ。高速輸送船が出来ないと話の外だ。

 次のリードル漁で高速輸送船を頼むかもしれないから、早めに概要図を仕上げておこう。カルダスさん達の仕事を見て保冷庫の構造が分かったから、それを拾い甲板の上で自分達で組み上げることになる。

 直ぐには出来ないだろうけど、氏族の島ならココナッツの殻は直ぐに集まりそうだ。


「そうなると、水場ってことになるが、何せかなり大きな代物だ。どうにか底は出来たんだが、燻製を作る間だけでも手伝って貰いてぇ」

「それぐらいなら容易いことだ。だが次は乾季だ。雨水をためる水槽は2つだが、それで足りるのか?」


「もう1つぐらい作っておくか……。乾季にここに戻るときにでも材料を買い込んでおこう。それと、来る連中は水の運搬容器を3つは欲しいところだな。甲板に張った帆布でかなり水を集められる。2つは直ぐに一杯になっちまうからな」


 上手く使えば、運搬容器だけで2日は持つ。確かに3つあれば安心できるだろう。

 だけど、乾季の雨は気まぐれも良いところだ。10日以上晴れが続くこともあるんだよなぁ。

 やはり、貯水池を早めに作らねばなるまい。


 翌日は、皆で一夜干しを燻製小屋へと運ぶ。

 何時もなら嫁さん達が槍仕事なんだが、今回はそうもいかない。桟橋から燻製小屋までは急な坂を上らないといけないし、距離だって1kmほどもある。

 坂では男達が途中に足場を作って、バケツリレーの形で背負いカゴを渡していく。木道を使ったトロッコが完成するのは、かなり先になってしまうだろう。この坂道での荷揚げだけでも、簡単なリフトを作っておきたいところだ。


 燻製小屋に一夜干しを運ぶと、トーレさん達が木枠に金網を張った網に一夜干しを並べてカルダスさん達に渡していた。

 あの金網を奥から何段にも重ねていくんだろうけど、俺達の漁果はかなりの量だ。全部燻製にすることができるんだろうか?

 

「何を考えてるんだ?」

「いや、全部獲物があの中に入るのかなと……」


 ポンと俺の肩を叩いたガリムさんの問いに答えたら、俺の答えが面白かったのか笑い声を上げている。


「ハハハ……、あれぐらいならだいじょうぶだ。燻製小屋の中は、あの金網が3列に並ぶし、10段に重ねられる。金網が足りないようなら、手籠に入れて小屋の中に吊り下げるんだ。俺達が獲ってきた量なら、燻製小屋からあふれることは無いよ」


 笑ってはいたけど、結構ギリギリなんじゃないかな。

 もう1つの燻製小屋も出来てはいるんだが、そっちは今回使わないようだ。


 最後の一夜干しを並べた金網を燻製小屋に入れると、カルダスさん達が小屋から出てきた。小屋の扉に腕ぐらいの太さがある丸太をかんぬきにしてしっかりと閉じている。


「さあ、これで後は燻すだけだ。ザネリ、要領は分かってるか?」

「あの煙突から薄く煙が出るぐらい……、煙は黒ではなく青がかった白……」


「ああ、それで良い。カマドはここだ。お茶を沸かそうなんて考えるなよ。お茶は別に焚き火を作れ。それじゃあ、やってみろ!」


 ザネリさんが友人2人と、燻製小屋から2m程離れたカマドに火を点けた。

 カマドには煙突が無いんだが、このカマドは少し変わっている。

 カマドから横に石を組んだ煙道が燻製小屋に延びている。その途中に板が刺さってるんだよな。あれだと煙が燻製小屋に行かないと思うんだが……。

 カマドの上に空いた穴はそのままだ。焚き木が勢いよく燃え始めたところでザネリさんが太い薪を投入した。

 俺の腕ぐらいの薪だから直ぐには火が付かない。

 やがて投げ込んだ薪が燃え始めると、ザネリさんが慎重に薪の位置を直し始めた。

 お湯を沸かす訳じゃないから、ゆっくりと燃えるように火力を修正したようだ。

 

 ザネリさんがカルダスさんに振り返ると、カルダスさんがカマドの中の様子を確認している。


「これなら問題ねぇ。蓋をして板を外せ」


 ザネリさんがカマドの上の開口部に土器のような物で蓋をする。煙道を塞いでいた板を取り外してしばらくすると、燻製小屋の煙突からうっすらと煙が出始めた。

 なるほど煙の色は青く見える。この状態を2日続けることになるってことだな。


「さて、火の番は決めてあるな。とりあえず夕暮れまではザネリが面倒を見ることになる。これが燻製小屋の使い初めだ。先ずは一杯飲んで、それから今日の仕事に掛かるぞ!」


 昼前から酒盛りってことか? それにこの燻製小屋で燻製を作っているんだよなぁ。本格的な燻製作りの始まりには違いないけど、それを使い初めって言うんだろうか?

 カルダスさん達にとって細かな話はどうでも良いんだろう。

 皆で獲物を運んで燻製作りを始められることを祝いたいんだろうな。


 嫁さん達が俺達にカップを渡すと、別の小母さんがたっぷりと注いでくれた。

 カルダスさんの掲げるカップに合わせてカップを空に上げ、皆で一口味わう。お祭り好きな種族ってことかな?

 結構飲む機会があるんだよね。だけど、ココナッツの殻を半分にしたカップで飲むココナッツ酒は結構きついぞ。タツミちゃん達も小母さん達と輪になって飲んでいるけど、今日の仕事はここまでになってしまいそうだ。


 案の定、貯水池の石積み作業は中断になってしまった。

 とりあえず場所と、積み上げる高さを皆で確認したから明日からの作業は問題なく進められそうだ。

 トリマランに戻って、ハンモックで横になる。

 しばらくすると豪雨が襲ってきたけど、ザネリさん達はだいじょうぶだろうか?

 簡単な小屋は作ってあるし、あのカマドだって屋根付きだからなぁ。火が消えることは無いだろう。

 ガンガン痛む頭を押さえながら帆布から落ちる雨水を運搬容器に受け止める。この分なら2つは直ぐに満杯になりそうだ。


「2杯も飲むからにゃ……」


 呆れた口調でタツミちゃんがお茶を渡してくれた。

 何時もよりかなり緑がかってるんだよなぁ……。一口飲んでみると、うへぇと口に出てしまった。苦くて渋い味だ。

 思わずタツミちゃんに顔を向けると、笑みを浮かべて頷いている。飲め! ってことなんだろう。

 ここは我慢ってことかな。一気に飲み込んで、ハアハアと息を吐く。

 俺の目の前に別のカップが出された。

 ゆっくりと口に持って行くと、ココナッツジュースのようだ。これなら口直しに丁度良い。


「ありがとう、少し楽になったよ」

「一眠りすれば治るにゃ」


 タツミちゃんの言葉に頷いて、再びハンモックで横になる。

 あの物体は何だったんだろう? 前にも飲んだ記憶もあるんだが……。

 

 どうにか夕食は食べることができたけど、やはり酒は控えるべきに違いない。

 とはいえ、勧められると断れないんだよなぁ。

 燻製が出来上がる3日目にも宴会がありそうだから、気を付けることにしよう。


 翌日は、皆で貯水池に向かう。

 ガリムさん達がザネリさん達と交代して燻製作りの火の番をするらしい。

 残った20家族が貯水池に向かうと、石積み前の土台を作るための溝堀から始まった。

 男達10人が交代で溝を掘り、その間に女性達が岩場から手ごろな石を背負いカゴに入れて運んでくる。

 一度に運ぶ石はレンガ3個分ぐらいの量だから、何度も往復することになる。

 俺も手籠にロープを付けて背負えるようにして、小さめの石をたくさん運ぶことにした。

 大きな石を並べて、その間に小石を詰め込むことになる。小石はいくらあっても足りないくらいだ。


「砂も欲しいところだな。明日は若い連中に砂を運ばせるか」

「かなりの量がいるぞ。それに接着剤は間に合うのか?」

「まだ5タルほど残っている。土台ぐらいは作れるだろう」


 休憩時間に、バゼルさん達がそんな話をしている。

 石の桟橋にも大量の砂が必要だ。少し粗目の砂が取れる島は余り無いようだ。細かな砂ならどの島に行っても手に入るんだが……。


 砂利運びをした翌日は、ザネリさん達と砂を取りに台船を使って西に向かう。

 土を運んできた袋に海岸から離れた砂を入れて戻ってきたんだが、30袋では足りないと言われてしまった。

 土台は頑丈に作らねばならないらしい。

 土台作りは未だ穴掘りの最中だ。深さ50cm、横幅1mほどの溝を掘って、更に3m程の感覚で溝に直角の深い溝を掘っている。溝からさらに30cmは深いし、横幅も2mほどありそうだ。

 かなり強固に作るのはそれだけ貯水池に溜まる水の量が多いことを気にしているのだろう。俺が書いた土台は溝を掘るだけだったんだけどなぁ。


 運んできた石や砂利、それに砂もだいぶ貯まってきた感じだ。そろそろ土台の石積みを始められるんじゃないかな。


「これで良いか!」

「出来たのか? 少し小せぇが、何度も叩けば良いだろう。杭を打ってから始めてくれよ」


 バゼルさんの友人が持って来たのは、どう見てもきねにしか見えない。それも月でウサギが使うような奴だ。

 3本作ったようだが、それを持って溝の底を叩き始めた。

 土を締めるってことかな? 石を積んでも沈み込まないようにするのだろう。一緒にやってきた男が近くに焚き火を作り始めると、1mほどの杭を何本も作り始めた。

 穴掘りを手伝いながら、様子を見ていると焚き火に杭を投入している。

 ちょっと驚いてしまったけど、直ぐに理由が飲み込めた。

 表面を炭化させて腐らせないようにしているのだろう。どれぐらい焚き火で炙れば良いのかは勘に頼るしかないのが問題だけど、地盤の強化がどれだけできるかで石組の強度が決まるかを知っているみたいだな。

 その点、桟橋は形が出来ていれば問題ないようだ。その上を歩ければ問題ないし、最終的には上をセメントのような物で平らにすれば何とかなるからね。


 炭化した杭を早速溝の底に打ち込み始めた。大きな木槌を使って根元まで打ち込んでいる。

 杭の打ち込みがある程度終わると、今度は杵を使って溝の底を叩き始める。何度も繰り返して叩いてるから、俺達も交代で叩くことになった。

 西側だけで、これだからなぁ。4方向ともこんな感じで土台を作るとなると、貯水池が完成するのは、どう考えても1年以上は掛かりそうだ。


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