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P-137 魚影は濃い


 翌日は、朝から抜けるような青空が広がっていた。

 これなら、皆が一斉に素潜りをするんじゃないかな?

 昨夜の釣果を見ると大型のバヌトスや、ブラドがたくさんいたからね。

 朝食の準備をしている間に、銛を軽く研いでおいた。


「私も潜るにゃ!」

 

 エメルちゃんが笑みを浮かべて教えてくれたけど、タツミちゃんと交代しながらと言うことなんだろう。正確には、「最初は私が潜るにゃ!」ということに違いない。


「一夜干しは保冷庫に入れたということは、もう1つの方にも氷を入れとかないといけないんじゃないか?」

「もう入れてあるにゃ。あの箱にも入れたにゃ」


 クーラーボックスにも入ってるってことか。

 そんな話をしながら朝食を終えると、お茶を飲みながら他の船の様子を眺める。

 既に何隻かザバンが動いているのが見えた。

 早速始めてるな。俺も遅れるわけにはいかないな。


 お茶を飲み干して、家形の中を通り船首の甲板に出ると、カヌーを固定してあるロープを解いて海に浮かべる。カヌーに繋いだ紐を手に船尾に向かうと、家形の屋根裏からパドルを取り出した。

 カヌーの紐を船尾に結んで、その隣にパドルを置く。紐を引き寄せてカヌーにクーラーボックスを乗せるとゴムバンドで固定する。

 このゴムバンドは、商戦で作って貰ったものだ。向こうから持ってきたゴムバンドを見せたら、30分もしないで作ってくれたんだよな。

 バンドの両側にフックが付いているから、2本使えばクーラーボックスをカヌーに固定できる優れものだ。


「先に行ってるよ!」


 シュノーケルを咥えて銛を手に海に飛び込んだ。

 先ずは、東に向かってシュノーケリングをしながら海底の状況を眺める。

 3mほどのサンゴ礁から切り立った崖が下に向かって、崖の下はあまり良く見えないな。それだけ水深があるんだろう。

 深い場所でたまに鈍い色が見えるのは、バヌトス辺りが悠然と泳いでいるに違いない。


 息を整えて、崖に沿って潜っていく。

 40cmを越えるイシダイが群れていた。その下にいたのは60cmほどのバヌトスだな。

 先ずは大物狙いと行くか!

 左腕を伸ばして、バヌトスに銛先を向かる。

 ゆっくりと近付き、獲物と銛先が1mほどになったところで、左手で握った筒のトリガーを強く握る。

 銛が飛び出して、バヌトスの頭を貫いた。

 銛の柄を握って海面に向かう。 タツミちゃんの漕ぐカヌーに手を振ると、直ぐにこっちにやってきた。


「大きいバヌトスにゃ。バヌトスが多いのかにゃ?」

「バルタックもいたよ。次はバルタックを突くつもりだ」


 値段はバルタックと呼ばれるイシダイの方が高いからね。とはいえ、久しぶりの素潜り漁だから、先ずは動きが鈍い方から突いてみた。

 タツミちゃんに手を振ると、再び銛のゴムを引いて潜っていく。


 2時間程素潜り漁をしたところで、カヌーのアウトリガーに腰を下ろして一休み。

 お茶が甘く感じる一時だ。

 

「エメルちゃんの方は?」

「ブラドが4匹にゃ。サンゴ礁の小さな穴にいたと言ってたにゃ。今度は私が突いてくるにゃ」


 サンゴ礁の方も馬鹿には出来ないな。それなりに魚影は濃いらしい。

 昨夜の釣りでもブラドがかなり上がったんだが、日中は崖の方には来ないようだ。サンゴ礁のサンゴの裏に隠れているってことなんだろう。


「それじゃあ、行ってくるよ。しばらく漁をしてないんだから無理はしないでくれよ」

「だいじょうぶにゃ。ロデナスがいるみたいだから今夜は楽しみにゃ」


 イセエビの姿焼きってことだな。

 魚醤を付けて食べると最高なんだよなぁ。思わず笑みが浮かんできた。よだれは出てないよな。思わず腕で口を拭って海に飛び込む。

 さて、再びバルタックを突いてくるか。群れてるんだよね。


 昼過ぎに素潜り漁を終える。

 漁果はかなりのものだ。保冷庫に入れたカゴにたくさん入っている。

 昼食は蒸したバナナにココナッツジュースだけど、昼は簡単に済ませるのがネコ族の風習なんだろう。

 昼食を終えると、タツミちゃん達は昼寝をするんだが、俺の場合はそんな習慣は無いからなぁ。銛を水洗いして軽く研いでおく。

 夕方からは夜釣りだから、その前に延縄を試してみたいんだが、周囲を眺めるとサンゴの崖に沿ってカタマランが並んでいるんだよなぁ。これではちょっとねぇ……。


 釣竿を取り出して胴付き仕掛けを外し、浮き釣り仕掛けに変える。

 浮き下を竿一杯にしたところで、軽く流してみた。

 ゆっくりと潮が西に流れていく、流れが遅いから船から20m程先に浮きが流れたところで、竿尻の紐をベンチの足に通して竿を置いた。

 ココナッツジュースの残りをカップに入れてパイプを楽しみながらのんびりと待つことにする。

 カマルが掛かれば、今夜の夜釣りの餌にできそうだ。

 30分も過ぎた頃、突然リールのドラグがジージーと音を立てる。竿がグイグイと引き絞られているから急いで竿を握るとリールのドラグを締めて巻き取り始めた。

 下ではなく横に曳いているから間違いなく青物に違いない。

 かなり大きいんじゃないか? 俺一人で取り込めない時にはタツミちゃんを呼ばないといけないかもしれない。


 引きに合わせて、甲板を左右に動いている足音に気が付いたんだろう。タツミちゃん達が甲板にやってきた。

 タモ網を持って待ち構えているんだが、まだまだ寄せることが出来ないんだよなぁ。

 それでも5分も過ぎると引きが弱まってくる。

 青物は最初の引きは強烈だけど、どんどん弱って行くから何とか取り込めそうだ。

 

「グルリンにゃ! 大きいにゃ!」


 甲板に取り込んだ魚を見て2人が大喜びだ。

 確かに大きい。1mには満たないけど、これなら刺身ができるんじゃないかな?

 生憎とネコ族の人達は生魚を食べないんだよなぁ。こんな新鮮な魚が獲れるのにといつも考えてしまう。

 

 グルリンの次に釣れたのはカマルだった。40cm近い大きなものだけど、2日釣れたから小さい方は今夜の夜釣りの餌になりそうだ。

 日が傾き始めたところで、タツミちゃん達が夕食に準備を始める。

 大きなロデナスが3匹獲れたと言ってたから夕食が楽しみだ。

                ・

                ・

                ・

 翌朝、俺達は漁場を後にする。

 ガリムさん達と共に島へと帰るのだが、気になるのは他の船団の漁果だ。

 1日半程度の漁で背負いカゴ1つを越えているから豊漁には違いないが、他の船団だって初めての漁場に行ったんだからねぇ。魚影はいずれも濃かったに違いない。

 

 釣竿の手入れを終えると、後は船尾のベンチでのんびりと周囲を眺めるだけだ。

 明日は燻製作りが始まるから、他の仕事は出来そうもないな。測量の再開は、明後日以降になりそうだ。

 

 かなり速度が上がっている感じがするな。少なくとも漁場に来る時とは段違いの速度が出ている。

 一度通った水路だから、安心しているんだろう。それに他の船団も気に合っているに違いない。


 まだ日が高い内に、俺達が開拓を進めている島が見えてきた。

 ここまで来ればもう少しなんだけど、船団の速度は変らない。西に延びる尾根を大きく回り込み、入り江の中に入ったところでようやく速度が落ちた感じだ。

 桟橋が見えてくると、笛の音が聞こえてくる。船団を解くとカタマランがそれぞれ停泊を決めている桟橋に向かっていく。

 桟橋が近付くと船首に移動して投錨の準備を始める。

 舷側に下ろした緩衝用のカゴは既に下ろしているし、船尾と船首の固定用ロープも引き出してある。


「もう直ぐ停まるにゃ!」

「了解だ! 船尾のロープを頼んだよ」

 

 操船櫓から身を乗り出してエメルちゃんが教えてくれた。既に魔道機関は停止している様で、惰性でゆっくりと桟橋に近付いている。

 トリマランの動きが停まったのを見定めて投錨すると、急いで桟橋に飛び移る。

 船首の固定用ロープをしっかり桟橋の柱に固定したところで、桟橋を船尾方向に歩く。エメルちゃんがロープを引いているのを見て、後を引き受けた。


「どうやら、一番最初だったみたいだ。氏族の島だったなら皆が驚くんじゃないかな」

「シメノンが釣れるかと思ってたんですが……」

「そうそう上手くはいかないよ。島の焚き火の準備を手伝ってくれ!」


 ガリムさんの言葉に頷くと、タツミちゃん達に出掛けることを告げた。

 笑みを浮かべて頷いてくれたから、タツミちゃん達も嫁さん達と状況を確認し合うつもりなんだろうな。


 ガリムさんと焚き火の場所に行くと、すでに数人が集まってカマド近くに積み上げた焚き木を運んでいる。

 あまり大きな焚き火を作るのも問題だが、小さいと「けちけちするな!」とカルダスさんに文句を言われそうだ。

 もう少し焚き木を積んで、予備を一束用意すれば十分だろう。

 ガリムさんと焚き木を運んだところで、先ずは小さな焚き火を作る。

 ガリムさんと同行した俺達が焚き火を囲むと、早速ココナッツ酒が回されてきた。

 カップを受け取り、半分ほど注いで貰う。

 ガリムさんが、豊漁の感謝を龍神に捧げてカップを掲げたところで俺達もカップを掲げて一口飲む。

 その後は、氏族の島と同じように獲った魚の大きさを皆で自慢しあう。

 酒が入っているから、1mよりも大きな魚になってしまうんだよなぁ。そんな自慢をしあうネコ族の男達の罪のない笑顔が大好きだ。


「ナギサはどうなんだ?」

「グルリンを釣りましたよ。これぐらいです!」


 両手を広げて大きさを教えると皆が、「「ほう!」」と感心してくれる。俺もやはりネコ族の男達の影響を受けてるんだろうな。広げた大きさは3割増しだ。


「2番手がやってきたぞ! あれは誰だ?」

「ここに気が付いてるようだから直ぐに分かるだろう。それよりその奥にも船団が見えてるな」


 続々と帰ってくる。

 前部で4つの船団だからね。さて、どれぐらい漁果を運んできたんだろう?

 そんなことが直ぐに頭をよぎるんだから、俺も立派なシドラ氏族の漁師に違いない。




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