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P-136 新たな漁場に出掛けよう


「なんだと! リードル漁場を見つけただと……」


 1日遅れて島に帰った俺達を、皆が心配していたとバゼルさんが教えてくれた。

 その夜の焚火に皆が集まった時に顛末を話したら、カルダスさんが大声を上げて俺を睨んでいる。

 他の連中もかなり驚いているようだけど、まだリードルが集まるところを見ていないからなぁ。断定することはできないんだよね。


「あくまで、リードルが集まりそうな場所だということです。こればっかりは、リードルの姿を見ない限り分かりませんがかなり有望だと思っています」

「神亀がお前達を運んで行ったなら、その理由も考えねばならん。俺達がここで暮らしていけるように、リードル漁ができる場所を教えてくれたと思いたいところだな」


 バゼルさんが腕を組んで考え込んでいる。

 ザネリさん達は仲間と小声でぼそぼそと話しているんだけど、何を話しているのか聞き取れないんだよなぁ。


「次のリードル漁を神亀が教えてくれた場所で行ってみます。それで真偽が分かるはずですし、俺なら1度ぐらいリードル漁に参加できずとも暮らしは何とかなりますから」

「だが、おめぇが居ねぇと上位魔石をセリに出せねぇんだよなぁ。商船の連中も上位魔石が欲しくて、他の氏族よりも船を出しているようだ」


「それなら、上位魔石を3つお渡ししておきます。何かの時に使えるだろうと売らずに置いた魔石がありますから。それで表面上は取り繕えるでしょう」

「そうしてくれるとありがたい。3つなら、今回は不漁ぐらいに考えてくれるだろう」


「ナギサだけを置いておくわけにもいくまい。俺も残って確認しよう。俺の船はまだ先だから、1度漁をさぼってもトーレが文句を言うぐらいで済む話だ」

「バゼルが残ってくれるなら問題ねぇな。そうなると、燻製を運ぶのは……、ガリム達に任せるか。5隻選んで持ち帰るんだぞ。だが、その前に……」


 四方に船団を出して見つけた漁場は10か所を超えていた。

 雨季だから漁法は釣りが主になるんだが、延縄と底釣りで挑むらしい。


「この海域にあるサンゴの穴と南のサンゴの崖が面白そうだな。こっちのサンゴの穴も食指が動くんだよなぁ……」


「お前が行けば良いだろう。俺はこのサンゴの穴を狙いたいぞ。サンゴの崖はザネリに率いさせれば十分だ」

「3か所だな? ならくじ引きで決めるか。小石を集めてこい」


 石作りの桟橋工事で小石は大量に運んできている。その中から黒と白、それに少し赤い石を10個ずつガリムさんが選んできた。

 直径3cmほどの小石を、カルダスさんが人数を確認して小石を皮袋に投げ込んだ。


「さて、文句は言わせねぇぞ。黒は俺と一緒に北のサンゴの穴だ。白はバゼルと一緒に西のサンゴの穴に向かう。赤はガリムと一緒だ。南のサンゴの崖に向かう。あまり競うんじゃねぇぞ。燻製にして持ち帰るだけだからな。その代価はリードル漁で氏族の島に戻った時に、平等に分配すれば文句もねぇはずだ。明日出掛けて明後日1日漁をして3日目に戻ってこい。

 それほど距離はねぇはずだから、日が傾く前には戻ってこい。一夜干しを燻製小屋まで運ばねばならねえからな。燻製を始めるのは夕暮れ時になりそうだが、火の番はその時にまた決めれば良いだろう。

 さて、始めるぞ! 良く選んで1個だけ取り出すんだ」


 皮袋が焚火の周りの俺達に順番に手渡される。

 それぞれ1個を選んで取り出して、仲間と見比べているようだ。俺は最後になったから残り物の1個だが、赤い小石だった。


「俺とバゼル、それにガリムの船にそれぞれの色をした布を竿の先に縛って奥からな。明日はその色に集まって漁に出掛けてくれ。それじゃぁ、解散だ!」


 久ぶりの漁だから、皆の顔色が良いんだよなぁ。酒も入っていることもあるんだろうけどね。

 足早に自分の船に戻っていく。俺も早く戻って知らせないとね。


 2人に明日の漁について話したら、途端に笑みを浮かべている。やはり測量よりも漁の方が楽しいに違いない。結構辛い仕事なんだけどね。


「晴れたら、素潜りもできそうにゃ。それに崖なら夜にシメノンがやってくるかもしれないにゃ」


 話を聞くと大漁になってしまいそうだけど、案外そんなものかもしれないな。やはり期待が大きい方がやる気も出るからね。

 あちこちのカタマランの上でも、明日の漁の話が始まっているに違いない。

 上を見上げると、満天の星空だ。晴れてくれるんじゃないかな。

               ・

               ・

               ・

 ガリムさんの船に付いて、南に向かってトリマランは進んでいる。

 年代がばらばらだけど、文句を言う者は1人もいない。筆頭のカルダスさんが決めたことだからね。

 殿を仰せつかったけど、これはいつもの位置だ。

 タツミちゃん達はいつものように、遅い! と文句を言ってるけ度、これは船団を組んでいるんだから諦めるしかないんじゃないかな。


 船尾の甲板で延縄仕掛けを取り出して準備を始める。

 餌が塩漬けの切り身だから、果たして食いついてくれるかどうか心配だけど、3人で釣りをするなら2回目に流す時には餌を確保できるだろう。

 問題があるとすれば、素潜りをするかどうかだな。素潜り漁をするなら少しサンゴの崖から船を遠ざけないといけないだろう。

 底釣りはあまり期待できなくなってしまいそうだ。


 道具の手入れを終えて、パイプを咥えながら周囲の島を眺める。

 この辺りは始めて来る場所なのだが、どこも同じように見えるんだよなぁ。タツミちゃん達は操船をしながらも地図を新たに描いているに違いない。

 同じように見える島でも、よく見ると少し特徴があるんだそうだ。尖がったり、丸い山。浜から突き出した岩の数、さすがにココナッツの木は論外らしい。たまに折れたりしたら分からなくなってしまうからだろう。


 嫁さん達も苦労しているんだな。案外、俺達男性側が楽をしているようにも思える時もあるんだが、ココナッツ酒を渡しておけば、子供より手が掛からないとトーレさんが言ってた時がある。心当たりが多分にあるんだよなぁ。


 夕暮れ前に少し広い海域に出ると、笛が順々に聞こえてくる。

 漁をするために船団を一時解散する合図だ。

 統率するガリムさんの船が見える場所なら、この海域のどこに行っても良いのが暗黙の了解でもある。


「どっちに行くにゃ?」


 エメルちゃんが操船櫓から顔を出して問い掛けてくる。


「東が良いんじゃないかな? 場所は2人に任せるよ!」


 エメルちゃんが顔をひっこめると、直ぐにトリマランが動き出した。操船櫓からエメルちゃんが屋形の屋根に移動して、海面の状況を教えるのだろう。

 サンゴの崖は海の色ではっきりと分かるからね。

 甲板から眺めても、海の色の対比がはっきりと分かるほどだ。かなり傾斜がきつい崖なんだろう。高低差が5m近くあるようにも思える。

 そんな崖なら亀裂やサンゴの枝が発達しているだろうから、大物の根魚も期待できそうだ。


「アンカーを頼むにゃ!」

「了解だ!」


 タツミちゃんの声に答えると、家形の中を通って船首に向かう。

 アンカーの石を置く枠まで行くと、ロープを綺麗に巻いておく。適当に転がしておくと足を取られることがあるそうだから、注意するようにバゼルさんが言ってたんだよなぁ。そんな経験をしたことがあるんだろうか?

 

 トリマランの速度がどんどん低下していく。既に魔道機関を止めているのだろう。

 崖の縁から3mほどの距離を保って進んでいるんだから、操船の腕はかなりのものだ。

 速度が更にゆっくりになり、ほとんど止まったところでアンカーを投げ込んだ。

 ロープロープの遊びを無くして縛り付けたところで、今度は船尾の甲板に向かい、船尾にもアンカーを下ろした。

 潮流が分からないからなぁ。急に変わってトリマランが崖の上に移動することが無いようにしておこう。

 水深はそれなりにありそうだから底を擦るようなことは無いだろうが、船が動くと釣りにならないだろう。


「もう直ぐ夕暮れにゃ。早めに夕食を作るにゃ」

「オカズが釣れると良いんだけどね」


 両軸リールの付いた竿を取り出して、胴付き仕掛けに餌を付けて早速始めた。

 水深は8mほどだ。錘がそこに着いた感触が明確に伝わってくるから底は砂地ではなく、岩場のようになっている感じだな。棚を1mほど取って誘っていると、ガツン! と手ごたえが伝わってきた。

 腕にグイグイと強い引きが伝わってくる。引きを楽しみながらリールを巻いていると、更に別の引きが伝わってくる。

 追い食いしたってことか? 強い引きの間に少し弱い引きがあるから間違いなさそうだ。

 やがて、2体の魚影が見えてきた。


「2匹1度に掛かってるにゃ!」

「タモを頼んだよ」


 エメルちゃんが海面に差し込んだタモ網に竿を使って獲物を誘導すると、「エイ!」と掛け声を上げながらエメルちゃんが取り込んでくれた。

 バッシェとカマルだ。

 バッシェを引き上げるのに時間を掛けていたから、途中でカマルが食い付いたんだな。


「カマルは餌にしたいんだけど……」

「夜釣り用の餌にゃ? もう2匹は欲しいにゃ」


 俺達のオカズと言うことかな? なら、頑張らないとな。

 夕食が出来上がるまでに、バヌトスを2匹、カマルを3匹釣り上げた。

 カマル3匹が今夜と明日の餌になるようだ。一番大きなカマルは焼いて焚き込みご飯の具になっていた。


「魚影は濃いみたいにゃ」

「結構大きいぞ。大物が掛かった時には水中銃を使ってくれ。用意しておくよ」


 夕食は夜釣りの話で盛り上がる。

 タツミちゃん達は左舷で釣りをするそうだから、俺は船尾で釣りをしよう。

 延縄は、暗くなったので明日に持ち越しだな。素潜りをするなら邪魔になるから、他の船の様子を見ながら行おう。


 食事が終わるとさっさと食器を片付けて、お茶のポットをカマドの残り火に乗せておく。

 釣りをしながらでもお茶は飲めるからね。

 船尾で早速釣り糸を垂れると、遠くにいくつもの明かりが見える。

 この明かりで、シメノンがやってくれば良いんだけどなぁ……。


「掛かったにゃ! タモがいるにゃ」


 思わず声の主に顔を向ける。

 エメルちゃんが立ち上がって竿をしっかりと持っている。竿がかなりしなっているから大物なんだろう。

 隣でタモ網を持ったタツミちゃんが海面を覗いている。

 まだまだ上がっては来ないだろうが、さて、何が釣れたんだろう?


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