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P-134 漁場を見付けよう


 測量作業は島の南を終えて、現在は島の東側に移っている。

 トリマランで島を巡りながら海岸線にたくさんの測量点を作ることができた。砂浜が無いから沖にトリマランを停めてザバンで海岸に上陸することになるのが面倒ではあるんだが、それでも1日で10カ所以上測量することができる。

 岩に『十』の印を刻み、塗料で色を塗っておく。その上に防水塗料を塗りつけたから、結構長く目印として使えるんじゃないかな。


 カルダスさん達は貯水池の底を作るために頑張っているみたいだ。

 水漏れが無いように敷き詰めた石の隙間を丁寧に接着剤と砂を混ぜたモルタルのような代物で埋めているというから、これも時間が掛かるに違いない。

 ザネリさんの方は人手が増えたことで、桟橋が岸から数m程伸びた。

 やはり潜ってみないと分からない進捗よりも、岸から目にすることができると進んでいると傍目でも理解できる。


「やはり2手に分けての作業だからだろうな。運んできた石をどんどん積み上げられるし、小石や砂もそのまま投入できる」

「まだ、あれだけじゃねぇか……。先が長いが、手を抜かぬようにするんだぞ」

「分かってるさ。桟橋は問題ないが、サンゴの方はまだまだ足りないな。あまり同じ場所で採るのも問題だから少し遠くから運んでるんだ。雨季の間に、入り江の半分は終わるんじゃないかな」


 たまに俺達も手伝っているから、状況は分かっている。

 だいぶ進んではいるんだが、まだ小魚の姿が見えない。とはいえ、最初に植え付けたサンゴは白化せずにしっかりとポリープを開いていた。

 植樹作業自体に問題は無いようだな。


「そう言えば、畑に植えた種が目を出したらしいぞ」

「どっちの畑だ?」

「南の方だ。高台の下の野菜は俺達だって食べてるだろうが!」

 

 何を植えたんだろう?

 結構楽しそうに畑を耕していたそうだから、小母さん達が喜んでいるんじゃないかな。


「そうなると、もう1つ作れと言われそうだな?」

「仕方あるまい。それにあれだけ大きな場所なんだからなぁ。いくらでも作ってやれる。氏族の島では、作れと言っても応えられんからな」


 少し大きな水槽を作っといた方が良いのかもしれないな。

 水汲み用の容器1つでは、畑の水撒きは無理だろう。次は乾季だからなぁ。たまに雨は降るんだが、それ以外はカンカン照りだ。

 

「畑が2つとなると、水撒き用の水槽を作っておいた方が良さそうですね」

「飲むわけじゃねぇから、丸太で組み上げてみるか。もう少しで貯水池の底が仕上がる。それが終わったら畑を作ってやろう。ザネリ達もその時は協力してくれよ」

「あの畑は俺達が作ったんだから、任せてくれてもだいじょうぶだ。その前に、ナギサは測量をしといてくれよ」


 しっかりと頷くと、ザネリさん達が笑みを浮かべている。

 微妙に高さが異なるからな。今度はどんな断面になるんだろう? 排水路や灌漑用の水路を将来作ることになるから、この間作った畑の下で良いだろう。それで水路の作り方もある程度見えて来るんじゃないかな。


 翌日は、畑の予定地の測量に向かう。やはり傾斜が少し緩くなっているようだ。南北30mの距離で高低差が20cmと少しだ。

 これなら土の移動量が少ないから案外早く作れそうだ。

 畑の大きさを測って杭を打ち、紐で大きさが分かるように張っておく。ついでにその下を測ってみたんだが、今度は40cmほど下がっていた。

 次はかなり面倒になりそうだぞ。

                ・

                ・

                ・

 一足先に測量を終えた俺達が浜で焚き火の準備をしていると、西から数隻の船団が近付いて来るのに気が付いた。

 最初は石を運んでくる船かと思ったんだが、台船を含めて3隻だから、あの船団ではないし、石運びの台船が帰るには未だ早すぎる。

 となると、氏族の誰かがやってきたということになるのだろう。


 桟橋に走って手を振り先端で空いている桟橋を教えると、船団の向きが変わるのが分かった。どうやら理解してくれたみたいだな。


 その場で到着を待っていると、バゼルさんが3隻のカタマランを率いてやってきたのが分かった。

 緊急の幼児ならバゼルさんだけの筈だから、何か目的があるようだな。

 

 バゼルさんが寝ゲルロープを受け取って桟橋の柱に結わえると、過ぎにバゼルさんが降りてくる。


「先ずは停船を手伝ってやってくれ。話はその後だ」


 緊急ではないらしい。少し安心したところで僚船の停泊を手伝ったところで焚き火の場所に皆を連れて行く。小母さん達はタツミちゃんがカマド近くの場所へ案内しているようだ。

 あまり男女が同席しないんだよなぁ。それが風習なんだろうけどね。


 まだ夕暮れには間があるから、焚き火に火を点けることは無い。それでも焚き木を囲んで輪を作るのもおかしなものだ。

 タツミちゃん達が運んでくれたココナッツ酒のカップを掲げて無事な到着を祝ったところで、バゼルさんが来島の目的を話してくれた。

 どうやら燻製が予想よりも好評だったらしい。


「ほう。2匹で銅貨3枚が銅貨4枚ってことか! 保冷庫もできてるぞ。そうなると、船団を1つ作りたくなるなぁ」

「この近海の漁場を調べないといけないだろう。たまに魚を突いては来るが、10隻以上で漁ができる場所は、氏族の島周辺でも限られているからなぁ」


 急遽、漁場を探す船団を作ることになった。

 船の総数は25隻にもなるんだからと、5つの船団を作って、東西南北を探ることになる。もっとも5つ目は島から2日の航程を探るべく俺のトリマラン1隻だけだ。

 魔道機関が3つ使えるから速度を上げて1日進めば十分だと言ってくれたんだが、それで2日の航程になるんだろうか?

 まあ、少し離れた漁場を探すぐらいに考えておこう。


「明日の朝に出掛けて、1日船を進める。途中にめぼしい場所があれば潜って状況を探るんだぞ。

 2日目は、周辺を広く探って漁場を探す。探す前に目印となる島を作っておけば迷うことはねぇだろう。

 近くに他のカタマランはいないんだから、くれぐれも迷子にだけはなるんじゃねぇぞ。

 3日目には帰ってこい。ここで状況を皆で確認しよう」


 夕食を終えると早めに解散して、明日の準備が始まる。

 雨季だから水の心配はあまりないし、たっぷりココナッツがあるから安心できる。

 他の船団なら途中でココナッツを取ることもできるけど、俺の場合はココナッツの木を切り倒さないといけないんだよなぁ。

 そんなことはあまりしたくはないからね。


「バナナを貰ってきたにゃ。明日は蒸したバナナを作るにゃ」

「漁はしないでも良いのかにゃ? それと、どっちに行くにゃ?」


 俺に任せるとカルダスさんが言ってたが、さてどうするかだな。

 西や北西方向には何度も行っていたから、東に向かってみるか。

 ニライカナイの群島はかなり広いらしいから、数日東に進んでも外洋に出ることはないだろう。

 かつてアオイさん達は水中翼船を作ってトウハ氏族から東に向かって群島の果てを見たらしい。

 片道10日だったとバゼルさんが教えてくれたが、水中翼船はカタマランの2倍以上の速度が出たらしいからなぁ。

 カタマランで行くとなれば20日は掛かるに違いない。

 となると、トウハ氏族とシドラ氏族の島の距離はおよそカタマランで5日になる。この島はシドラ氏族の南東へおよそ7日だから、東方向には5日程度になるんだろう。そんな考えで行けば、ニライカナイの果ては東にさらに10日の距離になる。

 トリマランの速度を上げて1日であるなら、カタマランで2日の距離に足らないだろうから、まだまだニライカナイの懐の中ということになるんだろうな。


「真直ぐに東に行ってみよう。速度を上げるけど、途中にサンゴの穴や岩場があれば調べてみるよ」

「分かったにゃ。ナギサも屋形の上で周囲を見るにゃ!」


 いつもなら、船尾のベンチでのんびりできるんだけどね。確かに、監視の目は多い方が良い。

 サングラスも偏光グラスの方な改定をよく見ることもできるだろう。


 いつもよりワインの量が増えるけど、やはり船を走らせるのは久ぶりだからなぁ。タツミちゃん達も顔を見合わせて笑みを浮かべている。

 氏族のためを思っての開拓だが、やはり漁で生活する種族の本能が疼くのかな?


 翌日は、朝から浜が賑やかだ。

 俺達もまだ薄暗い内から焚火を作ってココナッツ酒を酌み交わす。

 操船は嫁さん達の仕事だから、船を進める時には名目上俺達の仕事はない。そうは言ってもねぇ……。朝から酒盛りはやめた方が良いと思うんだよなぁ。


「あまり飲むんじゃねぇぞ。屋形の上で周囲の海を見るぐらいはできるんだからなぁ」

 

 赤ら顔で俺達に大声を上げるカルダスさんだけど、すでに3杯目じゃないのか?

 全く説得力がないんだよなぁ。

 まあ、俺達ではなく嫁さん達に期待しておこう。


 朝食はリゾットにスープを掛けてスプーンで掻き込む。

 お茶を飲み終えるころには焚火も消えている。

 かなり賑やかに朝食を作っていた嫁さん達も、すでに船に引き上げたらしい。


「良いか。絶対に迷子になるんじゃねぇぞ。もし迷子になったなら、この島を探すことはしねぇ方がいい。まっすぐに西に向かえ。そうすれば他の氏族の船と会うこともできるはずだ。間違っても東には向かうんじゃねぇぞ。西だからな」


 いくら酔っても、さすがは筆頭だけのことはある。

 最大の心配着とに対しての対処策を言ってくれるんだからなぁ……。

 それができるからこそ、長老もカルダスさんを筆頭の任に付けているんだろう。性格で選んだわけではないからなぁ。


 カルダスさんの大声で送りだされた感じだが、それぞれの船に戻ると順番に船団を組んで出発する。

 俺達は1隻だけだから、早めに出掛けることになった。


「南の岬を出たら回頭するにゃ!」

「操船は任せたよ。先ずは東に真っ直ぐだけど、速度を速める前に島の形をよく覚えておかないとね」


 大きな島だが、東から眺めるとヒョウタン型に見える。北の山が少し切り立っているんだが、南の小島を巻き込んで盛り上がったからそんな甲地に見えるんだよなぁ。

 それに、大きな島になってしまったから、ニライカナイで一番大きな島だと思っているぐらいだ。

 広大な群島地帯だから、他にもあるのかもしれないけどね。


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